病理解剖標本の無承諾保存事件.

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1 病理解剖標本の無承諾保存事件

2 事案概要 Y病院(自治医) A B X Aは汎発性硬化症及び強皮症ジングリーゼによりY病院に入院していたが死亡
解剖の際、胸骨と椎体骨が採取されパラフィンブロック及びプレパラートに保存 B死亡 Xはパラフィンブロック及びプレパラートの返還を求めて訴訟(甲訴訟)原告勝訴 Xは無断標本採取及び,臓器を直ちに返還しなかった事が債務不履行及び不法行為にあたるとして損害賠償請求提起(乙訴訟)原告敗訴 乙訴訟について原告は控訴提起(本事案)    原告敗訴 病理学教室教授D 院長E,F A B 解剖医I 主治医 X 勝手に遺体の標本を取られた遺族が怒って訴訟を起こした

3 死体解剖保存法 第十七条 医学に関する大学又は医療法(昭和二十三年法律第二百五号)の規定による地域医療支援病院若しくは特定機能病院の長は、医学の教育又は研究のため特に必要があるときは、遺族の承諾を得て、死体の全部又は一部を標本として保存することができる。   2 遺族の所在が不明のとき、及び第十五条但書に該当するときは、前項の承諾を得ることを要しない。 第十八条 第二条の規定により死体の解剖をすることができる者は、医学の教育又は研究のため特に必要があるときは、解剖をした後その死体(第十二条の規定により市町村長から交付を受けた死体を除く。)の一部を標本として保存することができる。但し、その遺族から引渡の要求があつたときは、この限りでない。

4 原告の許可なく、原告の母親の遺体から標本を採取した被告病院が敗訴
甲訴訟 〜返還請求〜 原告の許可なく、原告の母親の遺体から標本を採取した被告病院が敗訴

5 争いのない事実+認定された事実 AはY病院に入院し、強皮症腎グリーゼと診断、肺出血による呼吸不全により死亡した
Aの死亡後B及びXは死体解剖保存法に基づくAの遺体解剖と内蔵の保存についての承諾を求められそれに応じた。よって、主治医は解剖医に解剖を依頼 原告は承諾の際、主治医に指及び背骨の一部を標本にすることの承諾を求められるが拒否 解剖の範囲を内蔵及び脳に限定して承諾した 指の検索について原告の承諾を得られないと主治医から解剖医に連絡が入った後に、解剖医が椎体骨を接取 解剖後、保存された内蔵及び脳のそれぞれ一部を除いた遺体が遺族に返還される 病院に保存されてる標本(及び内蔵)の返還を求めて訴訟が提起される

6 判決 本件承諾 保存法の目的(解剖後の花子の脳及び内臓について、公衆衛生の向上を図り医学の教育又は研 究に資する)による正当化は、公法的規制においてのみ通用し、したいの所有者との関係は私法上の契約に基づくべき  (保存法による承諾とは別に寄付・使用貸借等の契約が存在) 承諾(契約)の内容 原告らは、主治医らに対し、花子の指一本と 背骨の採取については明確に拒否の意思を伝えた このような範囲を限定された承諾がなされることはしばしばある

7 承諾 遺体の解剖・保存に対する遺族の承諾は、公衆衛生の向上、医学教 育・研究という解剖・保存の目的の公共性、重要性に鑑み、これを遺体に対する自らの尊崇 の念に優先させて、経済的な対価や見返りなくされるものであるから、右承諾の基礎には、 解剖・保存を実施する側と遺族との間に、互いの目的と感情を尊重し合うという高度の信頼関係が存在することが不可欠である

8 しかし、本件においては、右2で認定したとおり、原告らの意思に反して椎体 骨が採取されたという事実があり、しかも、右事実は、被告側の責めに帰すべき事情に起因 するものであることは明らかである。 そうすると、本件においては、本件標本の保存の前提である剖検に際して、遺体の解剖・ 保存に対する遺族の承諾に不可欠な、原告らと被告の間の高度の信頼関係を失わせる事情が 存在したことになる(骨髄が重要な臓器であり、剖検の際椎体骨を採取することが通常行わ れているとしても、事前に原告らが明確に背骨の採取を拒否する旨伝えている本件において は、通常右のような取扱いがされていることをもって、原告と被告の間の信頼関係が失われ ていないとすることはできない。)

9 したがって、本件においては、本件承諾の基礎にある高度の信頼関係が剖検時にお ける被告側の事情により破壊されたものと認められるから、原告は、本件承諾と同時にされた寄付(贈与)又は使用貸借契約を将来に向かって取り消すことができるというべきである 。

