初期研修医、後期研修医、上級医に おける気管挿管成功率の比較 〜救急気道管理に関する多施設前向き観察研究(JEAN study)〜 坪井重樹1)、渡瀬博子2)3)、奥村将年1)、筧裕香子1)、後藤縁1)、金原佑樹1)、近藤貴士郎1)、中島成隆1)、阿波根千紘1)、市川元啓1)、長谷川耕平3) 名古屋掖済会病院 救急科 2)オレゴン公衆衛生大学院 3)Japanese Emergency Medicine Research Alliance 名古屋掖済会病院救急科の坪井重樹です、よろしくお願いします。 最初に、ジーン・スタディの集計および解析期間の延長に伴い、内容と数字が、抄録と異なることをお断りさせていただきます。
第39回日本救急医学会総会・学術集会 CO I 開示 筆頭発表者名:坪井 重樹 演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある 企業などはありません 研究助成金(JEMRAとして) St. Luke’s Life Science Institute Grant (Hasegawa K.) Richard Wuerz Clinical Research Grant from Harvard Medical School (Hasegawa K.)
背景と目的 2004年以降の初期臨床研修制度の義務化に伴い、気管挿管はすべての初期研修医が経験すべき基本手技であり、必修項目となっている。 我が国には、初期研修医および後期研修医(卒後3〜5年目)における救急外来での気管挿管がどのように行われているかの実態を調査した研究は存在しない。 本研究の目的は初期研修医、後期研修医、上級医(6年目以上)の救急外来における緊急気管挿管について、適応症例ごとの成功率の実態を明らかにし、比較検討することである。 初期臨床研修制度の義務化に伴い、気管挿管はすべての初期研修医が経験すべき必修項目となっています。 我が国には、救急外来での気管挿管がどのように行われているかの実態を調査した研究は存在しません。 今回、初期研修医、後期研修医、上級医の救急外来における緊急気管挿管について、適応症例ごとの成功率の実態を明らかにし、比較検討を行いました。
方法 我が国の救急外来での緊急気道管理における多施設前向き観察研究であるJapanese Emergency Airway Network Study(Jean study)のレジストリから ①初期研修医 (卒後1年目) ②初期研修医 (卒後2年目) ③後期研修医 (卒後3年目) ④後期研修医 (卒後4、5年目) ⑤上級医 (卒後6年目以上) の5つに分類し、次の状況における気管挿管成功率について比較検討を行った。 ★解析方法:Tukey-KramerのHSD検定(有意水準5%) 方法ですが、ジーン・スタディのレジストリから、卒後1年目と2年目の初期研修医、 卒後3年目と4,5年目の後期研修医、卒後6年目以上の上級医の5つに分類し、次の状況における気管挿管成功率について比較検討を行いました。 解析方法は、多重検定である、テューキー、クレイマー検定を用いました。
比較項目 ①以下の状況における初回気管挿管成功率 ・心肺停止(CPA)、非CPAを含む全症例 ②初回と同一施行者による最終的な気管挿管成功率 ※本発表では施行者の専門科、施行時の気管挿管方法については問わない ※非CPA症例の内科系、外傷性の適応分類はJean studyに準ずる 比較項目は、全症例、CPA症例、非CPA症例それぞれにおける初回での気管挿管成功率と同一挿管者による最終的な気管挿管成功率です。
フローチャート 気管挿管試行症例 n=2710 救急外来での 挿管不成功 n=10(0.001%) ・蘇生中止 n=8 ・手術室へ n=2 初回成功 n=1834(67.7%) ・非CPA内科 n=906 ・非CPA外傷 n=184 ・CPA n=744 初回失敗 n=876(32.3%) フローチャートです。 ジーン・スタディには18ヶ月で2710例の登録がありました。 そのうち、初回成功症例は1834例でした。 初回失敗症例のうち、366例が同一挿管者による成功、500例が別の挿管者による成功となりました。 初回失敗症例のうち、救急外来での気管挿管が不成功であった症例が10例ありました。 同一挿管者 での成功 n=366(13.5%) 別の挿管者 による成功 n=500(18.7%)
結果 登録症例:2710例 (回収率 97.6%) うち除外:1例(挿管者の年次不明) 結果です。 各年次における、初回の気管挿管試行症例数はグラフのようになっています。 2年目、3年目の試行件数が多くなっています。 CPA症例では約半数が初期研修医にて行われています。 登録症例:2710例 (回収率 97.6%) うち除外:1例(挿管者の年次不明)
全症例とCPA症例の初回挿管成功率 48% (41.9% 〜 54.2%) 58% 71% 81% 56% (47.7% 〜 64.2%) 1年目 2年目 3年目 4,5年目 6年目以上 n 258 790 615 346 700 1回目成功率 (95%CI) 48% (41.9% 〜 54.2%) 58% (54.6% 〜 61.6%) 71% (67.3% 〜 74.6%) (66.3% 〜 76.1%) 81% (77.8% 〜 83.7%) 2群間の有意差 あり なし 148 334 177 94 261 56% (47.7% 〜 64.2%) 65% (59.3% 〜 69.8%) 78% (71.1% 〜 83.8%) 82% (72.6% 〜 89.1%) 88% (83.6% 〜 91.8%) 全症例とCPA症例での初回挿管率成功率の比較です。 青がCPAのみ、赤が全症例となっています。 上に棒グラフ、下に表が出ています。 成功率の下には、隣接する2群間で有意差があるかどうかを示しています。 全症例では、3年目と4,5年目以外はすべて有意差を認めました。 CPA症例では年次を追うごとに成功率が高くなっていますが、3年目以上はすべて有意差なしという結果になりました。
