認知症を理解し 環境の重要性について考える 福祉住環境コーディネーター 2015年3月29日(日) 認知症を理解し 環境の重要性について考える 東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科 認知症介護研究・研修仙台センター 加藤伸司
認知症介護研究・研修センター 国の補助事業として平成12年度に「高齢者痴呆介護研究・研修センター」が全国3カ所に設置され、認知症介護に関する研究を行うとともに、認知症介護に関する研修システムを整備し、認知症介護の専門家を養成して全国の高齢者施設や在宅サービスの現場にその成果を普及させることになった。 東京センター 仙台センター 大府センター
認知症を理解する
(1)認知症の実態を理解する (事例を提示)
認知症の実態(2013年) 65歳以上の6.6人に一人 認知症高齢者の実数は 462万人 有病率は6.3%(85年調査)→ 15% 認知症高齢者の実数は 462万人 有病率は6.3%(85年調査)→ 15% (出現率) 85歳以上 → 約40% 90歳以上 → 約60% 95歳以上 → 約80% (厚生労働省研究班 朝田隆)2013.6.1.
(2)通常のもの忘れと 認知症の症状の違い 早期発見のポイント
生理的老化と認知症の違い 【生理的老化:健忘】 一部分のもの忘れ 自覚がある 進行しない 見当識は保たれる 行動上の問題はない 【生理的老化:健忘】 一部分のもの忘れ 自覚がある 進行しない 見当識は保たれる 行動上の問題はない 生活に支障はない 【認知症の症状】 体験全体のもの忘れ 自覚がない 進行性で悪化する 見当識障害の出現 行動・心理症状(BPSD)の出現 生活に支障をきたす
(3)認知症という病気を理解する 疾患別の特徴
アルツハイマー型認知症 (脳の萎縮) 第1期:健忘期 第2期:混乱期 緩慢な発症 第3期:終末期 全般性の症状 ゆっくりと確実に進行 *アルツハイマー型痴呆の原因 脳の萎縮性の痴呆であり、1906年にアルツハイマーが報告した症例が最初 (51歳で嫉妬妄想から始まり、進行性の痴呆を示して4年半後に死亡) *脳の萎縮とアルツハイマー原繊維変化などを特徴とする。原因は不明。 *65歳以前の発症をアルツハイマー病、それ以後を老年痴呆とよんでいた。 その後、SDAT→アルツハイマー型痴呆→早発性、遅発性と変化していった。 (アルツハイマー型痴呆の3つの特徴) 1)緩慢な発症 最初はもの忘れ程度なので、発症が見逃されやすい。ゆっくりと発症して あとから発症時期が確認されることが多い。 2)全般性の痴呆 脳の萎縮は一般に海馬→側頭葉→前頭葉のように進んでいく。 もの忘れから始まって多様な知能の機能低下を示す。 3)ゆっくりと確実に進行 進行性の痴呆の代表的なものであり、ゆっくりとしかも確実に進行していく (近年進行を遅らせる薬はでてきている) ゆっくりと確実に進行
脳血管性認知症 (脳卒中や脳梗塞が原因) 発作 再発作 急激な発症 再発作 まだら状の症状 階段状の進行 *脳血管性痴呆の原因 脳出血や脳梗塞が原因で起こるものが多い。脳梗塞の中でも大きな梗塞で 痴呆が出現することよりも、小さな梗塞巣が多発した場合に起こりやすく、 多発梗塞性痴呆とよばれる。 (脳血管性痴呆の3つの特徴) 1)急激な発症 痴呆の原因が脳梗塞や脳出血であるために、発作とともに痴呆が出現する 2)まだら状の痴呆 痴呆の症状は、障害を受けた部位とその大きさに依存する。したがって障害 を受けた場所によって症状が異なる。はっきりと残されている機能があると 思えば、非常に重度な部分があるなど症状がまだら状に現れる。 3)階段状の進行 発作によって比較的急激に痴呆の症状が現れるが、再発作を起こすたびに 症状が悪化していく。階段状の進行を示す。 階段状の進行
