気候 - 海・陸炭素循環結合モデルを用い た 地球温暖化実験の結果 吉川 知里
気候 - 海・陸炭素循環 結合モデル
実験方法 温暖化による海・陸炭素循環の応答とそのフィードバックを調べ るために、気候と炭素循環の相互作用を行うケース( Coupled) と 行わないケース( Uncoupled) について、 2100 年までの将来予測実 験を行った。
実験結果 4 ℃昇温 ↓ 海・陸二酸化炭素吸収量が 5 PgC/yr 減少 ↓ 大気中 CO 2 濃度が 120ppmv さらに増 加 ( 0.8 ℃ 昇温に相当) 「炭素循環から気候への ポジティブフィードバック」 Coupled と Uncoupled の差は、 温暖化に対する海・陸炭素循環の応答を示してい る。
温暖化による「陸域の二酸化炭素吸収量」の変化 <温暖化による陸域炭素循環の応答 > 4 ℃昇温 ↓ 植生炭素貯蔵量が 24PgC 増加 ↓ 土壌炭素貯蔵量が 232PgC 減少 ↓ 陸域炭素貯蔵量が 207PgC 減少 つまり、温暖化によって 207PgC 余計 に陸域から大気へ放出 「陸域炭素循環から気候への ポジティブフィードバック」 CO 2 施肥効果 ~ 24PgC ~ 232PgC ~ 3.5PgC/y r
温暖化による「陸域の二酸化炭素吸収量」の変 化 吸収量の減少 正のフィードバッ ク 吸収量の増加 負のフィードバッ ク シベリア、アマゾン、サヘルなど、大部分の地域で、温暖 化によって二酸化炭素吸収量が減少する、温暖化を促進する 正のフィードバックを示した。 西部・中央部北米やオーストラリア南部など、負のフィー ドバックを示す地域もある。 陸域二酸化炭素吸収量の変化
温暖化による「陸域の二酸化炭素吸収量」の変 化 吸収量の減少 正のフィードバッ ク 吸収量の増加 負のフィードバッ ク ほとんどの地域で、植生炭素貯蔵量は増える(光合成による吸収が増え る)。 正のフィードバックを示したシベリア、アマゾンなどで、土壌炭素貯蔵 量が減る(土壌分解による放出が増える)が、負のフィードバックを示し た西部・中央部北米やオーストラリア南部などでは土壌炭素貯蔵量が減ら ない。 植生炭素貯蔵量の変化土壌炭素貯蔵量の変化
温暖化に対する各地域の炭素循環の応答 陸域炭素循環では、温暖化に対して土壌炭素貯蔵量が大き く変化し、フィードバックの大きさは土壌炭素貯蔵量の変化 によってほぼ決まっている。 地域別では、植生炭素貯蔵量の変化の方が大きい地域もあ る。 吸収量の減少 正のフィードバッ ク 吸収量の増加 負のフィードバッ ク 陸域炭素貯蔵量の変化
温暖化に対する各地域の炭素循環の応答 ほとんどの地域で、温暖化すると土壌呼吸が活発になる。 西部・中央部北米やオーストラリア南部などでは、土壌分解と同 程度、落葉も活発になっているため、土壌炭素が減少しなかった。 シベリアは、他の地域よりも土壌温度が約 3 ℃も高くなるため土 壌分解が非常に活発になり、アマゾンは熱帯雨林であるため落葉が あまり活発にならず、土壌炭素が減少した。 植生炭素貯蔵量の変化土壌炭素貯蔵量の変化
温暖化による「海洋の二酸化炭素吸収量」の変 化 ~ 25PgC ~ 1.5PgC/y r <温暖化による海洋炭素循環の応答> 4 ℃昇温 → 海洋への二酸化炭素吸収量が減り、海洋炭素貯蔵量 が 25PgC 減少。つまり、 25PgC 余計に大気へ放出 (陸の 1/6) 。 海洋炭素循環から気候へのポジティブフィードバック
温暖化による「海洋の二酸化炭素吸収量」の変化 吸収量の減少 正のフィードバッ ク 吸収量の増加 負のフィードバッ ク 北部北大西洋の二酸化炭素吸収量は、約13 PgC も減少し、 シベリアやアマゾンに匹敵する強い正のフィードバックを示 した。 海洋二酸化炭素吸収量の変化
ちなみに、北部北大西洋と は ・・・・ 北部北大西洋は、 大気から海洋へ二酸化炭素が吸収される主な海域であり、 表層水が深層へ沈み込む、海洋深層水が作られる海域であ る。 大気 - 海洋 CO 2 交換 吸収 放出 IPCC より海洋の深層循環の模式図
人為二酸化炭素は主に北部北大西洋から海洋深層へ運ばれ、 深層循環にのって海洋内部へ広がっていく。 人為二酸化炭素の分布 (大西洋の鉛直断面) 人為二酸化炭素の分布 (全球の鉛直積算) ちなみに、北部北大西洋と は ・・・・
1990 年代の結果 (大気 CO 2 濃度=約 360ppmv ) 2090 年代の結果 (大気 CO 2 濃度=約 900ppmv ) CO 2 排出増加による海洋の人為二酸化炭素分布の変化 大気中の二酸化炭素濃度の上昇にともなって、 二酸化炭素は海洋内部へどんどん供給されていく。
温暖化 + 大気 CO 2 上昇 温暖化が海洋の人為二酸化炭素吸収へ与える影響 大気 CO 2 上昇 温暖化するケースの方が、海洋に溶け込んだ人為二酸化炭素量が少ない。
温暖化が海洋の人為二酸化炭素吸収へ与える影響 温暖化の影響=(温暖化+大気 CO 2 上昇)-(大気 CO 2 上 昇) 温暖化によって、北部北大西洋の人為二酸化炭素吸収が弱ま る。
大西洋の子午面循環流線関数 温暖化 温暖化によって、北大西洋深層水の循環が弱ま る。 14Sv 22Sv 気候変動なし
温暖化すると NADW が弱まるのはな ぜ? 温暖化によって、 高温化・低塩化し、 混合層の深さが浅くな る。
温暖化で、成層化し、 NADW が弱まるの で・・・ 北部北大西洋で 二酸化炭素の吸収量が減 り、 海洋内部へ溶け込む 人為二酸化炭素量が減る
まとめ 海 陸 気候 - 海陸炭素循環結合モデルを用いた温暖化実験の結果は、 温暖化によって海陸二酸化炭素吸収量が減少し、大気中 CO 2 濃 度がさらに増加し、さらなる昇温(約 0.8 ℃)を引き起こす、 「炭素循環から気候へ正のフィードバック」を示した。 温暖化すると、光合成による CO 2 吸収は活発になるが、 それ以上に土壌呼吸による CO 2 放出が活発になるため、陸 域炭素循環は気候へ非常に強い正のフィードバックを示し た。 温暖化すると、深層循環が弱まるため、北部北大西洋か ら海洋深層への CO 2 吸収量が減り、海洋炭素循環は気候へ 正のフィードバックを示した。