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――アニミズム、存在論、そしてエージェンシー― 梅屋 潔 神戸大学大学院
「文化とパーソナリティ―心理学 その境界を越えて―」 日本パーソナリティ心理学会第25回大会 2016年9月15日(木)15:15~17:15 関西大学千里山キャンパスA301 人類学的関心と思想のクロスロード ――アニミズム、存在論、そしてエージェンシー― 梅屋 潔 神戸大学大学院
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演者紹介 日本の「憑きもの」「憑霊信仰」調査 新潟県佐渡市1990―1995, [梅屋・浦野・中西 2001]ほかに和歌山県、宮城県などで民俗調査。 現在では、佐渡市、および宮城県気仙沼市で調査。 佐渡では、ムジナという動物が狐狸の類いとして認識され扱われる信仰 を調査。 広義のアニミズム?そのような枠組みで分析したことはない。 吉田禎吾『日本の憑きもの』1972 コスモロジー、宇宙論としての「宗 教」 小松和彦『憑霊信仰論』1982 「説明体系としての宗教」「力」 中沢新一とカルロス・カスタネダ
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演者紹介 東アフリカ・ウガンダを中心とする調査 1995- 西ナイル系 Jopadholaの民族誌
東アフリカ・ウガンダを中心とする調査 1995- 西ナイル系 Jopadholaの民族誌 死霊juogi とバンツー由来の神霊wereを中心とするパンテオン もと牧畜を生業とする社会 軍事リーダーと宗教的リーダーはいたが王国は形成しない cattle cultural complex millet cultural complex ティポ tipo の概念。豹=人間の概念。
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Evans-Pritchard[1937, 1956]『アザンデ人の世界』 『ヌアー 族の宗教』の強い影響。
長島信弘『死と病の民族誌』1987、岩波書店:「災因論」とい う枠組み。 浜本満『秩序の方法』2001、弘文堂, 『信念の呪縛』2014、九 州大学出版会:「秩序」「物語」論、「呪縛」
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Adholaのjathieth(占い師)
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問題の所在と目的 人類学の父タイラーによって提唱されたアニミズム(animism)という用 語は現在の人類学での使用頻度は下がっている(用いられることはほとん どない)。この傾向は1990年代から。 Encyclopedia of Social & Cultural Anthropology, Bernard & Spencer(eds.)1997, RoutledgeにはGlossaryとして13行。 Companion Encyclopedia of Anthropology: Humanity, Culture & Social Life, Ingold T. 1994, Routledgeには索引に立項なし。 そのことは、現在の人類学でアニミズムに該当する関心がないということ ではない。特殊な用法での展開が。 それではどのような展開をしているのか。
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アニミズムの最近の論争 Bird-David[1999]:心身二元論を前提としないパーソンフッドの 理論と、物理的世界と人間との二元論を前提としない環境に関する 理論を導入することで見直し。 とくに「狩猟採集民」のanimismを関係的な認識論(まちがった認 識論ではなくて)として理論化する。 Hallowell, A. Irving 1960 Ojibwa Ontology, Behavior and World View. IN S. Diamond (ed.) Culture in History: Essays in Honour of Paul Radin. New York: Columbia University Press. Strathern, M.:近代的「個人」とは異なった関係論的dividual。 西洋主義的でモダンから到底抜け出していないという批判。
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アニミズムの最近の論争 Descola Lévi-Straussのリバイバル。L-Sが出発点とした自然と 文化の二項対立を自明視しない。
Philip Descola 2006, 2013,Beyond Nature and Culture. Radcliffe- Brown Lecture 比較を志向する人類学者に授与される傾向。 自己が環境や他者などを経験する説明のしかたを内面性 interiority/身体性physicalityを前提とした4つのタイプに分類。
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Descolaの4つのタイプ (1)自己と同様の身体性と内面性を持つ(p+, i+)=トーテミズム (2)内面も身体性も異質な場合(i-, p-)=アナロジズム (3)身体性は異なるが同じような内面性をもつ(p-, i+)=アニミズム (4)身体性は類似するが、内面性は異なる(p+, i-)=ナチュラリズム ※もともとは南米アチュールのトーテミズムを理解するモデル。
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Descolaの4つのタイプ (1)人間もトーテム種、動物も身体性と内面性を持っている。 ある種のトーテムをもつクランの構成員は、そのトーテム(たと えばカンガルー)を祖先とみなしたり、類似性に言及する。 (2)中世ルネサンスや中国陰陽二元のようにアナロジカルに連 鎖。 (3)人間と周囲の自然に内面性(魂)の連続性を認める。 (4)17世紀以降の西洋近代的自然観。 (3)と(4)とは逆転関係。
