生物学 第6回 転写と翻訳 和田 勝
DNAからタンパク質へ セントラルドグマ DNAは核から外に出ないので、DNAとタンパク合成の間を取り持つのがメッセンジャーRNA(mRNA)です。
サイトゾール 核 DNA リボソーム mRNA 細胞膜 粗面小胞体 ゴルジ装置 原料のアミノ酸
DNAからタンパク質へ 1)DNAからmRNAへ この過程を転写(transcription)と呼びます。
DNAからタンパク質へ 2)mRNAからタンパク質へ この過程を翻訳(translation)と呼びます。
ここでDNAとRNAの違い DNA RNA 1)糖はデオキシ リボース 1)糖はリボース 2)塩基はATCG 2)塩基はAUCG 3)二本鎖 リボース 1)糖はリボース 2)塩基はATCG 2)塩基はAUCG 3)二本鎖 3)一本鎖 細胞は3種類のRNAを使っています。1つ目はすでに出てきたmRNA、2つ目はリボソームの建築材料であるrRNA、3つ目がアミノ酸の運び屋 tRNA
転写の過程 それでは、転写の過程をお話しましょう。 我々は、情報を書き写すためはコピー機を使ったり、鉛筆で筆写したりしますが、核の中では、酵素タンパク質がこの役目を果たします。 酵素の名前は、RNAポリメラーゼです。
ここでもう一度DNAの構造 DNAは、デオキシリボースという糖(Sugar)とリン酸(Phosphate)の骨格から、塩基(Base)が突き出た構造でしたね。それが2本、向かいあっています。
DNA分子を簡単に書くと 5’ PSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPS A T C G A T C G A T C G A T 3’ T A G C T A G C T A G C T A SPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSP 3’ 5’ この間が水素結合(この図では省略してある)
DNAの構造 ヌクレオシドを思い出してください。 + = このようにデオキシリボースのC原子に1’から5’までの番号が割り当てられます。 4’ 1’ 3’ 2’ デオキシアデノシン(ヌクレオシドの一つ)
DNAの構造 3’と5’にOHがあることに注目してください。この3’の水酸基と次のヌクレオシドの5’の水酸基をリン酸がつなぎます。 5’ 1’ 2’ 3’ 4’ 5’ 3’と5’にOHがあることに注目してください。この3’の水酸基と次のヌクレオシドの5’の水酸基をリン酸がつなぎます。
DNAの構造 1’ 2’ 3’ 4’ 5’ リン酸とデオキシリボースの水酸基の間のエステル結合(脱水縮合) 5’
DNAの構造 ホスホジエステル結合と呼ぶ。
ポリメラーゼは 5’ PSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPSPS A T C G A T C G A T C G A T 3’ ポリメラーゼは空いている3’に次のデオキシリボースの5’のOHをつないでいく反応しか触媒できないのです。また合成するためには参照する鋳型が必要です。したがって、鋳型は3’→ 5’になります。
転写の過程 RNAの鎖の伸長は必ず5’→3’の方向(酵素の性質による) (5') ATGGAATTCTCGCTC(3')(コード鎖、sense strand) (3') TACCTTAAGAGCGAG(5')(鋳型鎖、antisense strand) (5‘) AUGGAAUUCUCGCUC(3’)(転写された一本鎖RNA) RNAの鎖の伸長は必ず5’→3’の方向(酵素の性質による)
RNAポリメラーゼ 転写は酵素であるRNAポリメラーゼによって触媒
RNAポリメラーゼ RNAポリメラーゼは、DNAの二重ラセンをほどきながら、二本鎖のうち鋳型となる鎖の塩基の配列を読んで、これと相補的な塩基をもったヌクレオチドを取り込み結合していきます。 RNAの鎖の伸長は必ず5’→3’の方向
転写(頭だし)の過程 DNAの塩基配列にはアミノ酸配列をコードしている領域と、転写の調節に関与する領域があります。 開始コドン(ATG)のすぐ上流には、プロモーターという領域があります。 真核生物では、プロモーター領域にTATAAAという配列が共通して存在します(開始コドン上流30塩基を中心)。
転写(頭だし)の過程 この領域をTATA boxとかホグネス配列とか呼ぶ。 TATA boxに転写因子(タンパク質)が結合。 これを目印にRNAポリメラーゼ(やその他の転写因子)が結合。
転写の方向 プロモーターはRNAポリメラーゼの着地点であるとともに、この酵素がDNA上を滑っていく方向も規定します。 したがって、二本鎖のうちのどちらが鋳型鎖になるかは、プロモーターの配置によって決まることになります。
転写の過程 転写の過程を示す動画を見てみましょう。
翻訳の過程 それでは、翻訳の過程をお話しましょう。 すでにお話したように、翻訳とはmRNAをリボソームという塩基語→アミノ酸語変換機にかけて、タンパク質をつくる過程です。 材料であるアミノ酸はどのように調達するのでしょうか。
材料の調達 アミノ酸をリボソームに運ぶ、運び屋が必要です。 それがRNAの一つであるtRNA(transfer RNA、転移RNAとか運搬RNA)です。
tRNAの構造 tRNAが塩基語とアミノ酸語のアダプターとして機能するためには、コドン認識部位とアミノ酸連結部位が必要。 クローバ型モデル
tRNAの構造 特定のアミノ酸を3’に結合 一本鎖内に水素結合 アミノ酸に対応したアンチコドン
