レプトンの異常磁気能率 ーその物理が目指すものー

Slides:



Advertisements
Similar presentations
QCD Sum rule による中性子電気双極子 モーメントの再評価 永田 夏海(名古屋大学) 2012 年 3 月 27 日 日本物理学会第 67 回年次大会 共同研究者:久野純治,李廷容,清水康弘 関西学院大学.
Advertisements

グルーオン偏極度の測定 RIKEN/RBRC Itaru Nakagawa. 陽子の構造 陽子の電荷 2 陽子 価クォーク 電荷、運動量、スピン … u クォーク d クォーク.
原子核物理学 第3講 原子核の存在範囲と崩壊様式
Orbifold Family Unification in SO(2N) Gauge Theory
「原子核と電磁場の相互作用」 課題演習A3 原子核が電磁場中で感じる超微細な相互作用
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
Determination of the number of light neutrino species
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛
山崎祐司(神戸大) 粒子の物質中でのふるまい.
第1回応用物理学科セミナー 日時: 5月19日(月) 15:00ー 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室 Speaker:鹿野豊氏
2016年夏までの成果:標準理論を超える新粒子の探索(その2)
COMPASS実験の紹介 〜回転の起源は?〜 山形大学 堂下典弘 1996年 COMPASS実験グループを立ち上げ 1997年 実験承認
中性子過剰核での N = 8 魔法数の破れと一粒子描像
Bファクトリー実験に関する記者懇談会 素粒子物理学の現状 2006年6月29日 名古屋大学 大学院理学研究科 飯嶋 徹.
岡田安弘 Bファクトリー計画推進委員会 2006年10月17日
高エネルギー物理学特論 岡田安弘(KEK) 2007.1.23 広島大学理学部.
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
CERN (欧州原子核研究機構) LEP/LHC 世界の素粒子物理学研究者の半数以上の約7000人が施設を利用
格子シミュレーションによる 非自明固定点の探索
電子 e 光子 g 電磁相互 作用を媒介 陽子 中性子 中間子 p n ハドロン 核力を  媒介 物質の 究極構造 原子 原子核 基本粒子
レプトンg-2のQED高次補正 M. Nio ( RIKEN) December 1-2, 2008
HERMES実験における偏極水素気体標的の制御
研究開発課題(素粒子分野)の紹介 筑波大学計算科学研究センター 藏増 嘉伸.
The Effect of Dirac Sea in the chiral model
Muonic atom and anti-nucleonic atom
g-2 実験 量子電磁力学の精密テスト と 標準理論のかなた
全国粒子物理会 桂林 2019/1/14 Implications of the scalar meson structure from B SP decays within PQCD approach Yuelong Shen IHEP, CAS In collaboration with.
古典論 マクロな世界 Newtonの運動方程式 量子論 ミクロな世界 極低温 Schrodinger方程式 ..
物質の 究極構造 原子 原子の中には軽くて 電荷-eの電子がある 質量 9.11×10-31kg 原子 e =1.6×10-19C
中性子干渉実験 2008/3/10 A4SB2068 鈴木 善明.
量子凝縮物性 課題研究 Q3 量子力学的多体効果により実現される新しい凝縮状態 非従来型超伝導、量子スピン液体、etc.
最初に自己紹介 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 幅 淳二
最初に自己紹介 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 幅 淳二
D中間子崩壊過程を用いた 軽いスカラー中間子の組成の研究
原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布.
担当教官 理論: 菅沼 秀夫 実験: 成木 恵 藤岡 宏之 前期: それぞれ週1回のゼミ 後期: 理論ゼミ + 実験作業
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
担当教官 理論: 菅沼 秀夫 実験: 成木 恵 前期: それぞれ週1回のゼミ 後期: 理論ゼミ + 実験作業
LHC計画が目指す物理とは × 1:ヒッグス粒子の発見 2:標準理論を越える新しい物理の発見 未発見!
Charmonium Production in Pb-Pb Interactions at 158 GeV/c per Nucleon
星間物理学 講義2: 星間空間の物理状態 星間空間のガスの典型的パラメータ どうしてそうなっているのか
原子分子の運動制御と レーザー分光 榎本 勝成 (富山大学理学部物理学科)
岡田安弘 (KEK) シンポジウム「物質の創生と発展」 2004年11月4日
LHC計画で期待される物理 ヒッグス粒子の発見 < 質量の起源を求めて > 2. TeVエネルギースケールに展開する新しい物理パラダイム
LHC計画で期待される物理 ヒッグス粒子の発見 < 質量の起源を求めて > 2. TeVエネルギースケールに展開する新しい物理パラダイム
2016年夏までの成果:ヒッグス粒子発見から精密測定へ
Numerical solution of the time-dependent Schrödinger equation (TDSE)
小林・益川理論とBファクトリーの物理 (II)
2013年夏までの成果:ヒッグス粒子発見から精密測定へ
素粒子分野における計算機物理 大野木哲也 (京都大学基礎物理学研究所).
高エネルギー物理学特論 岡田安弘(KEK) 2008.1.15 広島大学理学部.
QCDの有効理論とハドロン物理 原田正康 (名古屋大学) at 東京大学 (2006年11月6日~8日)
インフレーション宇宙における 大域的磁場の生成
2015年夏までの成果:標準理論を超える新粒子の探索(その2)
格子ゲージ理論によるダークマターの研究 ダークマター(DM)とは ダークマターの正体を探れ!
計画研究代表者 京都大学基礎物理学研究所 大野木 哲也
Marco Ruggieri 、大西 明(京大基研)
ILCバーテックス検出器のための シミュレーション 2008,3,10 吉田 幸平.
α decay of nucleus and Gamow penetration factor ~原子核のα崩壊とGamowの透過因子~
課題研究 P4 原子核とハドロンの物理 (理論)延與 佳子 原子核理論研究室 5号館514号室(x3857)
大規模並列計算による原子核クラスターの構造解析と 反応シミュレーション
理論的意義 at Kamioka Arafune, Jiro
媒質中でのカイラル摂動論を用いた カイラル凝縮の解析
2016年夏までの成果:標準理論を超える新粒子の探索(その1) 緑:除外されたSUSY粒子の質量範囲 [TeV]
2017年夏までの成果:標準理論を超える新粒子の探索(その1) 緑:除外されたSUSY粒子の質量範囲 [TeV]
現実的核力を用いた4Heの励起と電弱遷移強度分布の解析
超弦理論の非摂動的効果に関する研究 §2-超弦理論について §1-素粒子論研究とは? 超弦理論: 4つの力の統一理論の有力候補
軽い原子核の3粒子状態 N = 11 核 一粒子エネルギー と モノポール a大阪電気通信大学 b東京工業大学
崩壊におけるスペクトラル関数の測定 平野 有希子 Introduction ミューオンの異常磁気モーメント KEKB,Belle 事象選別
Presentation transcript:

