DDBJing講習会 2015年7月29日 那覇 プライマーの作成・活用の実際 森 宙史 Hiroshi Mori 東京工業大学

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大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 助教hmori@bio.titech.ac.jp DDBJing講習会 2015年7月29日 那覇 プライマーの作成・活用の実際 森 宙史 Hiroshi Mori 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 助教hmori@bio.titech.ac.jp

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自己紹介 ・ 微生物のゲノム解析における情報解析 ・ メタ16S・メタゲノム解析における情報解析 東工大・生命理工・生命情報、黒川・中島・山田研で研究しています ・ 微生物のゲノム解析における情報解析   細菌・真核藻類 等 (Hori et al., 2014), (Kato et al., 2015) ・ メタ16S・メタゲノム解析における情報解析 ヒト腸内・土壌 等 (Kurokawa et al., 2007), (Mori et al, 2014) ・ 微生物ゲノム・メタ16S・メタゲノム解析に関するツール開発   MiGAP・VITCOMIC・CLAST 等 (Sugawara et al., 2009), (Mori et al., 2010),   (Yano et al., 2014) ・ 微生物統合データベース MicrobeDB.jpの開発 細菌のUniversal プライマーの設計と評価

2時間の講義+実習の概要 PCR法を利用した試験の重要性 PCR法の概要 特異的プライマーとUniversal プライマーの違い 新規プライマー設計で気をつけるべきこと Primer3Plusを用いたプライマー設計実習 BLASTNを用いた増幅される生物の範囲の推定

全ての生物/virusを見た目で 種名同定できれば楽だが… 昆虫等であれば、特に幼虫や卵の見た目での種名同定の困難さ 微生物やvirusであれば、小さい故の見た目での検出・同定の困難さ、培養にかかる時間や困難さ 見た目では難しいならどうすれば?

全生物/virusはDNA/RNAに 遺伝情報をコードしている ゲノムDNA/RNAを対象にすれば、同じような分子生物学的手法で全生物/virusを評価可能 しかし、1個体の生物/virusが持つゲノムDNA/RNAは僅か ゲノムDNA/RNAを増やす必要がある

PCR法の概要 RNA virusの場合は RT–PCR 例 95℃ 30秒 55℃ 30秒 72℃ 15秒 Wikipediaの

PCRで増幅後は… プライマーの種類で どの生物のどの遺伝子のどの領域を増幅するのか が決まり、その後の解析方法も変わる 増幅産物をシーケンスして既知の配列と比較して、系統を推定 EtBrなどで増幅産物を処理して電気泳動してバンドの有無を確認 増幅産物を制限酵素処理後に電気泳動してバンドのパターンを見る プライマーの種類で どの生物のどの遺伝子のどの領域を増幅するのか が決まり、その後の解析方法も変わる

PCRを利用した遺伝子診断法 結果が出るのが速い(数時間ほど) 見た目では判別困難な生物や、培養困難な菌/virusも解析可能 DNA/RNA抽出効率やサイクル数に依存するが、基本的には検出感度が高い 新規な生物でも、増幅後にシーケンスすれば塩基配列が得られるので、既知の生物との系統解析が可能 それほど職人技はいらない ターゲット遺伝子とプライマーを工夫することで、ごく近縁な系統間の識別も可能

PCRに使うプライマーは 大きく分けて2種類 系統特異的なプライマー 系統Universalなプライマー 両者は何が違うのか?

系統(機能)特異的プライマー 例えば、 腸管出血性大腸菌とそうではない大腸菌を判別したい Fusarium oxysporumのレースを判別したい などの病原性の有無の判定を迅速に行いたい場合に使われたりする。 遺伝子レベルで病原性のメカニズムがわかっている生物の場合、 ある遺伝子を持っているか否か? ある遺伝子に一塩基置換があるか無いか? が、病原性の有無に重要であるような場合には、非常に有効なプライマーが設計可能な場合が多い。

系統特異的プライマーの特徴 系統判定には増幅産物のシーケンスをしなくても大丈夫(PCR後の電気泳動でバンド出るか否か) どの遺伝子を使うかはバラエティに富む PCR条件を厳密に検討する必要がある(非特異的増幅の回避が重要) degenerate primerが少ない degenerate primerとは?

