熱帯太平洋における季節内スケールの 赤道波動特性の解析 5AOOM007 萩原 右理 指導 轡田 邦夫 教授
全球の海面水温の平均場 地球規模の気候変動に深く関与 40°N 0° 大気海洋相互作用が活発 40°S 数年毎にエルニーニョ現象が発生
エルニーニョ現象 通常期 エルニーニョ期 西部の水温が高く 東部の水温は低い 東風が卓越している 西部の高水温域が 東部まで広がる 西風が卓越する
季節内スケール (20-100日周期帯の変動) 赤道捕捉波の東西への伝搬 エルニーニョ現象の発生要因(過去の研究) 季節内スケールで東西方向へ伝搬する赤道捕捉波が エルニーニョ現象の発生時期に特徴的に検出される (McPhaden, 1999; Kutsuwada and McPhaden, 2002) 季節内スケール (20-100日周期帯の変動) 60~75日を中心とした季節内変動に赤道ケルビン波のエネルギーピークが存在し、大気側の季節内変動に伴う西風バーストによって励起された季節内変動の赤道ケルビン波がエルニーニョ現象の発生に大きく関与しているとの指摘もある (Kessler et al.,1995; McPhaden et al.,1998; McPhaden.,1999) Schopf and Suarez(1988)によって赤道ロスビー波、赤道ケルビン波の挙動が数年規模で発生するエルニーニョ現象を説明するという遅延振動子理論が提唱されると共に、多方面から検証されている (White and Tai.,1992; Boulanger and Menkes.,1995; Boulanger and Fu.,1996)。 White and Tai(1992)は赤道ロスビー波の太平洋西岸での反射が赤道ケルビン波の発生に重要であることを示している 赤道捕捉波の東西への伝搬
赤道捕捉波の種類 エルニーニョ現象 季節内スケール(20-100日) 赤道上(0°)を東方伝搬する 赤道ケルビン波 Matsuno(1966) 短周期 エルニーニョ現象 季節内スケール(20-100日) 赤道上(0°)を東方伝搬する 赤道ケルビン波 外赤道域(5°N,5°S)を 西方伝搬する 赤道ロスビー波 短波長 長波長 短波長 長周期
波動の位相速度は鉛直モードの種類によって異なる 波動の鉛直モード 水平流速成分 順圧成分 傾圧成分 第一モード 第二モード ・・・第Nモード 海底 海面 波動の位相速度は鉛直モードの種類によって異なる
波動の位相速度は南北モードの種類によって異なる 赤道ロスビー波の南北モード 南北第二モード 南北第一モード Matsuno(1966) 赤道ロスビー波 5°N 赤道ケルビン波 波動の位相速度は南北モードの種類によって異なる 0° 赤道ロスビー波 5°S 5Nと5Sの東西流速成分:逆位相 5Nと5Sの東西流速成分:同位相 5Nと5Sの南北流速成分:同位相 5Nと5Sの南北流速成分:逆位相
赤道捕捉波の特定 周期・東西波長・位相速度 鉛直モードの種類 南北モードの種類
使用データ TAO/TRITON係留ブイデータ TOPEX/Poseidon衛星海面高度データ (係留ブイによる現場観測) 東西130°E~95°W - 10°~15°間隔 南北 8°N~ 8°S - 1°~ 3°間隔 水深 1m~ 500m - 約12層 時間間隔 : 1日 TOPEX/Poseidon衛星海面高度データ (人工衛星のマイクロ波高度計による海面高度の測定) 空間解像度 : 全球 1° x 1° 時間間隔 : 約10日(9.9156) 渦解像海洋大循環モデル(OFES)によるデータ 空間解像度 水平 : 全球 0.1° x 0.1° → 本研究では0.5° x 0.5°で間引きされたものを使用 鉛直 : 海面から海底まで54層 時間間隔 : 3日
赤道捕捉波に関する過去の研究 Cravatte et al(2003) 赤道ケルビン波 (TAO/TRITONブイデータ・TOPEX/Poseidon海面高度データ・数値モデル結果) 70-75日周期 ・・・ 鉛直第一モード 120日周期 ・・・ 鉛直第二モード 柳井(2003) 赤道ロスビー波 (TAO/TRITONブイデータ・TOPEX/Poseidon海面高度データ) 120,190日周期 ・・・ 南北第一モード・鉛直第一モード
