物質移流スキームにおいて 使用される 格子点データの内挿法 惑星宇宙グループ 地球流体力学研究室 村橋 究理基
目次 目的 物質移流 大気大循環モデル 時間の離散化 空間の離散化 内挿法 まとめ・今後の目標 参考文献
1. 目的 目的 本発表の内容 惑星スケールにおける大気で起こる現象について調べるのに, 大気大循環モデルを用いて数値計算する方法がある. 惑星スケールにおける大気で起こる現象について調べるのに, 大気大循環モデルを用いて数値計算する方法がある. 大気大循環モデルの一つにDCPAMというものがあり, その中で 使われている物質移流スキームがどのように計算されている か, その原理を理解したい. 本発表の内容 物質移流スキームで使われているセミラグランジュ法につい て, Staniforth & Côté(1991) を元に理解する. セミラグランジュ法を用いるのに必要な内挿法についてどの ようなものがあるのか調べ, その仕組みについて理解する.
2. 物質移流 物質移流とは 大気や海洋などにおける流れによって運ばれる水蒸気などの物質 の移動のこと. 速度vで移動するある物質qの移流を生成・消滅項をSとして式で 表すと以下のようになる. ∂𝑞 𝑥 ,𝑡 ∂𝑡 + 𝑣 ⋅∇𝑞=𝑆 速度vが一定で生成・消滅項S=0, 初期条件q(x,0)=p(x)であるとき, 空間1次元で考えると解析的に解くことができる. ∂𝑞 ∂𝑡 +𝑣 ∂𝑞 ∂𝑥 =0 𝑞 𝑥,𝑡 =𝑝 𝑥−𝑣𝑡 解→ 一般的には解析的に解くことはできず, 数値計算で求めることにな る.
3. 大気大循環モデル 惑星スケールにおける大気循環をシミュレー ションする計算モデル. 現象を数式で表現し, 時間と空間に関する微分方 程式を計算機を用いて解くことによって数値計 算を行う そのため数式を計算機で解釈できるように変換 する必要が出てくる
4. 時間の離散化 離散化とは 数値計算を行うために連続した値を有限の点で表すこ と. 有限の点のことを格子点とよぶ. 時間の離散化 等間隔の点で領域[0, T]をtn (n=0,1,...,N)で表した例 𝑡 𝑛 =𝑛Δ𝑡 Δ𝑡= 𝑇 𝑁 𝑛=0,1,…𝑁 𝑡 0 𝑡 1 𝑡 2 𝑡 𝑛 𝑡 Δ𝑡 𝑡 𝑁 𝑇 時間の離散化 上図のように等間隔なΔtを用いて離散化する
5-1. 空間の離散化 オイラー法 オイラー法 空間に固定された点を通過する物理量や物質を 計算し, 現象の時間発展をみる方法 分割数が少ないと精度のよい結果が得られにく い ただし空間の分割幅を小さくすると, その分安 定した計算のために, 時間の分割幅も小さくす る必要がでてくる x0 x1 x2 x3 Δ𝑥 Δ𝑧 Δ𝑦
5-2. 空間の離散化 ラグランジュ法 ラグランジュ法 A1 A'1 A2 A'2 A3 A'3 ラグランジュ法 各流体粒子に着目してそれぞれが どのような動きをするのかを計算 することで現象の時間発展を見る 方法 オイラー法と異なり, 空間の刻み幅に時間の刻み幅が制限を受け ない 粒子の動きによっては流体の特徴が十分に表せない場合がある.
5-3. 空間の離散化 セミラグランジュ法 セミラグランジュ法 オイラー法のように空間に固定された格子点を考え, その 点にくる流体粒子をラグランジュ法のように追いかけるこ とで求めて現象の時間発展をみる方法 空間的に固定された格子点を考 えるため, 考える空間に偏りが 生じない. ラグランジュ的に粒子の動きを 追うことで安定性が高い計算が できる.
