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日本語統語論:構造構築と意味 No.3 項と格助詞(改訂版)
上山あゆみ(九州大学)
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樹形図についての補足事項 A,B,C,D,E,F,G の位置:node(節点) B,F,G,E:terminal node(終端節点)
A,B,C,D,E,F,G という文字列:label(ラベル) A は B の、C は D の mother B は A の、D は C の daughter B と C は sister
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「白い」+「ギター」=「白いギター」 <x1, {<Kind, ギター>, <白い, _>}>
このような意味表示が、「部品」から組み立てられるよう に、システムを構築したい。
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文法片1 まずは、ごく基本的な組み合わせ規則と Lexicon だけ が登録されたミニ文法である、文法片1(Fragment of Japanese Grammar 1)でどのような操作でどう いう意味表示ができるか見てみよう。 mode=numeration_select
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まず、これを選んで、ここをクリックする
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Mergeの左の要素と右の要素を選んで、下の 「rule」 をクリックする
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rule を適用した結果。
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この表示がある間は、 その derivation は不適格。 ↓
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この表示が出れば、 その derivation は適格。 ↓
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解釈不可能素性 解釈不可能素性 =規則適用終了後に残っていると表示が不適格になるもの。デモ プログラムの画面では、赤字で表示されている。 規則を適用する要素を、うまく選んでいかないと、要素を組み合わ せる間に解釈不可能素性をすべて削除することができない。 つまり、Computational Systemに課されているのは、 Numerationに含まれる解釈不可能素性をすべて消す という「問題解決(problem-solving)」である。 →デモプログラムを実際に操作することで、 Computational Systemの働きを体感してもらいたい。
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何と何にどんな rule を適用したのか、その historyの表示
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derivation と樹形図 いう順番でどの要素とどの要素を組み合わせたかで結果 が異なる。
それを視覚的にわかりやすく表示したものが樹形図であ る。 なるべく頻繁に樹形図を確認するようにしていると、そのう ち、どういう組み合わせ方がどのような樹形図と対応して いるのか、頭の中でイメージできるようになる。
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今の derivation の樹形図を表示させたければ、ここをクリック
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ここをコピーして、TreeDrawer の「Load」をクリック。 不要なファイルを右クリックして、「編集」。
開いたファイルを、今、コピーしたもので貼り換えて「開く」と 樹形図が表示される。
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樹形図 「TreeDrawer用の csvデータ作成(範疇素性)」によって作 成される樹形図
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意味表示を表示させるために(次の画面でも「意味表示」をクリック)
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意味表示 「節点ごとの意味素性」→「意味表示」 つまり、前ページのような樹形図ができるような「組み合わせ方」
Numeration につけられた「メモ」 今のところ、無視 つまり、前ページのような樹形図ができるような「組み合わせ方」 をすれば、上のような意味表示ができるということ。
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このderivationを保存しておきたければ、このピンクのbox内をコピーしておく。
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登録されている語彙は右上の「Lexicon一覧」で
例としてあげてある Numeration 以外にも、自分で語彙項目 を拾って Numeration を作り、いろいろ試してみることができる。
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自分で Numeration を作るには 今度は、これを選んで、ここをクリックする
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見出し語を1つずつ入力して、これをクリックする
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特に問題なければ、「start」。 やり直すなら、ここ
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この Numeration を再度使う可能性があるなら、この box 内のものをコピーしておく。
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今回の実践課題 この「ジョンがメアリを追いかけた」を選んで、表示された Numeration から始めて、(i) 適格な derivation と (ii) 不適格な derivation を作りなさい。
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「ジョンがメアリを追いかけた」 「ジョンがメアリを追いかけた」の意味表示は? 次のようになっていればいいのではないか。
{<x1,{<Name, ジョン>}>, <x3,{<Name, メアリ>}>, <x5,{<Kind, 追いかける>, <Time, perfect>, <Theme, x3>, <Agent, x1>}>} Agent:行為者 Theme:対象
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意味役割 たいていのデキゴトには,それに関わる参与者(participant) があり,ある参与者がどのような点でそのデキゴトに関与している かを述べたものは意味役割(semantic role)と呼ばれる 意味役割 Agent (行為者): 何らかの行為を意志を持って行う人・生き 物 Theme (対象物): 行為や感情などの対象となるもの,その 行為によって状況の変化をこうむるもの Goal (到達点,目標): 行為の到達点.対象物の行き先など. Source (出どころ): 移動の出発点など. Location (場所): 行為の起こる場所.
