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H25年度向け概算要求資料 高輝度LHCによるエネルギーフロンティア での素粒子物理

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1 H25年度向け概算要求資料 高輝度LHCによるエネルギーフロンティア での素粒子物理
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 加速器研究施設 超伝導低温工学センター

2 研究の概要 LHC(大型ハドロン衝突器)はCERNに建設された世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突加速器である。既に運転が始まっており、2022年までに積分ルミノシティ300fb-1のデータを収集する予定である。その後2022年に高輝度LHC(HL-LHC)に加速器を改良し、その後の10年間で3000fb-1データを収集する。これにより、ヒッグス粒子の精密測定や、3TeV程度までの高い質量を持った新粒子の探索が可能となる。 HL-LHCで高精度の測定をほぼ10年にわたって行うには、現在の測定器から、高輝度で性能を保ちつつ放射線耐性が強い測定器への入替えが必要となる。このため、2013-2022年の10年間で、LHCからHL-LHCへの加速器改造に対する貢献と、日本が参加し建設・運転しているアトラス測定器の改造を行うのが、この計画である。 検出器では、日本がアトラス実験の建設時から担当している、ミューオントリガーの改造と、内部飛跡検出器の総入替えが中心となる。これらは別な場所で建設をすすめ、2022年に一年かけて現在のものと入替える。 加速器では、LHC建設時にも担当した、輝度を上げるための衝突部近辺の磁石システムの改造に貢献し、特にビーム分離のための双極磁石の建設が中心となる。高輝度の持続運転のために設置するクラブ空洞は日本のKEK-B加速器で初めて実用となった装置である。この経験を活かした技術協力を進める。さらに、J-PARC建設での実績を基に前段加速器の高周波空洞のための電子回路への貢献を行う。 (この期間も、LHCでの実験は現在の測定器を使って並行して進める。この運転・維持のための費用はこれまで通り必要となる。この計画の範囲外ではあるが、そのための費用も参考までに記述する。) LHC加速器のトンネル内部 アトラス測定器の模式図 2008年に測定器が完成し2009年から衝突実験が始まっている。 2012年5月21日

3 これまでの経緯とHL-LHCでの物理の展望
LHC(大型ハドロン衝突器)はCERNに建設された世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突加速器である。2009年に最初の衝突に成功し、重心系エネルギー7~8TeVで順調な運転を続けている。 日本はLHC加速器の建設に協力し、これによりCERNでの特別な権利を持つオブザーバー国となっている。実験では、大型国際共同実験ATLASに設計段階から参加して、建設・運転・物理解析を進めてきた。現在16大学・機関、大学院生を含めて約120人が参加している。 LHCの目的の一つである、標準理論のヒッグス粒子の探索は順調に進んでおり、2010年までのデータで、既にこの粒子が存在すれば、その質量は116~131GeVという狭い範囲に限られる(95%の確度)ことを示した。2011年のデータで標準理論のヒッグス粒子の有無に関して決着がつけられると、期待されている。現在残された質量領域に存在する場合には、ヒッグス粒子は様々なモードで崩壊する。それぞれへの分岐比を精密に測定することから、ヒッグス機構を実現する上の階層に関する知見を得られる。これらの研究を2022年までのLHCで続けるが、HL-LHCで積算輝度が10倍になることにより、測定精度が上がること、ヒッグス粒子同士の結合の大きさの測定、非常に稀な崩壊の探索などが可能になる。 LHCのもう一つの目的として標準理論を超える物理の発見がある。宇宙に多く存在すると考えられるダークマターは標準理論の枠内の粒子ではないことがほぼ確定されているので、我々のまだ知らない粒子群があると考えられる。LHCではその高いエネルギーを活かして、このような新粒子を直接作れる可能性がある。2011年までのデータで、すでに質量で1TeV付近の領域までの探索を達成したが、残念ながら新粒子の徴候は得られていない。2014年以降に、衝突の重心系エネルギーを13~14TeVにあげることにより、探索領域を飛躍的があげられると期待されている。HL-LHCでは、データ量を増やすことにより、さらに高い質量領域の探索が可能となるので、2022年までに既に何かが発見されていようとなかろうと、新たに探索を広げることにより、新粒子がどのぐらいあってどういう関係で分布しているかが研究できる。ここから、超対称性理論やその他の理論の検証を進めることができる。 日本が貢献したビーム収束磁石 2010年のデータでのヒッグス探索 状況。黒実線が1以下になっている 領域が既に否定された部分 2012年5月21日

