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横浜国立大学大学院環境情報研究院 環境リスクマネジメント専攻 三 宅 淳 巳
神奈川労務安全衛生協会 2013/10/11 事故に学ぶリスク管理のポイント 横浜国立大学大学院環境情報研究院 環境リスクマネジメント専攻 三 宅 淳 巳 1.化学物質を取り巻く現状 2.燃焼爆発現象の基礎 3.最近の災害事例 4.リスク管理の考え方
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はじめに リスク社会 食品 NBCテロ 情報セキュリティ 個人情報 感染症 金融危機 エレベーター 戦争 交通システム 回転ドア
有害化学物質 学校/通学路 電磁波 地震・津波 原子力施設 工場爆発火災
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個々の化学物質の特性に応じた適正な管理が必要
化学物質を取り巻く現状 従来は・・・ 量産型製造プロセス ・製造工程が単純 ・炭化水素が主体 法律により規制される時代 安全技術の規格化が容易 現代,そしてこれからは・・・ 法規制だけでは不十分 少量多品種製造プロセス ・製造工程が多様化 ・特殊化学品が増加 自発的な自主管理の時代 個々の化学物質の特性に応じた適正な管理が必要
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最近の爆発火災事故事例 ■塩ビモノマープラント爆発火災(2011年11月,徳山) ■エチレンプラント分解炉破裂(2012年2月,大分)
■レゾルシンプラント爆発火災(2012年4月,岩国) ■アスファルトタンク爆発(2012年6月,千葉) ■製油所火災(2012年8月,水島) ■アクリル酸中間タンク爆発(2012年9月,姫路)
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化学物質の総合安全管理と リスクアセスメント
化学物質の総合安全管理と リスクアセスメント (1)規制緩和と自主管理 7,300万種類の化学物質,2,000種類で約95% (2)化学物質の総合安全管理 S : Safety (フィジカルリスク) H : Health (健康リスク) E : Environment (環境リスク) 「Good SHE is good business ! 」 事故による 系外放出 定常放出
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化学物質規制の動向予防原則へ SAICM REACH
(Strategic Approach to International Chemicals Management ) 国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ ■2002年 UNEP ヨハネスブルグサミットでの実施計画 2020年までに! REACH (Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals ) EUの化学物質の登録、評価、認可および規制に関する新法案 ■化学物質の欧州域内での使用または欧州への輸出には当該物質の登録およびリスク評価が必要。 ■その物質そのものだけでなく、化学物質を含む成形品も規制対象となっていることから、化学品メーカーだけでなく、サプライチェーンに係るすべての企業に影響が及ぶ
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燃 焼 と 爆 発 燃 焼(combustion) 爆 発(explosion) 光と熱の発生を伴う化学反応で,定圧または
光と熱の発生を伴う化学反応で,定圧または それに近い状態で起こる現象。 爆 発(explosion) 急激なエネルギーの放出によって,圧力波や 爆風が生じる現象。
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爆発現象の分類 物理爆発 化学爆発 核爆発 (Physical explosion) (Chemical explosion)
(Nuclear explosion) 凝縮相爆発 粉じん・ミスト爆発 気相爆発 爆発性化合物 爆発性混合物
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物理爆発 ■ 破裂 圧力差を維持している隔壁の破壊 風船,圧力容器,反応器 ・・・ ■ 相変化による圧力上昇 水蒸気爆発
風船,圧力容器,反応器 ・・・ ■ 相変化による圧力上昇 水蒸気爆発 平衡の破綻 BLEVE
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急激な相変化(蒸気爆発) 凝縮相 気相 例) 水 1mol 18×10-6 m3 水蒸気 1mol 22.4×10-3 m3
凝縮相 気相 例) 水 1mol 18×10-6 m3 水蒸気 1mol 22.4×10-3 m3 事例) 火山の噴火(高圧熱水の解放) 天ぷら油に水 溶融物質に水(炉心溶融) BLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion) ・・・ × ~103 倍
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化学爆発(燃焼)の3要素 エネルギー(着火源) 燃 料 (可燃材) 酸化剤(支燃材)
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化学物質の最近の爆発事故(国内) 1.貯蔵中の自然発火,熱爆発 2.反応プロセスでの爆発 3.蒸留プロセスでの爆発 4.乾燥プロセスでの爆発
5.廃棄処理プロセスでの爆発 6.輸送中での爆発
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最近の化学産業災害の特徴 (1)少量多品種,高付加価値化,新規プロセス (2)エネルギー放出とそれに伴う有害物質の漏洩,拡散
(3)爆発・火災事故の増加傾向 ◇物性,危険性未知の物質群 (情報不足) ◇システムの巨大化,複雑化 (生産技術 vs 安全技術) ◇新規技術導入時の技術レベルの完成度不足 ◇複雑系の取り扱い (ハイブリッド系,廃棄物,混合危険) ◆安全技術ノウハウの継承の欠如 ◆コミュニケーション不足 (世代間,部署間,協力会社 等) ◆危険性認識の欠如 (マンネリ化) ◆緊急対応の不備,失敗(know-how から know-why へ!)
