2015年春学期 「企業のしくみ」 第11回 損益分岐点分析 2015年春学期 「企業のしくみ」 第11回 損益分岐点分析 樋口徹
会社法改正によって追加された監査等委員会設置会社(平成27年6月) 大会社 あるいは 公開会社 設置 義務 監査役 大会社かつ公開会社は設置義務 監査役会 ( 既 存 ) その他は任意の設置 設置不可 設置義務 委員会設 置会社 監査役 監査役会 指名・報酬・監査の3委員会(取締役で構成) その他(大会社ではない非公開会社) 設置義務なし 設置義務 監査役 監査役会 監査役あるいは会計参与 (新設) 指名・報酬の2委員会 監査等委員会設置会社 任意の設置 設置義務 監査委員会のみ(取締役で構成) ※大会社:資本金として計上した額が五億円以上であることあるいは負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。
欧米流監査 200社に迫る (2015年6月19日付日経新聞) 三菱重工・コスモ石油など導入 社外取締役らで委員会 欧米流の企業のチェック体制が日本でも広がりそうだ。監査役が取締役会の 外 から経営をチェックする従来のやり方ではなく、監査の担当者が 取締役 となり、内側から経営をチェックする仕組みだ。移行する上場企業は既に200社に迫る。経営の 透明性 向上が期待できる。制度の導入が比較的容易なため、今後も採用する企業は増えそうだ。 5月の改正会社法施行で認められた新制度「監査等委員会設置会社」だ。これまで取締役会の外にあった監査役会を、「監査等委員会」として取締役会の中に取り込む。同委員会は過半を社外取締役にする必要がある。経営を監督するという機能では既存の監査役会と同じだが、取締役という 強力な権限 を持った人が監査することで、より 監督機能 が高まる。海外投資家などからは、従来の制度は監査役の権限のわかりにくさが指摘されていた。
東京証券取引所の調べでは、新制度へ移行するのは、今年の 株主総会 での承認を経て導入する企業も含めて187社。日本には経営を監視する仕組みが新制度のほかに2つある。上場企業の9割は監査役が経営を監視する「 監査役会 設置会社」を採用する。もう1つは2003年に導入された 「委員会設置会社(現在は 指名委員会等設置会社)」。社外取締役の役割が大きいのが特徴で、監査以外に取締役候補を決める指名、報酬を決める報酬の 3委員会 を設け、社外取締役がそれぞれ過半数を占める。
今月から適用が始まった 企業統治 指針(コーポレートガバナンス・コード)も新制度への移行を後押ししている。指針では上場企業に2人以上の 社外取締役 の採用を求めており、採用しない場合は 理由 を開示する必要がある。移行企業のうち初めて社外取締役を受け入れる企業は約120社と全体の6割を占める。 ただ、 社外取締役 の確保が難しいほか、人事や報酬の決定を社外の人材に委ねることに抵抗がある企業も多い。東証によると、採用企業は東証上場企業で59社(4月末時点)にとどまる。 新制度では社外取締役が最低 2 人で済む。主流の監査役会設置会社の場合、制度移行と同時に監査役を廃止するため、 監査役 を社外取締役に横滑りさせる企業も多い。 上場企業全体で社外取締役の導入が進むことで、社外取締役の人材不足が指摘されている。このため、以前から関係のある 社外監査役 などが取締役になることが多いとみられる。新制度の定着に向けては、監査の実効性を最大限高められるかが問われそうだ。
4-4-1 企業の利益とは(p.102) 利益とは 『広辞苑』によると、利益には以下の意味がある。 ① もうけた もの。とく。利分。得分。りやく。 ②ためになること。益になること。 ③企業の経済活動によって 会計上 生じた、元入れおよび 増資以外による 資本 の増加分。 営利を目的とする会社にとって、利益を獲得することあるいは利 益額を増加させることは、経営上の最重要課題である。
利益の計算 売上高(あるいは生産量)とコストの関係を分析 利益の計算 売上高(あるいは生産量)とコストの関係を分析 利益は「利益=売上-費用」と単純に表現できる。 利益を大きくするには? ・ 売上を伸ばし、 費用 を削減する ・ (費用を大きくしても、それ以上に) 売上 を伸ばす ・ (売上を減らしても、それ以上に) 費用 を削減する など 1種類の商品を定価で販売している場合、売上は「売上=定価×販 売個数」と単純に表現できる。 ※2種類の場合、 「売上=定価➀×販売個数➀+定価②×販売個数② 」 売上を伸ばすには? ・価格を上げ、販売個数も増やす ・(販売個数を減らしても、売上増になるように) 価格 を上げる ・ (価格を下げても、売上増になるように)販売 個数 を増やす ・ 商品数 を増やす など