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トーテミズム/アニミズム アニミズム「社会生活の基本的カテゴリー」が人間と自然種の 間の関係を組織し、自然の存在に人間的な性格と社会的な性格 を付与することにもとづいて自然と文化のあいだの連続性を社 会の形態として規定する[Descola 1996: 87-88] アニミズムは「関係」として理解される。一方、トーテム的分 類は経験的に観察可能な自然種間の不連続を社会単位の分節を 組織するのに利用する[Descola 1996:87-88]。トーテミズム はサインとして理解される。
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トーテミズム/アニミズム オーストラリア・アボリジニと極北先住民の民族誌を 対比し、アボリジニのトーテミズム的世界では、すべ てのものに共有される生命力および、共有するエッセ ンスは地形によって描かれるが、それは祖先の力の具 現化でもある[Ingold 2000: 113]。 一方で、アニミズムの間では、種を超えた対話の社会 的文脈における自己と他者、人間と非人間のとの相対 的位置関係が重要で、共有された実質とか存在のエッ センスはない。
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平等主義的水平的アニミズム/階層的トーテミズム
アニミズムの存在論にとっては、人間と非人間との間で生命力が交 換される際のバランスが重要である。すべてが祖先に由来して階層 的に配列されるトーテム的世界とは異なり、アニミズム的世界では、 バランスを保つためのエージェントとして両義的な存在として シャーマンが役割を果たす。 ⇒狩猟採集社会のシャーマニズムは長く議論されてきた重要なテーマ。 ⇒「ヘラジカの贈り物」のように人間と動物が取り引きをするような 関係性を認める。
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両者は排他的かという民族誌的議論 Willerslev, Rane & Olga Ulturgasheva[2014] Ingold[2000], Descola[1996,2006], Pedersen [2001]のようなトーテミズム/ア ニミズムを排他的原理として分類する方法が該当するか北東シ ベリア民族誌で検討。Pedersen[2001]は、北アジアにおいて北 に行けはいくほどアニミスティックと主張。
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Eduardo Viveiros de Castroの‘Perspectivism’
Eduardo Viveiros de Castro 2012 Cosmological Perspectivism in Amazonia and Elsewhere. Four Lectures given in the Dept. of Social Anthropology, Cambridge University, February – March , Introduction by Roy Wagner HAU Masterclass Series Vol.1. Eduardo Viveiros de Castro 2005, Perspectivism and Multinaturalism in Indigenous America in The Land within – Indigenous Territory and Perception of Environment.
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アマゾニアのパースペクティヴィズム アメリカ大陸の先住民の思考のひとつの性質である「パースペ クティヴの質」:人間および非ー人間を含む異なる類の「主 体」が世界にはすみついており、それらの「主体」はそれぞれ 特徴的なパースペクティヴから現実を理解している、とする考 え方。 相対主義/普遍主義の超克、直交するように位置、非西洋の宇 宙論の記述に<自然>と<文化>をそのまま用いることはでき ない。これらは存在領域としてではなく、関係論的な位置、 パースペクティヴとして再構成し、脱ー実体化すべきである。
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アマゾニアのパースペクティヴィズム 人間という存在が宇宙に住まう動物やほかの主体ー神々や精霊、 死者、宇宙の別の相の人間、植物、天文学的現象、地理的な起 伏、物体や人工物を見る様態と、これらが人間やお互いの存在 を見る様態と根本的に異なっているというアマゾニアの先住民 理論。 動物や精霊は、人間を非ー人間として、自らを人間として見る (アナロジーや見立てではない)。動物は人であり、自身を人 格とみなす。
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アマゾニアのパースペクティヴィズム (1)すべての動植物におよぶことはない。捕食性の動物、ジャガー、 アナコンダ、ハゲタカ、ハゲワシ、人間にとっての餌であるペッカ リーやサル、魚、シカ、バクなど。捕食する/捕食されるという関係 的なもの。 (2)人格性やパースぺクティヴィズムは、それぞれの種に固有なの ではなくて、程度と状態による。 (3)魂や種の人格化は常にあるわけではなく、動物の霊的な主は共 有し、人間=動物関係の相互主観的な次元がある。 (4)人間と動物が区別されていなかった原初では「動物が人間性 (人格)をもっていた」文化が自然からではなく自然が文化からわか れる世界観。神話は、人間たちには引き継がれている属性を動物がい かに失ったかを語る(L-S 1985)。