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項(argument) 動詞によって、どのような参与者を項 (argument)と して持つかが決まっている。
ハンカチが落ちた.(Theme) 誰かがハンカチを落とした.(Agent, Theme) ドアが開いた.(Theme) 誰かがドアを開けた.(Agent, Theme) 氷がとけた.(Theme) 誰かが氷をとかした.(Agent, Theme) 項の取り方は言語的知識であり、これは、Lexicon に 書かれているはず。
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項構造(argument structure)
たとえば、Lexicon に次のように意味素性が指定されて いれば、Merge した相手の指標が★の位置に入り、 OBJECTとOBJECTの関係が意味表示にあらわれるこ とになる。 [{V}, <id,{<Kind, 落ちる>, <Theme, ★>}>, 落ち る] [{V}, <id,{<Kind, 落とす>, <Theme, ★>, <Agent, ★>}>, 落とす] ただし、...
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問題 「ジョンがメアリを追いかけた」の場合、(A)の意味には なっても、決して(B)の意味にはならない。
(A) {<x1,{<Name, ジョン>}>, <x3,{<Name, メアリ>}>, <x5,{<Kind, 追いかける>, <Time, perfect>, <Theme, x3>, <Agent, x1>}>} (B) {<x1,{<Name, ジョン>}>, <x5,{<Kind, 追いかける>, <Time, perfect>, <Theme, x1>, <Agent, x3>}>} どうすれば、この事実をとらえられるだろうか?
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「ジョンがメアリを追いかけた」 明らかに、格助詞が役割を果たしている。そこで:
[{V},<id,{<Kind, 追いかける>, <Time, perfect>, <Theme, ★wo>, <Agent, ★ga>}>, 追いかけた] ★wo=Merge相手が wo を持っている場合のみ、その指標と 置き換わる ★ga=Merge相手が ga を持っている場合のみ、その指標と置 き換わる このように考えれば、それぞれの意味役割のところに正しい指標 が入ることになる。
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デモプログラムの理論的解説 以下の説明は、デモプログラムの内部でどのように計算が 行われているか、その中身の仕組みを解説したものであ る。
文法理論を改善していくためには、このような知識が必 要になるが、まず、Computational System のイメー ジを把握するところから始めたい場合には、以下の説明 を現時点で理解する必要はない。
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Lexicon における語彙項目の形式 語彙項目:統語素性・意味素性・音韻素性のリスト (a bundle of syntactic, semantic, and phonological features) 統語素性:範疇素性、その他、構造構築に関わる統語素性 意味素性:<指標, {<property>, ...}> 音韻素性:(この授業では、単に、その語彙項目を普通の日 本語表記で書いてある) 例 [{N}, <index, {<Name, ジョン>}>, ジョン] [{N}, <index, {<Kind, 男の子>}>, 男の子]
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Numeration における語彙項目の形式
Numeration では、Lexicon から取り出した語彙項 目を指標とペアにして、1つの要素にすると仮定する。 <指標, [統語素性, 意味素性, 音韻素性]> 例 <x5, [{N}, <x5, {<Name, ジョン>}>, ジョン]> <x3, [{N}, <x3, {<Kind, 男の子>}>, 男の子]> Lexicon において意味素性の中に書いてあった「index」は、 Numeration で付与された指標と同じになる。 この意味素性の中の指標の場所を id-slot と呼ぶことにする。
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Merge(併合) 2つの要素をとって、どちらかを主要部(head)として、 1つの要素にする操作 主要部