レプトンの異常磁気能率 ーその物理が目指すものー 奈良女子大学女性先端科学者セミナー 2007年1月11日 理化学研究所  仁尾 真紀子 W/ 青山龍美@理研、早川雅司@名古屋大、 木下東一郎@Conell U

The Physics Story of the Year 2006 American Institute of Physics   APSなど物理関連10団体 電子の異常磁気能率の精密測定と     QEDの計算による微細構造定数の決定 B. Odom, D. Hanneke, B. D’Urso, and G. Gabrielse, Phys. Rev. Lett. 97, 030801 (2006) G. Gabrielse, D. Hanneke, T. Kinoshita, M. Nio, B. Odom,       Phys. Rev. Lett. 97, 030802 (2006)

実験 U. Washington ’87, Harvard U. ’06. 微細構造定数 α-電磁気力の強さを決める 1、異常磁気能率って何?           参考文献 物理学会誌 2006年7月号                      パリティ    2007年2月号 2、電子の異常磁気能率      実験 U. Washington ’87, Harvard U. ’06.       理論(量子電気力学 QED)      微細構造定数 α-電磁気力の強さを決める 3、ミューオンの異常磁気能率        実験         理論   ハドロン+Weak+QED 4、QED理論計算の現状 物理の基礎理論の検証 新物理現象の探索

1、異常磁気能率って何? 電子のもつ磁気能率μと外部磁場Bとの相互作用           電子のスピン           磁気能率の大きさを示す量           磁気回転比 g因子                 ボーア磁子

異常磁気能率、 g-2 クッシュら1948年 (1955年ノーベル賞) 次元のない量、単位を持たない量 ディラックの相対論的量子力学によると電子では                整数の2! 実際には  は2からわずかにずれる  0.1%程度              異常磁気能率、 g-2              クッシュら1948年 (1955年ノーベル賞)          次元のない量、単位を持たない量         量子電気力学による量子補正効果

Quantum ElectroDynamics = QED 量子電気力学      Quantum ElectroDynamics = QED        朝永振一郎先生         ファインマン シュウィンガーとともに         1965年ノーベル賞 受賞           超多時間理論とくりこみ理論を用いて           量子電気力学を完成   朝永グループがQEDで計算した物理量       水素原子のエネルギー準位差 ラムシフト 量子補正効果             みごとに観測値を再現 2P1/2 陽子 電子 2S1/2

