五十嵐 佳那 JAMA 2013.10.4. volume310 Number15. 【背景①】 ・ HAI(health care-associated infection; 医療関連感染 ) の 管理は最も複雑であり、入院患者の 20 人に一人は罹 患すると予測されている。 ・ MRSA と VRE.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
米国の外来呼吸器感染症での抗菌薬投与状況 抗菌薬投与率 普通感冒 5 1% 急性上気道炎 52% 気管支炎 6 6% 年間抗菌薬総消費量 21% 【 Gonzales R et al : JAMA 278 : ,1997 】
Advertisements

Journal Club 東京ベイ浦安市川医療センター 後期研修医 吉野かえで BMJ 2014;348:g2197 Selective digestive or oropharyngeal decontamination and topical oropharyngeal chlorhexidine.
扁桃腺炎・咽頭炎.
Infection Round Check List
Lesson 21. 健康政策と疫学 §B. 集団データを用いた 疫学研究 疫学概論 集団データを用いた疫学研究
DPCにおける新たな機能評価係数に関する指標、とりわけ希少性指数についての検討
当施設における       尿路感染の現状報告 介護老人保健施設 恵仁荘    看護師 木下 孝一.
Yokohama City Save Hospital ☆Emergency and Critical Care Medicine☆
医政指発1219第1号 平成26年12月19日 「医療機関における院内感染対策について」 概要と0617号からの変更点
仙台管区気象台 気象防災部 地球環境・海洋課 池田 友紀子
第3回はままつCDE研究会 アンケート集計結果
土木計画学 第5回(11月2日) 調査データの統計処理と分析3 担当:榊原 弘之.
馬パラチフス 馬科動物の生殖器感染症.
疫学概論 メタアナリシス Lesson 21. 健康政策と疫学 §D. メタアナリシス S.Harano, MD,PhD,MPH.
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」 の説明
2006年度からのリハビリ日数制限と発症後60日以内の入院制限の影響
聖マリアンナ医科大学救命救急医学教室 今西 博治
集中治療室入室経験者の その後の生活・人生について
疫学概論 無作為化比較対照試験 Lesson 14. 無作為化臨床試験 §A. 無作為化比較対照試験 S.Harano,MD,PhD,MPH.
第4回講義(4/26)の学習目標 1.1.3節 2種類の過誤等の理解を深めよう 1.1.4節 効果量とは 1.1.5節 検定の前提とその適否
疫学概論 診療ガイドライン Lesson 22. 健康政策への応用 §B. 診療ガイドライン S.Harano, MD,PhD,MPH.
トピック9 感染の予防と管理 1 1.
統計学勉強会 対応のあるt検定 理論生態学研究室 3年 新藤 茜.
回復期リハビリテーションの成績報告 脳卒中の病型・部位別に
DCC エボラウイルス病(EVD, エボラ出血熱) 対応フローチャート(テンプレート)
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 後記研修医 三上翔平
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
Hironori Kitaoka.
Study Design and Statistical Analysis
小松市民病院     臨床研修プログラム.
疫学概論 患者対照研究 Lesson 13. 患者対照研究 §A. 患者対照研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
インフルエンザ予防接種のご案内 10月 26日・30日・31日 11月 1日・2日・6日・7日・10日 16日・20日・21日・24日
Outcomes Among Patients Discharged From Busy Intensive Care Units
VAP(人工呼吸器関連肺炎) の予防 JSEPTIC_Nursing.
安全管理体制とリスクマネージメント 高齢者介護施設における感染対策
疫学概論 患者対照研究 Lesson 13. 患者対照研究 §A. 患者対照研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
基調報告 「産婦人科勤務医の就労環境の実態 ー日本産婦人科医会調査から」
聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 救命    古澤 彩美.
CKD患者に対する食事記録が 食事療法に及ぼす効果の検討
疫学概論 横断研究 Lesson 11. 記述疫学 §A. 横断研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
Evidence-based Practice とは何か
複合的自殺対策プログラムの自殺企図予防効果 自殺企図の再発防止に対するケースマネジメントの
東京ベイ浦安市川医療センター 菅原 誠太郎.
Interventions to Improve the Physical Function of ICU Survivors            (CHEST 2013;144(5): ) 聖マリアンナ医科大学 救急医学 田北 無門.
研究内容紹介 1. 海洋産物由来の漢方薬の糖尿病への応用
疫学概論 疾病の自然史と予後の測定 Lesson 6. 疾病の自然史と 予後の測定 S.Harano,MD,PhD,MPH.
St. Marianna University, School of Medicine Department of Urology 薄場 渉
疫学概論 バイアス Lesson 17. バイアスと交絡 §A. バイアス S.Harano, MD,PhD,MPH.
肺炎診断の最新知見と ガイドラインに基づく治療戦略 ~カルバペネム系抗菌薬を中心に~
2003~2004年のMRSAの傾向 感染対策委員会 看護部 仁田原 稲荷田 東 古賀文 熊丸 宮川 東島 緒方 井崎
Webコミュニティ概念を用いた Webマイニングについての研究 A study on Web Mining Based on Web Communities 清水 洋志.
12 REPORT ON IMPLEMENTATION OF THE AGENCY’S FOODBORNE DISEASE STRATEGY. MHPF PAPER 02/02/ 患者数(万人) ,148 51,166 1, ,
利用規約 役に立つ薬の情報~専門薬学 : 提供している資料は「同じ会社内、施設内での研修」や「高校生・大学生のプレゼンテーション参考資料」、「市民向けの教材をボランティアで作成するため」などを想定しています。つまり、当サイトの資料の利用は「教育に対して、無償で貢献するために使用すること」が大前提です。
米国農務省のHACCP規則(1996年)が赤身肉施設と食鳥肉施設に及ぼした経済的影響の多段階評価
院内の回復期リハ病棟間の成果比較  -予後因子(入院時年齢・FIM・発症後日数)の階層化による測定法を用いて-
~ 獣医師の皆さん、抗菌剤の慎重使用等対策を進め、
疫学初級者研修  ~2×2表~ 平成12年2月14日(月) 13:00~ 岡山理科大学情報処理センター.
「アルゴリズムとプログラム」 結果を統計的に正しく判断 三学期 第7回 袖高の生徒ってどうよ調査(3)
「カテゴリ変数2つの解析」 中澤 港 統計学第7回 「カテゴリ変数2つの解析」 中澤 港
確率と統計2007(最終回) 平成20年1月17日(木) 東京工科大学 亀田弘之.
~ 生産者の皆さん、抗菌剤の慎重使用等対策を進め、
疫学概論 疫学研究の目的 Lesson 1. 疫学研究 §A. 疫学研究の目的 S.Harano,Md.PhD,MPH.
疫学概論 §C. スクリーニングのバイアスと 要件
「JSEPTIC-BW ICU における体重測定の意義」 経緯と今後
疫学概論 横断研究 Lesson 11. 記述疫学 §A. 横断研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
三重大学医学部附属病院 総合診療部 竹村 洋典
ベイジアンネットワークと クラスタリング手法を用いたWeb障害検知システムの開発
手術安全は重大な 公衆衛生上の問題です 毎年、世界中で約2億3千4百万件の手術が行われています
確率と統計 年1月7日(木) Version 3.
疫学概論 臨床試験の種類 Lesson 14. 無作為化臨床試験 §B. 臨床試験の種類 S.Harano,MD,PhD,MPH.
Presentation transcript:

五十嵐 佳那 JAMA volume310 Number15

【背景①】 ・ HAI(health care-associated infection; 医療関連感染 ) の 管理は最も複雑であり、入院患者の 20 人に一人は罹 患すると予測されている。 ・ MRSA と VRE などの薬剤耐性菌は、患者の感染症罹 病率や致死率の増加に影響を与えている。 ・アメリカで薬剤耐性菌にかかるコストは年間 4 ビ リオンドル以上といわれている。

【背景②】 ・ CDC ( Centers of disease control and prevention ;アメリカ疾病 予防管理センター)は、薬剤耐性菌保菌者との接触時には手袋、 ガウンの着用を推奨している。 ➡しかし、 MRSA や VRE や他の薬剤耐性菌はしばしば検出されな いことがあり、接触予防策が徹底されていない現状がある。 ・小規模の非無作為化試験では、全ての患者に対して手袋、ガ ウン着用を行うことは薬剤耐性菌の獲得や HAI を減少させるか もしれないことを示した。 ➡しかし、接触予防策は医療従事者と患者の接触の減少、有害 事象の増加を関連付けた。 JAMA.2003 Oct 8;290(14): Am J Infect Control.2009 Mar;37(2):85-93

そこで 仮説: ICU の全ての患者への接触時に手袋、ガウ ンを着用することで MRSA,VRE 獲得率は減少する のではないか。 また、それによる有害事象は増えるのか。

【目的】 ICU 全患者に対して、 手袋、ガウンを着用することは、 通常の予防策と比較して MRSA,VRE 感染を 減少させるかどうかを評価すること

【方法②】 〈 PATIENT 〉 ・ SHEA ( Society for Healthcare Epidemiology; 米国病院 疫学学会)のリサーチネットワークを通して募集した。 ・内科、外科または内科外科混合の ICU 病棟 ・ベッド数9から36と多用な規模の病院 ・アメリカの田舎、都市、学術的な地域まで広い範 囲で ・成人の患者 除外基準: MRSA 、 VRE の監視培養検査を実施していない施設

