雷雲中における放射線強度変動に関する研究 2004年12月18日 ICRR共同利用研究会 雷雲中における放射線強度変動に関する研究 核燃料サイクル開発機構 敦賀本部 鳥居 建男
研究の背景 日本海沿岸において環境放射線測定機器が、冬季雷活動時に限って通常の変動範囲を大幅に超える放射線レベルを観測されることがある。 《もんじゅ周辺での例》 ノイズとは考えにくい事象も観測されることがある。 環境放射線モニタ(NaI検出器)の指示値上昇 上昇するまでの立ち上がり時間が数10秒 設置位置により上昇開始のタイミングにずれ 熱ルミネセンス線量計(TLD)の線量上昇 電磁ノイズの可能性なし(電源を用いない) 設置場所により上昇の度合いに傾向が見られる
これまでの主な観測事例 雪雲レーダー もんじゅ 2002.1.3 2002.12.10 1997.1.29 もんじゅ構内(10秒値) 最大事象 もんじゅ構内(10秒値) 沓モニタリングステーション(10秒値)
雷活動による放射線測定器の指示値の変動 冬季雷発生時にのみ発生 高レンジモニタ(電離箱検出器)だけでなく、低レンジモニタ(NaI検出器)の指示値も上昇する。 NaI検出器は電磁ノイズの影響を受けにくい 平常時と比べて数倍から10倍程度の上昇が多い 最大は100倍の上昇を示した(1997.1.29) モニタの通過率(エネルギー指標)も上昇する 高エネルギー側の計数率が多い 持続時間は1分程度である 立ち上がり時間は30秒程度 まれにTLDも線量上昇を示す
雷活動時の放射線変動の特徴 雷雲の高電界による荷電粒子加速の可能性 冬季雷活動時のみに発生 個々の雷放電との関係低い モニタ指示値の立ち上がり時間:数10秒程度 モニタ位置により立ち上がり開始時間にズレ(10~20秒) 上方より放射線入射の可能性 TLDの設置位置による違い、建物内モニタの指示値変動 影響エリアは数100m程度が多い モニタリングポスト1~3基程度が指示値変動 放射線のエネルギーは数MeV程度 雷雲の高電界による荷電粒子加速の可能性
大気中の荷電粒子 雷雲電界による荷電粒子の加速→制動放射線の発生 考えられるエネルギーの高い荷電粒子 2次宇宙線 Rn ≦3~4MeV 2次宇宙線(電子・光子) 数MeV~数10GeV 2次宇宙線 +++++++ 2次宇宙線(ミュオン) 数GeV ≦ ------- 雷雲中での放射線挙動を モンテカルロ計算により解析 +++ Rn 地上付近での 放射線強度変動を求める
日本海沿岸で冬季雷活動に起因すると考えられる放射線強度変動の原因を解明する。 研究の目的・目標 日本海沿岸で冬季雷活動に起因すると考えられる放射線強度変動の原因を解明する。 雷活動に伴う放射線変動等の測定調査 放射線強度変動時の放射線エネルギー分布等から線源を明らかにする。 雷雲中での放射線挙動のシミュレーション 雷雲を模擬した電界中での放射線挙動をモンテカルロ計算により放射線挙動を調査解析する。
モンテカルロ計算(EGS4)による電子・光子の飛跡 (一様電界での計算例) 高度2km(密度1.0066 kg/m3) 入射電子:10MeV、25個 光子 電子 陽電子 1 km 高度2kmでは 230 kV/mで 電磁シャワー の発生 0 kV/m 220 kV/m 逃走電子の生成 180 kV/m 230 kV/m
電界強度の比較 絶縁破壊電界と雷雲内電界(観測値)のズレ:約1桁 逃走電子 の生成 《原因未解明》 逃走電子の生成: 3 MV/m (平行平板電極) 絶縁破壊電界と雷雲内電界(観測値)のズレ:約1桁 《原因未解明》 逃走電子 の生成 <280 kV/m 雷雲内 逃走電子の生成: 雷雲内電界で十分に起こり得る 地上電界 (雷雲通過時) 雷雲電界を模擬し 逃走電子の生成・ 制動放射線発生 のシミュレーション 冬季雷雷雲をモデル化 2次宇宙線の入射 モンテカルロ計算実施 静穏時 ~100 V/m
雷雲電界中での制動放射線の下方放出 シミュレーションの概要: 雷雲電界中に2次宇宙線が入射した場合の 電子束・光子束の高度変化を計算。 + 上空6kmにおける宇宙線の エネルギースペクトル (電子・陽電子・光子) [文献値より作成] 1000m 10~15km (/1km) 宇宙線スペクトル 入射線源項 + + 0~10km (/500m) + + - 6 km - ー - - + + ポケット電荷 EGS4における雷雲電界および 入射線源(2次宇宙線)のモデル化 大気の密度分布 (US Standard Atmos.) 各ゾーンのパラメータとして使用 する電界強度の高度変化の例