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東日本大震災では・・・? ■危険物施設 ■原子力施設 ・石油タンクプール火災,フラッシュ火災 ・石油タンク爆発炎上 ・BLEVE
・石油タンクプール火災,フラッシュ火災 ・石油タンク爆発炎上 ・BLEVE ■原子力施設 ・水素爆発 ・水蒸気爆発 ・核分裂?
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BLEVE の発生 ・BLEVE (Boiling Liquid Expanding Vapour Explosion)
= 沸騰液体の平衡破綻による蒸気爆発 加圧容器に貯蔵されている液体物質(気液平衡状態): 火災により容器が加熱によりその物質の大気圧のもとでの沸点より十分に高い温度まで加熱され、圧力も高くなる。 この状態で容器が開口/破裂 容器内部の圧力は瞬間的に大気圧にまで低下 容器内の平衡状態が破綻、液体は突沸し、気体になり爆発 液化石油ガス(LPG)などは、拡散して空気と混合 自由空間蒸気雲爆発
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BLEVE の発生
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水素-空気系混合ガスの爆発挙動 H2/air=29.5/70.5 化学量論組成
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化学プラントの構成 物質A 物質B 物質C プロセス条件 環境条件 ヒューマンファクター 組織的条件
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JCO,東電,雪印,出光,回転ドア,関電,JAL,JR西日本……
事故の背景にある共通要因 JCO,東電,雪印,出光,回転ドア,関電,JAL,JR西日本…… ハードウエア 設備老朽化,安全技術不備 ソフトウエア 熟練不足,モラル低下 組織的要因 経費削減,悪しき習慣,風通し 社会的要因 社会的要請,効率化
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事故の背景にある共通点 システムの合理化に伴う変更管理の失敗 リスクセンスの欠如 ◆ 経費削減による老朽化施設の非更新
◆ マニュアルからの逸脱と容認 ◆ 目標達成の至上命令,タイムプレッシャー 等 システムの合理化に伴う変更管理の失敗 リスクセンスの欠如
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近年の事故では・・・ 施設の建設経験不足,維持管理中心 プロセスシステムの理解不足 ◆ システム,機器のトラブルや異常
◆ マニュアルの意味,意図の理解不十分 ◆ 緊急対応の失敗 等 施設の建設経験不足,維持管理中心 プロセスシステムの理解不足
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物質/システムのライフサイクル バスタブ曲線(故障率と時間の関係)
故 障 率 故障率ゼロ にはならない 初期故障 磨耗故障 偶発故障 時 間
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スイスチーズモデル – James Reason(1991)
防御装置 アラーム 安全装置 修復装置 事故 潜在的原因 による穴 即発的エラー
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プロセス条件,操作の危険性 多重防護 ■プロセスパラメータ ■故障(機器,制御系),誤操作 温度,圧力,流量,組成,液レベル・・・
原料の不足,供給過剰 弁(バルブ)の故障(開/閉) センサ類の故障 制御系の故障 安全装置の故障 多重防護
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多重防護の考え方 (1)プロセス異常を発生させない設計 → 異常の発生防止 (2)プロセス異常が発生しても事故にまで発展させ ない設計
→ 異常の発生防止 (2)プロセス異常が発生しても事故にまで発展させ ない設計 → 事故の発生防止 (3)事故が発生しても、事故の拡大を阻止し、被害を 局限化する設計 → 被害の局限化
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多重防護層(Independent Protection Layer)
IPL1 IPL2 IPL3 IPL4 IPL5 IPL6 IPL7 IPL8 IPL Example 1 プロセス設計(本質安全) 2 基本プロセス制御システム(BPCS) 3 BPCSが発する警報と区別された 「クリティカルアラーム」や人の介入 4 自動安全計装システム(自動シャットダウンシステムなど) 5 事故に至らせないための物理的防御(1)(圧力開放弁など) 6 被害が広がらないための物理的防御(2)(防液堤など) 7 プラント内緊急対応計画 8 地域防災計画
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リスクの概念 絶対安全はない !! 許容される安全水準(社会的,工学的) 確率論的安全目標の設定 リスク(Risk)の概念の導入