4 計画表 補修 13-14TeV運転 補修 14TeV運転 補修 LHC運転 建設 設置 前段加速器整備 加速器建設 設計・開発 建設 設置
2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 補修 13-14TeV運転 補修 14TeV運転 補修 LHC運転 建設 設置 前段加速器整備 加速器建設 設計・開発 建設 設置 収束磁石 技術協力 設置 クラブ空洞 設計・開発 測定器建設 設置 建設 飛跡検出器 設計・開発 部分設置 建設 設置 ミューオン 設計・開発 建設 設置 その他のトリガー 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029 2030 2031 2032 HL-LHC運転 実験遂行(3年に1度ぐらいで長期補修がある見込み) 10年間で積分ルミノシティ3000fb-1をめざす。  (運転経費2億円/年 程度*)   *現在通り、加速器の運転経費を払わないと仮定 2012年5月21日

5 HL-LHC加速器への貢献(1)(磁石) LHC建設の際に日米で協力開発・建設した衝突点最終収束部の磁石を交換し、
より大口径でより耐放射線の高いシステムとして、高輝度化に対応する。 以下のような開発研究が進行しており、この計画ではD1磁石を日本が担当すると 想定して算出している。 EC FP7-HiLumi LHCへKEKは公式に参加(2011~2015) 加速器のビーム光学、磁石、クラブ空洞、その他の概念設計、基礎開発 KEKの開発分担(磁石):ビーム分離用大口径超伝導双極磁石(D1) D1の仕様、開発要素 6T級+大口径(φ130~150)+外径の制限 → コイル応力、磁場精度(鉄の飽和、漏れ磁場) 大量の放射線、入熱(1022n/m2, → 耐放射線性材料の開発・評価、冷却・除熱性能の向上 NbTi超伝導線が最有力(バックアップNb3Sn) 頭脳循環プログラム(代表・徳宿教授)により徐が2011年3月からCERNで概念設計を開始。 ATLAS、CMSのビーム最終収束部を交換 衝突点 D1: KEK Q1-3: US-LARP(Nb3Sn) or CERN(NbTi) D2: BNL Q4-6: CEA/Saclay 現行LHCビーム最終収束部磁石配置とHL-LHCでの磁石開発分担 現在検討中のD1磁石断面 2012年5月21日

6 HL-LHC加速器への貢献(2)(PSB空洞用アンプ)
J-PARCで開発した金属磁性体合金を使った高周波加速空洞は、ルミノシティ向上を目指すためのLHC入射器アップグレード計画の一環として、LHCにビームを入射するための前段加速器で採用されることとなった。特に最初の円形加速器であるPSブースター(PSB)の改造の中心項目となっている。試作した空洞がすでにリングに設置され、ビームを使った最終確認試験が進んでいる。J-PARCでの経験を活かした空洞技術協力とともに、高周波用の低故障率で高出力半導体アンプの開発供与を行う。 設置直前の5連空洞とアンプ5台(手前)。今回の概算要求では4階建てのリングに必要な数の半分にあたるアンプ40台製造する。残りはセルン側で制作する。 金属磁性体空洞の中身。5つの空洞で構成され、各空洞に2枚ずつ磁性体リングコアが装填されている PSBリング4(4台のリングのうちの最上段)に設置された金属磁性体空洞。既に実際のビームを使った加速試験、ビーム負荷試験が進行してiいる。 2012年5月21日

