統率・束縛理論. 統率・束縛理論( GB 理論)  統率・束縛理論 ( Government-Binding Theory )  Chomsky により創始される  変形文法( Transformational Grammar, TG )の直系子孫.

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統率・束縛理論

統率・束縛理論( GB 理論)  統率・束縛理論 ( Government-Binding Theory )  Chomsky により創始される  変形文法( Transformational Grammar, TG )の直系子孫

統率・束縛理論( GB 理論)  構成 d -構造 ( d-structure ) s -構造 ( s-structure ) 音声形式 ( Phonetic Form, PF ) 論理形式 ( Logical Form, LF ) = TG における深層レベル = TG における表層レベル

統率・束縛理論( GB 理論)  構成  音声形式( PF )  論理形式( LF ) 文法の「音声の」側の出力である実際の 音列を表すレベル 「意味の」側の対応するレベル

統率・束縛理論( GB 理論)  例: “ Mary was fired ” (基底構造) ⅰ) d-structure S NP INFL VP V VP V NP PAST be fired Mary 屈折 ( inflection ) ・ 時制 ・ アスペクト ・ 動詞の一致 ・ 節のモダリティ 動作を受ける対象 =意味的な目的語

統率・束縛理論( GB 理論)  例: “ Mary was fired ” (基底構造) ⅱ) s-structure S NP INFL VP V VP V NP Mary i PAST be fired e i

統率・束縛理論( GB 理論)  LF について  意味解釈に関連する情報を与える  数量詞や疑問詞のスコープなどを取り扱う “Two languages are spoken by most people” ① [Two languages are spoken by [most people]] ふたつの言語が多くの人々に話されている ② [most people][Two languages are spoken by e i ]] 多くの人々は言語を二つ話す (α 移動 ) → most people > two languages → two languages > most people

統率・束縛理論( GB 理論)  GB 全体の構成 d -構造 ( d-structure ) s -構造 ( s-structure ) 論理形式 ( Logical Form, LF ) α 移動 X’ 理論, θ 理論 投射原理, θ 基準 格フィルタ 空範疇原理 束縛理論 制御理論

X ’ 理論  X ’ 理論  ある言語の異なる句の内部構造に同様のパター ンを見出すことができるという考え方  句構造規則を用いず、 X ’ のテンプレートにより 適格かどうかを判断 英語: 動詞は目的語の前 日本語: 動詞は目的語の後

X ’ 理論  X ’ スキーム  d-structure の適格条件を部分ごとに表す (主要部の最大投射) X ’’ X ’ (主要部の投射) 項 指定句 (specifier) 修飾句 (modifier) X (主要部) NP N’N’ PP/S ’ Det N 例:名詞句 NP

X ’ 理論  文の構造 S’S’ S VP COMP ( 補文標識 ) = that,for 修飾句 (modifier) INFL =主要部 NP

X ’ 理論  X ’ 対応表 XX’X’ X ’’ NN’N’ NP VV’V’ VP AA’A’ AP PP’P’ PP INFLSS’S’

X ’ 理論  範疇素性 [+N] [ ー N] [+V]AV [ ー V] NP 例: consider consider は補語としてとれる範疇は [+N] = 補語として A,N を とる

X ’ 理論  下位範疇化について  句構造規則体系において PS 規則が担っていた情 報は、主要部の下位範疇化フレームが担う 下位範疇化は任意に生成された句構造を フィルタする装置として使用できる c- 選択 動詞は最大投射の集合( S ’,NP,VP,AP,PP )のあ る 部分集合を c- 選択する( c-select )という

投射原理  投射原理 ( Projection Principle )  各統語レベルにおける表示は、語彙項目の下位 範疇化特性を守っているという意味で、辞書部門 から投射されたものである  「全ての節は主語を持つ」という付則を伴うと、 拡大投射原理 (Extended Projection Principle) が得られる d-structure,s-structure,LF の間の写像に関する制 約 「あるレベルのある構造に NP の位置にあれば、 その NP の位置は全てのレベルで存在しなければなら ない」

θ 理論  θ 役割 ( θ-role )  項に関する意味的情報を与える ex) find NP を一つと る :下位範疇化 動作主( agent )と主題( theme )をとる : θ 役割

θ 理論  θ 役割 ( θ-role )  主要部の辞書項目に書き込まれており、主要部 の項構造 ( argument structure ) と呼ばれる ex) donate, V,, ( 動作主, 主題, 目標 ) 外的な項 内的な 項 外的な項‥‥特徴が動詞句全体で決まる 内的な項‥‥特徴が動詞で決まる

θ 理論  θ 役割 ( θ-role )  動詞の辞書記述に何らかの形で主語の位置に対 する意味役割の位置を記載しておかなければなら ない

θ 理論  θ 役割付与 ( θ-marking )  d-structure において付与される  主要部の項構造の数とその主要部が付与する θ 役割を受け取る数の一致に関しては θ 基準によりな される VP INFL NP S V 外的 内的

θ 理論  θ 基準  各項はただ一つだけの θ 役割を持ち、また各 θ 役 割はただ一つの項に付与される → 各主要部が統語的にとれる項の数は、 主要 部に対して辞書で指定されている項の 数と一 致する

