熱力学の基礎 丸山 茂夫 東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻

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熱力学の基礎 丸山 茂夫 東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 2001年度「エネルギー機械工学概論」 熱力学の基礎 東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 丸山 茂夫 http://www.photon.t.u-tokyo.ac.jp/~maruyama e-mail:maruyama@photon.t.u-tokyo.ac.jp

Current Research Topics Generation of Carbon Nanotubes 1. Laser Furnace Technique 2. Raman Spectroscopy FT-ICR Mass Spectroscopy 1.Endohedral Metallofullerene 2.Precursor Clusters of SWNTs 3. Silicon Clusters Hydrogen Storage with SWNTs Heat Conduction with SWNTs Molecular Aspects of Phase Interface 1. Liquid Droplet and Vapor Bubble on Surface 2. Nucleation of Liquid Droplet 3. Nucleation of Vapor Bubble

熱力学(Thermodynamics) 熱力学(Thermodynamics) =巨視的世界のエネルギー収支 エネルギー(Energy) 運動エネルギー(Kinetic Energy) ポテンシャルエネルギー(Potential Energy) 力(Force) 仕事(Work) = 力距離

熱平衡状態(Thermal Equilibrium State) System Boundary Action 系(System)と周囲(Surroundings)との 境界(Boundary)を通じた相互作用 力学的作用(Mechanical Action) :仕事の交換 熱的作用(Thermal Action) : 熱の出入り 質量的作用(Mass Action) :物質の出入り 閉じた系(Closed System) : 質量的作用無し 開いた系(Open System):質量的作用有り 孤立系(Isolated System) : いずれの作用もない系 熱平衡状態(Thermal Equilibrium State) : 孤立系を放置し,変化が無くなった状態

熱力学第ゼロ法則 (The Zeroth Law of Thermodynamics) 系A, Bが熱平衡 (A~B) 系B,Cが熱平衡 (B~C) 系A,Cは熱平衡 (A~C) 系A,B,Cは,等しい温度(Temperature)にある Bを温度計(Thermometer)として A,Cの温度が等しいか否かを計れる

熱力学的状態(Thermodynamic State) 状態量(Quantity of State): 熱平衡状態での巨視的物理量(温度,圧力,体積など) 示強性(Intensive)状態量: 系の質量に比例しない(T,p) 示量性(Extensive)状態量: 系の質量に比例する量(V) 比状態量(Specific Quantity): 単位質量あたりの値 [比容積(Specific Volume)など] 熱力学的状態=拡張された熱平衡状態 局所平衡(系の部分部分が熱平衡状態)

物質の状態方程式(Equation of State) 熱平衡状態 必要最小な状態量(自変状態量)の関数で すべての状態量が表せる 均質物質(Homogeneous Substance)では 経験的に自変状態量が2個 関係式==>状態方程式(Equation of State) 状態線図の例: pv線図(pv-Diagram)

pv線図(pv-diagram)の例(1) 臨界点 (Critical Point) 圧縮液 (Compressed Liquid) 加熱蒸気 (Superheated Vapor) 飽和蒸気線 (Saturated Vapor Line) 飽和液線 (Saturated Liquid Line) 湿り蒸気(Wet Vapor) V

pv線図(pv-diagram)の例(2) 臨界圧力(Critical Pressure) 臨界温度(Critical Temperature) 臨界比体積(Critical Specific Volume) 臨界点 (Critical Point) 飽和蒸気線 (Saturated Vapor Line) 飽和液線 (Saturated Liquid Line) 飽和圧力(Saturated Pressure) 飽和温度(Saturated Temperature) V

pv線図(pv-diagram)の例(3) 臨界点 1-x x v’ v’’ x:乾き度(Dryness) 湿り蒸気(Wet Vapor) 飽和液と飽和蒸気が共存 V

気体の状態方程式(Equation of State) 理想気体(Ideal Gas)の状態方程式 R: 気体定数(Gas Constant) van der Waalsの状態方程式 a/v2: 分子間ポテンシャルによる圧力減少 b: 気体分子体積総和による自由空間体積減少

van der Waalsの状態方程式 (van der Waals Equation) p 臨界点 p/pc, v/vc, T/Tc: 換算圧力,換算体積,換算温度 (Reduced Pressure, Volume, Temperature) V

熱力学第一法則(1) (The First Law of Thermodynamics) 熱力学第一法則:孤立系の保有する エネルギーは一定に保たれる 状態変化(Change of State): 熱平衡状態(1)から熱平衡状態(2) 状態変化<=>周囲からの作用           (力学的作用,電気的作用,熱的作用)

温度の目盛り 力学的(摩擦仕事)で与えられたエネルギーに 比例する形で温度差T2-T1を決める. 力学エネルギー 系1 系2 温度 仕事と熱の作用効果の同等性 熱(Heat): 温度の異なる2物体が接触するとき 高温物体から低温物体へと移行する状態のエネルギー