7 HL-LHC加速器への貢献(3)(クラブ空洞)
瞬間輝度を常に最大にすることを目指すのではなく、輝度を一定期間一定に保つことができれば、実験の条件を一定にしたうえでビームの寿命を長くすることができ、積分のルミノシティを多くできることがわかっている。日本がKEKB加速器で実用化したクラブ空洞により、衝突時のビームの衝突時の角度を変えることで、瞬間輝度を制御する。どれだけ貢献するかは今後の議論によるが、KEKBでの経験をもとに、表面処理、KEKの施設を使った低温での空洞試験など技術協力を検討中。さらに、シミュレーションによるビーム軌道安定性の研究等での協力も検討する。 KEKの加速空洞用の電解研磨装置 クラブ空洞を使ってバンチの向きを変えることにより衝突輝度を上げることができる。LHCでは、ビーム強度が少なくなったときに角度をつけていくことで、ルミノシティーを長時間一定に保ち、積分ルミノシティを高くできる。 KEKB用のクラブ空洞 2012年5月21日

8 アトラス実験(1) 内部飛跡検出器の総入替 10cm
アトラス実験(1) 内部飛跡検出器の総入替 HL-LHCでは、瞬間輝度は5×1034cm-1s-1となり、一度のバンチ衝突では100以上の陽子・陽子衝突が重なり、大量の粒子が発生する。精密測定を進めるためには、このような状況でもそれぞれの衝突を分離でき、個々の荷電粒子の運動量を精度よく測れるように、現在のアトラスの飛跡検出器の総入替を行う。すべてをシリコン検出器にし、ストリップ型及びピクセル型の検出器をそれぞれ160m2、6m2という大規模な延べ面積分製作する必要がある。日本グループは、これまでアトラス実験の中でSCT,IBLという半導体検出器を担当してきた実績を活かして、ストリップ型、ピクセル型の両方の製作に貢献する。 すでに、ストリップ型、ピクセル型ともに、プロトタイプ開発を進めており、高耐放射線のシリコンセンサーの製作には目途がついている。最初の数年で、読み出しのASICを接続したシステムテストを続け、2016年から約5年かけて実機の製作に入る。2011年に完成させて宇宙線等でのテストをしたうえで、2012年にアトラス実験装置の内部に組み込む。 ピクセル検出器 飛跡検出器のレイアウト案 (外側がストリップ型検出器) 10cm ストリップ型検出器の試作機 後方は8モジュールを組合せたテスト機 2012年5月21日 HL-LHCでの事象シミュレーション。115事象が重なっている

9 アトラス実験(2) ミューオントリガーシステムの改良
アトラス実験(2) ミューオントリガーシステムの改良 日本グループはアトラス測定器の端部ミューオンシステムをイスラエル・中国とともに建設し、それをもとにミューオントリガーシステムを構築した。 HL-LHCの高ルミノシティ環境では、衝突からくるミューオンが増加するので、より高運動量分解能を持ったトリガーシステムが必要となる。また、反応粒子数の増加とともに偽のトリガーが出る頻度を極力抑える必要がある。 このために新たに内部に設置するミューオン検出器を取り込んで総合的にミューオン粒子の有無を判断するトリガーシステムを開発する。2018年のLHC改造期に合わせて、まずこの総合システムを導入して、偽のトリガーの頻度を押さえる。 その後、より位置分解能の高いミューオン測定器[ドリフトチューブ型測定器(MDT)]の情報を取り込んだシステムを構築し運動量分解能の改善を図り、2022年に設置する。 Outer MDT Middle MDT (BW) m Inner MDT 高分解能のミューオン検出器を総合したトリガーシステムの概念図 2018年に交換する内部ミューオン検出器 日本グループが建設したトリガー用の端部ミューオン測定器 2012年5月21日

