腫瘍学概論 埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 緩和医療科/緩和ケアチーム 奈良林 至 精神腫瘍学の基本教育のための都道府県指導者研修会 2007.10.13-14 腫瘍学概論 埼玉医科大学国際医療センター 包括的がんセンター 緩和医療科/緩和ケアチーム 奈良林 至 E-mail: mnarabay@saitama-med.ac.jp
わが国の死亡統計 総死亡者数 108.4 万人 疾患別死亡率の推移 1. 悪性新生物 32.6 万人 2. 心疾患 17.3 万人 総死亡者数 108.4 万人 疾患別死亡率の推移 (2005年) 253.9 (2004年) 1. 悪性新生物 32.6 万人 2. 心疾患 17.3 万人 3. 脳血管疾患 13.3 万人 ・・・ 6.自殺 3.1 万人 7.老衰 2.6 万人 【男】 肺 22.3% 胃 17.2 肝 12.5 【女】 胃 14.2% 肺 12.3 結腸 10.6 (いずれも2003年) (厚生労働省人口動態統計より)
がん患者の精神科的有病率 診断あり 47% 適応障害 68% 大うつ病 13% 8% 器質性精神障害 米国東部の 3つの Cancer Center に通院・入院している歩行可能な患者215名を無作為に抽出し、DSM-III を用いて調査した。 診断あり 47% 診断なし 53% その他 適応障害 68% (抑うつ気分,不安) 大うつ病 13% 8% 11% 器質性精神障害 (せん妄など) (Derogatis LR, et al: JAMA 249: 751-757, 1983)
がん治療の流れ 治癒 死亡 検査/診断 悪性 良性 病期分類 手術可能 手術不能 緩 和 ケ ア 手術 化学±放射線療法 再発 対症療法 X線(単純撮影,CT) 骨シンチ MRI (PET, 超音波断層) がん細胞の証明 が不可欠! (組織診,細胞診) (+検査) 病期分類 手術可能 手術不能 緩 和 ケ ア (±術前化学療法) 手術 化学±放射線療法 (±化学/放射線療法) (研究的治療を含む) 再発 対症療法 ターミナルケア 治癒 死亡
がんの治療 局所療法 全身療法 手術 放射線 薬物療法 殺細胞性薬剤 cytotoxic agents 内分泌療法剤 分子標的薬剤 これまで‘抗がん剤’ といわれていた薬剤 殺細胞性薬剤 cytotoxic agents 内分泌療法剤 分子標的薬剤 サイトカイン その他 imatinib(グリベック®),gefitinib(イレッサ®), trastuzumab(ハーセプチン®),rituximab(リツキサン®), bevacizumab(アバスチン®)
腫瘍内科学 Medical Oncology 特定のがん腫にとらわれない臓器横断的な診療 米国では9000名の腫瘍内科医 消化器がん 肺がん 乳がん その他のがんや肉腫 原発不明がん etc. (※ 血液腫瘍は hematology-oncology として独立) がん薬物療法を中心に良質ながん医療を提供 標準的薬物療法 《薬物療法の限界も理解する》 研究的治療(臨床試験,治験) 緩和医療 6
悪性腫瘍に対する化学療法の有効性 A群:治癒が期待できる B群:延命が期待できる C群:症状緩和が期待できる D群:効果は少ない 急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、Hodgkin病、 非Hodgkinリンパ腫(中・高悪性度)、胚細胞腫瘍、絨毛がん B群:延命が期待できる 乳がん、卵巣がん、小細胞肺がん、大腸がん、膀胱がん、骨肉腫、 多発性骨髄腫、非Hodgkinリンパ腫(低悪性度)、 慢性骨髄性白血病 C群:症状緩和が期待できる 頭頚部がん*、食道がん*、子宮がん*、軟部組織悪性腫瘍、 非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、前立腺がん、脳腫瘍、腎がん ( * 放射線治療との併用) D群:効果は少ない 肝がん、甲状腺がん、悪性黒色腫 (がん診療レジデントマニュアル(第4版),医学書院,2007)
術前・術後の薬物療法 術後治療の有用性が証明されているがん腫 術前治療の有用性が証明されているがん腫 ・ 乳がん ・ 乳がん (温存の場合は+放射線治療) ・ 卵巣がん ・ 大腸がん ・ 子宮体がん ・ 非小細胞肺がん ・ 胃がん ・ 膵がん 術前治療の有用性が証明されているがん腫 ・ 膀胱がん ・ 乳がん ・ 喉頭がん ・ 骨肉腫 ・ 小児固形腫瘍
「進行・再発がん患者に抗がん剤治療を行えば、がんを治すことができる?」 No ! 初めての抗がん剤治療 一部のがんを除いて、 延命効果 あり 2通り目以降の抗がん剤治療 一部のがんを除いて、 延命効果 なし(証明されていない)
がん薬物療法適応の原則 PS (ECOG): その薬物療法が、そのがん腫に対して標準的治療またはそれに準ずる治療法として確立されていること。 患者のperformance status (PS)、栄養状態が良好なこと。 適切な臓器機能(骨髄,腎,肝,心,肺機能など)を有すること。 ICが得られていること。 高齢者では慎重に判断。 PS (ECOG): 0 無症状で社会的活動ができ、制限をうけることなく発病前と同等にふるまえる 1 軽度の症状があり、肉体労働は制限をうけるが、歩行、軽労働や座業はできる 2 歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助がいることもある。軽作業はできないが、日中50%以上は起居している 3 身の回りのことはある程度できるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している 4 身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている (がん診療レジデントマニュアル(第4版),医学書院,2007 を加筆修正)
