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近代経済成長の挫折 ー歴史的視点から見たロシア・ソ連工業ー
日本大学経済学部 栖原 学
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ロシア・ソ連史略年表 1861 :農奴解放の勅令 1890年代:ウィッテ蔵相による鉄道建設 1917 :2月革命,10月革命.社会主義ロシアの成立 1920年代:内戦,NEP 1928 :五カ年計画の開始 1930年代:農業強制的集団化,スターリンによる粛清 1941 :独ソ戦開始(-1945) 1956 :第20回党大会(スターリン批判) 1965 :コスィギン経済改革 1985 :ゴルバチョフ書記長就任 1991 :ソ連解体,ロシアなど15の新独立国が誕生
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表1 ロシア・ソ連工業の成長率
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米ソ工業生産の比較
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生産指数 ラスパイレス型生産指数 Pio:第i 生産物の基準年での価格 Pit:第i 生産物の任意の比較年t における価格
Qi0:第i 生産物の基準年での生産量 Qit:第i 生産物の比較年t における生産量
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GDP per Capita (1990 us dollars)
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最近200年の世界の経済発展の特徴(1) 1.急激な経済発展 1500年:12WEC平均 798ドル 1820年:12WEC平均 1,245ドル 1990年:12WEC平均 16,872ドル 2.諸国間の格差の拡大 変動係数:31.5⇒70.5:74.4⇒81.8 (1820) (1913) (1990)
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最近200年の世界の経済発展の特徴(2) 3.1820年にすでに豊かであった西欧諸国は,他の相対的に貧 しい諸国よりも高い成長率をもっていた。⇒ 格差拡大の主要因 4.豊かな西欧諸国では,20世紀に格差の縮小がみられた。 変動係数: 9.6 ⇒ 38.4 ⇒ 22.0 (1820) (1913) (1990) ⇒ ガーシェンクロンの「相対的後進性仮説」 5.豊かな国(西欧諸国)とそうでない国の分割は固定的であった。わずかな例外は,日本(上昇の例)と南米 SC(下落の例)である。⇒ フランクらの「従属」理論,あるいはウォーラーステインの「世界システム」論
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「ただ西欧においてのみ」テーゼ マックス・ウェーバーは,近代の科学技術,法の支配(法治主義),近代官僚制,近代民主主義,近代の和声音楽,マスコミニュケーション,複式簿記,家計と経営の分離,そして何より「近代資本主義」など多数の文化的諸現象を数え上げ,それらのものは「ただ西欧においてのみ」創始されたという事実を強調した(『宗教社会学論集』序言,『宗教社会学論選』みすず書房,より)。
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ロシア・ソ連経済発展の特殊性 ・日本は,これまでのところ西欧以外で近代化の一部としての近代経済成長を成し遂げた稀有の例。 ・ロシア・ソ連は,1960年頃まで日本とともに経済発展を遂げたが,その後挫折した。 ・なぜか?
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近代経済成長(MEG) S. クズネッツは,以下の変化を伴う経済発展を,「近代経済成長」と名づけた。 (1)国民一人当たり生産物および人口の長 期にわたる急速で持続的な成長 (2)要素生産性の急速な上昇 (3)就業比率などに代表される経済構造の 急速な変化 (4)都市化などに代表される社会の近代化 (5)以上の変化に伴うイデオロギーの変化
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いつMEGが始まったか? イギリス :1765-85 オーストリア:1861-69 オランダ :1831-40 スイス :1865
イギリス : オーストリア: オランダ : スイス :1865 ベルギー : デンマーク : フランス : ノルウェイ : 米国 : カナダ : ドイツ : 日本 :1886 イタリア : スウェーデン: 出所:南(2002, p. 4).