レビー小体型認知症 レビー小体という小胞体が大脳皮質にまで及ぶことによって起こる認知症 幻視やパーキンソン症状を合併することが特徴で、一日の内で症状が変動する。
前頭・側頭型認知症 前頭葉と側頭葉が限局して萎縮することによって起こる認知症 人格の変化や抑制の欠如、常同行動(いつも決まりきった行動をとる)などが特徴。
認知症の人にとって大切な 2つの環境 【人的環境】 ・なじみの人 ・安心できる人 ・優しい人 ・頼りになる人 【物理的環境】 ・なじみの環境 【人的環境】 ・なじみの人 ・安心できる人 ・優しい人 ・頼りになる人 【物理的環境】 ・なじみの環境 ・安心できる環境 ・安全な環境 ・分かり易い環境 (大きな環境) 建物構造や部屋の配置 (小さな環境) 物の配置やしつらえ
(4)認知症の中核症状を理解する
認知症症状の中核症状と行動・心理症状 中核症状(脳の器質的変化) 行動・心理症状(心理・社会・環境要因) 中核症状 行動・心理症状 中核症状 行動・心理症状 (一次要因) (二次要因)
質の高いケアを提供することによって中核症状を抑え 行動・心理症状の改善を図ることがケアの目標 行動・心理症状の改善による認知症症状の変化 (行動・心理症状) (行動・心理症状) 中核症状 中核症状
認知症に見られる中核症状と対応 もの忘れを責めずに根気よく対応する (見当識の障害) 生活リズムや生活環境を整える 複雑なことを伝えず、 (記憶障害) 直前のもの忘れが起こる もの忘れを責めずに根気よく対応する (見当識の障害) 時間・場所・人の失見当 生活リズムや生活環境を整える (判断力の障害) 記憶障害による判断力低下 複雑なことを伝えず、 判断材料を限定する (実行機能の障害) 手順や段取りの障害 一度に伝えず、ひとつひとつの言葉かけをする
もの忘れ・見当識の障害・判断力の障害・実行機能の障害など 中核症状と環境との関係 もの忘れ・見当識の障害・判断力の障害・実行機能の障害など
さっきのことが分からない (記憶障害) ・昔のことは覚えているけど直前 のことが分からない ・先ほど行ってきた場所、先ほど のことが分からない ・先ほど行ってきた場所、先ほど 会った人、先ほど話したこと、先 ほど聞いたことなど、「先ほど」 のことが分からない。
もの忘れが起こったら 【人的環境】 ・否定しない ・責めない ・繰り返しの対応 ・安心できる言葉 (なじみの人) 【物理的環境】 【人的環境】 ・否定しない ・責めない ・繰り返しの対応 ・安心できる言葉 (なじみの人) 【物理的環境】 ・メモやボード利用 ・日課を明示 ・分かり易い環境 (なじみの環境)
日にちや時間が分からない (時間の見当識障害) ・時間が分からない ・日にちが分からない ・季節が分からなくなる
日にちや時間が分からなくなったら 【人的環境】 ・会話の中に季節 の話題を入れる ・会話の中に時間 の情報を入れる 【物理的環境】 【人的環境】 ・会話の中に季節 の話題を入れる ・会話の中に時間 の情報を入れる 【物理的環境】 ・カレンダーや時計 を分かり易く表示 ・日課を明示 ・季節ごとの飾り付 け
ここがどこだか分からない (場所の見当識障害) ・場所の見当識障害は、道に迷うこ とだけではない。 ・家の中の位置関係が分からなくなる。(電気のスイッチの場所、トイレの場所、台所の場所、スプーンが入っている場所・・・・) ・家の中で迷子状態になるということ
家の中の場所が分からなくなったら 【人的環境】 ・会話の中に安心できる場所であることを伝える。 ・自分の居場所であることを伝える 【人的環境】 ・会話の中に安心できる場所であることを伝える。 ・自分の居場所であることを伝える 【物理的環境】 ・家の中の様子が分か る環境 ・分かり易い配置 ・なじみの物を周囲に配 置する ・模様替え等は避ける ・古い生活習慣を利用 (電気はスイッチではなく、紐を下げる等) ・トイレの場所を分かりやすくする
