材料系物理工学 03.10.06 第1回 磁気に親しもう 量子機能工学 佐藤勝昭. 第1部 磁性 第1回 2003.10.6( 月 ) 磁気に親しもう – 磁石、 HDD 、 MD 、モーター、磁場、磁束密度、磁化、磁気 モーメントとは何か、磁化曲線、反磁界、ヒステリシス、軟 質磁性体、硬質磁性体.

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材料系物理工学 第1回 磁気に親しもう 量子機能工学 佐藤勝昭

第1部 磁性 第1回 ( 月 ) 磁気に親しもう – 磁石、 HDD 、 MD 、モーター、磁場、磁束密度、磁化、磁気 モーメントとは何か、磁化曲線、反磁界、ヒステリシス、軟 質磁性体、硬質磁性体 第2回 ( 水 ) 磁石をどんどん微細にする – マクロの磁性 (cm)→ メゾスコピックの磁性 (μm)→ ミクロの磁 性 ( Å ) 、環状電流と磁気モーメント、原子の磁気モーメントの 起源、磁気モーメントと角運動量、スピンと軌道、フントの 規則 第3回 ( 月 ) 鉄はなぜ磁気をおびる? – 秩序をもった磁性(強磁性、フェリ磁性、反強磁性)、なぜ 自発磁化が生じるか、分子場理論と磁化の温度変化、キュ リーワイスの法則、交換相互作用、キュリー温度、絶縁物の 磁性と金属の磁性

磁性 ( 続き ) 第4回 ( 月 ) 磁気ヒステリシスはなぜ生 じる – 方位で異なる磁化曲線(磁気異方性)、磁区、磁壁、磁壁移 動、磁化回転、マイクロマグネティズム、なぜ軟質磁性体・ 硬質磁性体の違いが生じるか、軟質・硬質磁性体の使い道、 反強磁性も役に立つ 第5回 ( 木 ) 弱い磁性も使いよう – 反磁性(強磁界で水が空中に浮かぶ)、常磁性(極低温では 酸素が磁石につく)、 MRI (核スピンの常磁性共鳴)、 EPR (電子スピンの常磁性共鳴でみる半導体の欠陥) 第6回 ( 月 ) 磁気に付随する効果; MR と MO – 磁気抵抗 (MR) 効果が高密度 HDD を支える、磁気光学 (MO) 効 果は MD 再生の原理

第2部 超伝導 第7回 ( 水 ) 超伝導を実感しよう –P オープンラボで、高温超伝導体 YBa 2 Cu 3 O 7-δ を冷却し超伝導になる様子 を見るとともに、超伝導とは何かを学ぶ。 第8回 ( 月 ) 超伝導はなぜ起きる – 超伝導の歴史、超伝導現象とは、マイスナー効果、超伝導の物理 ( London の方程式、 BCS 理論) 第9回 ( 月 ) 超伝導エレクトロニクス – 超伝導・常伝導トンネル接合、超伝導・超伝導トンネル接合(ジョセフ ソン効果)、状態密度、 SQUID 磁束計 第 10 回 ( 月 ) 高温超伝導体 – 高温超伝導体 (HTSC) 発見物語、 HTSC の構造と超伝導物性、固有ジョセ フソン効果 , 1.19, 1.26, 2.2 は講義なし 自習時間とします。 期末テスト: 2限 自習してきた内容を記述しても らいます。

身近な磁性 磁石 ( 永久磁石 ) は何で出来ている? – 鉄? – 磁石を販売しているある会社の HP によると、 ネオジム Nd 2 Fe 14 B 、サマコバ SmCo5 、フェライト (BaFe 2 O 4 ) 、アルニコ( AlNiCo) というのが書かれてい る。 * – 黒板用のボタン磁石:ほとんどがフェライトのボンド磁 石(磁性粉と樹脂を混合し成形した磁石) – 曲げられる磁石:ラバー磁石(磁性粉をゴムに混合して 成形した磁石) (*

磁性体の用途 磁気記録、光磁気記録 →IT 光アイソレータ → 光ファイ バ通信 永久磁石 → モータ、アク チュエータ 変圧器、インダクター用磁 心

コンピュータと磁気記録 コンピュータのプログ ラムやデータを格納し ておくのがハードディ スク HD と呼ばれる磁気 記録装置である。 画面からプログラムを 起動すると、そのプロ グラムが HD から半導体 のメモリに転送される。 CPU は、メモリ上の各 アドレスに置かれた命 令を解読して、プログ ラムを実行する。 ハードディスクドライブ 磁気ヘッド ディスク媒体 ロータリー・ アクチュエーター 半導体メモリ