5-4. 空間の離散化 セミラグランジュ法 セミラグランジュ法 上記(3), (4)の手続きのために内挿法が必要となる 全ての格子点上での時刻t-Δt におけ る物質qと時刻 t, における速度がわ かっているとする 時刻 t+Δt に空間の格子点上にくる物 質qについて考える qが時刻 t-Δt に存在した位置を(1)の 情報を元に求める (3)で求めた位置を元に, その物質qを 求めて, 求めたい格子点上における物 質qを決定する 上記(3), (4)の手続きのために内挿法が必要となる
6-1. 内挿法 ある複数のデータからなるデータ列において, 各データ の間を埋めるデータを求める方法 例として以下のような方法がある ある未知関数f(x)にしたがう複数個の値が存在し, その値から未知 関数f(x)を推定する方法 例として以下のような方法がある 線形内挿 ラグランジュ内挿 スプライン内挿 エルミート内挿 変則エルミート5次内挿 内挿多項式は次のように表される 𝑝 𝑁 𝑥 = 𝑗=0 𝑁 𝑎 𝑗 𝑥 𝑗 = 𝑎 0 + 𝑎 1 𝑥+...+ 𝑎 𝑁 𝑥 𝑁
6-1. 内挿法 ある複数のデータからなるデータ列において, 各データ の間を埋めるデータを求める方法 例として以下のような方法がある 格子点(x0, x1, …, xN)における値yj=f(xj)がわかっている. この点を通る曲線をN次の多項式pN(x)を用いて表そうとする方法 ある座標Aについて求めたい場合, 得られた多項式pN(x)を用いて pN(A)を計算すればよい. 例として以下のような方法がある ラグランジュ内挿 スプライン内挿 エルミート内挿 変則エルミート5次内挿 N次の内挿多項式 𝑝 𝑁 𝑥 = 𝑗=0 𝑁 𝑎 𝑗 𝑥 𝑗 = 𝑎 0 + 𝑎 1 𝑥+...+ 𝑎 𝑁 𝑥 𝑁
6-2. 内挿法 線形内挿 y x x0 y0=f(x0) x1 y1=f(x1) 線形内挿 2点(x0, y0), (x1, y1)の間が直線的に変化 していると仮定して直線を用いて内装 する方法 𝑦= 𝑦 1 − 𝑦 0 𝑥 1 − 𝑥 0 𝑥− 𝑥 0 + 𝑦 0 これは次に説明するラグランジュ内挿におい てN=1としたときと同じものである
6-2. 内挿法 ラグランジュ内挿 ラグランジュ内挿 全ての点を通るpn(x)を求める方 法 満たす条件は以下 一般的な形 …(1) 𝑝 𝑛 𝑥 𝑗 =𝑓 𝑥 𝑗 𝑗=0,1,...,𝑛 一般的な形 𝑝 𝑛 𝑥 = 𝑗=0 𝑛 𝑙 𝑗 𝑥 𝑦 𝑗 𝑙 𝑗 𝑥 = 𝑥− 𝑥 0 𝑥− 𝑥 1 ... 𝑥− 𝑥 𝑗−1 𝑥− 𝑥 𝑗+1 ... 𝑥− 𝑥 𝑛 𝑥 𝑗 − 𝑥 0 𝑥 𝑗 − 𝑥 1 ... 𝑥 𝑗 − 𝑥 𝑗−1 𝑥 𝑗 − 𝑥 𝑗+1 ... 𝑥 𝑗 − 𝑥 𝑛 …(1)
6-3. 内挿法 エルミート内挿 エルミート内挿 全ての点を通り, それぞれの微 分値も一致するp2n+1(x)を求める 方法 満たす条件は以下 肩付( j )はj階微分を表す 𝑝 2n+1 𝑗 𝑥 𝑗 = 𝑓 𝑗 𝑥 𝑗 𝑗=0,1,...,𝑛 一般的な形. lj(x)は(1)式である. 𝑝 2n+1 𝑥 = 𝑗=0 𝑛 { 𝑙 𝑗 𝑥 } 2 {1−2 𝑙 𝑗 ′ 𝑥 𝑗 𝑥− 𝑥 𝑗 } 𝑦 𝑗 + 𝑗=0 𝑛 { 𝑙 𝑗 𝑥 } 2 𝑥− 𝑥 𝑗 𝑦 ′ 𝑗
