第11回 2009年12月16日 今日の資料=A4・4枚+解答用紙 期末試験:2月3日(水)N2教室 社会の認識 「社会科学的発想・法」 第11回 2009年12月16日 今日の資料=A4・4枚+解答用紙 期末試験:2月3日(水)N2教室
5. 取引と契約法 5.1 契約法はなぜ必要か 契約法=政府による制裁の予告により、信頼できるコミットメントを提供 →契約法=政府による制裁の予告以外の形で信頼できるコミットメントを確保できれば、契約法は不要
無限繰り返しゲームによる〈協力〉関係の創発 相手の十分に大きなδ+自分側の報復の可能性→信憑性のある威嚇credible thread プレイヤーはプレイの経過・歴史を覚えている 完全に覚えておく必要はないが →エゴイスト同士の〈協力〉関係 契約法がなかったとしても!
法制度によるサポート 不正競争防止法 商品等主体混同行為の規制(2条1項1号) この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡〔等〕して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
著名表示の不正使用行為の規制(2条1項2号) 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡〔等〕する行為
契約法が機能する局面: 頼るシステムの切り替え? 新しく取引を開始する。 単発の取引。 継続的取引関係:うまくいっている間は契約法/裁判所は登場しない →うまくいかなくなると裁判所に出て行って清算。
5.2 契約の内容 契約=未来 《契約自由の原則》の系としての、《契約内容の自由》 →未来の事態を記述してあるのが、契約の内容 起こらないかも知れない事態、についても 《契約自由の原則》の系としての、《契約内容の自由》 --両当事者がその内容に〈合意〉すれば
“完全な契約” 将来起こり得るあらゆる事態について記述してある(=両当事者の合意した)契約 →事態が発生したら、その契約を見ればよい。どうすればいいかは書いてある。 --コースの定理の契約への応用例
前提①当事者の合理性 この前提が崩れた場合の法制度 行為能力制度 民法96条 e.g., 民法5条 (詐欺又は強迫) 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。 民法96条 (詐欺又は強迫) 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
特別法上のクーリング・オフ制度 一定期間の間、契約を撤回できる 訪問販売(特定商取引に関する法律)、割賦販売法etc.
前提②取引費用ゼロ 一定の範囲では取引費用は十分に低い→《契約内容の自由》 取引費用を引き下げるアプローチでの制度的支援 民法95条 (錯誤) 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。 民法96条
それでも、取引費用をゼロにするのは不可能 →“完全な契約”は書けず、ギャップは残る 取引費用+の場面では、むしろ当事者はギャップを残したほうがいい ∵将来の事態を想定して、対応策を考えて、それについて交渉して、合意して、契約に書き込む費用(=取引費用)>事後的に対応する費用×その事態が生起する確率
では、想定されていない事態が本当に生じてしまった場合、どうすればよいか 特に、当事者同士で決着が付かなかったので紛争を持ち込まれた裁判所はどうすればよいか “gap filler” “default rule” 「任意規定」としてどのようなものを採用すべきか
default ruleが問題となる状況 =契約に書き込まれていない事項がある =事前に配分していなかったリスクが現実に発生してしまった 些末なリスク 当事者は発生しないだろうと考えた or 発生する可能性があるにしてもわざわざ契約書に書き込むには高すぎる取引費用がかかると考えた
考え方①リスクを引き受けるのに適切な当事者 大抵の取引において、当事者は異なった立場 →あるリスクについてはXのほうが適切に対応できるが、別のリスクについてはYのほうが適切に対応できる 「適切に」=安価に・低コストで
例A 建築業者が学校の建築を請け負ったが、完成・引き渡し前に落雷で滅失した →裁判所は業者に責任を負わせた 例B 業者が喫茶店のエアコンの設置を請け負ったが、完了前に火災でエアコンごと喫茶店が滅失した →裁判所は業者の責任を認めなかった
例A →業者が建物全体を管理 例B →喫茶店全体を管理しているのは店主 落雷リスクへの対応もできるだろう 注文者としては手の出しようがない 避雷針を設置する 火災保険に入る 注文者としては手の出しようがない 例B →喫茶店全体を管理しているのは店主 火災リスクへの対応も店主のほうがうまくできる 業者には手を出せない
考え方②“多数派”ルール もし当事者がそのリスクについて交渉し合意していたならばするであろうやり方で、リスクを配分せよ --考え方①と一致 仮定的判断
その契約の当事者と同様の立場の多数派がするようなやり方で、リスクを分配せよ →多数派としては、わざわざそのことを契約に書き込む必要がなくなる →社会全体の取引費用低減
考え方③penalty default (少なくとも一方の)当事者が好まないルールをdefault ruleとせよ 商法578条 貨幣、有価証券其他ノ高価品ニ付テハ荷送人カ運送ヲ委託スルニ当タリ其種類及ヒ価額ヲ明告シタルニ非サレハ運送人ハ損害賠償ノ責ニ任セス
民法416条 (損害賠償の範囲) 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
少数派がdefault ruleを迂回する費用>多数派がそうする費用、かも →少数派が好むルールのほうを採用したほうがトータルの取引費用↓ 事後的に裁判所が訴訟を通じてギャップを埋めるコスト 情報を持っている当事者が嫌がるルールをdefault ruleとする→その情報を吐き出させる
ルール1をdefaultとするのが効率的な条件 ルール1とルール2 a1:ルール1を好む当事者の割合;a2:ルール2を好む当事者の割合 c1:defaultのルール2からルール1の契約条項に変更するコスト;c2(略) f1:ルール1を好む当事者がルール1を採用できなかった場合の非効率性から来るコスト;f2(略) b1:ルール1を好む当事者が、default=ルール2の場合に、実際にルール1に変更する割合;b2(略) ルール1をdefaultとするのが効率的な条件 a1 > (f2 + b2・(c2-f2) – b1・(c1-f1)) / (f1+f2)
次の(1)~(3)のX・Y間の事故について、抑止の観点からどのようなルールを設けるのが望ましいか、理由を付けて答えなさい。(現行ルールがどうなっているかは無視してよい。) (1) 業者Yが街中の工事現場で爆破作業をしたら、破片が飛んで通行人Xが負傷した。 (2) 医師Yが急患の呼び出しを受けて自動車を運転して病院へ向かった所、ボールを追いかけて道路に飛び出した子供Xと接触して負傷させた。 (3) 学生Yが教室の通路に荷物を置いていたら、他の学生Xがつまずいて転倒して負傷した。 この授業で取り扱った観点に照らすと、次の(4)~(5)の財は、政府が供給するのが望ましいか、市場を通じた民間の供給に任せるのが望ましいか、理由を付けて答えなさい。(現行ルールがどうなっているかは無視してよい。) (4) 生命にはかかわらない、伝染性のない急性の病気に対する医療。 (5) 歩行者・自転車用の新しい橋。隣の従来の橋まで5kmある。 (6) 担当教員はこの小テストの結果を見て期末試験の難易度を調整する予定である。あなたがこの小テストを頑張ることが共有地の悲劇をもたらすことを説明しなさい。 解答の順番は自由だが、いずれの問いに解答したか明記すること。各5点×6問=計30点。