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岡田安弘 高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 2008年10月7日 広島大学 “高エネルギー物理学特論”
素粒子物理学理論 岡田安弘 高エネルギー加速器研究機構/ 総合研究大学院大学 2008年10月7日 広島大学 “高エネルギー物理学特論”
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目次 距離とエネルギーと初期宇宙 現代の素粒子像 ヒッグス粒子と新しい素粒子像
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距離のスケール 1m 10-4m=0.1mm 104m=10 km われわれが目で認識できる範囲の距離 は8桁ぐらいにわたっている。
KEK KEKB リング 一周約3km
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1m 10-4m 104m 10-12m 10-20m 10-28m 10-36m 1012m 1020m 1028m 原子 原子核 大統一スケール 太陽系 銀河系 宇宙の見えている範囲 地球の大きさ コライダー実験のフロンティア プランクの長さ 現在自然科学で扱っているスケール
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距離とエネルギースケール 量子力学によるとミクロな世界では粒子は波の性質も示す。 小さな距離の世界を調べるためには、高いエネルギーの粒子を
高いエネルギーの粒子 短い波長の波 ~陽子の質量 ~陽子の半径 小さな距離の世界を調べるためには、高いエネルギーの粒子を ぶつける必要がある。
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加速器の発達と素粒子物理 Livingston’s plot より細かい構造を見るためには高いエネルギーの加速器実験が必要となる。
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ビッグバン宇宙 宇宙は約137億年前に高温状態から始まり、膨張とともに冷えてきた。その名残が2.7度Kの宇宙背景輻射として発見された。
「距離」 「エネルギー」 「温度」 「時間」 の関係 宇宙の始まりを知るには 小さな距離の 物理法則を知らなければならない。
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現代の素粒子像 物質の基本粒子 3世代12種類のクォークとレプトン 基本的な力 4種類 強い力 弱い力 電磁気力 重力
物質の基本粒子 3世代12種類のクォークとレプトン 基本的な力 4種類 強い力 弱い力 電磁気力 重力 力を伝える素粒子が存在する (ゲージ粒子) これだけでは不十分 ヒッグス粒子が存在するはず 粒子 反粒子
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どのようにしてこの描像に到達したか: 強い力
ラザフォード散乱(1911年) 原子核の発見 原子の中心には小さな正電荷を持った 核がある。 中性子の発見(1932) =>核力の導入 原子核は陽子と中性子でできている。 それらをクーロン反発力に抗してくっつけて いるには別の力が必要。
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湯川中間子の導入 力の到達距離 ~ 1/(湯川中間子の質量) 100MeV(=0.1 GeV)程度の質量の 粒子があるはず。
湯川中間子の導入 核力は中間子という粒子の交換によって生じる。 力の及ぶ領域は粒子の質量の反比例する。 (1934年) 力の到達距離 ~ 1/(湯川中間子の質量) 陽子、中性子 p 時間の進む方向 100MeV(=0.1 GeV)程度の質量の 粒子があるはず。 p 中間子の発見
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強い力の理論はこれで終わりではなかった。
様々なハドロンの発見。 ストレンジネスの量子数の導入。 様々な中間子やバリオンが発見 され、もはや陽子、中性子、π中間子などは最も基本的な粒子とは考えられなくなった。 1950-60年代
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クォークをハドロンに閉じ込めている機構は何か?