ハードディスクのどこに磁性 体が使われているか 磁気ヘッド: Ni 80 Fe 20 など軟 質磁性体が使われている ディスク媒体: CoCrTa など硬 質磁性合金が使われている ロータリー・アクチュエータ: ネオジム磁石と電磁石 スピンドルモータ:ネオジム磁石と 電磁石の組み合わせ

ハードディスク分解のサイト紹介 おもしろ分解博物館 HDD/8inch-HDD.htm おもしろ分解博物館 桜井式モノ分解教室パート 2 net/jikken/HDD.htm (浜島書店のサイト) 桜井式モノ分解教室パート 2 ハードディスク分解絵巻 u.ac.jp/chitta/works/ ハードディスク分解絵巻

ハードディスク媒体 ディスク媒体は 記録用の半硬質 磁性体膜を堆積 したアルミ円板 である。 桜井式モノ分解教室パート 2 net/jikken/HDD.htm (浜島書店のサイト) 桜井式モノ分解教室パート 2

磁気ヘッドアクチュエータ 磁気ヘッドは、ジン バルと呼ばれるヘッ ドアセンブリに搭載 され、ロータリーア クチュエータで駆動 される。 強力な磁石 ムービングコイル 桜井式モノ分解教室パート 2 net/jikken/HDD.htm

磁気ヘッド拡大図 IOData の HP より

磁気ヘッド IBM の HP より

モーターと磁石 直流モーターは、回転子と称する磁石が、固定子と称 する電磁石の中に置かれている。磁極の位置をホール 素子で検出し、分割された電磁石に流される電流を順 次切り替えることにより、磁界の回転を生じ、回転子 に運動を与える。 固定子のコイルの磁心には軟質磁性体が使われている。 回転子 固定子 回転子 固定子 おもしろ分解博物館 /jv-1500.htm より

磁界の定義 (1) 1. 電流による定義 単位長さあたり n ターンのソレノイドコイル に電流 i[A] を流したときにコイル内部に発 生する磁界 * の強さ H[A/m] は H=ni であると 定義する。 * 応用磁気系用語では磁界、物理系用語では磁場とい う。 いずれも英語では magnetic field である。

磁界の定義 (2) 2. 力による定義 ・ 距離 r だけ離れた磁極 q 1 [Wb] と磁極 q 2 [Wb] の間に働く力 F[N] は、磁気に関するクーロン の法則 F=kq 1 q 2 /r 2 で与えられる。 k は定数。 磁極 q 1 がつくる磁界 H 中に置かれた磁極 q 2 [Wb] に働く力 F[N] は F=q 2 H で与えられるので、 磁界の大きさは H=kq 1 /r 2 で表される。 q1q1 q2q2 F

2 つの定義をつな ぐ 一方、 q 1 から磁束が放射状に放出しているとして、 半径 r の球面を考える。 ガウスの定理により 4  r 2 B=q 1 であるから B=q 1 /4  r 2 磁束密度 B[T=Wb/m 2 ] と H を結びつける換算係数  0 を導入すると B=  0 H となる。 すると H=q 1 /4  0 r 2. となり、これよりクーロンの式の係数 k は k=1/4  0 となる。 従って、クーロンの式は F=q 1 q 2 /4  0 r 2 q1q1 q2q2 F H +[T] はテスラ、 [Wb] はウェーバーと読む。 cgs-Gauss 系の単位 [G]( ガウス ) との関係は、 1[T]=10000[G] 真空の透磁率  0 は、 4  [H/m] ここに [H] はヘンリーと読む。

SI 単位系と cgs-emu 単位系 磁界 H の単位: SI では A/m 、 cgs では Oe ( エルステッド ) –1[A/m]= 4  [Oe]=0.0126[Oe] –1[Oe]=( 4  ) -1  10 3 [A/m]=79.7[A/m] 磁束密度 B の単位: SI では T (テスラ)、 cgs では G( ガ ウス ) –1[T]=1[Wb/m 2 ]=10000[G] B=  0 H+M; cgs では B=H+4  M  0 =4  [H/m]; 真空中で H=1[A/m] の磁束密度は 4  [T]=1.256[  T] cgs で測った H=1[Oe]=79.7[A/m];B=100 [  T]=1[G] 磁化 M: 単位体積 [m 3 ] あたりの磁気モーメント [Wb ・ m] M=1[T] →M=(10000/4  )[emu]=796[emu]

磁界の発生 電磁石 – 空心電磁石 ソレノイド 1cm あたり 100 ターン 1A の電流を流すと 10000A/m 、磁束密度は 4πx10 -7 x10 4 =12.6mT 超伝導電磁石 10cm に 1000 ターン、 100A 流すと 10 6 A/m;1.26T – 鉄心電磁石 約 B=2T 程度 水冷コイル 空心ソレノイドコイル せいぜい 10mT 超伝導コイル 最大 10T 鉄心電磁石