電子が光子を放出し、再吸収する 電子自己エネルギーのファインマン図 !!真空をも揺らぐ!! e なぜQEDの量子補正効果が生じるのか?     電子の持つエネルギーが変化を受ける    電子自己エネルギーのファインマン図      !!真空をも揺らぐ!! e 光子 電子 e 電子の電荷

単一電子を電磁場内で捕獲する 2、電子の異常磁気能率 実験 ワシントン大学デーメルトのグループ  単一電子を電磁場内で捕獲する   Penning Trap      1989年ノーベル賞              B. Odom, Harvard U Ph.D thesis 2005より再掲

Z軸 Z軸に沿った振動 スピン歳差運動 電子 サイクロトロン振動 静電ポテンシャル 電磁捕獲内の電子の振動モード

スピン歳差振動数 ωs サイクロトロン振動数 ωc アノーマリー振動数 ωa= ωs –ωc エネルギー準位間の遷移を測定                     エネルギー準位間の遷移を測定                            B. Odom, Harvard U. Ph.D thesisより再掲

Penning Trapの形状を筒型に変更し、 ハーバード大学ガブリエルス  Penning Trapの形状を筒型に変更し、  最大の実験誤差を縮小した。  実現までに20年      2006年7月発表 髪の毛の太さ    地球の円周 87年のワシントン大学の値を約6倍改良 3年以内には、外部磁場の改良等により  さらに3倍の改良を見込む

e 理論 電子が軽いため、ほとんど光子のみによる補正 QEDによる摂動計算 αのベキ展開 展開係数を計算によって求める。   電子が軽いため、ほとんど光子のみによる補正   QEDによる摂動計算   αのベキ展開    展開係数を計算によって求める。    ファインマン図形の基づく計算。   e

どのようなファインマン図?  e e e e e e e e e e e e α3 α α2

実験値との比較: 理論インプットとしてαの値が必要 冷却原子を用いた実験 h/MAの測定 実験値との比較: 理論インプットとしてαの値が必要 冷却原子を用いた実験 h/MAの測定 ・スタンフォード大学チューらのCs原子波干渉実験 2003年                (1997年ノーベル賞)  マックスプランク研究所ヘンシュら 1999年                (2006年ノーベル賞)  ノートルダム大学ゲルギノフらによるCs原子準位測定 2006年 振動数櫛 ・パリ高等師範学校クラデらによる光学格子でのRb反跳測定 2006年 異常磁気能率の理論値                     理論α4 理論α5 α自身   

電子異常磁気能率 QEDが正しいと仮定して 実験値 = 理論式(α) 最も精度の良いαが決められる 微細構造定数αの決定 電子異常磁気能率  QEDが正しいと仮定して   実験値 = 理論式(α) 最も精度の良いαが決められる ほかの方法で決めたαよりも一桁以上精度が良い    論文: 実験+α Phys. Rev.  Lett.   2006年7月    記事: Physics Today, SIENCE, Nature, Sience News…e.t.c.                  2006年夏から秋 共同通信 2006年8月, パリティ2007年2月

微細構造定数αの値の比較 G. Gabrielse et al. Phys. Rev. Lett. (2006) より再掲

EM, Weak, Strong, Gravity α電磁気力を表す結合定数 自然界にはたった4種類の力しかない   α電磁気力を表す結合定数      物理、化学の広い分野にあらわれる唯一の結合定数      世界はこのαの上に構築されている   αの値を知ること そのこと自体が人類の知的財産 それぞれの現象で決めたαは、唯一の定数になるはず αの精度を極めてゆくとどうなるだろうか? 現在の物理理論の破綻の兆候が見えるだろうか?

2、ミューオンの異常磁気能率 素粒子標準理論     レプトン粒子 電子、ミュー粒子、タウ粒子   0.51 MeV , 105.7MeV, 1777MeV    ミュー粒子>>電子の200倍重い    より短い距離、より重い粒子の存在に敏感  十分に高い精度に到達できれば、       新しい物理現象を発見できるのでは?     1ppm=1/1,000,000 を超える精度を目指す

Brookhaven National Laboratory 2004年                                muon g-2 collaboration home pageより再掲

ならば運動量とスピンは常に同一方向 ヘリシティ保存 なのでスピンの歳差運動の方が早く動く       ならば運動量とスピンは常に同一方向                      ヘリシティ保存        なのでスピンの歳差運動の方が早く動く Figures from Herzog’s talk @Tau06 workshop Momentum Spin e