価格を上げるには? 販売個数を増やすには? ・ 値引き 販売する ・ 宣伝・広告 する ・ブランドの イメージ を向上する(長期的) など 販売個数を増やすには? ・ 値引き 販売する ・ 宣伝・広告 する ・ブランドの イメージ を向上する(長期的) など 価格を上げるには? ・一方的に上げる( 独占 状態なら可能だが、反動で販売個数減少 の可能性大) ・ブランドの イメージ を向上させる(長期的) など ※価格は売り手側が操作できるので、価格設定が売上にとって重要となる。
費用を「費用= 固定費+変動費 」と単純に表現することがある。 固定費は生産量に関係なく発生(土地代、設備投資など) 費用を「費用= 固定費+変動費 」と単純に表現することがある。 固定費は生産量に関係なく発生(土地代、設備投資など) 変動費は生産量に応じて発生する材料代などが該当する (変動費の合計=個数×一個当たり変動費) 費用を削減するには? ・ 固定費 を削減する(資産を持たない経営) ・一個当たりの 変動費 を安くする(材料代を安く) など ※設備投資によって、大量生産が可能となり、一個当たり変動費を削減さ せることができるが、投資分を回収できない危険性が高まる。 ※固定費と変動費のバランスが大切となる。
利益を最大にする販売価格の決定例 価格と販売個数の関係が把握できている場合(仕入れ前) 潜在的な顧客が1000人存在し、値段が1円上がるごとに4人購 入しなくなることが調査によって判明した(購入は一人一個)。 ※販売個数(y)=1,000-4×価格(p) 固定費は10,000円で、一個当たり変動費は50円とする。 ※費用=10,000+50×販売個数(y) 利益=売上-費用=販売個数×価格-(固定費+変動費) =(1,000-4p)× p-[10,000+50×( 1,000-4p )] =-𝟒 𝐩−𝟏𝟓𝟎 𝟐 +𝟑𝟎,𝟎𝟎𝟎 ※販売価格を150円に設定すれば、400人の顧客が購入し、売上が6万円で、固定費1万と変動費2万となり、3万円の利益を獲得できる。 50円と250円で販売した時の、損益の額とその理由は? 50円と250円で販売した場合の損失は1万円(固定費分)となる。50円で販売した場合、販売価格と変動費が同じであり、そして250円の場合は、顧客が0となるので、変動費も0であるからである。
4-4-2 損益分岐点(p.104) 売上(収入)と費用の均衡 会社では事業や投資を行うかどうかの意思決定の際に、 事前 に 採算性 の検討を行う。 具体的には、検討している事業の売上高がどの程度であれば、必 要な 費用 の合計額を上回るのかを分析するのである。 固定費や変動費などの費用の合計と売上が 均衡 する点を 「 損益分岐点 」と呼ぶ。 損益分岐点を超えた売り上げを達成できれば、 利益 を獲得す ることができる。 設備投資や事業参入の意思決定の際には、会社は損益分岐点を 超える見込みがあるかを目安として重要視している。
生産量から見る売上、費用、損益の関係 企業(事業)の費用構造を明らかにし、マネジメントの用具とする。 具体的には、売上高をどの程度実現すれば、企業として採算が 採れるのか、また設備投資をしたときには、どのようにコストが変 動するのかについての目安を得る。 売上=価格×販売個数 売上高 費用 損益 費用=固定費+変動費 (変動費=一個当たり変動費×生産個数) 利益=売上-費用 固定費 量(Q)
▼損益分岐点分析とは 費用と売上高(あるいは生産量)の関係を分析 企業(事業)の費用構造を明らかにし、マネジメントの用具とする。 具体的には、売上高をどの程度実現すれば、企業として採算が 採れるのか、また設備投資をしたときには、どのように費用が変 動するのかについての目安を得る。 一定期間のコストと収益(売上高)の関係を以下のようにグラフ化 して示すことができる。 売上 売上 や費用 費用 生産量(Q)
損益分岐点図表の説明 固定費 は、生産量が変化しても変動しない費用(設備投資や不動産の賃貸料など生産しなくてもかかる費用) 売上高や費用は直線的に経過するように示されている。 固定費 は、生産量が変化しても変動しない費用(設備投資や不動産の賃貸料など生産しなくてもかかる費用) 変動費 は生産量が変化することによって比例して変動する費用(原材料代など) 売上=価格×販売個数 売上高 費用 損益 費用=固定費+変動費 (変動費=一個当たり変動費×生産個数) 利益=売上-費用 固定費 量(Q)