クォーク、パートン模型 ハドロンはクォークからできている。 クォークをハドロンに閉じ込めている機構は何か? 1960年代終わりから 電子 光子
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Quantum Chromodynamics (QCD) 量子色力学
量子色力学 強い力の結合常数のエネルギー依存性 クォークの閉じ込めと短距離での力の振る舞いを両方説明する強い力の理論 クォーク閉じ込め LEP LEPII クォーク 電子・陽電子衝突 グルーオン 反クォーク 時間の進む方向 漸近的自由の性質を示す TRISTAN 長距離では引力が強くなりクォークの閉じ込めをおこす。 Gross-Wilczek-Politzer (1973年)
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どのようにしてこの描像に到達したか: 弱い力
b線の発見 弱い相互作用は19世紀の終わりに元素の変換として発見される。 b 線 = 原子核からの電子線 中性子の発見 =>フェルミ理論 (1934年) 原子核中の中性子が陽子と電子および ニュートリノに崩壊する。
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W ボソンの交換 弱い力も粒子の交換で生じる。 ただし、交換される粒子の質量は湯川中間子の約500倍重い。
弱い力が弱く働くのは、力の到達距離が短いため。 d u W e
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電弱理論 2つの予言 (1)ゲージ粒子は4種類ある 光子、Wボソン、Zボソン(新しい中性粒子) (2)ヒッグス場の存在
弱い力と電磁力を同じ枠組みで扱う統一理論。 1960年代に S.Glashow, S.Weinberg, A.Salam により提唱され、 1970年代の初めにG. ‘t Hooft, M.Veltman により理論的に正当化 されることが示された。 自発的対称性の破れという概念に基づいている。 QCD と電弱理論をあわせて素粒子標準模型という。 2つの予言 (1)ゲージ粒子は4種類ある 光子、Wボソン、Zボソン(新しい中性粒子) (2)ヒッグス場の存在 素粒子はヒッグス場との相互作用により質量を持つ。 その証拠として、ヒッグス粒子が存在するはず。
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自発的対称性の破れ 物理法則は対称性を持っている場合でも真空が対称でない場合がある。このとき対称性の帰結として特徴的な効果が現れる。 (隠れた対称性) このような状況を自発的な対称性の破れという。 2重井戸ポテンシャルを持った場の理論。 真空
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宇宙全体としては真空状態は2つある。 縮退した真空の間の遷移確率はゼロ。 (一体問題の量子力学とは違う。)
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連続的な対称性の場合 f(x) :複素数の場 連続して縮退した真空がある。
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Nambu-Goldstone ボソン 真空のまわりの揺らぎの伝播 ひとつの真空状態
縮退した真空の方向があるために、真空のまわりの揺らぎを引き起こすのに小さな エネルギーしか要らない。 => 質量ゼロ (スピンもゼロ)の粒子が出現する。 これを 南部・ゴールドストンボソンという。
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南部陽一郎はπ中間子がほかの粒子(ρ中間子など)に比べて特に軽いのは、強い相互作用の真空の自発的な対称性の破れのためである
と主張した。 (1961年ごろ) 現在ではこのことはQCDの重要な性質として確立している。 素粒子の世界の法則を決めるには、真空の構造が重要であることを明らかにした。 質量(MeV)
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ヒッグス機構 ゲージ理論の枠内で自発的な対称性の破れを引き起こすと、特別なことが起きる。
もともと質量ゼロのゲージ粒子と南部・ゴールドストンボソンが組み合わさって、質量を持ったゲージ粒子が出現する。これをヒッグス機構という。 (P.Higgs, 1964) この方法が弱い力を媒介するW粒子、Z粒子に質量を与える唯一の理論的に正当なやり方。 (G. ‘tHooft, 1971)
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f=v 基本的な相互作用 W 粒子の質量 W v W f v W W 粒子は背景に溜まっているヒッグス場の中を進むときヒッグス場との
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ほんとうにヒッグス場なんてあるのだろうか。それを確かめる方法。 ヒッグス粒子を生成する。
素粒子標準模型では W粒子、Z 粒子 クォーク、レプトン ヒッグス機構によって質量を生じる。 光子 グルーオン ヒッグス場と直接には相互作用をしないため 質量は生じない。 これらの素粒子の質量は、ヒッグス場との結合力が大きいほど重くなる。 ヒッグス機構による質量生成の特徴 ほんとうにヒッグス場なんてあるのだろうか。それを確かめる方法。 ヒッグス粒子を生成する。
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標準模型の実験的検証 u,d,s e,m,n photon t (SPEAR) bottom gluon W, Z bosons