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アマゾニアのシャーマン 西洋近代にあっては、知ることは「客体化」脱主体化、モノ化 などによるが、シャーマンの他者の形式は「主体化」「人格 化」である。 ⇒可能にするのはLatourやGellのモノのエージェンシーの議論。
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アニミズムとナチュラリズム Descolaのトーテミズムと対称的なアニミズムではない。
アニミズム:人間的な系列と非人間的な系列に社会的な特徴を 措定する存在論。自然と文化の区分は社会的な世界内部にあり、 人間と動物は同一の社会宇宙的な環境。 ナチュラリズム:社会と自然の関係は自然、自然と文化の区分 は自然の内部にあり、社会は自然現象。 アニミズムは社会を、ナチュラリズムは自然を無標の極とする 非対称で換喩的な構造⇔トーテミズムは隠喩的で等価的構造。
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Perspectivism 相対主義ではなく、多自然主義。唯一の「文化」多元的な「自然」。普遍 の認識論と可変的な存在論。
相対主義ではなく、多自然主義。唯一の「文化」多元的な「自然」。普遍 の認識論と可変的な存在論。 ヨーロッパ人と先住民がともに人間かどうか試すやり方。ヨーロッパ人は 魂の有無を(身体を持つことは疑わなかった)、先住民はその身体が腐敗 するかどうかを試金石とした。 関係論。あるものもほかの何かが存在する限りにおいて特性を有する。同 じ両親を持つ二つの個人が兄弟であるように、私の姉妹が私の義理の兄弟 の妻であるように、人間の血は「ジャガーの酒」である。アナロジーにア ナロジーを重ね、パースペクティヴの交換としての様態を可能にする。1 次的性質と2次的性質の区別もない。 身体性の意義。表現のための道具であり、他者のまえで見せることができ る「動物化」のための道具。
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DescolaとViveiros de Castroの対話
Latour[2009]:Descolaは、アニミズムとナチュラリズムを区別し、 トーテミズムとアナロジズムを区別する「タイプ」を相対主義的な 新しい普遍として再発明すると宣言。 Viveiros de Castroは、パースぺクティズムは、Descolaのタイポロ ジーにおさまるものではなく、西洋哲学を爆破する爆弾。新しい普 遍を熱望し、これまでの哲学を駆逐しようとする。 Castroは、Dを構造主義だとは批判しなかったが、Dのようなタイプ では簡単に別のタイプの思想に、自分が爆破しようとしている西洋 思想の範囲内で移行してしまうと批判。Dは西洋思想に関心はなく、 非西洋の思想に関心があると応答、そのような関心のありよう自体 が問題なのだとCastroは再批判。
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存在論/認識論 認識論は、自然を通文化的に普遍のものとして扱い、認識の差 異を問題化する。
認識論は、自然を通文化的に普遍のものとして扱い、認識の差 異を問題化する。 存在論は自然もその存在論内部で異なった存在のあり方をする と考え、自然を普遍のものとしない。 ⇒ラトゥール パスツールやコッホによる細菌の発見を結核 菌など細菌の存在がつくられた契機とし、それ以前には存在しな かったものと考える。 ソーカル事件『知の欺瞞』
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思想としてのアニミズム Garuba Harry 2012 On Animism, Modernity / Colonialism and the African Order of Knowledge: Provisional Reflections. E-flux Journal, #36, pp. 1-9. 行き詰まった近代の大きな物語、自然/社会、客体/主体、モ ノとモノのエージェンシーと象徴的意味といった二分法の乗り 越えとして歓迎。 科学技術が進歩しても世界は脱魔術化するどころかどんどん再 魔術化されている。単線的でテレオロジー的な近代/西洋の認 識を乗り越える方策としてアニミズムの論理を構想。
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東洋史・東洋思想とのクロスオーバー 天台本覚論や事事無碍法界(華厳経)との接合。 岩田慶治や鈴木正崇のアニミズム。
これらの立場からすると、ホットな議論はむしろ興ざめか
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5つのコンテキスト コンテキスト1 主体 西洋由来の「主体」普遍的コギト解体 モノにもエージェンシー、主体を配分する流れ
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コンテキスト 2 オリエンタリズム批判 非西洋からの「人類学」や思想 日本でもAnthropology at home
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コンテキスト3 狩猟採集民の民族誌 学説史的にいうと親族モデルが有効だった牧畜民からの パラダイム・シフトの意味合いも。
学説史的にいうと親族モデルが有効だった牧畜民からの パラダイム・シフトの意味合いも。 日本ではずっと縄文に注目していた思想家も(中沢新一、 梅原猛、栗本慎一郎など)。 Cf. NHKスペシャル「ヤノマミ」そのディレクターの書い た書籍が話題に。
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コンテキスト4 実証主義と思想のクロスオーバー