10 原告の主張が権利濫用にならないか 原告が本件訴訟を提起した目的は 、花子の遺体すべての返還を受けてこれを手厚く祭ることにあるものと認められる。そして 、公衆衛生の向上及び医学の教育又は研究を目的とする保存法に基づく遺体の標本としての 保存は、あくまで遺体に対する遺族の尊崇の念との調和の上に認められるものであるから、 本件標本が僅少な顕微鏡標本であることから、母の遺体を手厚く祭ることを目的に本件臓器 等の返還を求める原告の請求が不当であるとすることはできず、本件においては、他に原告 の返還請求が権利の濫用であると認めるに足りる事情はない

11 顕微鏡標本は標本か なお、被告は、パラフィンブロック・プレパラートとした標本は、もはや保存法一七 条及び一八条に規定する「標本」には当たらない旨主張するが、そのように加工されたもの であっても、それが死体の一部であることに変わりはないから、右主張は、失当である。 また、被告は、パラフィンブロック・プレパラートの作成について相当額の費用をかけた から本件標本を留置する旨の主張もするが、そのような加工により死体の一部の所有権が被 告に帰属するに至ったとすることはできないし、被告が原告にその費用の返還請求権を有す るとすることもできないから、被告の右主張は失当である。

12 乙訴訟 〜返還請求〜 原告の許可なく、原告の母親の遺体から標本を無断で採取したこと、解剖条件であった明細書の交付をしなかったこと、返還の遅延、プレパラートの破損等を理由に関係者を、債務不履行や不法行為で訴えたが棄却された事件

13 争いのない事実 AはY病院に入院し、強皮症腎グリーゼと診断、肺出血による呼吸不全により死亡した
Aの死亡後B及びXは死体解剖保存法に基づくAの遺体解剖と内蔵の保存についての承諾を求められそれに応じたため、解剖医により解剖される。 原告らは、被告病院から、同日、亡君の遺体から採取され、同病院に保存された臓器等を除き、亡君の遺体の引渡しを受けた。 原告は、Hら被告病院担当医に対し、平成2年1月19日、標本等として保存されている亡君の死体のすべてについて、返還するよう請求

14 争いのない事実 被告病院は、原告らに対し、同年9月28日、亡君から採取して、ホルマリン溶 液を入れたガラス瓶に固定して保存していた骨、臓器及び脳(以下これらを「保存臓器」とについて返還し 、パラフィンブロックに封入された下垂体を始めとするパラフィンブロック及びプレパラートについては、返還しなかった 被告Dは、平成6年7月ころから平成11年7月26日ころの間にかけて、亡君 の下垂体のプレパラートについて破損ないし紛失した 甲訴訟提起、返還 被告は本件訴訟において時効の援用を主張

15 争点:事実認定 ①原告らは、被告大学に対し、本件剖検に際し、椎体骨及び胸骨を採取することに ついて、承諾をしたか(骨の採取についての承諾)

16 争点:違法性 ②被告大学は、原告らに対し、本件剖検で採取し、保存していた亡君の臓器等の明 細書を交付しなかったのは違法か。 ③被告大学が、原告から返還請求があったのに、臓器等を直ちに返還しなかったの は違法か。 ④被告Dが、保存中のプレパラート1枚を破損ないし紛失させ、返還しなかったのは違法と評価されるか。被告大学は、原告に対し、胸骨を返還したか。

17 争点:判断する必要がなかった争点 原告の損害 時効

18 争点:事実認定 ①原告らは、被告大学に対し、本件剖検に際し、椎体骨及び胸骨を採取することに ついて、承諾をしたか(骨の採取についての承諾)○
甲訴訟では原告は承諾の際、主治医に指及び背骨の一部を標本にすることの承諾を求められるが拒否 本件訴訟では、指の採取については拒否したが、骨はとらないで欲しいとは言われていない。(明確に拒否されていない)

19 内蔵に体する承諾に、骨骨髄への承諾も含まれる
病理解剖という言葉の意味からして、一般人においても死体から内臓等を採取して病理組織学的観察を行い、死因等に ついて考察を行うということはある程度理解が可能であること、遺族に対し、着衣しても隠 れない部分及び脳についてのみ、特別に解剖の承諾を求めるという対応は、我が国における 死者の葬式や埋葬の方法を考えた場合、一応の合理性が認められること、さらには、昭和6 3年当時、死者の病理解剖についての遺族に対するインフォームドコンセント自体、観念さ れていなかったと考えられることなどの事情を総合考慮すると、被告病院担当医師において 、本件剖検に際し、骨及び骨髄を採取するについて、原告らの個別の承諾を求めずに、内臓 に対する承諾のみをもって、当然に内臓に含まれるものと理解されていた骨及び骨髄を採取 した行為を、違法であるということはできない。

