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分子性強磁性体CoC2 -その強磁性における水の役割- 分子科学研究所研 西條 純一,西 信之
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従来の磁性体と分子性磁性体 ・無機磁性体(金属,金属酸化物) 等方的な構造が多く3次元的 原子の位置はほぼ固定(硬直した構造)
等方的な構造が多く3次元的 原子の位置はほぼ固定(硬直した構造) ・分子性磁性体(有機ラジカル,遷移金属錯体) 分子形状に由来する異方的な相互作用 配位子などの配向,分子の向きが変化 (柔軟な構造)
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・・・が 分子性磁性体は ・磁気光学効果 ・吸着分子等による磁性の制御 ・電場,電流による磁性の制御
・磁気光学効果 ・吸着分子等による磁性の制御 ・電場,電流による磁性の制御 などの特性を発現しやすく応用が期待される ・・・が 分子(サイズが大きい)を用いるためスピン間の相互作用が弱く,室温以上で磁石として振舞うものは数例しかない.
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室温での強磁性発現を目指して なぜ相互作用が弱いのか? スピンを架橋している分子が大きく, スピン間距離が長くなっているため. 解決策
スピンを架橋している分子が大きく, スピン間距離が長くなっているため. 解決策 ・π共役系でスピンをつなぐ(スピン分極の増大) ・(高スピン)有機ラジカルの使用 ・より小さな配位子を用いスピン密度を上げる
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最小の配位子分子:C22 遷移金属と組み合わせることで, 優秀な分子性磁性体となるのではないか? C22は最小の配位子とみなせる
cf. Ti8C12 Science, 255 (1992) 1411 Phys. Chem. Chem. Phys., 3 (2001) 5130 C22は最小の配位子とみなせる 遷移金属と組み合わせることで, 優秀な分子性磁性体となるのではないか?
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Contents 1. CoC2の合成とその吸水性 2. CoC2の構造 無水物,含水物 3. CoC2の磁性 4. 磁性変化のメカニズム
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1. CoC2の合成とその吸水性
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遷移金属アセチリド化合物 CoC2などの化合物は水や酸素に弱い? 有名な遷移金属アセチリド化合物 (爆発性)
Cu2C2,Ag2C2,Au2C2:水溶液から合成 2CuCl / NH3aq + C2H2 → Cu2C2 + 2NH4Cl 同様の方法でCoやNiの化合物は得られるか? CoCl2 / NH3aq + C2H2 → CoC2 + 2NH4Cl? CoC2などの化合物は水や酸素に弱い?
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CoC2の合成 無酸素・無水条件下イオン交換反応により生成 CoCl2 + CaC2 → CoC2 + CaCl2
(アセトニトリル,78 ℃,140h) 一度CoC2になれば,酸素・水に対し安定 室温,大気中での保存が可能
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無水物と含水物 無水物 (グローブボックス中) 含水物 (大気中) 水により明らかに状態が変わっている! 構造,物性はどう変化しているのか?
大気に曝露 水で洗浄 無水物 (グローブボックス中) 含水物 (大気中) 水により明らかに状態が変わっている! 構造,物性はどう変化しているのか?
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2. CoC2の構造 測定 ・無水物と含水物では構造はどう違うのか? ・含水物では,水はどこに存在しているのか? 無水物:キャピラリに封管
無水物:キャピラリに封管 → 高エネ研での放射光を用いた粉末X線 含水物:実験室系での粉末X線 高エネ研での放射光を用いたEXAFS 2. CoC2の構造
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無水CoC2の構造 d-value / Å 等方的な構造: C22の配向のdisorder 狭い線幅: 大きな結晶子(>50 nm)
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含水CoC2の構造(EXAFS) 1つの軸が大幅に縮まる 4.82 Å → 3.36 Å 残りの軸はやや伸長 3.41 Å → 3.85 Å
4.82 Å → 3.36 Å 残りの軸はやや伸長 3.41 Å → 3.85 Å Coに直接配位した水が存在
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含水CoC2の構造(XRD) d-value / Å 異方的な構造: C22はa1a2面内に配向 広い線幅: 小さな結晶子(~10 nm)
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面内での構造を考え,それを積み重ねてみる
水はどこに入っているのか? 構造の変化: C22は面内に配向 面内での構造を考え,それを積み重ねてみる
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CaC2型構造 1st layer 2nd layer 水の入るスペースは無い cf. 水分子の大きさ
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MgC2型構造 1st layer 2nd layer やはり水の入るスペースは無い cf. 水分子の大きさ
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C22の配向を少し変えて見る 1st layer 2nd layer 側面図 ちょうど水の入るスペースが存在 cf. 水分子の大きさ
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水による構造変化のまとめ 分子性ゆえの柔軟性が現れた構造変化 無水物:C22の配向はDisorder → Co2+間の相互作用にばらつき?