熱力学第一法則(2) (The First Law of Thermodynamics) 熱平衡状態にある系に対して 保有エネルギーを状態量の一つに選べる. 保有エネルギー:系全体の力学的エネルギーを除いた 残りを取り扱う 内部エネルギー(Internal Energy) internal 分子の運動エネルギーやポテンシャルエネルギー 微視的分子系のエネルギー

熱力学第一法則(3) (The First Law of Thermodynamics) 熱平衡状態(1)の系が周囲からQの熱を受け, 周囲にLの仕事をして,別の熱平衡状態(2)に移った場合 工学系熱力学:系が外部にする仕事を正とする! 熱機関(Heat Engine)など サイクル(Cycle) :系の状態がある変化の後に 再びもとの状態に戻るとき 1サイクルでは元に戻るから 第1種永久機関(Perpetual mobile of the first kind): 1サイクルの間に仕事を発生するだけでそれ以外は 何の変化も残さないような装置

熱平衡状態(Thermal Equilibrium State) 熱平衡状態(1) (1) p Q L 熱平衡状態(2) (2) V

準静的過程 (Quasi-Static Process) 熱平衡状態 準静的過程 (Quasi-Static Process) dQ dL V p (1) (2) 熱平衡状態

V 準静的過程における力と仕事 圧力 p 外力 F(e) 体積 V dV dx ピストン断面積A dx p(e) p+dp 外力 F(e)+dF(e) V+dV dx V p p(e) dV dx dA

準静的サイクル過程の仕事 p 準静的 過程R (2) (1) 準静的過程R’ V1 V2 V pv線図上で囲む面積が仕事

体積変化以外の仕事(表面張力) 力の釣り合い 液滴が体積増加dVによって周囲になす仕事dL p(e) dr r p, V A A+dA r dr p(e) 表面エネルギー(Surface Energy)

排除仕事とエンタルピー (Displacement Work and Enthalpy) 体積Vの物質が収縮した とすると周囲から 回収されるエネルギー pV V エンタルピー(Enthalpy) 定圧条件下の変化,流動系での利用が便利

定常流動系(Steady Flow System) 断面A-Aで単位質量当たりに 移送されるエネルギー 流れ p A Q L w1 w2 z1 z2 注意:摩擦や抵抗があっても成立

比熱,内部エネルギとエンタルピ (Specific Heat, Internal Energy & Enthalpy) 定積加熱 cv: 定積比熱 (Specific Heat at Constant Volume) 定圧加熱 cp: 定圧比熱 (Specific Heat at Constant Pressure)

Joule-Thomsonの絞り膨張(Throttle Expansion) 理想気体の内部エネルギー Joule-Thomsonの絞り膨張(Throttle Expansion) p1, T1 p2, T2 細孔栓 断熱壁 実在の気体に対する実測のTは,小さい 気体の内部エネルギは, 分子の並進,回転,振動の運動で決まり, 分子間力に関係しない.

理想気体の比熱 Mayerの関係(Mayer Relation) 比熱比(Specific Heat Ratio) 完全ガスの比熱比 単原子分子:1.66 2原子分子:1.40 多原子分子:1.33

準静的過程(等温変化)(Isothermal change) p (1) 等温 (2) V

準静的過程(等圧変化) (Isobaric Change) p (1) (2) 等圧 V

準静的過程(等積変化)(Isometric Change) p (1) 等積 (2) V

準静的過程(断熱変化)(Adiabatic Change) (1) p 断熱 (2) V

準静的過程(ポリトロープ変化) (Polytropic Change) (1) n=0(等圧) p (2) n=1(等温) (2) (2) (2) n=(断熱) n=(等積) V

熱力学第二法則(1) (The Second Law of Thermodynamics) 可逆過程(Reversible Process) 系と周囲の変化を同時に戻せる過程 不可逆過程(Irreversible Process) 可逆サイクルと不可逆サイクル サイクル:状態が元に戻る過程 過程R 過程R’ 状態(1) =状態(2)

熱力学第二法則(2) (The Second Law of Thermodynamics) 仕事側から(Thomsonの原理) 仕事が熱に変わる過程は, それ以外になにも変化がないなら不可逆 ある温度の一物体から熱を奪い,そのすべてを仕事に変えるのみで それ以外に何の変化も残さない装置を作ることは不可能 熱側から(Clausiusの原理) 熱が高温物体から低温物体へ移る過程は, それ以外に何の変化も残らないなら不可逆 低温物体から高温物体へ熱を移すのみで,それ以外に 何の変化も残さないような装置を作ることは不可能

熱力学第二法則(3) (The Second Law of Thermodynamics) 不可逆現象 摩擦,電気抵抗,伝熱,拡散 流体粘性 Newtonの粘性法則 電気抵抗 Ohmの法則 熱伝導 Fourierの法則 物質拡散 Fickの法則

