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重み付き投票ゲームにおける 投票力指数の計算の高速化
国立情報学研究所 宇野 毅明
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目的 計算方法を工夫して、無駄な計算を省き、計算量を小さくする 重み付き投票ゲームの、投票力指数を計算する
対象は、Banzhaf, Shapley-Shubik, Deegan-Packel 指数 すでに動的計画法アルゴリズムが提案されている ただし、全プレイヤーの指数を計算すると、同じような計算を繰り返すことになる そこで 計算方法を工夫して、無駄な計算を省き、計算量を小さくする
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重み付き投票ゲーム 各政党の力を示す指数がほしい => 議席数? ある議会に、政党(プレイヤー) A、B、C、D がある
票決のとき、同一政党内の議員は同一の投票をする 賛成票が q = 50人 以上で可決 政党A 45人 政党B 8人 政党D 30人 政党C 17人 各政党の力を示す指数がほしい => 議席数?
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勝利提携 と 敗北提携 提携 : 政党の集合 法案成立には、 q 人 か、それ以上の議員を含む提携を組む必要がある
政党A 45人 政党B 8人 政党D 30人 政党C 17人
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議席数は良い指標ではない 勝利提携 ( 政党A(45人),政党D(30人) ) 政党B(8人) : AB , ABC , ABD , BCD
政党C(17人) : AC , ABC , ACD , BCD 勝利提携の組合せは同じ! 指数は同じになるべき 提携の情報から指数を求めるモデルがよい
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もう一度、用語の定義 プレイヤー p1,…,pn : 政党 プレイヤーの重み w(pi) : 政党の議席数 q : 成立に必要な票数
提携 : プレイヤーの集合 提携 S の重み w(S) :提携に属するプレイヤーの重みの和 勝利提携 : 重みが q か、それ以上の提携 敗北提携 : 重みが q 以下の提携
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バンザフ(Banzhaf)指数 「ある勝利提携 S から プレイヤー pi が抜けると敗北提携になるとする。このとき、 pi は発言力を持つだろう」 このような提携の数を 2n で割ったものを指数とする pi のバンザフ指数 Bz(pi) = | { S | pi ∈S,w(S)≧q, w(S\ pi)<q } | / 2n pi q
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バンザフ指数を計算する f(pi, y) : プレイヤー集合 { p1,…, pi } に含まれる提携 S で、
w(S) =y となるものの数 プレイヤー pn に対して、 w(S) ≧ q, w(S\ pn) < q q - w(pn) ≦ w(S\ pn) ≦ q-1 重みが q - w(pn) から q-1 の間で、 pn を含まない提携の数 q-1 = Σ f(pn-1, y) y=q- w(pn) これを 2n で割るとバンザフ指数になる
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動的計画法 s 再帰式: f(pi, y) = f( pi-1, y ) + f( pi-1, y- w(pi) )
pi を含まない提携数 pi を含む提携数 i=1,…,n-1 に対して、 f(pi, y) を順々に求める q q - w(pn) ・・・・・ s p1 p2 p3 pn-2 pn-1 このグラフで、 f(pi, y) は s から対応する頂点までのパスの数
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計算量 ・ f(pi-1, y) から f(pi, y) を求める: O(q) 時間 ・ f(pn-1, y) を求める: O(nq) 時間
pn と pi の添え字をつけなおして、同じ方法で計算 ・全員分の計算 O(n2q) 時間 変更がちょっとしかないので、ほとんど同じ計算を行う なんとか無駄な計算を省けないでしょうか?
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不要な計算の省略 pi に対して, 提携 Sのプレイヤーを i 以下とi 以上に分けて考える
g(pi, y) : プレイヤー集合 { pi,…, pn } に含まれる提携 S で、 w(S) =y となるものの数 重みが q - w(pi) から q-1 の間で、 pi を含まない提携 i 以下の重みが z , i 以上がq - w(pi) - z から q-1-z の間 q-1 q-1-z そのような提携の数 = Σ f(pi-1, z) Σ g(pi+1, y) z=0 y=q- w(pi)-z y h(pi, y) = Σ g(pi, z) とすると h(pi+1, q-1-z) - h(pi+1, q-w(pi)-z - 1) z=0
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前後の計算を合わせる s q ・・・・・ ・・・・・ q p1 p2 p3 pi-1 pi pi+1 pn-1 pn
・・・・・ ・・・・・ q s p1 p2 p3 pi-1 pi pi+1 pn-1 pn f(pi, y) ,g(pi+2, y) から f(pi-1, y) ,g(pi+1, y) を計算: O(q) g(pi+1, y) から h(pi+1, y) を計算 : O(q) 1プレイヤーの指数を計算 : O(q) 全員分の指数をO(nq) 時間で計算できる
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シャープレイ・シュービック (Shapley-Shubik)指数
「空の提携にプレイヤーが順々に参加し、プレイヤー pi が参加して、はじめて S が勝利提携になるとき、 pi は発言力を持つ」 このようなプレイヤーの参加順序(順列)の数を n! で割ったものを指数とする pi のシャープレイシュービック指数 Ss(pi) = | { 順列 (pj1 pj2,,…, pjn ) | q ≦ w({pj1 pj2,,…, pi }) < q+ w(pi) } | / n! pi q
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Ss指数を計算する pi q S プレイヤー pi より前のプレイヤーの集合が S となるような順列の数は |S|!(|n-|S|-1)!