tRNAの構造 実際の形は、下の図のようなL字型をしていて、右端にアミノ酸を結合、下端にアンチコドンがあります。
tRNAの構造 3‘末端はCCAで、Aにアミノ酸が結合 アンチコドン部は規則的な3段構造。
tRNAにアミノ酸を付加 アミノアシルtRNA合成酵素が、特定のアミノ酸を対応するtRNAに付加して、サイトゾール中に用意しておく
リボソームの構造
翻訳の場であるリボソーム リボソームはRNAの一つであるrRNA(ribosomal RNA、リボソームRNA)とタンパク質の複合体です。 細胞のなかで働いている、マイクロマシーンの一つといえるでしょう。
リボソームの構造
リボソーム形成には、、、 1)核小体で転写された rRNA 2)サイトゾールで合成されたタンパク質が核へ
リボソームの模式図
翻訳の過程 翻訳の過程を示す動画を見てみましょう。
翻訳の開始 mRNA + リボソーム小顆粒 メチオニンtRNA (P部位に座る) リボソーム大顆粒 隣席のA部位に対応するアミノアシルtRNAが座り、翻訳開始
翻訳の開始
ペプチド鎖の伸長
翻訳の終了
翻訳の終了 mRNA・リボソーム複合体 リボソーム大顆粒 リボソーム小顆粒 大小顆粒はリサイクルされる 完成したタンパク質
サイトゾール 核 DNA リボソーム mRNA 細胞膜 粗面小胞体 ゴルジ装置 原料のアミノ酸
二つの合成経路
サイトゾールでは リボソームがmRNAでつながっている。左の方のリボソームからはペプチド鎖が延びているのが見える。
粗面小胞体では バーは50μm
分泌性タンパク質の合成 先頭にシグナルペプチドが付加している。膜タンパク質の場合も同じ。
細胞内のソーティング リボソーム →サイトゾール →粗面小胞体 →顆粒 →細胞膜 核 ミトコンドリア 葉緑体 ペルオキシゾーム 次のスライドに模式図
細胞内のソーティング リボソーム →サイトゾール →粗面小胞体 →顆粒 →細胞膜 核 ミトコンドリア 葉緑体 ペルオキシゾーム 次のスライドに模式図
分泌タンパク質の一次構造 翻訳直後の、卵白リゾチームの一次構造は次のとおり 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 1 Met Arg Ser Leu Leu Ile Leu Val Leu Cys Phe Leu Pro Leu Ala 15 16 Ala Leu Gly Lys Val Phe Gly Arg Cys Glu Leu Ala Ala Ala Met 30 31 Lys Arg His Gly Leu Asp Asn Tyr Arg Gly Tyr Ser Leu Gly Asn 45 46 Trp Val Cys Ala Ala Lys Phe Glu Ser Asn Phe Asn Thr Gln Ala 60 61 Thr Asn Arg Asn Thr Asp Gly Ser Thr Asp Tyr Gly Ile Leu Gln 75 76 Ile Asn Ser Arg Trp Trp Cys Asn Asp Gly Arg Thr Pro Gly Ser 90 91 Arg Asn Leu Cys Asn Ile Pro Cys Ser Ala Leu Leu Ser Ser Asp 105 106 Ile Thr Ala Ser Val Asn Cys Ala Lys Lys Ile Val Ser Asp Gly 120 121 Asn Gly Met Asn Ala Trp Val Ala Trp Arg Asn Arg Cys Lys Gly 135 136 Thr Asp Val Gln Ala Trp Ile Arg Gly Cys Arg Leu マゼンダ色がシグナルペプチド
卵白リゾチーム リゾチーム(lysozyme)は、細菌の細胞壁を構成するN-アセチルムラミン酸とN-アセチルグルコサミン間の結合を切断する。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 1 Lys Val Phe Gly Arg Cys Glu Leu Ala Ala Ala Met Lys Arg His 15 16 Gly Leu Asp Asn Tyr Arg Gly Tyr Ser Leu Gly Asn Trp Val Cys 30 31 Ala Ala Lys Phe Glu Ser Asn Phe Asn Thr Gln Ala Thr Asn Arg 45 46 Asn Thr Asp Gly Ser Thr Asp Tyr Gly Ile Leu Gln Ile Asn Ser 60 61 Arg Trp Trp Cys Asn Asp Gly Arg Thr Pro Gly Ser Arg Asn Leu 75 76 Cys Asn Ile Pro Cys Ser Ala Leu Leu Ser Ser Asp Ile Thr Ala 90 91 Ser Val Asn Cys Ala Lys Lys Ile Val Ser Asp Gly Asn Gly Met 105 106 Asn Ala Trp Val Ala Trp Arg Asn Arg Cys Lys Gly Thr Asp Val 120 121 Gln Ala Trp Ile Arg Gly Cys Arg Leu リゾチーム(lysozyme)は、細菌の細胞壁を構成するN-アセチルムラミン酸とN-アセチルグルコサミン間の結合を切断する。