標準的治療と臨床試験 標準的治療 臨床試験 国、地域、施設に関わらず再現性が証明できる 完全治癒 延命効果 再発予防 症状の緩和 臨床試験 予防、診断、治療などの診療方法の有用性を評価するために行うヒトを被験者とした計画的な試験で、予め準備された試験実施計画書(プロトコール)に基づいて施行される。 - 第Ⅰ相試験 - 第Ⅱ相試験 - 第Ⅲ相試験 - 第Ⅳ相試験(市販後調査など) あくまでも、対象者の自由意志によって決定されなければならない 治験: 薬事法下で企業が新薬の製造承認、 または輸入承認の申請に必要な臨床 データを得るために、臨床的な有用性 (有効性)を検討することを目的として 行う臨床試験
化学療法:入院から外来へ 抗がん剤、支持療法の進歩 医療者、患者の意識の変化 医療経済 ・ 平均在院日数の短縮 ・ 平均在院日数の短縮 ・ 診断群分類別包括評価 DPC の導入
ポート,携帯型ポンプ,パンフレット
肺がん 小細胞肺がん 非小細胞肺がん 早期がんと考えても潜在的に遠隔転移を起こしている可能性 放射線療法と化学療法に高い感受性 限局型(LD) 95 28 30 進展型(ED) 85 9~11 10 奏効率 (%) MST* (月) 3生率 * MST: median survival time, 生存期間中央値 非小細胞肺がん 腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん 生物学的特性と治療の反応性が類似 共通する治療戦略 放射線や化学療法に対する感受性が中程度 Ⅰ期 Ⅱ期 IIIA 期 切除後 5生率(%) 70 50 20~30 切除不能Ⅲ期 Ⅳ期 16 8~10 MST* (月)
非小細胞肺がん IV期症例に対するプラチナ製剤を含む 2剤併用療法は効果に有意差なし。 抗がん剤治療により予後は延長する! (NSCLC Collaborative Group. BMJ 311: 899-909,1995) 抗がん剤治療により予後は延長する! (Schiller, JH. NEJM 346:92-98,2002)
5生率: 91.2% 80.9% 54.7% 9.4% (http://ganjoho.ncc.go.jp/public/cancer/stomach/treatment_01.html)
肝細胞がん hepatocellular carcinoma, HCC 95.6% 肝臓がん 肝細胞がん hepatocellular carcinoma, HCC 95.6% 特徴: 日本の肝細胞がんの多くはウイルス性肝炎(C型,B型)から発症。肝炎ウイルスに感染後、慢性肝炎から肝硬変へと進展していく過程で発癌することが多い。 症状: 無症状のことが多い。経過観察の検査や肝硬変の症状(食欲不振、腹水、黄疸、食道・胃静脈瘤の出血など)で発見。 治療: がんの病期と肝臓の予備能を考えて治療。外科的には手術による肝切除、肝移植など。内科的には経皮的エタノール局注療法 (PEI)、ラジオ波焼灼術 (RFA) などの局所療法、肝動脈塞栓療法 (TAE)、肝動注化学療法 (TAI) などの経肝動脈治療が行われる。 遠隔転移を有する進行例に全身化学療法が行われることがあるが、標準的治療は確立していない。 予後(5生率): 肝切除 52.3%,PEI 48.8%,TAE 20.9%
切除不能進行・再発大腸がんの薬物療法 ■ FOLFOX6* ■ FOLFIRI 30分 120分 46時間 l-LV 200mg/㎡ L-OHP* 100mg/㎡ 5-Fu 持続静注 2400~3000mg/㎡ 制 吐 剤 5-Fu 静注 400mg/㎡ 《* mFOLFOX6: L-OHP 85mg/㎡(保険承認用量)》 ■ FOLFIRI 5-Fu 静注 400mg/㎡ l-LV 200mg/㎡ 5-Fu 持続静注 2400~3000mg/㎡ 制 吐 剤 CPT-11** 180mg/㎡ 《** CPT-11の保険承認用量は 150mg/㎡》 30分 90分 46時間
乳がん薬物療法の多様性 進行再発乳がん 術後治療 術前治療 ±Chemotherapy ±Hormone therapy x ±Hormone therapy x x 【5年生存率】 stage Ⅰ 90.6% stage Ⅱ 78.6% stage ⅢA 64.1% ⅢB 33.0% stage Ⅳ 10.9% ±Trastuzumab x ±Others
食道癌治療のアルゴリズム Stage 0 Stage I,II,III (T1b-T3) Stage III(T4), IVa Stage IVb 術前療法 内視鏡的治療 外科治療 化学放射線法 放射線療法 化学療法 放射線療法 切除不能症例の治療 術後療法 (日本食道学会編 食道癌診断・治療ガイドライン 2007より)
化学放射線療法 スケジュール (JCOG*) 5週毎, x2 コース、 放射線総線量 60Gy 1W 2W 3W 4W 5W 6W 7W 8W Day1-5 Day8-12 Day36-40 Day43-47 5FU 400mg/m2 /day CDDP 40mg/m2 /day Radiation 2Gy/day responderに対し、4週毎, x2 コース 1W 2W 3W 4W 5W 6W 7W 8W Day1-4 Day29-32 5FU 800mg/m2 /day CDDP 80mg/m2 /day * JCOG: Japan Clinical Oncology Group
放射線化学療法の効果 【治療前】 【治療後】