周りの人が分からない (人物の見当識障害) ・自分の周りの人が誰だか分から ない ・知らない人に囲まれて不安
周りの人が分からなくなったら 【人的環境】 ・関係性を伝える ・周囲の人は本人のことを知っているということを伝える。 【物理的環境】 【人的環境】 ・関係性を伝える ・周囲の人は本人のことを知っているということを伝える。 【物理的環境】 ・本人の写真や家族と一緒の写真を飾ること等 ・自分の居場所づ くり(なじみの環境)
(5)認知症の行動・心理症状 (BPSD)を理解する
(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia) 「問題行動」というとらえ方 徘徊・妄想・攻撃的行動・不潔行為・異食などの行動をケアを困難にさせる行為としてとらえる(介護者の視点) 認知症の行動・心理症状(BPSD)というとらえ方 (主な行動症状) 徘徊・攻撃性・不穏・焦燥・不適切な行動・多動・性的脱抑制など (主な心理症状) 妄想・幻覚・抑うつ・不眠・不安・誤認・無気力・情緒不安定など (行動の障害ではなく、認知機能障害が原因という視点) 認知症の行動・心理症状(BPSD) (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia) 脳の障害・身体要因・環境要因等様々な原因によって起こる行動上の症状と 心理学的な症状を合わせた考え方 (複雑に作用して起こる)
BPSDの基本的理解 認知機能障害による思考や行動の混乱 時間・場所・人物の見当識の障害、現実検討力の低下、判断力の低下など 時間・場所・人物の見当識の障害、現実検討力の低下、判断力の低下など しかし行動自体は本人の目的に沿った行動であるという理解 帰ろうとする行為、盗られたという反応、拘束されることに対する反発など
(6)認知症の行動・心理症状 (BPSD)はなぜ起こるのか
行動・心理症状(BPSD)の出現原因 身体不調 ストレス 不適切な環境 行動・心理症状(BPSD) (心理症状) (行動症状) 徘徊・攻撃性・不穏・焦燥・不適切な行動・多動・性的脱抑制など (心理症状) 妄想・幻覚・抑うつ・不眠・不安・誤認・無気力・情緒不安定など 認知機能障害 (中核症状) もの忘れ 見当識障害 判断力障害 □認知症の行動・心理症状の出現原因について考えてみましょう。 □行動・心理症状はなぜ現れるのでしょうか。 □たとえば、アルツハイマー型認知症にみられる忘れや見当識障害、判断力の障害などの中核症状はほとんどの認知症の人に見られるものです。 □一方徘徊や妄想、攻撃的行為などのBPSDは全ての認知症の人に見られる症状ではありません。 □行動・心理症状は、一次要因とも呼ばれる中核症状に、身体不調やストレス、不適切な環境、不安感、不快感、不適切なケアなど二次的な要因が作用して起こると考えられています。 不安感 不快感 不適切なケア (認知症の中核症状に様々な要因が加わって出現するのがBPSD)
BPSDはなぜ起こるのか もの忘れや見当識障害、判断力の障害などの中核症状はほとんどの認知症の人に見られる 徘徊や妄想、攻撃的行為などのBPSDは全ての認知症の人に見られる症状ではない。 認知機能障害(一次要因)が基本にあり、それに身体的要因や心理社会的要因、環境要因など(二次要因)が作用しておこるのがBPSD
(7)認知症の人の心理的特徴
認知症の人の心理的特徴 持続する不安感 常に不安な状態にある 慢性的な不快感 焦燥感 慢性化した不愉快な気持ち 焦燥感や怒りの感情 被害感 持続する不安感 常に不安な状態にある 慢性的な不快感 慢性化した不愉快な気持ち 焦燥感 焦燥感や怒りの感情 被害感 被害的になり訂正が困難 混乱 判断力が低下し混乱する 感情の変わりやすさ ちょっとした刺激に反応する 自発性の低下とうつ状態 行動力が低下し落ち込む