10 アトラス実験(3) 後段トリガーの整備 ミューオントリガーで収集されたデータをそのまま記録するにはまだ事象頻度が高すぎる(約数10kHz)ため、他の測定器の情報も使って、収集したデータを精査し、偽のミューオンや運動量を間違って見積もってしまったミューオンなどを排除して、記録可能な頻度(約1kHz)まで落とす。これが後段トリガーの役割である。 これには、大規模なネットワークと計算機を配備したコンピュータファームによる方法と、特殊なハードウェア計算機システムによる方法との2通りが考えられ、現在のアトラス実験でも両方を混用して使っている。特殊なハードウェアの例としては、現在早稲田大学が中心になって行っている、内部飛跡検出器を使ったトラッキング専用システムなどがある。 アップグレードにおいても、両方の手法が議論されており、ミューオンのトリガーに関して言えば、内部飛跡検出器とのマッチングやカロリメータとのマッチングなどを検討している。 ハードウェア開発は、プロトタイプを2018年のLHC改造期に合わせて部分的に導入し、性能を確認したうえで、2022年に設置する。計算機ファームは、設計と小規模システムでテストした後、実験開始の二年前の2021-2022年に一気に導入設置をすることで、その時点での最新の計算機を使えるようにする。どちらにウェイトを置くかは今後数年間の開発研究によって決まる。 高分内部飛跡検出器の情報からトラックの情報を取り出す専用ハードウェアの開発基板 カロリメータトリガーの専用ハードウェアの模式図。この後にミューオンの情報とカロリメータの情報を組合せる回路をおく可能性を検討する。 2012年5月21日

11 年次計画 年度 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 10年積算 (千円) LHC収束磁石 82,800 69,600 18,000 526,080 376,720 706,960 646,960 347,960 297,640 259,480 3,332,200 PSB空洞アンプ 6,000 48,000 24,000 126,000 クラブ空洞等(HL-LHC) 12,000 120,000 シリコン検出器入替 62,000 83,000 329,000 493,000 165,000 10,000 20,000 1,882,000 ミューオントリガー改造 5,000 15,000 21,000 38,000 288,000 196,000 705,000 213,000 13,000 1,504,000 後段トリガー改造 70,000 50,000 200,000 560,000 アップグレード小計 161,800 174,600 123,000 946,080 873,720 1,573,960 1,193,960 1,239,960 732,640 504,480 7,524,200 アトラス実験運転 2,000,000 LHC全体 361,800 374,600 323,000 1,146,080 1,073,720 1,773,960 1,393,960 1,439,960 932,640 704,480 9,524,200 アップグレードための加速器・測定器建設と並行して、現在のLHCでの実験が並行して進む。この分に必要な経費は年間2億間であるので、それを最後の欄の「アトラス実験運転」で示してある。 2012年5月21日

12 参考資料:LHCとその前段入射加速器 LHC ATLAS実験 設置場所 SPS PSブースター PS LINAC4 建設中(2018年)
使用開始 2012年5月21日

13 参考資料: LHC/ATLAS 改造総額 注: 加速器の建設・改造経費に関してはまだCERNは公開しておらず、
2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 11年積算 (百万スイスフラン) LHC Injector Upgrade 15 23 28 41 33 7 175 LHC Performance improving consolidation 17 22 30 44 49 76 47 461 LHC Performance upgrade (HL-LHC) 40 50 51 11 360 加速器全体 996 ALTAS upgrade アトラスのアップグレード予算の全体の年次計画はまだできていない。 327 注: 加速器の建設・改造経費に関してはまだCERNは公開しておらず、 内部文書を基に作成。今後大きく変わる可能性がある。  LHC Peformance improving consolidation と Performance upgradeの区別は あまり明確に公表されていないが、収束磁石は前者、クラブ空洞は後者に 該当すると考えられる。 2012年5月21日


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