▼損益分岐点計算の前提 下図において売上や費用が直線で描けるのは、次のような仮定が あるからである; ①製品の販売価格が一定(売上高は生産量に比例)、 ②単位当たり追加費用は一定(変動費用総額は生産量に比例)、 ③企業の製品構成は不変、 ④生産された全製品が定価販売、 ⑤固定費と変動費が明確に区別(算定)可能。 売上 売上 や費用 総費 生産量・販売個数(Q) ※損益分岐点分析は、費用・収益構造を単純化している。また、企業の総費用を固定費と変動費に分解する問題も存在する。
損益分岐点 下図ではQ’以上生産・販売できれば、利益を稼げるようになる。 損益分岐点 とは、売上と費用が等しくなる点(生産量)のこ とある。 この点では損益が均衡する(利益は±0となる)。 事業展開に際して、損益分岐点を知ることは重要である。 売上高 売上高 や費用 総費用 →貢献利益:利益を得られるようになる 生産量(Q) Q’
▼損益分岐点図表の解釈と応用 売上高、変動費、固定費の関係;損益分岐点を超えれば、利益獲得 販売価格が変動費を上回った分だけ 固定費 の回収が進む。 企業が生産する意思決定は、販売価 格が一個あたり変動費より高いこと が最低条件となる。 次に、固定費の回収が十分になされ、 利益を得られるようになる。 変 動 費 二個分の変動費 売上 や費用 固 定 費 価 格 の 倍 売上 費用 価 格 拡大 1 2 量(Q)
損益分岐点図表の応用(前述の仮定の変更) ① 販売価格 を変更した場合 損益分岐点図表の応用(前述の仮定の変更) ① 販売価格 を変更した場合 売上(値上げ) 売上 売上 や費用 売上(値下げ) 費用 量(Q) Q’ 価格一定という条件をはずした場合の損益分岐点の異同を示 したものである。 損益分岐点が左右に移動していることがわかる。 価格が上昇した場合には、企業は少ない生産量あるいは販売 個数で採算点に達することになる。価格が下落した時には、当 然逆の移動が生じることになる。
② 固定費 が変化した場合 売上 費用(固定費上昇) 売上 や費用 費用 費用(固定費下降) 量(Q) Q’ 費用が上下に平行移動している。 ② 固定費 が変化した場合 売上 費用(固定費上昇) 売上 や費用 費用 費用(固定費下降) 量(Q) Q’ 費用が上下に平行移動している。 設備投資が行われた場合固定費は増加し、予想より安く設備投 資が出来た場合は固定費は縮小する。 費用が上(下)に平行移動した場合、当然損益分岐点は右(左)に 移動する。
③ 変動費 が変化した場合 売上高 費用(変動費上昇) 売上 や費用 費用 費用(変動費下降) 量(Q) Q’ ③ 変動費 が変化した場合 売上高 費用(変動費上昇) 売上 や費用 費用 費用(変動費下降) 量(Q) Q’ ③は、②と同様に費用が変化している。 特に、変動費に変化があった状況を示している(固定費は一定)。 原材料価格が上昇(下降)し、変動費が上昇(減少)している状況である。この場合も、損益分岐点は右(左)側に移動する。
▼費用の固定費と変動費への費用の分解について 差額法(high-low method) 2つの売り上げレベルでの各々の費用を推定(2点) 高い売上の費用から低いレベルの費用を引き、 高いレベルの販売個数から低い売上の販売個数を引き、 両者の費用の差を両者の販売個数の差によって割り、 単位当たり変動費を算出し、 固定費を特定、費用を固定費と変動費に分解する。 費用 費用 2点の費用 (C’’-C’)/(Q’’-Q’) 単位当たり変 動費を計算 C’’ C’’ 2 2 C’ C’ 1 1 固定 費算 定 Q’ Q’’ Q’ Q’’ 生産量 量
▼差額法による計算例 以下の2点から生産量と費用から固定費を算出。 500個生産した時の総費用が80万円であった。 400個生産した時の総費用が70万円であった。 製品単位当たり変動費=(80万円-70万円)/(500個-400個) =1000円/個 費用=固定費+変動費なので、 400個生産した時、70万円=固定費+1000円/個×400個 ※固定費は30万円となる。 費用 80万円 2 10万円 70万円 1 100個 固定費 30万円 生産量 400 500