分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 鹿野 豊

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分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 鹿野 豊 量子測定のABC 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 鹿野 豊

測定とは何であろうか? 何か特性を知ろうとしたときに、何かとの対応関係 (測定器) を示すことによって、その知りたい特性を引き出すこと。 http://blog-imgs-24-origin.fc2.com/k/a/s/kasetusha/20080512112121.jpg 何か特性を知ろうとしたときに、何かとの対応関係 (測定器) を示すことによって、その知りたい特性を引き出すこと。

測りたいものに対して、必ず適切な測るものを用意する。 例 容積       水を入れる 材質       成分分析機にかける 長さ        ものさし で測る 屈折率      透過光のずれ 温度       温度計で測る 測りたいものに対して、必ず適切な測るものを用意する。

量子力学は?? 量子力学における確率はサイコロを振る確率と同じことを意味しているのであろうか? 量子力学に従うものは、確率現象として扱われる。 量子力学における確率はサイコロを振る確率と同じことを意味しているのであろうか?

サイコロの確率を知るためには・・・ サイコロを何回も振る。 そのデータの列を集める。 出目として「1」「2」「3」「4」「5」「6」が出る頻度分布を計算することが出来る。 何回やっても、だいたいその頻度分布が変わらないくらいやる。 「1」「2」「3」「4」「5」「6」 はそれぞれ確率いくつで起こっていたのかを知ることが出来る。

量子力学はいつ確率を導入したか? 量子測定理論はどのような状況に対して、予言できる理論であろうか? 量子現象自体はそもそも確率的。 サイコロを振る事象は古典的に考えれば、その目が出るのは1回1回が決定論的。しかし、初期条件をランダムにしている。 量子力学は初期条件をランダム化しているわけではない。 しかし、量子力学に従う確率分布を検証するためには、サイコロと同じように検証しなくてはならない。 量子測定理論はどのような状況に対して、予言できる理論であろうか?

Notations (Dirac Notation) Quantum State Finite dim Hilbert space Density Operator Pure state Mixed state where Complete Orthonormal System (CONS) Pure state Inner product Tensor product

密度演算子 (Density Operator) の性質 線形である。 固有値が必ず正である。 Trace をとると 1 になる。 混合状態 ≠ 重ね合わせ状態 悪魔がどちらのレーザーかをランダムに選択 http://en.wikipedia.org/wiki/BSD_Daemon

Review of Direct Measurement To measure an observable of the quantum system Quantum System Von Neumann Measurement (Strong Measurement / Projective Measurement) Born’s rule (Axiom)

量子測定は何を予言できるのか? ある測定結果が出る確率分布 その測定結果が出た時の後の量子状態 量子測定理論だけでは、何か新しい物理現象を予言することは出来ないが、新しい量子現象を検証すための手立てを与えることが出来る。

Review of Direct Measurement To measure an observable of the quantum system Quantum System Von Neumann Measurement (Strong Measurement / Projective Measurement) Born’s rule (Axiom)

測られるものと測るものの関係がない! 測定という観点からすれば不十分。 そこで、間接測定モデルというものが導入される。

間接測定モデル 量子力学の中で測定とは何かを記述しようとしたモデル。 量子力学から古典化するプロセス(「測定問題」)には立ち入らない。

Quantum Measurement Theory (M. Ozawa, J. Math. Phys. 25, 79 (1984)) Quantum Micro Classical Macro Measured system Probe system t = 0 Interaction between the measured system and probe system. 1 We can evaluate the “measurement” outcome t = 0 on the measured system from the measurement outcome t = ⊿t. 3 Detector system t = ⊿t We obtain the measurement outcome on the probe system. 2 Magnification Process t = ⊿t+⊿T time

von Neumann モデル 間接測定で必要なもの: 測られる系 と 測る系の相互作用 Probe system 測られる系 と 測る系の相互作用 Probe system the pointer operator (position of the pointer) is q and its conjugate operator is p. Target system Observable A

間接測定モデルに必要なもの 測られる系 測る系 測る系の初期状態 ユニタリー演算子 もっと一般化できないか? 孤立系のハミルトニアンが与えられる + 時間が分かる = ユニタリー演算子 で記述できる。 間接測定モデルに必要なもの 測られる系 測る系 測る系の初期状態 ユニタリー演算子

POVM in Measuring Processes (M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Computation and Quantum Information (Cambridge Univ. Press, 2000)) Kraus operator state in the measured system after the measuring process Positive operator valued measure (POVM) Probability distribution to obtain a measurement outcome “k” Born’s formula

測定結果を知っているときは・・・ 測定結果の確率分布 測定による状態変化

間接測定は直接測定を含んでいる。 直接測定と間接測定の関係 測りたい Observable の固有ベクトルへの射影演算子 では、測定後の状態が違うかも可能性がある。(位相分だけ)

測定結果の確率分布 測定による状態変化

混合状態まで一般化する Arbitrary extension of Hilbert space is positive map, If is called a complete positive map (CP map). (M. Ozawa, J. Math. Phys. 25, 79 (1984))

Theorem of Quantum State Changes 12/2/2008 Master Thesis' Planning at Tokyo Tech Theorem of Quantum State Changes For any quantum state, the state change is given by Sketch of Proof. Schmidt decomposition

Master Thesis' Planning at Tokyo Tech 12/2/2008 Master Thesis' Planning at Tokyo Tech (positivity) Kraus operator Any quantum state change can be described as the operation only on the target system via the Kraus operator.

What information is obtained? x x Projective measurement (more generally speaking, POVM measurement) only gives information of the probability distribution.

測りたい:偏光 測るもの:モード 北野正雄「量子力学の基礎」(サイエンス社)

重力波検出器でよく使う相互作用の一般論 バーなし:測定される系 バーあり:測定する系 線形測定 と呼ばれている。 線形測定 と呼ばれている。 von Neumann model contractive state measurement (ハイゼンベルク限界を超える測定の例)

量子測定理論の難しさ 測定相互作用を理論上は自由にいじることが出来るが、実際の測定系においてはそんなことは自由には出来ない。 どのように実験系を設計するのか?その一般的指針はない。 POVM で書いてしまうとエネルギーが極端に多くないと作れない等の物理的制約が見えなくなってしまう。なので、どんな POVM でも現実に作れるというのは間違い。しかし、どういう条件のもとでどこまで限界があるのかは誰も知らない。

まとめ 量子測定理論の概要をお話しした。 量子測定理論だけで新しい物理現象が明らかになることはない。しかし、実際に見ていたものが何であったのか?ということを明らかにするうえでは、どの量子現象を扱うのにも必要。 量子測定理論では、量子系と量子系の合成系をそれぞれ、測られる系 と 測る系 に捉えて 測る系に対しては射影測定を今まで通り行う。

話せていないこと 2つの測定量を同時に測るとは? 時刻の違う測定間の関係 連続測定に関すること 測定に対する Backaction (Noise源になる:輻射圧の導出) 量子測定の若干の応用 量子トモグラフィー(量子状態を推定する) 量子プロセストモグラフィー(相互作用を推定する)

まだまだやらねばならぬこと 実際にどういう量子測定は出来て、どういう測定は出来ないのか? 量子測定から物理現象の新規解明は出来るのか?それとも、今までの理論体系に対して影響を与えるだろうか? 多粒子系の量子測定理論を構築しなければ。果たして、どんな実験と対応するのであろうか? 実験結果の解釈くらいにしか量子測定は寄与しないのか?