各熱平衡点で系の周りにはそれと同じ圧力, 準静的過程と可逆性 準静的過程は逆行可能な可逆過程 V p (1) (2) 経路上の熱平衡点の間隔を無限小 各熱平衡点で系の周りにはそれと同じ圧力, 温度の周囲が接し系と平衡している

カルノーサイクル(1)(Carnot Cycle) p Q1 Q2 T1等温線 L T2等温線 断熱線 断熱線 V

カルノーサイクル(2)(Carnot Cycle) 2つの独立なCarnot Cycle C1, C2 Q1 Q1’ p T1等温線 C1 L L C2 T2等温線 断熱線 Q2 断熱線 Q2’ 断熱線 断熱線 V

カルノーサイクル(3)(Carnot Cycle) C2を逆転:逆カルノーサイクル(Reverse Carnot Cycle) Clasiusの原理より 両辺は負になれない Q1 Q1’ p T1等温線 C1 L L ーC2 T2等温線 断熱線 Q2 断熱線 Q2’ 断熱線 断熱線 V

カルノーサイクル(4)(Carnot Cycle) さらに両方のサイクルを逆転すると Clasiusの原理より 両辺は正になれない カルノーサイクルの熱効率 両熱源の温度だけの関数

カルノーサイクル(5)(Carnot Cycle) Q1 カルノーサイクル C1, C2 T1 C1 p Q2 C1, C2の結合サイクル T2 C2 T3 断熱線 Q3 断熱線 V

絶対温度(Absolute Temperature) g(T)を新しい温度Tと定義:絶対温度 単位はK (Kelvin) 理想気体温度計の温度目盛りとも一致 T=0K : 絶対零度(Absolute Zero Point) 結局Carnotサイクルでは,

エントロピー(Entropy) この数値Sを エントロピー(Entropy) 断熱線ⅠとⅡの間のカルノーサイクル p 断熱線Ⅰに数値SⅠ, Q1 p Q2 断熱線Ⅰに数値SⅠ, これに上記Const.を加えて 断熱線Ⅱの数値SⅡ この数値Sを エントロピー(Entropy) 示量性状態量 T1 Q3 T2 Q4 T3 T4 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ V

物質のエントロピー(Entropy) 準静的過程a→b T=Const. c e d △adcと△bdeが同じ面積 となる等温線T サイクルa→b→e→c→a 仕事=0, 正味熱量=0 S S+dS p b a 等温変化c→eの間に物質が受ける 熱量は,任意の変化a→b間のもの dQと等しい 断熱線 断熱線 V

理想気体のエントロピー(Entropy)

等エントロピー変化(Isentropic Change) 準静的な断熱変化 状態図上の断熱線に沿う変化 等エントロピー変化 (Isentropic Change) S T S1 S2 (1) (2) 準静的 過程R 準静的過程R’ TS線図(TS-Diagram) 1サイクルの間に受ける熱量は, TS線図上でサイクルが囲む面積

各隣接2点は,温度Ti(e)の熱源Ri(Ti(e)) 不可逆変化を含むサイクル 準静的でなく,熱源と平衡でない 1 2 3 4 n n-1 i 各隣接2点は,温度Ti(e)の熱源Ri(Ti(e)) と作用して熱Qiを受ける 熱源 R1 R2 Ri Rn ・・・ Q10 Q1 L1 補助熱源R0 C1 Q2 C2 Qi0 Qi Ci Qn0 Qn Cn Q20 L2 Li Ln 逆カルノーサイクルCi + L 熱源 R1 R2 Ri Rn ・・・ 系 Q1 Q2 Qi Qn

Clausiusの不等式(Inequality of Clausius) 熱源R1, R2, ...,Rnは元に戻る 総合サイクル Thomsonの原理より

不可逆過程に対する第二法則 不可逆過程R (2) (1) 準静的過程R’ エントロピーの増大

可逆過程に対する第二法則 可逆過程R0 (2) 準静的過程R’ (1) R0’

第一法則と組み合わせた表現 体積変化仕事のみの場合 一般力のある場合

Helmholtz自由エネルギー (Helmholtz Free Energy) 相変化,化学反応,混合のある場合 V p 等積 等温等積変化 A B 等圧 等温 (均質物体) 系が外部にする仕事ーj(e)dXは,一般に Helmholtz自由エネルギーの減少量ーdFより小さい

Gibbs自由エネルギー (Gibbs Free Energy) 等温等圧変化 系が外部にする仕事ーj(e)dXは,一般に Gibbs自由エネルギーの減少量ーdGより小さい

環境と有効エネルギー(1) (Atmosphere and Available Energy) 定常流問題 Ha, Saから環境状態への変化 (1) (a) 熱Q 仕事L 流れ 環境(圧力pa, 温度Ta)

環境と有効エネルギー(2) (Atmosphere and Available Energy) エクセルギー(Exergy) エネルギー機器や装置は環境(Atmosphere)に囲まれて運転 環境からの不平衡状態が潜在能力