【方法①】 〈 STUDY DESIGN 〉 マッチドペアクラスター無作為化試験 CONSORT ガイドラインに沿って行われた [ 期間 ] 2011 年 9 月~ 2011 年 12 月:ベースラインデータ収 集 2012 年 1 月 4 日~ 2012 年 10 月 4 :介入期間 ベースラインの期間でのMRSAやVREの獲 得率をもとに、施設毎ランダムに2群に割り付 けられた。

【方法③】 〈 INTERVENTIONS 〉 介入は ICU レベルで行った。 介入群:医療従事者は全ての患者の病室に入室する際、全て の患者と接触する際に、手袋、ガウンの着用をした。 コントロール群:薬剤耐性菌を持っているとわかっている患 者に対してのみ、 CDC による接触時の感染予防策のガイドラ インに従った、標準的なケアを継続した。 ※医療従事者:看護師、医師、呼吸リハビリ士など

【方法③】 〈 OUTCOMES 〉 全ての患者は入院時、退院時にMRSA(鼻腔スワブ)、 VRE(肛門周囲スワブ)監視培養検査を行った。 *Primary outcome MRSA または VRE の獲得率の変化 *Secondary outcome MRSA,VRE のぞれぞれ別々の獲得率の変化 その他、 HAI、有害事象、訪室頻度、手の衛生のコンプライアンス の変化 ※獲得➡入院時の監視培養検査は陰性で、退院時に培養検査 は陽性であること。

【方法④】 〈 STATISTICAL ANALYSIS 〉 ・全ての解析はICUレベルで行われた。 ・第1種過誤は 5% だった。 ・両群のデータは平均値で比較され、t検定が行われた。 ・予測率と 95% 信頼区間は指数で示された。 ・異なったICU規模を比較するため検定や推定は対数 スケールで行った。

2 た 3 人追加した. 【内容】 22の施設が選ばれた 2施設が除外された 20の施設が参加した ランダム化割り付け 介入群 コントロール群

【結果】【結果】 入院時の 被験者の特徴 と保菌者の割合 P=0.18 有意差なし 培養ミスによ る 差のみだった

薬剤耐性菌獲得率 /1000 Patient-Days MRSA のみで有意差あり P=0.046

手の衛生のコンプライアンスと訪室回 数 ・訪室回数は介入群で有意に減った。 ・退室時の手の衛生コンプライアンスは介入群で有意に増 えた。

院内感染症の罹患率、致死率、有害事象発生率 ・有害事象発生率は介入群で低かったが有意差なし CLAB SI VAP CAUT I mortality ➡差はなかっ た

【 DISCUSSION 】 ■v 医療従事者が全ての患者に対して、手袋、ガウ ンを着用することで、 MRSA の獲得率は減少した。 □ VRE への効果の欠如は、 ・腸内細菌叢に対する薬剤選択性の効果か。 ・もともと感染率は低く、入院時の培養では VRE は検出感 度未満だったが、入院中の抗菌薬使用で検出レベルにま で増殖したか。 □ MRSA で効果があったのは、入院時の MRSA 感染率が高 かったためか。 ➡薬剤耐性菌の種類によって介入は違う効果をも たらした。

■ 介入群は、 ICU 退室時の手の衛生のコンプラ イアンスを向上させた。 ■ 介入群は、医療従事者の病室の訪室回数を減 少させたが、それに伴う有害事象は増やさな かった。 □ 塩酸クロルヘキシジン、経鼻のムピロシンにより VRE,MRSA 感染が 減少するという報告がある。 ➡しかし、それらは耐性菌を増やし、長期に渡る有害な影響をもた らすかもしれない。 以上より、 ➡一般的な手袋、ガウンの着用は、薬剤耐性菌を増やさ ず、また、活発なサーベイランスや、塩酸クロルヘキシ ジンやムピロシンにかかるコストを削減できるだろう。

[ この研究の問題点 ] ① 介入のブラインドが十分にできなかった。 ② 介入効果のメカニズムが、完全に明瞭になっ ていない。 ③ 有害事象の大きな違いを見抜く十分な力を 持っていなかった。

【CONCLUSION】 ■ 全ての患者に対して、手袋、ガウンを着用する ことで、MRSAだけの感染リスクは下げた。 ■ 有害事象には両群間で差は認めなかったが、最 終的な結論を出す前に重複実験が必要だろう。