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精神分析的心理臨床セミナー 2018年3月11日(日) 吉村 聡(上智大学)
躁とロールシャッハ 精神分析的心理臨床セミナー 2018年3月11日(日) 吉村 聡(上智大学)
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躁をめぐる力動的理解の おさらい
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躁にまつわる基本理解(臨床像) 躁の心理(とりわけ軽躁状態の場合) 活力に満ちて興奮しやすい、社交性に富む きまぐれで注意散漫 陰性情動をあらわにするとき、 悲しみや失望より怒りとして表明されやすい
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躁にまつわる基本理解(力動的理解) 1)口愛的な特徴 ひっきりなしに喋る、食べる、飲む、喫煙する、 あるいは、口で何かをいじったりかじったりする 2)防衛機制 否認、行動化 (行動化は逃避を中心とする;性愛化や中毒など、 精神病質的な色合いが含まれることも)
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躁にまつわる基本理解(力動的理解) 3)対象関係 愛着関係を恐れる (愛着対象の喪失は破滅を意味する) 自己の崩壊/断片化の恐怖 (動き続けなければバラバラになるという恐れ)
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躁的防衛 : クライン派用語辞典 躁的防衛の重要な要素: 「否認」「万能的コントロール」 「対象の侮蔑」(自己の理想化を伴う) 依存は危険 自我に迫害的/抑うつ的不安をもたらす危険 依存対象は愛情と憎しみの対象である ⇒自我が対象の征服と支配をやめるわけに行かなく なる
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躁的防衛 : Winnicottによる考察 Winnicott 1935年 「躁的防衛」 (←Klein,M 1935「躁うつ状態の心因論に関する寄与」) 内なる現実inner realityを十分に重視できないということは、その人自身の躁的防衛の一部である 空想とは、内なる現実を扱おうとする個人の一部。空想と白日夢は、外的現実についての万能的支配に満ちた操作である。その個人は、内なる現実から逃れる努力の中で、苦心して練り上げた万能の空想を通して、外的現実に接する。
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躁的防衛 : Winnicottによる考察 躁的防衛では、内なる現実における緊張を減じるため に、外的対象との関係が使われる。しかし、個人が対 象愛のための自分自身のキャパシティを信じることがで きないため、死んでいることを否定する生き生きとして いるという感覚を充分に信じていないことが、躁的防衛 には特徴的である。というのも、うまくなし遂げること making goodは、破壊が認められたときにのみリアルに なるからである。
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躁的防衛 : Winnicottによる考察 躁的防衛の特徴 1)内なる現実の否認 内在化された悪い対象についての方が、良い内的 な力や対象の否認についてよりも、多くのことが書 かれてきた
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躁的防衛 : Winnicottによる考察 2)内的現実から外的現実への逃避 外的現実に空想を表現させる 万能感で現実を操作し、白日夢に浸る 性と肉欲の可能な限り、身体的側面を追求する 内的な身体感覚を追求する(心気症的)
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躁的防衛 : Winnicottによる考察 3)生きたままの仮死状態 内在化された両親たちを生と死の間に保ちながら 支配する。悪い親たちの万能的支配とともに、よい 関係の停止。不満足な防衛ゆえに、患者は内側で 死んでいると感じ、世界を味気ない場所とみなす
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躁的防衛 : Winnicottによる考察 4)抑うつ感のいくつかの側面の否認 安心確保のために対立する概念を用いる 死んでいるー生きている (動いている、成長している) 子どもの遊びに認められる躁的防衛の含意 (気球、飛行機、魔法の絨毯の例)
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躁とロールシャッハ法
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躁状態のアセスメントにおける課題 1.躁状態を見出すことだけなら難しくない 臨床的にも、「躁状態」という記述だけなら容易 2.問題になり得るのは、主として鑑別診断 (1)パーソナリティ障害なのか精神病なのか (2)統合失調症または関連障害なのか (3)発達障害なのか (4)薬物の影響はないのか 3.ロールシャッハ法から、躁について何が言えるのか
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Rorschach,H.の示唆 1.低いF+% (50~60%) 2.M≧3 3.色彩反応は多く、FC≦CF+C 4.比較的多いW (4~7) 5.W反応でFQのやや崩れた反応継起(把握型) W干 → D± → Dd± 6.うつ病より低めのA%(50~70%) 7.独創反応は比較的多いが、形態は崩れやすい
