大阪大学 長谷川 剛 hasegawa@ics.es.osaka-u.ac.jp インターネットフローの公平性 大阪大学 長谷川 剛 hasegawa@ics.es.osaka-u.ac.jp 2001年10月19日 IN研究会.

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大阪大学 長谷川 剛 hasegawa@ics.es.osaka-u.ac.jp インターネットフローの公平性 大阪大学 長谷川 剛 hasegawa@ics.es.osaka-u.ac.jp 2001年10月19日 IN研究会

目次 背景 インターネットフロー間の不公平 公平性向上のための手段 まとめ プロトコルの改善 ルータバッファでの制御 エンドホストでの資源管理 まとめ 2001年10月23日 IN研究会

背景 これまでのインターネット ベストエフォートネットワーク QoS保証は行われない 繋がることが重要だった 帯域、遅延等 TCPを使えば、「確実に相手に届く」だけは何とかなる 繋がることが重要だった 当然、ユーザー間、フロー間の公平性は期待できない 2001年10月23日 IN研究会

背景 バックボーン、アクセス回線速度の飛躍的な向上 「公平性」が重要な要素になりつつある 「繋がる」以上のサービスへの要求 QoS保証 同じ料金なのに速度が違う 2倍のアクセス速度を2倍の料金で使っているのにスループットは同じ 2001年10月23日 IN研究会

公平性の定義 場所によって異なる フローとは? 同じ輻輳ルータを通るフローは同じスループット アクセス回線速度に応じたスループット 個別のTCPコネクション ユーザ単位 2001年10月23日 IN研究会

インターネットフロー間の不公平 プロトコルの違い TCPコネクションの環境の違い TCPとUDP TCPのバージョン 遅延(距離) 帯域 … 2001年10月23日 IN研究会

TCPフローと UDPフロー UDPは輻輳制御を行わない TCPフローと UDPフローが混在すると ネットワークの輻輳に関係なく一定のレートでパケットを転送 TCPフローと UDPフローが混在すると 輻輳時にTCPフローは転送レートを下げる UDPフローが帯域を占有 TCPが輻輳制御を行わないように改良(改悪?)することも容易 2001年10月23日 IN研究会

TCPフローと UDPフロー TCPフローが増えても、UDPフローのスループットは下がらずに帯域を占有 20 40 60 80 100 5 20 40 60 80 100 5 10 15 25 30 35 45 50 Throughput (Mbps) Time (sec) UDP connection TCP connections TCPフローが増えても、UDPフローのスループットは下がらずに帯域を占有 2001年10月23日 IN研究会

TCPのバージョン TCP Tahoe, TCP Reno OSによって実装はバラバラ 現在のほとんどのOSの実装ベース パケットロスのみで輻輳を検知 OSによって実装はバラバラ タイマ処理 ウインドウサイズの初期値 スループットに大きく影響 2001年10月23日 IN研究会

TCPのバージョン TCP Vegas RenoとVegasの差異 RTT (Round Trip Time) の大小で輻輳を検知 Tahoe/Renoに比べて高いスループットが得られる RenoとVegasの差異 Renoは積極的に転送レート (ウィンドウサイズ) を上げ、パケットロスを前提とした制御を行う VegasはRTTの増加をパケットロスの前兆ととらえ、パケットロスが発生しないように制御を行う 2001年10月23日 IN研究会

TCPのバージョン 混在すると、性能がいいはずのVegasが積極的なRenoに負ける 10Mbps 1.5Mbps 5 Vegas Connections 5 Reno Connections 1.5Mbps 10Mbps 50 100 150 200 250 300 10 1000 Throughput [Kbps] Buffer Size [packets] TCP Vegas Connections TCP Reno Connections 混在すると、性能がいいはずのVegasが積極的なRenoに負ける 2001年10月23日 IN研究会

距離(伝播遅延時間)の違い TCPのスループットは送受信間の距離に大きく影響される J. Padhye, V. Firoiu, D. Towsley, and J. Kurose, “Modeling TCP throughput: a simple model and its empirical validation,” in Proceedings of ACM SIGCOMM’98, pp. 303–314, August 1998. 2001年10月23日 IN研究会

遅延時間の違い 距離の大きいコネクションは非常に不利 Sender C1 C2 10 msec 20 msec C3 : C4 Router C1 C2 C3 C4 C5 C6 C7 C8 C9 C10 Sender Receiver 10 msec 20 msec : 100 msec 100 Mbps 1 msec 35 30 25 20 Throughput [Mbps] 15 10 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Connection Number 距離の大きいコネクションは非常に不利 2001年10月23日 IN研究会

帯域の違い アクセス回線の帯域の違い スループットは等しくならない アクセス回線の帯域に比例もしない Router C1 C2 C3 C4 Sender Receiver 10 Mbps 20 Mbps : 100 Mbps 1 msec 5 10 15 20 25 30 35 1 2 3 4 6 7 8 9 Throughput [Mbps] Connection Number アクセス回線の帯域の違い スループットは等しくならない アクセス回線の帯域に比例もしない 2001年10月23日 IN研究会

