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前編:等電点電気泳動 二次元電気泳動の基本 プロテオーム解析の分野でよく使われる二次元電気泳動について勉強しました。

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1 前編:等電点電気泳動 二次元電気泳動の基本 プロテオーム解析の分野でよく使われる二次元電気泳動について勉強しました。
今回は前編ということで、電気泳動の基本と一次元目の等電点電気泳動について取り上げます。 前編:等電点電気泳動

2 電気泳動とは・・・ ある溶液に一対の電極を入れて直流電流を 流したとき、溶液中の荷電粒子が自分のもつ 電荷と反対の極に向かって移動する現象
1808年   ロシアの物理学者Reussが水中の粘土粒子で発見 1930年代  スウェーデンの化学者Tiseliusが電気泳動装置を考案  それを用いた多くの研究により1948年ノーベル化学賞受賞 電気泳動とは「ある溶液に一対の電極を入れて直流電流を流したとき、溶液中の荷電物質が自分のもつ電荷と反対の極に向かって移動する現象」をさします。 1808年にロシアの物理学者ロイスが水中の粘土粒子で発見しましたが、現在のように生化学分野において分離・分析手法として用いられるようになったのは1930年のスウェーデンの化学者ティセリウスの学位論文が原点になっています。 ティセリウスは、電気泳動装置を用いた多くの研究により1948年ノーベル化学賞を受賞しました。

3 電気泳動現象を利用して、電荷・ 分子量・形が異なる分子を分離・ 分析・分取することができる
この図のように緩衝液などの溶液中に電極をおき、電流を流すと+電荷をもつ分子は-極へ移動し、-電荷をもつ分子は+極に移動します。 この電気泳動現象を利用して、溶液中のさまざまな分子を電荷の違い・分子量の違い・形の違いで分けることができます。

4 分子ふるい効果 ・プラス電荷分子は陰極へ - + - - + - + ・マイナス電荷分子は陽極へ ・分子量が低いほど移動度が大きい
ゲルマトリックス中の分子の移動 ・プラス電荷分子は陰極へ ・マイナス電荷分子は陽極へ ・分子量が低いほど移動度が大きい ・同じ分子量でも形によって移動度  が異なる ゲルマトリックス中の分子の移動の模式図です。 支持体としてゲルやポリマー入り緩衝液が使われます。 ゲルの中で電荷をもっている高分子は、自分のもつ電荷と反対の極に移動しようとしますが、ゲルの担体分子にさえぎられるので、分子量が大きいもの・形がかさばるものほど移動しづらく、小さいものほど速く移動することができます。 このよう分子の大きさやかさばりによって、分子を分離することを「分子ふるい効果」といいます。 アガロースゲルやポリアクリルアミドゲルは網目状の立体構造をもっているので、このような分子ふるいの目的でよく使われます。 分子ふるい効果

5 電気泳動の分類 A. 支持体 ・セルロースアセテート膜 ・ゲル アガロースゲル ポリアクリルアミドゲル ・ポリマー入り緩衝液 ・無担体
 ・セルロースアセテート膜  ・ゲル  アガロースゲル        ポリアクリルアミドゲル  ・ポリマー入り緩衝液  ・無担体 電気泳動の種類を支持体別に分けてみました。 詳しい説明は省きます。 後編で時間があまったら、簡単に説明できるかと思います。 二次元電気泳動では、ポリアクリルアミドゲルという担体を使います。

6 電気泳動の分類 B. 形態・方法 ・スラブゲル電気泳動 ・サブマリン電気泳動 ・パルスフィールド電気泳動 ・等電点電気泳動
 ・スラブゲル電気泳動  ・サブマリン電気泳動  ・パルスフィールド電気泳動  ・等電点電気泳動   ・キャピラリー電気泳動   ・フリーフロー電気泳動 形態・方法による分類です。 分離したい目的に応じて、これらの方法を選択したり組み合わせたりします。 これも後半、時間があったら説明したいと思います。 二次元電気泳動に関係するのは「スラブゲル電気泳動」と「等電点電気泳動」です。

7 二次元電気泳動(2D-PAGE) TWO-DIMENSIONAL POLYACRYLAMIDE GEL ELECTROPHORESIS
一次元目:等電点の違いによる分離 二次元目:分子量の違いによる分離                    異なった原理に基づいた2種類の電気泳動 を組み合わせることにより、一度に数千種類 ものタンパク質を分離することができる 二次元電気泳動とは・・・ このように、互いに相関しない2つのパラメータを組み合わせることで、試料に含まれる多くのタンパク質を分離し、独立し たスポットとして呈示することができます。 翻訳後修飾されたタンパク質も検出可能なのでプロテオーム解析では欠かせない手法です。 理論的には1枚のゲルで15000種類のタンパク質の分析が可能と言われています(実際は数百~数千種がいいところ?)