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岡部(1972)によるまとめ(うつと躁の比較) うつ病と躁病の反応比較 うつ病 躁病 R 15.9 33.4 Rej 0.7 0.2
初発反応時間sec 32.1 9.7 W:D 9.3 : 5.1 17.2 : 15.9 Dm%(異常部分反応) 5.4 4.8 FC : CF+C 1.2 : 1.3 2.8 : 4.3 FM : M 3.3 : 2.1 6.6 : 5.9 ΣC : M 1.9 : 2.1 6.3 : 5.9 F% 41.6 37.8
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岡部(1972)によるまとめ(うつと躁の比較) うつ病と躁病の反応比較 うつ病 躁病 F% 41.6 37.8 R+% 69 61.5 A%
48.6 42.9 H% 1.8 17.3 CR 5.8 9.3 P 4.7
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Beck,S.J.による古典的研究 反応時間の遅延 過剰な観念活動 Zスコア↑: 複雑な認知 L↓: F反応の乏しさ 情緒応答性 自尊感情の問題 通景反応(Vista)↓ 知覚の不正確さと慣習的に考えられない傾向(P↓)
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Weiner,I.B.による古典的研究 短い反応時間, 高いR, 高いSumC 「躁病者は運動も色彩も自由に使い、月並みな動物や、 よくある見方や分かりやすい部分領域からはるかに外 れた解釈を広げ、大量の空想的な特殊化や、結合や、 些末な連想で反応語を修飾する」
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Klopfer,B.による古典的研究 Klopfer & Spiegelman(1956) M-反応の違いに注目 躁病患者には、M-反応が多い ・・・情報処理に揺れ動きが多く、行き当たり ばったりになりやすい 統合失調症者は、奇矯なM-反応を報告する
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Scafer,R.による古典的研究 臨床的観察と知見 Schafer(1954) 躁的なイメージには否認(否認の防衛操作や、否認さ れたものがあるという結果だけ)を伴う 結果として生じている、防衛の不安定さ
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鑑別診断をめぐって Schmidt & Fonda(1954) Khadivi et al.(1997) Johnson & Holzman(1979) ・・TDI SumC 躁病>統合失調症 思考障害の程度で、躁病と統合失調症で差がない ただし、結合思考では有意差 躁病>統合失調症 >失調感情障害,パラノイア *結合思考に「軽薄さ」「遊び」「ユーモア」が随伴
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躁状態と思考障害 TDIによる躁病の思考障害研究 主成分分析において、以下の要素からなる 「結合思考」が、躁病のかなりの要素(73%)を説明 プレイフルな作話, 不調和結合, 軽薄反応, 作話的結合 躁病者が統合失調症者より多いのは・・・ 作話的結合, プレイフルな作話
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躁状態と思考障害 Solovayら(1987) 「躁的思考障害は、緩く結びつきあった観念、ありえな い結合をした上で、さらに推敲された観念という形で現 れる。 (略) そのような怒意的な統合的過程の顕著な 結果として、社会的談話に無関係なものの侵入が生じ、 それが時として不適切に軽薄だったり、プレイフルで あったりするのだろう」 ⇒躁状態は関係ない刺激に無反応でいられず、 過剰包括になりやすい
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事例に学ぶ
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臨床素材から-2 Petot(1999): Julien少年の2回のロールシャッハ比較 中流階級、大卒の両親(Julien出生前に離婚) 幼い頃から、注意欠陥と多動が認められる 3歳のときに飛び出しで自動車事故、数週間入院 ⇒母親の過保護を招く #1 8歳:診断=ADHD 多動傾向、躁状態のエピソードなし 学習困難、言語性チック、分離不安 数か月にわたる分析的な治療で症状は減退
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臨床素材から-2 10歳時に再来院、極度の興奮状態 目的なく歩き回る、大声で話す、 見知らぬ人に話しかけて会話をはじめる、 不適切な場面で大声で歌う、独語など 無関係な事柄に言及し、ときおり尊大な考えも ⇒ #2 11歳時(#1+2年) : 診断=躁病
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臨床素材から-2 <WISC-R結果> VIQ: 93 ⇒ 101 PIQ: 80 ⇒ 85 FIQ: 86 ⇒ 93
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臨床素材から-2 8歳時(ADHD)
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臨床素材から-2 8歳時(ADHD) 1)内的緊張を精神的に体験することの困難 (CDI=陽性,L=1.5,EB=1:1.0,EA=2.0,D=-1) ⇒行動、情動、認知における衝動性をもたらす 2)自尊感情の問題と、認知的問題によってもたらされ ている自己概念の歪み(EGI=0.10)