θ 理論  下位範疇化と θ 役割付与( θ マーキン グ)  もし α が β の占める位置を下位範疇化するとき、 α は β を θ マークする → 意味役割 ( thematic ) 条件と下位範疇化条 件が 各レベルで投射されることを保証する

構成素統御と統率  c -統御 ( c - command )  α が β を c -統御するのは、 α を支配する全ての最大投射が β を支配すると き また、そのときに限る S’S’ VP PP NP 1 V’ VNP 2 V は NP 2 を c-command する V は PP を c-command する V は NP 1 を c-command しな い

構成素統御と統率  統率 ( government ) a. α が β を c- 統御する b. α が統率子( N,V,P,A,INFL )である c. β を支配する全ての最大投射が α をも支配する 以上を満たす場合に限る

構成素統御と統率  統率 ( government )  通常姉妹関係に限られるが、補文をとる動詞の 場合には例外がある VP S V NPVPINFL VP S’ V COMP S NPVPINFL S 補語 S ’ 補語

構成素統御と統率  統率 ( government )  ある範疇 β が別のある範疇 α の領域にあるのは、 α が β を統率する場合に限る S ’ = α S VP = β COMP INFL NP α の領域

構成素統御と統率  統率 ( government )  統率されている構造の下で起きること 下位範疇化が満たされる 内的 θ 役割の付与がなされる 格付与がなされる ECP (空範疇)が(部分的に)満たされる

α 移動  α 移動 ( α-move)  NP 移動: NP に作用する移動変形  任意要素を任意範疇に移動する ex) 受動文における NP 移動 d-str: [ NP ] INFL kiss-en Bill s-str: Bill i INFL kiss-en e i 空範疇 A A * 空範疇 : α 移動によって空にされた NP 位置 = NP 痕跡 受動化形態素: 外的 θ 役割を 抑制する

α 移動  wh- 移動: wh- 句に作用する移動変形 ex) “Who Bill saw?” について d-str: [ comp ] Bill INFL see who s-str: [ comp who i ] Bill INFL see e i wh- 痕跡 A A

α 移動  連鎖 ( chain )  移動の痕跡は、移動が起こったことを示すため、 移動した NP と同じ指標をつけられる。この一対の NP と e を連鎖と呼び、( Bill,e )と表記する  連鎖は θ 役割を一つのみ持ち、全ての θ 役割は連 鎖に対して付与される

α 移動  位置について  θ 役割が与えられる位置を θ 位置、そうでない 位置を θ (シータバー)位置  「核的な( core )」文法的位置(主語、目的 語など)を A 位置、「周辺的な( peripheral )」 位置( COMP など)を A 位置  全ての移動は θ 位置から θ 位置への移動  NP 移動は A 位置から A 位置への移動  wh- 移動は A 位置から A 位置への移動

同一指標付け  同一指標付け a. d- 構造で[ NP,S] と AGR を同一指標化せよ b. α 移動は指標を作り、かつ、それを保持する c. s- 構造で全ての A 位置に対して自由に指標をつ けよ

同一指標付け  a. について S VP INFL i NP i AGR i * AGR ‥‥ INFL の一致  主語 NP と AGR が同じ指標を与えられ、規約 ( convention ) により INFL もその指標を持つ d- 構造

同一指標付け  b. について  c. について  s- 構造において、全ての A 位置が指標を持ち、 移動先になった A 位置も指標を持つ  s- 構造において、全ての A 位置が指標を持つ ことを保証している

移動について  着陸地点 ( landing site )  移動先になれる位置 ex ) θ 位置である主語位 置

移動について  移動について  可能な移動 [NP,S] 位置への移動( NP 移動) COMP への付加( wh- 移動 /wh- 解釈規則) S への移動( QR )

移動について  wh- 解釈規則 ( wh-construal )  統語部門で動かされなかった全ての wh- 区を COMP に移す ex) “Who ate what?” について d-str: [ S ’ [ COMP ]] [who INFL eat what]] s-str: [ S ’ [ COMP who i ]] [e i INFL eat what]] LF : [ S ’ [ COMP what j [ COMP who i ]] [e i INFL eat e j ]]

移動について  付加 ( adjunction )  α に β を付加すると α と β を直接支配するもう一つ の新しい α ができる ex) LF での数量詞 NP の移動 = QR ( Quantifier Raising, 数量詞繰り上 げ) s-str: [ S an oak i INFL grow from every acorn j ] LF : [[ S every acorn j ] [ S an oak i INFL grow from e j ]] → S に句を付加する

下接の条件  下接の条件 ( subjacency )  α 移動のどんな適用も境界接点を一つ以上超え てはならない

下接の条件  ピットストップ ( pit-stop ) 特性  境界接点を NP と S であるとしたとき、補文節か らは「長距離」移動が可能となる the man who i [ S I think [ S ’ that [ S you said [ S that [ S you had seen e i ]]]]] ex)

下接の条件  ピットストップ ( pit-stop ) 特性  関係節あるいは埋め込み疑問文では移動できない the man who i [ S I identified [ NP the dog [ S ’ which j [ S e j bit e i ]]]]] ex) the man who i [ S I wonder [ S ’ which woman j [ S e i married e j ]]]