8 二次元電気泳動の実験の流れ サンプル調整 一次元目の泳動(IEF) 二次元目の泳動(SDSーPAGE) スポットの検出と泳動結果の解析
プロテオミクスの分野で一般的に使われる2D SDS-PAGEの操作の流れを示しました。 第一段階のサンプル調整では、阻害物質を取り除き、可溶化します。 タンパク質を完全に溶解させるために「タンパク質の折りたたみ構造を開くため」尿素や、「タンパクの凝集を防ぐため」界面活性剤が使われます 一次元目の泳動として等電点電気泳動を行います。 このあと詳しく説明します。 二次元目の泳動はSDS-ポリアクリルアミド電気泳動がよく用いられます。 SDSとDTTを用いてSDS平衡化を行います。くわしくは後編で説明する予定です。 最後にスポットの検出と泳動結果の解析です。 目的に応じた染色を施し、ゲル画像を取り込み、解析処理します。 さらにスポットを切り出し、タンパク質を同定するために質量分析計で測定します。 スポットの検出と泳動結果の解析

9 等電点の差によってタンパク質を分離する (isoelectric point : pI)
等電点電気泳動(IEF = Isoelectric Focusing) 等電点の差によってタンパク質を分離する     (isoelectric point : pI) 両性分子の純電荷がゼロになるpH値 等電点電気泳動は、タンパク質を等電点(pI)の違いを利用して分離し、目的タンパク質の等電点を測定したり、分析したりする泳動手法です。 等電点とは・・・ 両性分子とは・・・ 溶液のpHにより荷電状態が変化する分子    タンパク質は両性分子の性質を持つ

10 タンパク質を構成するアミノ酸の残基は酸性溶液中では 正の電荷を持ち、塩基性溶液中では負の電荷を持つ
COO NH3 COO NH2 COOH NH3 pH<pI pH=pI pH>pI タンパク質を構成しているアミノ酸側鎖やアミノ末端、カルボキシル末端の電荷はpH条件によって変化するので、タンパク質も両性分子です。 電荷の総和がゼロになるpHの値が等電点です。 タンパク質はご存知のように、20種類のアミノ酸が結合した生体高分子です。 アミノ酸はペプチド結合で結ばれたアミノ基とカルボキシル基のほかに、さまざまな残基を持っています。 酸性溶液中ではアスパラギン酸残基やグルタミン酸残基の側鎖がCOO-からCOOHの構造になるとともに、リシンやアルギニン残基の側鎖がNH3などのままであるために、全体として正電荷になります。 逆に塩基性水溶液中ではアスパラギン酸残基やグルタミン酸残基の側鎖がCOO-の構造のままであり、リシンやアルギニン残基の側鎖がNH3+などからNH2などの構造になるために全体として負電荷になります。 つまり、水溶液のpHを酸性から塩基性に変化させていくと、どこかの時点で全体として電荷がゼロになるpHの点があるはずです。 この pHが等電点です。 等電点では電荷がゼロになるため電場の影響を受けなくなり、結果、タンパク質はそこに留まってバンドを形成します。 タンパク質を構成するアミノ酸配列が違うと等電点も違う場合がほとんどなので、この性質を利用してタンパク質を分離することができます。 等電点はリン酸化やシアル酸の結合などの翻訳後修飾によっても変化します。 等電点では純電荷がゼロになる(=電場の力を受けなくなる) ため、タンパク質の分子はその位置に留まる

11 等電点電気泳動のイメージ Before 8.8 7.1 5.3 8.4 3.9 3.7 3.9 + 7.1 - 8.8 3.7 5.3
After タンパク質はそれぞれ固有の等電点をもっています。 図のように、さまざまな等電点と分子量をもつタンパク質が溶液中に溶けているとします。 ここにpHが酸性から徐々に中性、中性から塩基性に変化していく状態を作り、電圧をかけてやると、タンパク分子はそれぞれのpI値に等しいpHの場所へ移動します。 この状態を「pH勾配」といいます。 pH勾配 pHが低い pHが高い

