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「教室を借りる」から「教室を創る」へ -「夏休み学習ゼミナール」の試み-

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1 「教室を借りる」から「教室を創る」へ -「夏休み学習ゼミナール」の試み-
「教室を借りる」から「教室を創る」へ -「夏休み学習ゼミナール」の試み- 東京大学大学院教育学研究科 日本学術振興会 村山 航

2 「教育心理学研究」における介入研究

3 なぜこんなに少ないのか そもそも介入することに意義を見出していない 「基礎研究の積み重ね=介入への示唆」という信念
介入よりも「メカニズム」「プロセス」自体に興味がある. 「基礎研究の積み重ね=介入への示唆」という信念 やりたいけどやるのが難しい(特に大学院生) 質問紙,実験,授業観察から脱却できない

4 やりたいけどやるのが難しい(特に大学院生)
質問紙,実験,授業観察から脱却できない

5 なぜやるのが難しいか 外部の人に授業をさせてくれる学校は非常に稀 学校との信頼関係が前提 こちらの立場としても,気が引ける
教員免許を持たない大学院生だとなおさら 学校との信頼関係が前提 大学院生の期間で,そこまでの関係を結ぶのは難しい こちらの立場としても,気が引ける たとえ,教室を「借りる」ことができても制約が多い

6 たとえ,教室を「借りる」ことができても制約が多い

7 教室を「借りた」介入研究の限界点 学校のカリキュラム上の制約 クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗
進度を無視した単元や「学習方略」などの授業は難しい クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗 介入の効果を検出することが難しい 授業自体は教師が行うことになる(ことが多い) 少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる よりベターだと思われる実験的統制も難しい 要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,因果関係を過大評価/見落とす可能性 もちろん,私たちのアプローチでも,「片方のクラスが悪くなればよい」と思っているわけでは決してない.

8 発想の転換 学校 大学

9 発想の転換 大学=地域のリソースの1つ (市川, 1998) 学校 大学 2+3=5 5-7=-2
きてもらう,というと,何か偉そうに聴こえますが,大学を「地域のリソース」と考えると自然な発想だと思います.

10 「夏休み学習ゼミナール」 地域の中学生(希望者)を夏休みに大学に呼んで,授業を行う 授業者は主として大学院生 参加は無料
地域のリソースとしてのプログラム:「学びのポイントラリー」 授業者は主として大学院生 各院生が,自分の専門を生かした教育プログラム 教育プログラムの効果を検討

11 教室を「借りた」介入研究の限界点 学校のカリキュラム上の制約 クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗
進度を無視した単元や「学習方略」などの授業は難しい クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗 介入の効果を検出することが難しい 授業自体は教師が行うことになる(ことが多い) 少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる よりベターだと思われる実験的統制も難しい 要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,因果関係を過大評価/見落とす可能性

12 教室を「創る」介入研究のメリット 学校のカリキュラム上の制約 クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗
進度を無視した単元や「学習方略」などの授業は難しい クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗 介入の効果を検出することが難しい 授業自体は教師が行うことになる(ことが多い) 少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる よりベターだと思われる実験的統制も難しい 要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,因果関係を過大評価/見落とす可能性

13 教室を「創る」介入研究のメリット 学校の制約を離れた柔軟な授業作りが可能 クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗
教材・教える内容ともに従来の枠に捉われない クラス間で異なった処遇を行うことへの抵抗 介入の効果を検出することが難しい 授業自体は教師が行うことになる(ことが多い) 少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる よりベターだと思われる実験的統制も難しい 要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,因果関係を過大評価/見落とす可能性

14 教室を「創る」介入研究のメリット 学校の制約を離れた柔軟な授業作りが可能 クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能
教材・教える内容ともに従来の枠に捉われない クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能 もちろんどのクラスにも質の高い授業をすることが前提 授業自体は教師が行うことになる(ことが多い) 少なくとも,教師の監督下で授業を行うことになる よりベターだと思われる実験的統制も難しい 要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,因果関係を過大評価/見落とす可能性 「異なった処遇」な何回もいうが,留意しなくてはいけない点.

15 教室を「創る」介入研究のメリット 学校の制約を離れた柔軟な授業作りが可能 クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能
教材・教える内容ともに従来の枠に捉われない クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能 もちろんどのクラスにも質の高い授業をすることが前提 研究者(大学院生)自身が,授業を行うことが可能 研究者としての貴重な“教師体験” よりベターだと思われる実験的統制も難しい 要因の交絡・検出力の低下などで,重要なメカニズム,因果関係を過大評価/見落とす可能性

16 教室を「創る」介入研究のメリット 学校の制約を離れた柔軟な授業作りが可能 クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能
教材・教える内容ともに従来の枠に捉われない クラス間で異なった処遇を行うこともある程度可能 もちろんどのクラスにも質の高い授業をすることが前提 研究者(大学院生)自身が,授業を行うことが可能 研究者としての貴重な“教師体験” ある程度の実験的な統制が可能 ランダムアサインメントなど,通常の学校では不可能