ミュー粒子の崩壊によってでる電子の数を見る                      weakでの崩壊                      パリティの破れ                        左右非対称 Figure from Hertzog’s talk @Tau06 射出ミュー粒子のスピンの向きによって、 出てくる電子の数が異なる。 この変化の振動数が(g-2)に比例している。

理論 QED αの8次(4loop)までと10次(5loop)の一部 Weak 2 loopの寄与まで 以上2項については、まず、問題なし。           以上2項については、まず、問題なし。 Hadron ~60ppmの寄与        この精度をあげることが非常に難しい

ハドロンの真空偏極 他の実験データから計算可能 ハドロンの理論      量子色力学  QCD       格子QCDでの大型計算機による計算       いまのところ必要な精度まで計算できない         ~60ppm±0.1ppm とうてい無理 ハドロンの真空偏極 他の実験データから計算可能     e+ e-  ハドロン CMD-2, KLOE    τ粒子   ハドロン Belle, ALEPH                         M.Fujikawa’s talk @Tau06

実験値と理論値の比較 M. Davier’s talk @ Tau06                                3.3 標準偏差                                  の差異!                                超対称性?                                余剰次元?                               New Physics?               a μ[exp]-a μ[theory]=(27.5 ±8.4)X10-10

4、QED理論計算の現状 電子の異常磁気能率 理論の不確定性 28×10-14 ミュー粒子の異常磁気能率 QED10次の寄与 0.04ppm   理論の不確定性  28×10-14   実験の不確定性  76×10-14  近々20 ×10-14      早急に10次の寄与を求める必要! ミュー粒子の異常磁気能率   QED10次の寄与  0.04ppm       実験の不確定性   0.5 ppm      次世代の実験に備えて、               10次の寄与を全て知りたい。

電子の場合、10次では12672 のファインマン図! set I set II set III set IV set V set VI 208 diagrams 600 diagrams 1140 diagrams set IV set V set VI 2072 diagrams 6354 diagrams 2298 diagrams 電子異常磁気能率には、どの図形も平等に寄与する。. 全12672 図形を評価しないといけない。   The leading contribution to muon g-2 is reported by T. Kinoshita and MN hep-ph/0512330, PRD 73, 053007 (2006)

Set V: フェルミオンループのない6354 図形 6セットのなかでも、圧倒的に計算が難しい。 ★ # of diagrams are many..! Amalgamate the Ward-Takahashi related diagrams: 6354  6354 / 9 = 706 Time reversal symmetry: 706  389 independent self-energy like diagrams   6354 diagrams form one gauge invariant set. need to calculate all 389 to get a physical number. ★ UV renormalization is so complicated!

389 self-energy like diagrams

X-Project: 3 step calculation T.Aoyama, M. Hayakawa, T. Kinoshita and MN Step1: obtain the UV and IR finite amplitude. Most difficult. Fully automatic. Numerical calculation. Step2: obtain the residual renormalization expression. Automatic. Analytic calculation. Step3: obtain the values of the residual renormalization constants. Fully automatic. Numerical calculation. Answer= finite amplitude + residual renormalization constants.

Perl FORM Maple Perl Perl FORM Shell Script

Code generation is on a HP α machine: ~15min. for one code generation. A week and more for all 389 diagrams Fortran codes consist of more than 80,000 lines. 13dim. integration by VEGAS adaptive iterative Monte Carlo integration One diagram evaluation: 107 sampling points with 20 iteration 5-7 hours on the Xeon 32 CPU PC cluster Need 108 pts ×100 it to reach the desired precision. A few month to complete one diagram. We wish to evaluate 389 diagrams…

Linux PC cluster system. The numerical calculation has been carried on Riken Super Combined Cluster System. Linux PC cluster system. 2048 cpu 12.4 TFlops. operation started April 2005.    We use 500~700 CPU everyday. A new Peta-flops computer will be introduced in 2010   

Diagrams with vertex corrections only. No IR divergence.

2,3年以内に、10次の寄与を2%の精度で求める! 実験とあわせて、さらにαの値が一桁良くなる      実験とあわせて、さらにαの値が一桁良くなる F. Dyson から G. Gabrielseへの手紙:   QED   “Jerry-built”          10年も持たずにもっとしっかりとした理論に         とって代わられるだろう。         あるいは、新しい実験結果によって、         理論の破綻が示唆されるだろう。         57年間も自然のダンスを記述し続けたことは驚き。         また、このような高い精度で自然のダンスを         捉えたことに祝福を!  10次の計算によって、はじめてQEDの破綻が見えるかも??     そうなれば、とてもおもしろい!!!