磁界の測定 ガウスメータ ホール素子で測 定 ホール・プローブ ホール素子

磁極と磁気モーメント 磁石には、 N 極と S 極がある。 磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起され る。磁極は必ず、 NS の対で現れる。 ( 単極は 見つかっていない ) 磁極の大きさを q [Wb] とすると、磁界によって NS の対に働くトルクは - qHdsin  [N ・ m]=[Wbm][A/m] 必ず NS が対で現れるなら m=qr を磁性を扱う基 本単位と考えることが出来る。これを磁気 モーメントという。単位は [Wbm]

磁気モーメント 一様な磁界 H 中の磁気モーメントに働くトル ク T は T=qH r sin  = mH sin  磁気モーメントのもつポテンシャル E は E=  Td  =  mH sin  d  =1-mHcos  E=-m  H ( 高梨:初等磁気工学講座 ) より S N r 磁気モーメント m=qr [Wb  m] -q [Wb] +q [Wb]  rsin  単位: E[J]=-m[Wb  m]  H[A/m]; qH -qH

磁界(磁場) H 、磁束密度 B 、磁化 M 磁界 H 中に置かれた磁化 M の磁性体が磁束密 度は、真空中の磁束密度に磁化による磁束密 度を加えたものである。すなわち、 B=  0 H+M B=  0 HB=  0 H+M M 磁性体があると磁束密度が 高くなる。

磁化 磁性体に磁界を加 えたとき、その表 面には磁極が生じ る。 この磁性体は一時 的に磁石のように なるが、そのとき 磁性体が磁化され たという。 (b) (a) ( 高梨:初等磁気工学講座 ) より

磁化の定義 ミクロの磁気モーメントの 単位体積あたりの総和を磁 化という。 K 番目の原子の1原子あた りの磁気モーメントを  k と するとき、磁化 M は式 M=  k で定義される。 磁気モーメントの単位は Wb  m であるから磁化の単位 は Wb/m 2 となる。 ( 高梨:初等磁気工学講座 ) より

磁化曲線 磁性体を磁界中に置き、磁界を増加していく と、磁性体の磁化は増加していき、次第に飽 和する。 磁化曲線は磁力計を使って測定する。 VSM: 試料振動型磁力計 試料を 0.1 ~ 0.2mm 程度のわずかな振幅で 80Hz 程度の低周波で振動させ、試料の磁 化による磁束の時間変化を、電磁石の磁 極付近に置かれたサーチコイルに誘起さ れた誘導起電力として検出する。誘導起 電力は試料の磁化に比例するので、磁化 を測定することができる。 スピーカーと同じ振動機構 電磁石 磁極付近に置いたサーチコイル

VSM ブロック図 丸善実験物理学講座「磁気測定 I 」 p.68 より

ソフト磁性 パーマロイ * に磁界を加 えると磁化は急に増大 しわずか 40[A/m]( 地磁気 程度 ) の磁界で飽和する。 保磁力が 10[A/m] と小さ いので非常に小さな磁 界で磁化反転する。 磁化しやすく、磁界の 変化によく追従する磁 性をソフト ( 軟らかい ) 磁 性とよび、このような 磁性体を軟質磁性体と 称する。 中野パーマロイの HP permalloy.co.jp/j_permalloy_pb.h tml より *permalloy( パーマロイ ) とは、 Ni:Fe=80:20 程度の Ni-Fe 合 金 Hc=10A/m=0.126Oe

セミハード磁性 物理システム工学実験「磁 性」で作製している Y 2 BiFe 4 GaO 12 の磁化曲線 は、膜面に垂直な磁界に対 し明瞭なヒステリシスを示 す。 1つの向きに強い磁界を加 えていったん飽和磁化 Ms に達した後、磁界を取り 去っても、残留磁化 Mr が残 る。 磁化を反転させるには、保 磁力 Hc より大きな磁界を 加えなければならない。 Hc Mr Ms Y2Bi1Fe4Ga1O12 ガラス基板 650 ℃焼 成 塗布回数 10 回 測定: 佐藤研 M1 水澤 Hc=200 Oe =15.9 kA/m

ハード磁性: Co 66 Cr 17 Pt 17 次世代ハードディス クは垂直磁気記録に なるといわれている。 垂直媒体としては、 CoCrPt 系の薄膜が検 討されている。 Kerr 回転 VSM 佐藤研 寺山 (OB) 、細羽 (OB) 、清水 (M2) が測定

第1回の問題 1m あたり 巻きのコイルに 1A の電流を流 したときの磁界の強さは SI 単位ではいくらか。 cgs 単位ではいくらか。 ホール素子を使って磁界の大きさを測定でき ることを説明せよ。