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表2 各国の経済成長( )
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ソ連工業の興隆と低迷
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表3 各国の経済成長( )
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フェリドマン=ドーマー・モデル(1)
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フェリドマン=ドーマー・モデル(2)
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全要素生産性(TFP) 労働(L)と資本(K)によって生産物(Y)が生産されるとき,Y/LやY/Kなどの生産性(部分生産性)の概念が生まれる。しかし部分生産性は全体的な生産効率の変化(つまり技術進歩)を測定できないので,労働と資本を組み合わせた全生産要素投入(T)という概念を作り,これを生産物(Y)と関係づけたものがTFPである。TFPの上昇は,生産量の増加のうち生産要素の増加によって説明されない残差的部分を示している。
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表4 ソ連工業生産成長率とその分解
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OECD諸国の全要素生産性上昇率(%) 出所:『全要素生産性の国際比較』社会経済生産性本部, 2004
OECD諸国の全要素生産性上昇率(%) 出所:『全要素生産性の国際比較』社会経済生産性本部, 2004 日本 0.6 2.1 1.4 2.2 米国 0.3 0.0 0.9 0.5 英国 1.2 1.7 1.0 ドイツ 1.9 0.8 フランス 1.8 1.1 1.6
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1950年代のソ連の技術革新 1954 オブニンスクで世界初の商用原子力発 電所(黒鉛チャンネル炉) 1955 ノヴォトゥーラ製鋼所に連続鋳造機設 置(世界初の連続鋳造法実用化) 1957 人工衛星スプートニク打ち上げ 1959 原子力砕氷船レーニン号完成
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近代経済成長の挫折 ・1960年代から,ソ連工業のTFP成長率は急激に低下した。 ・ソ連工業の低迷は,クズネッツのいう「近代経済成長」の(珍しい)挫折の例と考えることができる。 ・挫折の原因はなぜか。社会主義経済一般の失敗に求めることは難しい。
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生産性成長率低下のありうべき原因 1.軍事コストの負担 2.技術導入の減少 3.安価な天然資源の枯渇 4.「統制の喪失」
5.「上からの圧力」の減少 以上の要因を,特に1960年前後における変化に焦点をあてながら考える。
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軍事コストの負担? 米国CIAの調査によれば,第2次大戦後のソ連軍事生産の増加率は,民生生産の増加率と大差ない。なお,W.リー,S.ローズフィールドは,CIA推計を過小であるとし,F.ホルツマンは逆に過大であると批判している。
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技術導入の減少? Hanson, P. (1982, pp )
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安価な天然資源の枯渇? ソ連燃料工業の全要素生産性成長率 : 3.4%, : 5.8% : 4.2%, : 2.6% : 3.2%, :-0.7% :-1.8%
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「統制の喪失」 「統制の喪失」(Loss of Control) 一つの大きなヒエラルヒーとして組織されているソ連経済は,その規模が大きくなるにつれ,情報の加工に関する人間の能力の限界から各監督者が有効に統制できる下位者の数は限られてくる。したがって管理のピラミッドはどんどん高くなり,意思決定を行なうトップと仕事の現場との距離が離れ,また長くなったチャンネルを流れる情報にゆがみが生じやすくなる(Ellman & Kontorovich, , 1992, pp )。
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「上からの圧力」の減少 ・市場経済における競争の役割 競争がもたらすサンクション(褒賞と罰)が,技術革新 ・社会主義経済の場合
競争がもたらすサンクション(褒賞と罰)が,技術革新 をもたらし経済に活力を与える。 ・社会主義経済の場合 競争が欠如しているため,「上からの圧力」が利用され た。スターリンによるテロル,スタハノフ運動のような キャンペイン,戦争の切迫。 ・スターリン死後の弛緩 フルシチョフによる非スターリン化,ブレジネフの「停 滞の時代」
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ソ連解体へ ソ連の政治・社会体制は明らかに西側のそれよりも劣っており,経済的な成果が共産党支配の正統性の数少ない源泉の一つとなっていた。しかし経済の漸次的低迷は,統治に対する人々の不満を高めた。ゴルバチョフによるペレストロイカは,いわば健康体に戻るための大手術だったが,それに失敗したソ連は間もなく死期を迎えた。
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