(8)パーソンセンタードケア (その人を中心に据えたケア)
パーソンセンタードケア 疾病や症状を対象としたアプローチではなく、生活個体を対象にしたアプローチに重点を置く考え方 サービス提供者側が選択するのではなく、利用者を中心にして選択するケア Personhood:本人の自分史、本人の物語をケアの中心に置く内的体験を聴くことにケアの原点を置く考え方 (T.Kitwood)
△ 認知症の人 ○ 認知症の人 認知症の人のとらえ方 △ 認知症の人 ○ 認知症の人 これまでのケアは認知症を「病気」としてとらえ、人を中心に考えてこなかった。病気の理解は大切だが、病気を抱えた人を理解するという視点が大切。
認知症だけをとらえるとケアの限界が見える 認知症ケアの限界・可能性 認知症だけをとらえるとケアの限界が見える 人ととらえるとケアの可能性が広がる
(9)困ったときの考え方 パーソンセンタードの立場
困ったときの考え方 (相手をコントロールする前に自分を振り返ってみる) ①それは本当に問題なのか ②どうしてそれが問題なのか ③誰にとっての問題なのか ④行動によって何を伝えようとしているのか ⑤生活の質を高める方法で解決できないか 人的環境と物理的環境を整えることも重要
家族の理解と支援を考える
(10)認知症介護の問題点
1.介護者の抱える問題 認知症高齢者の介護者の半数以上にうつ状態が認められるという報告もある。 認知症の人の世話をする家族がうつ病や不安症状などの精神疾患を持つ傾向があり,身体的にも不健康を強いられている現状がある。
介護者の訴える介護負担 この先もお世話を 続けることが負担 便・尿失禁 自分の身の回りの 放尿 ことができない 本人に伝えたいこと が伝わらない 自由になる 時間がほしい 症状の経過が 分からない 身の回りの お世話が負担 本人の話す内容が 分からない 自分が 身体不調
3.認知症介護特有の問題点 認知症高齢者に認知機能障害があること 介護者のいっていることをなかなか理解してくれず、何度も同じことをくりかえさなければならない 介護に対する精神的なねぎらいが少ないこと 介護の大変さを周囲から理解してもらいにくく、しかも介護を受ける本人からも感謝のことばを期待できなこと
認知症の人と介護者との間に起こる悪循環 行動・心理症状(BPSD) 不 適 切 な ケ ア 不安感 負担感 不快感 不快感 焦燥感 不安感 混 乱 被害感 ストレス 負担感 不快感 不安感 イライラ 不満 ストレス 認知症の人 介 護 者 不 適 切 な ケ ア BPSDの出現で介護者が混乱し、不適切なケアが行われることによってBPSDが悪化するという悪循環が起こる
(11)認知症の介護を担う 家族を支援する
家族支援と家族のこころがまえ 1.家族支援を含めた認知症介護の視点 2.認知症高齢者を抱える家族の心構え ①介護者が健康であること ①介護者が健康であること ②手伝ってくれる人をさがすこと ③相談する人や場所があること ④サービスを効果的に利用すること *上手に手を抜くこと
介護家族の負担軽減のために 家族が認知症という病気を正しく知ること 自分一人で抱え込まないこと 愚痴をこぼす相手を探すこと 上手に手を抜くこと 介護の限界を考えておくこと 限界がきても罪悪感を持たないこと *在宅で介護することが最善とは限らない
どんな障害を抱えても、その人が住み慣れた地域でその人らしく生活する社会を目指して 認知症サポーターの人数 5,800,329人(平成26年12月末現在) 認知症の問題は人ごとではありません。私たち家族の問題であり、地域の問題でもあります。認知症介護を家族だけに任せるのではなく、地域で支えるという視点を持ちましょう。