非CPA症例の初回挿管成功率 37% (28.1% 〜 46.5%) 53% 68% 77% 1年目 2年目 3年目 4,5年目 6年目以上 n 110 456 438 252 439 1回目成功率 (95%CI) 37% (28.1% 〜 46.5%) 53% (48.7% 〜 58.9%) 68% (63.9% 〜 72.6%) (61.6% 〜 73.6%) 77% (72.6% 〜 80.5%) 2群間の有意差 あり なし 非CPA症例についてです。 棒グラフには、先ほどの全体成功率も示しています。 こちらも6年目以上の成功率が最も高くなりましたが、3年目以上は有意差なしという結果になりました。
非CPA症例の内訳と初回挿管成功率 39% (28.4% 〜 49.2%) 56% 68% 70% 77% 1年目 2年目 3年目 4,5年目 6年目以上 n 91 403 382 194 323 1回目成功率(95%CI) 39% (28.4% 〜 49.2%) 56% (50.6% 〜 60.5%) 68% (63.1% 〜 72.7%) 70% (63.1% 〜 76.5%) 77% (72.4% 〜 81.8%) 2群間の有意差 あり なし 19 53 56 58 116 32% (12.6% 〜 56.6%) 36% (23.1% 〜 50.2%) (55.9% 〜 81.2%) 59% (44.9% 〜 71.4%) 74% (65.2% 〜 81.8%) 非CPA症例の内訳です。 内科系非CPA症例では、やはり6年目以上の成功率が最も高いですが、3年目以上はすべて有意差なしとなりました。 外傷については、4,5年目が3年目よりも成功率が低くなりましたが、これは症例数が少ない影響もあると思われます。 2年目と3年目のみにあきらかな有意差が見られました。 2年目研修医において、内科系と外傷の成功率に大きな差があるのが特徴です。 2年目と4,5年目の間には有意差なし
同一挿管者による最終挿管成功率 ※JEANでは初回輪状甲状間膜切開以外の全ての挿管症例 同一挿管者における最終成功率です。 左がジーン・スタディ、右は北米の救急レジデントにおける気管挿管スタディであるNEAR 2から引用したものを参考として表示しています。 残念ながら日本の方が成功率が低いですが、医学教育や研修方法の違いなどあり純粋にこのままの数字を受け止めることはできないと考えます。 初期研修医は、交代が必要になる事が多いですが、6年目以上では最終挿管成功率はNEAR2とほぼ同等と考えられます。 ※JEANでは初回輪状甲状間膜切開以外の全ての挿管症例 NEAR IIは初回輪状甲状間膜切開以外の経口/経鼻挿管症例
考察 初回の気管挿管成功率は1年目<2年目<3年目の順で有意差を認めた。(非CPA外傷症例を除く) →3年目までは経験により気管挿管技術は確実に上達する。 2年目研修医は非CPA内科系症例と外傷症例の成功率に有意差が認められた(Fisherの正確検定にてp=0.0081)。 →初期研修医には重症外傷の気管挿管は厳しい・・・? 6年目以上は、すべての項目で初回挿管成功率は最も高かったが3年目以上との有意差には乏しかった。 →しかし、6年目以上は同一施行者における最終挿管成功率が高く、修正能力が高い可能性が示唆される。 考察です。 非CPAの外傷症例を除き、初回挿管成功率は、1年目、2年目、3年目の順で成功率に有意差を認めました。 3年目までは、経験により気管挿管技術は確実に上達すると考えられます。 2年目研修医は非CPA内科系症例と外傷症例の成功率に有意差が認められました。 初期研修医には重症外傷の気管挿管はかなり厳しいのではないでしょうか 6年目以上は、すべての項目で初回挿管成功率は最も高いものの、3年目以上との有意差には乏しい結果となりました。 しかし、6年目以上は同一施行者における最終挿管成功率が高く、修正能力が高い可能性が示唆されます。
結語 初期研修医、後期研修医、上級医の救急外来における気管挿管の成功率について比較検討を行った。 1年目研修医は非CPA症例で、2年目研修医は非CPAの外傷症例での初回成功率が特に低く(いずれも成功率30%程度)、救急外来で気管挿管を行わせる場合には、個々の技量と適応症例、挑戦回数を十分考慮する必要があると考えられた。 結語です。 初期研修医、後期研修医、上級医の救急外来における気管挿管の成功率について比較検討を行いました。 1年目研修医は非CPA症例で、2年目研修医は非CPAの外傷症例での初回成功率が低く、救急外来で気管挿管を行わせる場合には、個々の技量と適応症例、挑戦回数を十分考慮する必要があると考えられました。
謝辞 The authors acknowledge the following research personnel at the study sites: 福井大学病院 (森田浩史,永井秀哉) 福井県立病院 (東秀律,加藤之紀) 日本赤十字社和歌山医療センター (岡本洋史) 亀田総合病院 (田中研三) 国立国際医療研究センター (中尾俊一郎,阪本太吾) 新潟市民病院 (佐藤信宏) 公立小浜病院 (千葉拓世) 沖縄県立中部病院 (大久保雅史) 大阪済生会千里病院 (重光胤明) 湘南鎌倉総合病院 (大渕尚 ,今村太一) We are grateful to our many emergency physicians and residents for their perseverance in pursuing new knowledge about this vital resuscitative procedure 以上です、ご清聴ありがとうございました。