< , [ , , <xn, xm>]> <xn, [{範疇素性1, 統語素性1}, 意味素性1, 音韻素性1]> < xm, [ {範疇素性2}, φ, 音韻素性2]> xm {範疇素性2, 統語素性2} 意味素性2 主要部
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RH-Merge 2つの要素をとって、右側の要素を主要部(head)とし て、1つの要素にする操作
<xn, [{範疇素性1, 統語素性1}, 意味素性1, body1]> <xm, [{範疇素性2, 統語素性2}, 意味素性2, body2]> ⇒ RH-Merge (=Right-headed Merge) <xm, [{範疇素性2, 統語素性2}, 意味素性2, < <xn, [{範疇素性1, 統語素性1}, 意味素性1, body1]>, <xm, [{範疇素性2}, φ, body2]> >]> 日本語の場合、原則的に右の要素が主要部となるので、この RH-Merge が最も無標の規則ということになる。
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rule 名をクリックすると、下のボックスに、その rule の説明が表示される
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「白いギター」の場合 Lexicon での形: Merge: [{A}, <★, {<白い, _>}>, 白い]
<x1, [{A}, <★, {<白い, _>}>, 白い]> <x2, [{N}, <x2, {<Kind, ギター>}>, ギター]> → Merge <x2, [{N}, <x2, {<Kind, ギター>}>, < <x1, [{A}, <x2, {<白い, _>}>, 白い]>, <x2, [{N}, φ, ギター]> >]> このように、意味表示が構造構築の中で出来上がっていく。
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理論構築の方針 Lexicon における語彙項目の統語素性や意味素性に は、解釈不可能素性が含まれうる 解釈不可能素性
=規則適用終了後に残っていると表示が不適格になるもの 統語的な制約を体現する =統語的に位置が制限される語彙 に解釈不可能素性を置いておき、Merge(構造構築規則) の適用相手が条件に合致すると、削除されるようにする。 意味表示を構築する =組み合わせて意味表示が形成される 箇所に解釈不可能素性を置いておき、 Merge(構造構築規 則)の適用によって、適切な「組み合わせ」が形成されるように する。
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理論構築の方針 どの要素とどの要素にどの統語規則を適用していくかは、 Numerationに含まれる解釈不可能素性をすべて消すことを 目的とした「問題解決(problem-solving)」である。 (=それ自身が「文法の知識」ではない。運用能力には大きく 影響するけれど。) 統語規則が1回適用するたびに、要素の数が1つ減るか、解 釈不可能素性の数が1つ減るか、どちらかは起こる。 → Numeration が決まれば、数え上げが可能なシステムなの で、将来的に、コンピュータによるシミュレーションが可能になる。
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格助詞 では、「ジョンが」や「メアリを」は、どのように組み合わされ ると考えればいいだろうか?
[{V},<id,{<Kind, 追いかける>, <Time, perfect>, <Theme, ★wo>, <Agent, ★ga>}>, 追いかける] (A)のような意味表示を得るためには、「ジョン」と「が」では、「ジョ ン」のほうが主要部である必要がある。 (A) {<x1,{<Name, ジョン>}>, <x3,{<Name, メアリ>}>, <x5,{<Kind, 追いかける>, <Time, perfect>, <Theme, x3>, <Agent, x1>}>}
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J-Merge そこで、右側の要素の範疇素性が J のときに適用する J-Merge という規則を仮定する。
<xn, [{N, 統語素性1}, 意味素性1, body1]> <xm, [{J, +R, 統語素性2}, φ, body2]> ⇒ J-Merge <xn, [{NP, 統語素性1, 統語素性2}, 意味素性1, < <xn, [{N}, φ, body1]>, <xm, [{J}, φ, body2]> >]> J に対して RH-Merge が適用してしまうことのないよう、Jには、 J-Merge でのみ除去される +R という解釈不可能素性も仮 定しておく。
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