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臨床素材から-2 8歳時(ADHD) 3)性急で、極度に単純化された刺激への応答性 (L=1.5,Zd=-9) 4)現実吟味は良好(X-%0.20) 重篤な認知的機能不全の兆候は認められない
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臨床素材から-2 10歳時(Mania)
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臨床素材から-2 10歳時(Mania) CDI陽性(未成熟なパーソナリティ)はそのまま しかし、数多くの特殊スコアも付加される 不調和結合 INC 作話結合 FAB 認知的な不正確さ+思考活動上の問題 ⇒SCZI(分裂病指標)にも該当
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臨床素材から-2 Petot(1999): 8歳少年(ADHD) →10歳(躁病) CardⅢ 1回目(8歳) 2回目(10歳)
この図版知ってる。 ⑥小さなネクタイ E: (反応を繰り返す) S: 形。ネクタイの形に似てる。 Do3 Fo Cg ⑦ここに小さな鳥がいる。 E: (反応を繰り返す) S: くちばしがあって足があって、こ の形から。 Ddo34 Fo A ⑥うわ!(∨)何も見えない・・・力を持った人がいて、力というのはネクタイだけど、この力があれば全部吹き飛ばせるんだ、英雄なんだ。 領域: Dd99。マスク(D7)、身体(Dd34)、 足(D2)、腕(Dd21)。 S: この男は一番強いんだ。飛んでいて、 力を持ったマスク(D7)、ネクタイ(D3)を して、これさえあれば、世界を吹き飛 ばせるんだよ。 Dd+99 Ma- (H),Cg FAB2
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臨床素材から-2 Petot(1999): 8歳少年(ADHD) →10歳(躁病) CardⅣ 1回目(8歳) 2回目(10歳)
⑧空飛ぶ怪物に見える。 E: (反応を繰り返す) S: 空を飛んでいる本物の怪物み たい、本当にこんな感じだよ。 Wo1 FMao (A) 2.0 ⑨大きなコウモリ。大きなコウモリそっくり。 S: 特にここが羽、ここが頭。 Wo1 Fo A 2.0
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臨床素材から-2 Petot(1999): 8歳少年(ADHD) →10歳(躁病) CardⅣ 1回目(8歳) 2回目(10歳)
⑨バットマン。バットマンに見える。 E: (反応を繰り返す) S: バットマンみたい。似てる。 Wo1 Fo (H) 1.0 ⑩そうじゃなければ、大きな空飛ぶ蜘蛛。そういうの、何かいなかったっけ? 大きな蜘蛛、世界一大きいから吸血鬼も怖がるし、みんなもPetot先生も怖がるよ。 E: (反応を繰り返す) S: この蜘蛛の頭は大きな機械で、吸 血蜘蛛で、飛べないんだけど、みんな を殺しちゃう。宇宙からきた蜘蛛。 E: 頭が大きな機械なの? S: (爆笑して返事がない) Wo1 F- (A) CON(?)
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臨床素材から-2 Petot(1999): 8歳少年(ADHD) →10歳(躁病) CardⅦ 1回目(8歳) 2回目(10歳)
⑬2匹のウサギに見える。本当、見て! E: (反応を繰り返す) S: これがそう見える。体があって 耳があって、すごくそう見える。 Do2 Fo 2 A ⑭(∨)くぐり抜けられる橋。 S: 橋の形。こんな感じ。 Wo1 Fu Sc ⑬2匹のウサギがシーソーを上下に行き来している。 S: これが2匹のウサギ。シーソーを上 下にしている。 W+1 Mao 2 A,Sc FAB,COP,DV ⑭(∨)屋根がかかっているみたい、通っていけるアーチみたいな。 S: 真ん中に穴があって、通っていける アーチのようになっている。 Wo1 Fu Sc 2.5
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臨床素材から-2 Petot(1999): 8歳少年(ADHD) →10歳(躁病) CardⅩ 1回目(8歳) 2回目(10歳)
⑱ここにあるのが小さなエビに見える。すごくそう見える。 E: (反応を繰り返す) S: 小さなエビに見える。全部たく さんの足がある。灰色している。 Do8 FC’- A ⑲(∨)サソリと虫でできた人。木の足。この人は暗闇の吸血鬼なんだ。 S: 頭は虫でできてる(D10)。足がひと つあるけど(D11)、他の足はない。腕 はサソリでできてて(D1)、これが体 (D9)。一番巨大ですごい吸血鬼で、 さそりとか虫とかタランチュラ(また はトタテグモ)の友だちと一緒で、虫 や小さな魚を食べるんだ。 Ddo99 F- (H) INC2
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臨床素材から-2 Petot(1999): 8歳少年(ADHD) →10歳(躁病) CardⅩ 1回目(8歳) 2回目(10歳)
⑲小さなカニ。 E: (反応を繰り返す) S: すごくカニに似ている。全部た くさんの足がある。 Do1 Fo 2 A P
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臨床素材から-2 Petot(1999): 8歳少年(ADHD) →10歳(躁病) CardⅩ 1回目(8歳) 2回目(10歳)
⑳何か、イチゴみたいな。 E: (反応を繰り返す) S: これ、イチゴの色をしている。 Do13 CF- Fd
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