20 争点:違法性 ②被告大学は、原告らに対し、本件剖検で採取し、保存していた亡君の臓器等の明細書を交付しなかったのは違法か。 ×
②被告大学は、原告らに対し、本件剖検で採取し、保存していた亡君の臓器等の明細書を交付しなかったのは違法か。 × そもそも明細書の交付が解剖の条件である証拠が見当たらない。 承諾によって生じる私法上の契約からそのような義務の成立を導く事はできない

21 ③被告大学が、原告から返還請求があったのに、臓器等を直ちに返還しなかったの は違法か。×
保存法上は返還義務なし(行政指針としてはあり) これをもとに私法関係を類推すると剖検及び死体の保存について承諾することは、解剖に付 され採取された死体の臓器等の所有権について、遺族は大学に対して譲渡するという贈与契約を締結したものと解するのが相当である  (行政指導の指針として望ましいとされているかもしれないが、それに違反しても損害賠償義務を生じる程ではないし、そもそも行政指導の範疇に含まれるかも微妙) そしてこの贈与契約を取り消す事ができるほど信頼関係が破壊されているとは言えない よって別訴で返還請求が確定されるまでは(たとえ原告から返還請求されていた場合においても)直ちに返還しないからといって違法になるわけではない

22 ④被告Dが、保存中のプレパラート1枚を破損ないし紛失させ、返還しなかったのは違法と評価されるか。×
贈与契約であるから自己のものに体する注意義務を果たしていれば良い 自己のものに体する注意義務程度ならばプレパラートを滅失してもやむを得ない それにそもそも返還義務がない

23 両判決の理解 死体解剖保存法における承諾 公法上のもの 承諾の時に、遺族と病院との間では私法上の契約が発生している

24 両判決の比較 返還請求 寄付・使用貸借等私法上の契約 背骨の採取に対する明示的な拒否あり 不法行為・損害賠償請求
遺族からの要求に応ずる必要のない贈与契約 17条には18条のように返還義務が書かれていない 背骨の採取に対する明示的な拒否はなし

25 乙訴訟控訴審 〜返還請求〜 原告の許可なく、原告の母親の遺体から標本を無断で採取したこと、解剖条件であった明細書の交付をしなかったこと、返還の遅延、プレパラートの破損等を理由に関係者を、債務不履行や不法行為で訴えたが棄却された事件

26 新争点:原告適格 遺体の所有権は祭祀主催者であるB(夫)にあり、Xにはない

27 争点:事実認定 ①原告らは、被告大学に対し、本件剖検に際し、椎体骨及び胸骨を採取することに ついて、承諾をしたか
内蔵に対する承諾をもって、骨及び骨髄に対する承諾があったと考えられる

28 争点:違法性 承諾 契約の種類については明示せず
仮に、一種の帰宅契約に類似した無名契約であるとしても、病院が標本として使用する目的ないし必要性が消滅した場合のみ終了するもの

29 控訴審も含めた比較 不法行為・損害賠償請求 (寄託契約に類似した無名契約) 返還請求 寄付・使用貸借等私法上の契約
背骨の採取に対する明示的な拒否あり 不法行為・損害賠償請求 遺族からの要求に応ずる必要のない贈与契約 17条には18条のように返還義務が書かれていない 背骨の採取に対する明示的な拒否はなし 不法行為・損害賠償請求 (寄託契約に類似した無名契約) 標本としての利用の必要性が生じた時等のみ終了する

30 感想 乙判決では、本件承諾を私法上は贈与契約と解し、信頼関係が破壊されていないとするが、これは本件私法契約において信頼関係が破壊されているとする甲判決と抵触しないか。(乙判決中では抵触しないと述べられているが) 百選解説においては、甲判決と乙判決の結論の差を、裁判所による契約解釈の差に求めているがそれは形式的なものであり、判断の差を生じさせた本当の理由は、請求内容の差にあるのではないか 甲訴訟は祀ることを目的とした返還請求 乙訴訟は損害賠償請求 参考)不法行為訴訟でも損害賠償請求より差止め請求の方が要件厳しい


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