17 「夏休み学習ゼミナール」の概要 ※ 対象:中学2年,期間:5-7日間,場所:東京大学教育学部 実施時期 2001年夏 2002年夏
2004年春 2004年夏 参加人数 約80人 約140人 約20人 約150人 中学生は,教育委員会を通して連絡してもらうか,区役所で調べさせてもらって,案内の手紙を出しています. 英語・数学国語・社会 数学・理科国語・社会 数学・理科国語 英語・数学 国語・理科社会・情報 教科

18 授業風景

19 市川(2003):「人に教えること」を通して理解を深める
授業内容:数学の“順列と組み合わせ” 「人に教える」という活動を通して理解を深める 一斉授業・問題演習のあと,,, 小グループに分かれて,教え合い活動 各グループには,学校の先生・院生などのアシスタント 単元を通して「勉強のしかた・方法」に焦点

20 村山(2003):テスト形式が学習方略に与える影響
授業内容:社会科の“近現代史” 中学2年生80人を3群に無作為配置 空所補充クラス 記述-非添削クラス 記述-添削クラス 毎回の授業後に確認テストを実施 従属変数:方略使用(質問紙)・ノートの分析 テストの点数など,交絡要因をある程度統制

21 結果

22 結果 ATI効果 習得目標

23 結果

24 授業内容自体の評価 質問項目 平均点(7点満点)とSD 授業自体を楽しむことができた 学校で同じテーマをやれば,よく理解できると思う
6.04 (1.01) 5.71(1.13) 実験授業だからといって質が低いというわけではない

25

26 強み 要因の交絡可能性が低い 「毎回のテスト」という場面を設定し,いくつかの変数を統制することによって,通常の介入研究では検出しにくかった現象を炙り出した

27 よくある誤解 「実験授業」:研究だけが目的のようで冷たくみえる 学校現場での介入研究に比べ,生態学的妥当性が低いのではないか
先述したように,どのクラスも授業自体の質は高い.また事前に,授業内容の検討を行うようにしている. 学校現場での介入研究に比べ,生態学的妥当性が低いのではないか “生態学的妥当性”(Neisser, 1978)の意味のはきちがえ(森, 2002) あくまで「学校での介入に役立つ心理メカニズムの同定・介入プログラムの提案」を目指すために,いったん枠を離れているだけ “認知研究が生態学的妥当性をもつということは,要するにその研究で明らかにされた事実や法則が,認知機能が生きて働いている日常世界での認知過程の「重要で本質的な」側面を捉えているということに他ならない.(中略)たとえ日常的な状況での日常的な題材を取り扱ったとしても,それが日常世界の認知過程の「重要で本質的な」側面を捉えていない限り,決して生態学的妥当性が高い研究とはみなせないことになる”(森, 2002).

28 難しいところ・悩み 参加希望者の偏り 実施のためのコスト “授業のダイナミクス”と“統制された実験”のジレンマ やはり親が熱心な人が多い
院生への負担が大きい “授業のダイナミクス”と“統制された実験”のジレンマ 授業に慣れれば慣れるほど見えてくる問題 授業のその場で作られる“学びの機会”をどうするか 授業の流れ・クラスの雰囲気など,こちらが予期せぬ形で,事態が次々と変化 松江中などでの授業検討の経験も話す.今年になって,特に自分にとって大きな問題点. 学びの機会:例えばA君を当てると,こちらの期待とは違うが,なんか「これは発展しそうだ」というような返答が返って来る.そのときに授業をスケジュール通り進めるのか,この学びの機会を拾い上げるのか クラスの雰囲気:1人がうるさくて,それをほっておくと,あっという間にクラス中に伝播して,「うるさいくらす」のできあがり. 統計的には観測値は独立で,1人のうるさい生徒というのは,そのクラスの中に偶然1人迷い込んでいた,値が極端な生徒にすぎないのに, その人が,他の人にも同じような影響を与えてしまう.観測値の独立性って,,,.

29 参考文献 ≪夏休み学習ゼミナールについての解説≫ 市川伸一 (2004) 学ぶ意欲と学習スキルを育てる 小学館
市川伸一 (2004) 学ぶ意欲と学習スキルを育てる 小学館 植木理恵・市川伸一 (印刷中) 大学を地域の学習リソースに -研究者が企画・実施する実践型アプローチ- 鹿毛雅治(編) 教育心理学の新しいかたち 誠信書房 ≪今日解説した授業について≫ 市川伸一 (2003) 大学で開く中学生向けゼミナールの試み 学校臨床研究, 2(1), 村山航 (2003) テスト形式が学習方略に与える影響 教育心理学研究, 51, 1-12.

30 ご清聴ありがとうございました ご意見・質問は まで


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