雷雲中での制動放射線と光子束分布 光子束の高度分布 光子のエネルギースペクトル(1km) 電界強度の高度分布 しきい値(Eth)を超えた 領域で制動放射線発生 夏季雷では発生し ても地上に達しない 光子束の高度分布 冬季雷・3極構造 のときのみ発生 光子のエネルギースペクトル(1km) 電界強度の高度分布
モデル化した雷雲中での放射線の飛跡 冬季雷(3極構造):地上付近での顕著な上昇が見られる 冬季雷活動時に地上で観測される放射線量率の上昇は 6km 冬季雷(3極構造) 冬季雷(2極構造) 夏季雷 冬季雷(3極構造):地上付近での顕著な上昇が見られる 冬季雷活動時に地上で観測される放射線量率の上昇は 3極構造の雷雲(成熟期初期)の電界分布により発生する
宇宙線ミュオンの影響解析結果(Geant4) 高電界領域で電子・光子束の増加 ミュオンはほとんど変動なし 雷雲中の粒子束から ミュオンの影響大 高電界領域 宇宙線ミュオン(μ+)を上空12kmから下方に 放出した場合(冬季雷の電界分布を想定) 宇宙線ミュオンのスペクトル [S. Coutu et al., Phys. Rev. D 62, 032001 (2000)]
観測による線源の特定 冬季雷での観測 夏季雷では 冬季雷;高電界領域の高度が低い(~1,2km) 日本海沿岸;もんじゅ周辺での観測(現在観測中) 夏季雷では 夏季雷;高電界領域の高度は高い(~4,5km) 平地では難しいが、山岳地域では観測される可能性あり。 名大STE研の観測例あり。 乗鞍観測所での観測(2004.7.15~9.12)
雷雲からの放出放射線の観測 入射方向分布の測定 エネルギーと強度変動の測定 飛来方向検出器 3”円筒型NaI検出器 PSFを用いたTOF型検出器の開発 検出エネルギー:約300keV以上 エネルギーと強度変動の測定 3”円筒型NaI検出器 エネルギー:100keV~10MeV 27cmφ球形プラスチックシンチレーション検出器 エネルギー:1MeV~100MeV Pl.Sci.検出器 NaI検出器
線源位置の特定=放射線飛来方向検出器の製作 放射線源の方向、時間変動を把握するための検出器の開発 シンチレーション光ファイバー(PSF)に飛行時間(TOF)法と コリメータ板を組み合わせた放射線位置検出器を採用 薄い鉛板で コリメート γ線 PMT PMT PSF 光 PA PA CFD CFD Delay TAC Stop Start MCA 検出系が簡単。モジュール類少ない。 X-Y方向の2系統で2次元分布を測定
放射線飛来方向検出器の特性 線源(Cs-137)を検出器の外側斜め45°から入射させたときの特性試験 PSF BG測定 ピークチャンネルの変位
放射線飛来方向の測定 冬季のもんじゅ構内での測定
エネルギーと強度変動の測定 3”NaI検出器と27cmφプラスチックシンチレーション検出器でPHAとMCSの同時計測 PHA:1024 ch×2、120sec (time int.) MCS:6 sec積算値、4 ch(2 ch×2) また、補助的に以下の測定器を設置 大面積γ線モニタ ミュオンカウンタ ラドン・モニタ 大面積モニタ μカウンタ ラドンモニタ
測定結果(放射線飛来方向検出器) 300sec毎に計測 PSF部分 300sec毎に計測 全体として計数が上昇する分布が得られることもあったが、 特定の方向の計数が上昇することはなかった。 併設した大面積γ線モニタ(PS検出器、1 sec毎の計数測定)でも短時間の指示値上昇は見られなかった。
測定結果 MCS時間変動 PHA波高分布 低エネルギー領域で数時間程度の変動が見られるのみ NaI:0.01~10MeV PS:1~100MeV PS:50~100MeV 3 hr PHA波高分布 NaI検出器 PS検出器 低エネルギー領域で数時間程度の変動が見られるのみ
測定結果のまとめ・今後の課題 今期(2004年夏)、乗鞍観測所で得られた放射線強度の変動は、ラドン子孫核種のレインアウト・ウォッシュアウトによると考えられるもののみであった。 今回使用した検出器では、雷雲活動によると考えられる変動は見られなかった。 冬季雷での観測とともに夏季雷(乗鞍観測所)での観測を継続したい。 観測にあたり測定器の感度、エネルギー範囲等計測条件の見直しも検討する。 電界強度の同時計測も行う。