その他 ホップ数 転送するファイルサイズの差 送受信端末のバッファサイズ … 通過する輻輳ルータの数が多いほどスループットは下がる 小さいファイルを転送するコネクションのスループットは小さくなる Slow Startが原因 送受信端末のバッファサイズ コネクションの状態に関係なく固定値が割り当てられる … 2001年10月23日 IN研究会

公平性改善の方法 送信側端末での制御 ルータバッファでの制御 エンドホストでの資源管理 UDPフローのTCP-friendly制御 AQM (Active Queue Management) エンドホストでの資源管理 2001年10月23日 IN研究会

TCP-friendly制御 TCP-friendlyとは TCPとの公平性を向上 UDPフローは、同一パスを通るTCPフローと平均のスループットが同じであるべき アプリケーションが制御を行う 2つの制御方法 TCPスループット推測の式を利用する TCPと同様のAIMD (Additive-Increase Multiplicative Decrease) 制御を行う TCPとの公平性を向上 2001年10月23日 IN研究会

TCPプロトコルの改善 TCPの本質的な欠点 改善方式 フロー制御とエラー制御(再送制御)の区別が非常にあいまい パケット単位の制御と、バイト単位の制御が混在している 改善方式 TCP Vegasなどさまざまな方式が提案 TCPに変わる全く新しいプロトコルを考えるのは非現実的 段階的な実装、新旧TCP間の公平性を考慮する必要がある 2001年10月23日 IN研究会

ルータバッファでの制御 Tail-Drop Router 単純なFIFOバッファで、実装が容易 バッファが一杯になると到着パケットを廃棄 問題点 バースト的なパケットロス TCP のタイムアウトを引き起こしやすい 公平性は全く期待できない 2001年10月23日 IN研究会

AQM (Active Queue Management) TCPはネットワークをブラックボックスと考えている 異環境の下での高い公平性は期待できない ルータバッファで積極的な制御を行う パケットの確率的な廃棄 複数キューを用いたフロー管理 2001年10月23日 IN研究会

RED (Random Early Detection) バッファが一杯になる前に、パケットを確率的に廃棄 廃棄率はキュー長によって変動 Original RED 1 Packet Discarding Probability Gentle Parameter Tail Drop maxp minth maxth 2・maxth B (Average) Queue Length at Router Buffer 2001年10月23日 IN研究会

RED (Random Early Detection) TCPのスループット、公平性向上 バースト的なパケット廃棄が減少 TCPのタイムアウトが減少 問題点 パラメータ設定の難しさ TCPの本質的な不公平性は解消されない 非常に多くの改善方式が提案されている 2001年10月23日 IN研究会

REDの改善方式 FRED (Flow Random Early Detection) SRED (Stabilized RED) ルータ内パケットをフロー毎にカウント SRED (Stabilized RED) 確率的な動作をコネクション数予測に利用 CSFQ (Core-Stateless Fair Queuing) エッジルータとコアルータで協力 DRED, ARED, BLUE, GREEN,… 制御の複雑さと公平性はトレードオフ どれを使うかは適用箇所の要求条件による 2001年10月23日 IN研究会

ECN (Explicit Congestion Notification) ルータバッファでのパケット廃棄を避ける 輻輳時にルータでパケットを廃棄するのではなく、マーキングを行う 送信側TCPはマークされていればパケットロスと同様に扱う TCPの不公平性が解消されるわけではない 送信側の動きは定義されていない すべてのルータ、エンドホストが対応する必要がある 2001年10月23日 IN研究会

複数キューを用いた制御 古くから提案されている 高い公平性 問題点も多い DRR (Deficit Round Robin) RR (Round Robin), FQ (Fair Queuing) 高い公平性 問題点も多い 制御の重さ フロー衝突 DRR (Deficit Round Robin) O(1)でできる パケットサイズの違いも考慮 やはり、制御の度合いと公平性はトレードオフ 2001年10月23日 IN研究会

エンドホストでの資源管理 TCPの送受信バッファ 特に繁忙なWWWサーバ等で無駄が生じやすい 固定値が割り当てられている バッファサイズで最大レートは制限 小さすぎるとネットワークに余裕があるときに帯域を使い切れない 大きすぎるとネットワークが混雑しているときにバッファが無駄 特に繁忙なWWWサーバ等で無駄が生じやすい 2001年10月23日 IN研究会

エンドホストでの資源管理 割り当て資源量を動的に制御する 資源の浪費の回避、サーバ能力の向上 ATBT SSBT バッファサイズをウインドウサイズに応じて増減 SSBT バッファサイズを推定TCPスループットに応じて増減 公平に、かつ必要なところへ必要なだけ資源を配分 資源の浪費の回避、サーバ能力の向上 2001年10月23日 IN研究会

まとめ TCPは既にインターネットに広く普及しているため、全く新しいトランスポート層プロトコルを提案することは非現実的 2001年10月23日 IN研究会

まとめ フロー間の公平性を向上させるためには、エンドホストにおける輻輳制御だけではなく、ネットワークルータにおける何らかの制御が必要 ルータにおいて公平性を向上させる機構を持たせる際には、公平性の定義とその程度、収容するフロー数等によって、適切な複雑さを持つアルゴリズムを選択して適用すべき 2001年10月23日 IN研究会