リゾチームの比較 □部分はシグナル、赤字のアミノ酸が異なる 活性部位:E:グルタミン酸、D:アスパラギン酸 1 11 21 31 41 eggwhite MRSLLILVLC FLPLAALGKV FGRCELAAAM KRHGLDNYRG YSLGNWVCAA human MKALIVLGLV LLSVTVQGKV FERCELARTL KRLGMDGYRG ISLANWMCLA 51 61 71 81 91 eggwhite KFESNFNTQA TNRN-TDGST DYGILQINSR WWCNDGRTPG SRNLCNIPCS Human KWESGYNTRA TNYNAGDRST DYGIFQINSR YWCNDGKTPG AVNACHLSCS 101 111 121 131 141 eggwhite ALLSSDITAS VNCAKKIVSD GNGMNAWVAW RNRCKGTDVQ AWIRGCRL human ALLQDNIADA VACAKRVVRD PQGIRAWVAW RNRCQNRDVR QYVQGCGV □部分はシグナル、赤字のアミノ酸が異なる 活性部位:E:グルタミン酸、D:アスパラギン酸 SS結合:24-145(146), 48-133(134), 82(83)-98(99), 94(95)-112(113)
ヒトリゾチーム ヒトでは、涙のなかに含まれていて殺菌に寄与する。他に免疫にも関与する 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 1 Lys Val Phe Glu Arg Cys Glu Leu Ala Arg Thr Leu Lys Arg Leu 15 16 Gly Met Asp Gly Tyr Arg Gly Ile Ser Leu Ala Asn Trp Met Cys 30 31 Leu Ala Lys Trp Glu Ser Gly Tyr Asn Thr Arg Ala Thr Asn Tyr 45 46 Asn Ala Gly Asp Arg Ser Thr Asp Tyr Gly Ile Phe Gln Ile Asn 60 61 Ser Arg Tyr Trp Cys Asn Asp Gly Lys Thr Pro Gly Ala Val Asn 75 76 Ala Cys His Leu Ser Cys Ser Ala Leu Leu Gln Asp Asn Ile Ala 90 91 Asp Ala Val Ala Cys Ala Lys Arg Val Val Arg Asp Pro Gln Gly 105 106 Ile Arg Ala Trp Val Ala Trp Arg Asn Arg Cys Gln Asn Arg Asp 120 121 Val Arg Gln Tyr Val Gln Gly Cys Gly Val ヒトでは、涙のなかに含まれていて殺菌に寄与する。他に免疫にも関与する
ヒトリゾチーム 黄色い棒がSS結合
ヒトリゾチーム 活性部位:E:グルタミン酸とD:アスパラギン酸が向かい合う位置関係になります。鋏の上の刃と下の刃になるのです。
ヒトリゾチーム SS結合が4本あって、三次構造に寄与している。SS結合というのは、2つのシステインの側鎖-CH2SHのSHが、 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 1 Lys Val Phe Glu Arg Cys Glu Leu Ala Arg Thr Leu Lys Arg Leu 15 16 Gly Met Asp Gly Tyr Arg Gly Ile Ser Leu Ala Asn Trp Met Cys 30 31 Leu Ala Lys Trp Glu Ser Gly Tyr Asn Thr Arg Ala Thr Asn Tyr 45 46 Asn Ala Gly Asp Arg Ser Thr Asp Tyr Gly Ile Phe Gln Ile Asn 60 61 Ser Arg Tyr Trp Cys Asn Asp Gly Lys Thr Pro Gly Ala Val Asn 75 76 Ala Cys His Leu Ser Cys Ser Ala Leu Leu Gln Asp Asn Ile Ala 90 91 Asp Ala Val Ala Cys Ala Lys Arg Val Val Arg Asp Pro Gln Gly 105 106 Ile Arg Ala Trp Val Ala Trp Arg Asn Arg Cys Gln Asn Arg Asp 120 121 Val Arg Gln Tyr Val Gln Gly Cys Gly Val SS結合が4本あって、三次構造に寄与している。SS結合というのは、2つのシステインの側鎖-CH2SHのSHが、 ーS-S-という形になること。
膜タンパク質 糖鎖 タンパク質 脂質の二重膜(lipid bilayer)である。
細胞内のソーティング リボソーム →サイトゾール →粗面小胞体 →顆粒 →細胞膜 核 ミトコンドリア 葉緑体 ペルオキシゾーム 次のスライドに模式図
膜タンパク質の場合
膜タンパク質の場合
タンパク質の形が重要 タンパク質の立体構造がいかに大切かということが、よくわかりますよね。 熱を加えたり、pHが偏ったりすると、この形が崩れて、酵素としての働きが失われてしまいます。 酵素に活性を表すための、最適温度や最適pHが存在するのはこのためです。
きょうはちょっと難しかった? かもしれませんが、これは生物学の基礎の基礎なので、避けて通れないところです。正確に覚えてください。 次回は、エネルギー代謝について話しましょう。お楽しみに。