6-4. 内挿法 スプライン内挿 一般的な形 (3次)スプライン内挿 区間[xj, xj+1]を取り出し, それぞれの区間ごと に異なる補間多項式Sj(x)を定義する. Sj(x)とSj+1(x)が境界において1階及び2階微分 値が一致するようなSj(x)を用いて pn(x)|n=3を求める方法 満たす条件は以下 𝑆 𝑗 𝑥 𝑗 =𝑓 𝑥 𝑗 𝑆 𝑗 𝑥 𝑗+1 =𝑓 𝑥 𝑗+1 𝑆 ′ 𝑗 𝑥 𝑗+1 =𝑆 ′ 𝑗+1 𝑥 𝑗+1 𝑗=0,1,...,𝑛−1 𝑗=0,1,...,𝑛−2 𝑆′ ′ 𝑗 𝑥 𝑗+1 =𝑆′ ′ 𝑗+1 𝑥 𝑗+1 一般的な形 𝑝 𝑛 𝑥 = 𝑗=0 𝑛 𝑆 𝑗 𝑥
6-5. 内挿法 変則エルミート内挿 変則エルミート5次内挿 エルミート5次内挿では格子点における値と 1,2階微分値を用いて内挿多項式を求める 必要な微分値を減らすため, 変則エルミート5 次内挿では内挿したい点の周囲4点まで利用 して計算する 一般的なエルミート5次内挿 変則エルミート5次内挿 X印が内挿したい点. 下付き添字はその数で空 間微分の階数を示す. 必要な値の数は同じだが , 変則エルミート5次内挿は1階微分値までで解 くことができ, 一般的なものと比べて計算コス トが小さい.
7. まとめ・今後の目標 まとめ 数値的に移流方程式を解くのに安定性が高く, 空間的に偏り が少なく計算する方法としてオイラー法とラグランジュ法 を組み合わせたセミラグランジュ法という方法がある セミラグランジュ法には内挿計算が必要であり, 内挿法には 考え方によっていくつかの方法がある. 今後の目標 移流計算をセミラグランジュ法のもとに数値的に行うにあ たって, どのような内挿計算を用いれば計算精度や計算コス トがよくなるか注意して, 効率良く精度の高い数値シミュ レーションを行うことができるようにしたい.
8. 参考文献 [1] Hachisuka, T., 2006: Advection Equation Solver using Mapping Functions – Thesis for Bachelor of Engineering, The University of Tokyo, 45pp. [2] Kashimura, H., Enomoto, T., and Takahashi, Y., 2013: Non-negative filter using arcsine transformation for tracer advection with semi-Lagrangian scheme, SOLA.9, 125-128 [3] Staniforth, A., and J. Côté, 1991: Semi- Lagrangian integration scheme for atmospheric models - A review, Mon. Wea. Rev. 119, 2206-2203 [4] 高橋 芳幸, 竹広 真一, 石渡 正樹, 納多 哲史, 小 高 正嗣, 堀之内 武, 森川 靖大, 林 祥介, DCPAM 開 発グループ, 2011: 惑星大気モデル DCPAM, http://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/, 地球流体 電脳倶楽部. [5] 高橋大輔, 1996:数値計算 理工系の基礎数学 8, 岩波書店, 194pp. [6] 安田仁彦, 2008:数値解析基礎, コロナ社, 197pp. [7] 矢部孝, 内海隆行, 尾形陽一, 2003: CIP 法 原子 から宇宙までを解くマルチスケール解法, 森北出 版, 222pp.