この場合、前に3プレイヤー、後ろに2プレイヤーいるので、 3!×2! = 3!(6-3-1)! = |S|! (n-|S|-1)! pi を加えると勝利提携になる敗北提携について、この総和を取る Ss(pi)×2! = Σ |S|! (n-|S|-1)! S | pi ∈S, q- w(pi) ≦ w(S)≦q-1 /
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Ss指数を計算する f(pi, k, y) : プレイヤー集合 { p1,…, pi } に含まれる、大きさ k の提携 S で、w(S) =y となるものの数 重みが q - w(pn) から q-1 の間で、 pn を含まない提携 S に関して |S|!(n-|S|-1)! の和を取る n-1 q-1 = Σ Σ f(pn-1,k, y) × k!(n-k-1)! k=0 y=q-w(pn) これを n! で割るとSs指数になる 終点が (pn-1, k, y) のパス重みを k!(n-k-1)! => パスの重み和
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Ss指数用の動的計画法 再帰式: f(pi, k, y) = f( pi-1, k, y ) + f( pi-1, k-1, y- w(pi) ) pi を含まない提携数 pi を含む提携数 ・ f(pi-1, k, y) から f(pi, k, y) を求める O(nq) 時間 ・ f(pn-1, k, y) を求める: O(n2q) 時間 ・全員分の計算 O(n3q) 時間 k … 1 q 2 1 pi-1 pi バンザフ指数と同じ方法で、高速化を行う
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Ss指数の高速化 g(pi, k, y) : (pi, k, y) から (pn, k’, *) へのパスの重み和
(重みは k’!(|n-k’-1)! ) 重みが q - w(pi) から q-1の間で、 pi を含まない提携 S に 関する|S|!(|n-|S|-1)! の和 n-1 q-1 q-1 - z = Σ Σ f(pi-1, k, z) × Σ g(pi-1, k, y) k=0 z=q-w(pi) y=q- w(pi) - z k 1プレイヤー O(nq) 全プレイヤー O(n2q) ・・・ p1 p2 pi-1 pi pi+1 pn-1 pn
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ディーガン・パックル指数 (Deegan-Packel)指数
極小勝利提携 : どのプレイヤーが抜けても敗北になる勝利提携 「 pi が極小勝利提携 S に所属すれば,発言力1/|S| を持つ」 pi が所属する極小勝利提携すべてに対して発言力の和を取って、極小勝利提携の数 W で割ったものを指数とする q
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ディーガン・パックル指数2 q プレイヤーは、重みの大きい順にソートされているとする d(S) : 提携 S から最小重みのプレイヤー
( = 添え字最大のプレイヤー ) を除いた提携 pi のディーガン・パックル指数 Dp(pi) = | { S | pi ∈S,w(S)≧q, w(d(S))<q } | / W q
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ディーガンパックル指数を計算 s Ss 指数計算で用いた、動的計画法のグラフを考える
終点が (pi, k, y) (q-w(pi) ≦ y ≦ q-1) のパスの重みを 1/k とする pi 上Dp指数の計算: pi を使い、 S から上の条件を満たす点へのパスの重み和 (重みは 1/k’ ) q ・・・ ・・・ s p1 p2 p3 pi-1 pi pi+1 pn-1 pn 1プレイヤー O(n2q) : 全プレイヤー O(n3q)
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Dp指数の動的計画法(高速版) g(pi, k, y) : pi を使い、(pi, k, y) から (q-w(pj) ≦ z ≦ q-1) を 満たす点 (pj, k’, z) へのパスの重み和 (重みは 1/k’ ) pi を使うパスの重み和: [ S から (pi-1, k, y) までのパス数 × g(pi, k, y) ] の総和 n-1 q-1 = Σ Σ f(pi-1, y) × g(pi, k+1, y+w(pi)) k=0 y=q- w(pi) ( f(pi, k, y) は Ss 指数での定義と同じ ) ・すべての f(pi, k, y) , g(pi, k, y) を求める: O(n2q) 時間 ・1プレイヤーの計算: O(nq) 時間 ・全員分の計算 O(n2q) 時間
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まとめ 重み付き投票ゲームの投票力指数を計算する動的計画法に対して、全員分の計算を1人分の計算と同じ計算量で行うアルゴリズムを提案した バンザフ指数は O(n2q) => O(nq) シャープレイ・シュービック指数は O(n3q) => O(n2q) ディーガン・パックル指数は O(n4q) => O(n2q) と、計算量は減少した 今後の課題: 同じテクニックが使える問題はどの程度あるか?
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