quark lepton ゲージ原理 ヒッグス機構 (質量生成機構) u,d,s e,m,n photon 1970 標準模型の提案 charm (SPEAR,AGS) t (SPEAR) bottom (FNAL) gluon (PETRA) 1980 W, Z bosons ( ) gluon-coupling (TRISTAN) 1990 top (TEVATRON) gauge-interaction (SLC, LEP) 2000 CPの破れ関する 小林 益川 機構 (KEKB, PEP-II) 実験的には未検証
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ヒッグス粒子 ヒッグス場の真空からの揺らぎに対応する粒子。
ヒッグス粒子 ヒッグス場の真空からの揺らぎに対応する粒子。 真空にエネルギーを集中させてやれば励起されるはず。(コライダー実験でのヒッグス粒子の生成) ヒッグス粒子がいくつあるか、その質量はいくらかは、実はよくわかっていない。最も簡単な模型の場合は中性のヒッグス粒子がひとつだけ存在するはず。 ヒッグス粒子
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LHC 実験: ヒッグス粒子の発見 LHC 実験: CERNで2008年に実験開始される最高エネルギー実験。 重心系のエネルギーが14TeV(14000GeV)の陽子・陽子衝突加速器。 ヒッグス粒子の発見が主要な目的のひとつ。 ヒッグス粒子 グルーオン 陽子 陽子
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LHC実験 でのヒッグス粒子の発見過程の例
Z 4つの電子 (陽電子) または ミュー粒子 LHC 実験では 標準模型のヒッグス粒子は必ず発見できる。
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電子陽電子リニアーコライダー: ILC ヒッグスファクトリー
次世代高エネルギー加速器 International Linear Collider (ILC) 重心系エネルギー 500GeV -> 1000 GeV (第二期) LHC実験のあとを次ぐ世界的な加速器プロジェクト。 目的のひとつがヒッグス粒子を大量に作りその性質を詳しく調べる。 ~30km
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ILC実験におけるヒッグス粒子の生成と崩壊過程
ヒッグス粒子は重い粒子ほど強く結合する。なぜなら、ヒッグス場は素粒子に 質量を与える場だから。 ヒッグス生成過程 崩壊過程 =>分岐比の精密測定
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素粒子の質量生成機構の検証 ヒッグス粒子と 素粒子の結合定数 ILC 実験後の予想 質量
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さらなる素粒子物理の課題 ヒッグス場は何からできているか。 力は統一されるか。 宇宙の進化と素粒子物理の関係は。
=>標準模型を超える物理の存在を示唆する。
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ヒッグス機構の背後にある物理は何か ヒッグス場が登場して、それが真空で一定値を取っていることの背後には、
まだ知られていない力が関与しているはず。 複合ヒッグス模型 ヒッグス粒子 ~ より基本的な素粒子 超弦理論 重力子、光子、ヒッグス粒子 ヒッグス粒子はひもの一自由度 たとえば二つの考え方でヒッグス粒子はまったく違うもの。
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力の統一 LEP実験などで決定された三つのゲージ結合定数をインプットにすると、超対称性というボソン フェルミオン間の対称性を導入したときのみ結合定数の大統一がおきる。 ニュートリノが小さな質量を持つことともうまく合う。(シーソー機構) 超対称性が無い場合 超対称性がある場合 超対称大統一理論?
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宇宙のエネルギー組成 最近のWMAP衛星による宇宙背景輻射の揺らぎの精密測定により宇宙のエネルギー組成が決まった。
約2割は未知の物質(暗黒物質) 約3/4は宇宙項(暗黒エネルギー) たとえば、超対称模型では暗黒物質の候補 となる中性の安定な粒子の存在が予言されている。 コライダー実験での暗黒物質を同定することが可能。
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1TeV=1000GeV 100 GeV 1019 GeV 弱い力 標準模型 ヒッグス粒子 電磁力 強い力. 重力 大統一理論 超対称性
シーソー ニュートリノ 複合ヒッグス模型など 100 GeV 暗黒物質 物質優勢宇宙 インフレーション宇宙 宇宙項 1019 GeV 超弦理論 LHC/ILCの物理。素粒子物理のこれからの方向を決めるのに決定的な役割を果たす。
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まとめ 20世紀の素粒子物理 強い力と弱い力を発見して、それがゲージ力の一種であることを理解した。 クォークの発見。
強い力と弱い力を発見して、それがゲージ力の一種であることを理解した。 クォークの発見。 素粒子と初期宇宙が関連することがわかった。 21世紀の素粒子物理 ヒッグス粒子の発見から始まる。 新しい力?、新しい粒子?、宇宙の問題の理解?
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