Co2+の配置は等方的(fcc) 含水物:C22が回転することで配向がOrder Co2+C22Co2+の1次元鎖が存在 → 短い接触により強い相互作用? 分子性ゆえの柔軟性が現れた構造変化 H2O 伸長 H2O 収縮
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3. CoC2の磁性 ・C22を用いて強い相互作用は実現できたのか? ・水吸着に伴う構造変化の磁性への影響は?
無水物を大気に曝露することでゆっくり水を吸着 無水物,大気曝露10,30,60分,2日の各サンプルの磁化率(FC,ZFC),磁化過程を測定
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無水物・含水物の磁性(磁化率) 水により強磁性が出現
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無水物・含水物の磁性(磁化過程) 水の吸着に伴い保磁力・残留磁化も増加
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無水物・含水物の磁性(T -T ) 巨大なドメインを作れば室温強磁性体に! Curie定数(emu K / mol)
実測値:1.7(AS) ~2.8 (60 min) Co2+(S=1/2):0.375 室温でも強磁性ドメインが存在 C22による非常に強い相互作用 (室温以上の強さ) Co2+は強磁性ドメインを作り, 超常磁性的にふるまっている. 無水物:磁気ドメイン小 →超常磁性として振舞う 含水物:磁気ドメイン大 →強磁性として振舞う 巨大なドメインを作れば室温強磁性体に!
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より大きなドメインを持つ結晶を作る ・耐圧容器中,95 ℃,48時間イオン交換反応 ・水0.1~1%混入させたMeOH中で徐々に水を吸着
大きなドメインを持つロッド状粒子が生成 低温合成 高温合成
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ロッド状粒子の磁化過程 室温強磁性体 小さな配位子であるC22を用いることで 強い相互作用が実現 高温で合成することにより
1.8 K 300 K 室温強磁性体 高温で合成することにより 大きなドメインを形成, 室温でも強磁性を示す 小さな配位子であるC22を用いることで 強い相互作用が実現
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4. 磁性変化のメカニズム
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構造変化によるJ の変化 モデル構造を用いた計算 DFT, B3LYP, 6-311G++(d,p) Ca C Co 含水物
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また,磁性軌道の向きがサイトにより異なる Co2+:d7,6配位だとd x2-y2 (異方的)
向きにより相互作用の大きさにかなりの差 強い 弱い 強磁性ドメイン 強磁性ドメイン また,磁性軌道の向きがサイトにより異なる Co2+:d7,6配位だとd x2-y2 (異方的)
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含水物:構造が均一化,C22の配向がorder 強磁性ドメインが広がり,強磁性鎖を構築
強磁性ドメインが広がり,強磁性鎖を構築 水吸着 水吸着による強磁性の発現
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まとめ 「水吸着誘起強磁性」 CoC2 : スピンを非常に小さな配位子が架橋 → 強い相互作用,室温強磁性体
→ 強い相互作用,室温強磁性体 無水物:C22の配向がDisorder ・相互作用にバラつき → 超常磁性 含水物:水が入るスペースを空けるためC22が 回転し,その配向がOrder ・強磁性相互作用のみ → 強磁性 「水吸着誘起強磁性」 ・磁性スピンとそれを架橋する分子からなる ・架橋分子が容易に回転できる柔軟性を持つ という特性により実現した 分子性磁性体ならではの物性
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今後の展開 ・他のアセチリド化合物ではどうなのか? FeC2,MnC2:水で分解,強磁性は弱い NiC2:あまり水を吸収しない?
無水物でも強磁性が発現 (CoC2と異なる電子配置が影響?) ・他の気体は吸着できないのか? H2,CH4,NH3,H2S 構造,電子電子状態が変化?
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謝辞 CoC2の研究 小杉 健太郎 M. Junaid Bushiri 岡部 智絵 EXAFSの測定 横山 利彦(分子研)
小杉 健太郎 M. Junaid Bushiri 岡部 智絵 EXAFSの測定 横山 利彦(分子研) 放射光を用いた粉末XRD 澤 博 (物構研)
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