Degenerate primer 例: 5′-GTGCCAGCMGCCGCGGTAA-3′ 曖昧(縮重)塩基を使ったプライマー 曖昧塩基 塩基1 塩基2 塩基3 塩基4 R A G Y C T S W K M B D H V N

Universalプライマー 具体的にはどのような遺伝子が使われている? 幅広い系統群を増幅できるプライマー 用途 系統の判別 群集組成を見る 特徴 増幅産物の系統判別には基本的にシーケンシングが必要 degenerate primerが多い ターゲットになりうる遺伝子は少数 具体的にはどのような遺伝子が使われている?

虫(カブリダニ、ミバエなど) cytochrome c oxidase subunit I(CO1 or COX1 or COI) COはミトコンドリアにおける電子伝達系の酵素であり、タンパク質複合体。COX1はその中心的な酵素で、ミトコンドリアゲノムにコードされている。 28S rRNA遺伝子 or 28S rDNA 28S rRNAはmRNAからアミノ酸を翻訳してタンパク質合成の場となるリボソームの核となるribosomal RNAの一つ。その遺伝子。細胞の核にコードされている。

線虫 COX1 18S rRNA遺伝子 or 18S rDNA 18S rRNAはmRNAからアミノ酸を翻訳してタンパク質合成の場となるリボソームの核となるribosomal RNAの一つ。その遺伝子。細胞の核にコードされている。

菌類(糸状菌・酵母, 具体的には Fusarium, Pythiumなど) 28S rRNA遺伝子 18S rRNA遺伝子 COX1 COX2 rDNA–ITS1 (internal transcribed spacer), rDNA–ITS2 18S rDNA – ITS1 – 5.8S rDNA – ITS2 – 28S rDNA

細菌(Pseudomonas, Burkholderiaなど) 16S rRNA遺伝子 rDNA–ITS 真核生物: 18S rDNA – ITS1 – 5.8S rDNA – ITS2 – 28S rDNA 原核生物: 16S rDNA – ITS – 23S rDNA – 5S rDNA

Virus (植物関連はほぼ全てRNA virus) Tospovirus Nタンパク質 Comoviridae RNA-dependent RNA polymerase Tombusviridae RNA-dependent RNA polymerase Flexiviridae RNA-dependent RNA polymerase、外被タンパク質(Coat protein) タバコモザイクウイルスなどの棒状ウイルス 外被タンパク質

Universalプライマー ターゲット遺伝子まとめ 真核生物はCOX1がBarcode of Life http://www.boldsystems.org/ などのデータベースも充実しているのでよく使われている。 菌類に関してはrDNA-ITS2がUNITE https://unite.ut.ee/index.php などのデータベースが充実しており、主流。 細菌は16S rRNA遺伝子が主流だが、種よりも細かい分類をしたい場合はITS。 VirusはRNA-dependent RNA polymeraseやCoat proteinが使われることが多い。 ターゲットの遺伝子は大体わかった

新規プライマー設計で 気をつけるべきこと プライマーの長さ プライマーのGC含量 Melting Temperature (Tm値) 二本鎖DNAの50%が解離して一本鎖DNAになる温度のこと これがプライマー間ですごく異なると、PCRの温度設定で困る プライマー配列の相補性 非特異増幅の有無 タカラバイオの、リアルタイム PCR 実践編 -プライマー設計ガイドライン – http://www.takara-bio.co.jp/prt/pdf/prt3-1.pdf

プライマー間の相補性の問題 (Untergasser et al. 2012)

実際どうやって設計する? Primer3Plusを使って設計する http://primer3plus.com/ 簡単な使い方は 統合TVの PCRプライマー設計ツール Primer3の使い方 2011 http://togotv.dbcls.jp/20110111.html