ポストモダン、ポストコロニアルの要請。See Hornborg [2006]Animism,Fetishism and Objectivism as Strategies for Knowing (or not Knowing) the World. Ethnos7(1), Garuba [2012] 調査者としてより理論家としてのL-S構造主義の「月の裏側」を 見る。 イギリス的経験主義/フランス的合理主義の折衷としての
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コンテキスト5 認知プロセスとして「象徴」をとらえるSperber [1975], Lakoff& Johnson[1980]の揺り戻し。
普遍ではなく相対主義を乗り越えるための方策。
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近代人類学の職業的ドグマ 「民族誌する」ということ。
特定の個人に囲まれて長期間生活するなかで情報を得て、参与 観察participant observationし、「民族誌家の呪術」 ehnographer’s magic(Malinowski, G. W. Stocking)を入手する こと。
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職業的ドグマに派生するジレンマ 接触する個人個人の具体性と「民族」「文化」あるいは「社会」と いうレベルとの乖離。
接触する個人個人の具体性と「民族」「文化」あるいは「社会」と いうレベルとの乖離。 否定的には「本質主義批判」、データ的にはサンプルの代表性の問 題として直面。 現象としても、ハイブリディティ、シンクレティズム、クレオール など、実態としての~民族が変質。 ⇒移民研究、multi-sited ethnography, e-fieldwork などの方向性⇒近年では、「社会」「文化」抜きに人類学を。
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人類学の見果てぬ夢 社会人類学には方法はひとつしかない、比較法であるーそして それは不可能なことだ ―E.E. Evans-Pritchard 構造主義・合理主義rationalismと機能主義・経験主義という背 反する野望。 定期的にパロキアリズム 特定民族の民族誌やモノグラフ志向 と比較志向、間歇的に地球志向のグランドセオリーが登場し、 毀誉褒貶。
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今後の課題 実在論ontologyは妥当か? 例えば、細菌の存在に関するラトゥールの世界観を受け入れ られるか?
例えば、細菌の存在に関するラトゥールの世界観を受け入れ られるか? 自然/文化の超克 ほかの隘路はないのか? ANT エージェンシー 関係論というがブラックボックスや焦 点化=力の問題を解決していない。 現象学的社会学との近縁性と差異化の問題。 狩猟採集以外の、牧畜、農耕など、生業の異なる地域の民族誌 にこれらの存在論がどれほど蓋然性があるのか。
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参照文献 Bird-David, Nurit, 1999, ‘Animism’ Revisited: Personhood, Environment, and Relational Epistemology. Current Anthropology. Vol. 40, Supplement: Special Issue Culture- A Second Chance? Feb pp. S67-S91. Stringer, Martin D. 1999, Rethinking Animism: Thought from the Infancy of Our Discipline. The Journal of the Royal Anthropological Institute, Vol.5, No.4. pp Latour, Bruno 2009, Perspectivism: ‘Type’ or ‘Bomb’? Anthropology Today. Vol. 25, No. 2. pp. 1-2. Viveiros de Castro, Eduard 1992, From the Enemy’s Point of View: Humanity and Divinity in an Amazonian Society. Chicago: University of Chicago Press. Descola, Phillippe 2013, Beyond Nature and Culture. Chicago: University of Chicago Press.
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参照文献 Willerslev, Rane and Olga Ulturgasheva 2014, Revisiting the Animism versus Totemism Debate: Fabricating Persons among the Eveny and Chukchi of North-eastern Siberia. IN Brightman, M, Grotti, Vanessa Elisa & Olga Ulturgasheva 2014 Animism in Rainforest and Tundra: Personhood, Animals, Plants and Things in Contemporary Amazonia and Siberia. Berghahn Books
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