12 キャリアアンフォライトを用いたpH勾配 ポリアクリルアミドゲルにさまざまな等電点を持つキャリア
アンフォライト(両性担体)混合物を加え電圧をかける というわけで、等電点電気泳動を行うには、泳動ゲル中にpH勾配を作る必要があります。 pH勾配ゲルの作製には、従来、チューブ状のポリアクリルアミドゲル内に両性担体であるキャリアアンフォライトを添加した中に電場をかけてpH勾配を形成する手法(図1)が使われていました。 キャリアアンフォライトは可溶性の両性低分子で、そのpI付近で高い緩衝能力を示します。 キャリアアンフォライト混合物に電圧をかけるとpI最低値(最も負に荷電した)キャリアアンフォライトは陽極に向かって移動し、pI最高値(最も正に荷電した)キャリアアンフォライトは陰極に向かって移動します。 その他のキャリアアンフォライトはこれら両先端の間、自身のpIに従った位置を占め、該当pHになるようにその周囲に緩衝作用を及ぼします。 こうしてpH勾配は維持されます。 この従来法は多くの二次元電気泳動で用いられてきましたが、以下のような欠点がありました。 キャリアアンフォライトは特性が未知のポリマーの混合物であるため、製品のロットにより性状が異なり、IEFの再現性は低いものでした。 また、キャリアアンフォライトによるpH勾配は不安定で、長時間の泳動で陰極側へずれる傾向がありました。 勾配のずれはIEFの泳動時間を変化させ、実験の再現性をさらに低下させると同時に、pH勾配両端の平坦化の原因(特にpH9以上)にもなり、pHの最大値および最小値でのIEFの分離が悪くなりました。 また、チューブ状ポリアクリルアミドゲルは柔らかく、物理的な安定性が非常に低いのでゲルが伸張したり破損しやすく実験者の技量により実験結果は大きく左右されました。 以上のような要因により、キャリアアンフォライトを用いたpH勾配の作成法は再現性において大きな問題がありました。 ・製品のロット差が大きい ・pH勾配が不安定 ・チューブ状ゲルは壊れやすい

13 固定化pH勾配(IPG法: Immobilized pH gradient)
ポリアクリルアミドゲル作製時に酸性や塩基性の種々のアクリルアミド誘導体(Immobiline)を添加しpH勾配をゲルに共有結合させる ・pH勾配が固定化されている  ため正確で安定している ・酸性度・塩基性度が高いタン パク質も分離できる ・ゲルの取り扱いが簡単 キャリアアンフォライト法にかわる方法として開発されたのが固定化pH勾配(IPG法)です。 この手法はBjellqvistらにより1982年に紹介され、さらに1985~1988年にかけてGorgらにより二次元電気泳動の一次元目IEFとしての基礎が確立されました。 IPGはポリアクリルアミドゲルの作製時に酸性や塩基性の緩衝作用をもつ側鎖を共有結合によりゲルに取り込ませて、pH勾配を形成します。 pH勾配を作製するアクリルアミドバッファー(イモビライン)は酸性あるいは塩基性緩衝作用を持つ単一側鎖をアクリルアミドモノマーに結合した分子から構成されています。 勾配は二種類の溶液から形成されます。 一方は比較的酸性のイモビラインの混合物を含む溶液で、もう一方は比較的塩基性のイモビラインの混合物を含む溶液です。 二種類の溶液のそれぞれのバッファー濃度により、形成されるpH勾配の範囲や形状が決定されます。 両溶液ともアクリルアミドモノマーと触媒を含んでいます。 重合の過程でイモビラインはアクリルアミドモノマーやビスアクリルアミドモノマーと共重合し、緩衝基が結合したポリアクリルアミドゲルが完成します。 二次元電気泳動の一次元目として、プラスチックのサポートフィルム上にゲルを成型し、乾燥したものが市販されています。 このドライストリップは次のような特長があります。 共有結合で固定化されたpH勾配は正確で、IEFの再現性が高くなります。 (キャリアアンフォライトを用いる等電点泳動の分離能は0.01~0.02 pH単位でIPG法では0.001 pH単位の違いでも分離することができます) また安定性も高いため、酸性度や塩基性度がより高いタンパク質が分離可能です。 プラスチック製のサポートフィルムがゲルの伸張や破損を防ぎ、取り扱い方法も簡単です。 まとめると実験者の技量に左右されず、どの研究室でも共通した条件で等電点電気泳動ができるようになったため、二次元電気泳動の再現性も飛躍的にアップし、プロテオーム解析に多用されるようになった・・・と言えるでしょう。 再現性が高い2D-PAGEが 可能になった Immobilineゲルの構造 (R=弱酸性あるいは弱塩基性緩衝基)

14 各種サケ科の泳動パターン PhastGel IEF 5-8使用 CBB染色 lane 1,2:Atlantic salmon
lane 3,4:Pink salmon lane 5,6:Chum salmon lane 7,8:Rainbow trout おまけの等電点電気泳動の泳動パターンです。 原材料の特定が困難な加工肉食品の品質管理において、等電点電気泳動は、原材料を知る最も有効な手法です。 原材料となる肉は各種固有な等電点電気泳動パターンを示すので、これを利用して原材料を特定することができます。 アトランティックサーモン(太平洋サケ) ピンクサーモン(カラフトマス) チャム?サーモン(シロサケ) レインボートラウト(ニジマス)


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