絶対安全はない !! 許容される安全水準(社会的,工学的) 確率論的安全目標の設定 リスク(Risk)の概念の導入 ◆対象物質が存在する限り,リスクをなくすことはできない ◆合理的/現実的に達成可能な安全目標の設定が重要! ◆リスク-ベネフィット,コスト-ベネフィット分析による評価 ◆Riskの 解析評価管理コミュニケーション Public Acceptance
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ハザード(hazard)とリスク(Risk)
ある状況下で,人,物および環境に不利益な影響を起こしうる事象またはシステムに固有の性質 リスク(Risk) 特定の条件で起こりうる有害な事象の予測される発生確率(または頻度,可能性)とその影響の大きさ 「対象物質が存在する限り,リスクをなくすことはできない」
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ハザードとリスクの関係 ■リスクは相対的なもの #ハザードの受け手(receptor)があるときにリスクは 存在する。
存在する。 #ハザードの強度と,受け手(receptor)との相対的 距離で,リスクの大小が変わる。 Hazard Risk
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「安全」 と 「リスク」 安 全 リスク 許容されないリスクから解放された状態
許容されないリスクから解放された状態 (Freedom from unacceptable risk) リスク 事象の発生確率,頻度と影響度の組み合わせ (Combination of the probability of an event and its consequence ) ISO/IEC Guide 51 (1999),Guide 73 (2002)
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Risk = f (Pi*Ci) リスクの工学的定義 Pi :Probability (発生確率,頻度)
Ci :Consequence (影響度) i :Scenario(シナリオ)
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シナリオの想定とトータルリスク i=1 爆発 i=2 火災 i=3 非着火漏洩 i=n n番目のシナリオ
爆発の発生確率:P1, 爆発時の影響度:C1 爆発リスク R1=P1*C1 i=2 火災 火災の発生確率:P2, 火災時の影響度:C2 火災のリスク R2=P2*C2 i=3 非着火漏洩 漏洩の発生確率:P3, 漏洩時の影響度:C3 漏洩リスク:R3=P3*C3 ・・・・・・ i=n n番目のシナリオ シナリオの発生確率:Pn, シナリオの影響度:Cn シナリオのリスク Rn=Pn*Cn トータルリスク Risk(total)=S Ri =S Pi*Ci
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リスク管理とは・・・ リスクに関して組織を指揮し,制御する活動
組織の危機管理に,日常の予防やリスクの抑制, 緊急事態発生後の長期にわたる復旧活動を含め たあらゆる対応の総称 Risk management : coordinated activities to direct and control an organization with regard to risk (ISO/IEC Guide 73, 2002)
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リスク管理の目的 ◆ 自分や自分の組織を守る ◆ 社会,顧客への被害を与えない
日常のリスク対応+危機管理 (crisis management) ・顕在化する以前の対応 ・判断の総合性,合理性 ・事故発生後,短時間での対応 ・優先順位が重要
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リスクマネジメントの考え方 多 発生頻度 少 小 被害(額) 大 リスクの保有 リスクの最適化 リスクの移転 リスクの回避
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リスクマネジメントの手順 事象の洗い出し(発見) 事象の想定(特定) リスク分析 リスクの算定 (発生確率×影響度) リスクの低減対策
リスクの評価 リスクアセスメント NO 許容可能か? YES 対策実施・維持 リスクマネジメント 危機回避・局限化
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ま と め (1)火の歴史 リスク管理の歴史 (2)何故同じ事故を繰り返す・・・!? システムの欠陥
ま と め (1)火の歴史 リスク管理の歴史 (2)何故同じ事故を繰り返す・・・!? システムの欠陥 (3)まず本質安全化 できなければリスク管理 (4)個人&組織のリスクセンスの醸成
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お わ り に 「守る安全」 から 「創る安全」 へ 社会/組織の資源の戦略的配分を・・・
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