赤道ロスビー波の解析 柳井(2003)による赤道ロスビー波の解析についての問題点 TOPEX/Poseidon衛星海面高度データ ・サンプリング間隔が10日 ・海面のみの情報 詳細な時空間変動は捕らえられない可能性 TAO/TRITONブイデータ ・東西の空間解像度:約15°(約1500km) 季節内スケールの赤道ロスビー波(東西波長3000km以下) は解像できない
赤道ロスビー波の解析 柳井(2003)で解析された 100日以上の周期帯の赤道ロスビー波 従来の観測データでは解析困難 短周期 m=1 (5N,5S) m=5 従来の観測データでは解析困難 と判断される短周期・短波長域の 赤道ロスビー波 柳井(2003)で解析された 100日以上の周期帯の赤道ロスビー波 短波長 長波長 短波長 長周期
本研究の目的 従来の観測データでは解析困難と判断される 短周期・短波長域の赤道ロスビー波について 鉛直モード・南北モードを含め詳細に調べる 時空間的に高解像度且つ海面から海底までの情報を得られるOFESデータを使用
20-100日周期帯のバンドパスフィルタを通し 季節内スケールの変動を抽出 波動の検出 30-40日周期帯で卓越 水温躍層を境に成層状態 境界面を波動が伝搬 30-40日周期帯で卓越 水温躍層の深さが分かれば 波動を検出できる 5°Nにおける水温の鉛直断面図(95~04年の平均) 赤道域では水温躍層の 中心付近に20°Cが存在 20°Cの深度を 水温躍層の深度と定義 5°Nにおける水温の標準偏差の鉛直断面図(95~04年)
東部で30-40日周期帯が卓越 東西波長:1000~1500 km 位相速度:0.3~0.5 m/sec TAO/TRITONブイデータ OFESデータ
半年間持続した鉛直構造の時間推移を調べることができる 鉛直モードの特定 上層 密度:低 境界面を波動が伝搬 密度の時間変化が大 上層と下層の境界面 上下層よりも標準偏差が大 下層 密度:高 境界面が存在 季節内スケール(20-100日)を抽出した各深度の密度の時系列に対して ある瞬間の前後90日間(計181日間)の標準偏差を連続的に算出 半年間持続した鉛直構造の時間推移を調べることができる
鉛直第二モードの卓越 境界面(水平流速成分の鉛直構造でいえば節)が2つ存在 鉛直第一モードだけでは説明できない鉛直構造 5N - 155W 海面 100~150m 1000~1500m 境界面(水平流速成分の鉛直構造でいえば節)が2つ存在 海底 鉛直第一モードだけでは説明できない鉛直構造 El Nino La Nina 鉛直第二モードの卓越 0 – 300 m 300 - 2000 m
半年間持続した 水平流速成分の南北構造の時間推移 を調べることができる 南北モードの特定 5°N 赤道 5°S 季節内スケール(20-100日)を抽出した東西・南北流速成分の時系列に対して ある瞬間の前後90日間(計181日間)の5°Nと5°Sの相関係数を連続的に算出 半年間持続した 水平流速成分の南北構造の時間推移 を調べることができる
南北第一モードの空間構造(Matsuno,1966) 125W 東西流速成分 南北第一モード Matsuno(1966) 南北第一モードの空間構造(Matsuno,1966) 正の相関 > 同位相で変動 南北流速成分 負の相関 > 逆位相で変動 5°Nと5°Sの 東西流速成分:同位相 南北流速成分:逆位相
南北第一モード・鉛直第二モードの赤道ロスビー波 m=1 (5N,5S) m=5 卓越周期 : 30-40日 東西波長: 1000-1500km 南北第一モード 鉛直第二モード 赤道ロスビー波位相速度の理論値 : 0.35~0.45 m/sec データより得た位相速度 : 0.3~0.5 m/sec 理論的な位相速度と一致 南北第一モード・鉛直第二モードの赤道ロスビー波 OFESデータ (5°N上20°C等温線深度の時間-経度断面)
まとめと今後の展望 南北第一モード・鉛直第二モードで西方伝搬する赤道ロスビー波 従来の観測データでは解析困難と判断される短周期・短波長域の赤道ロスビー波について 数値モデル(OFES)の結果を用いて解析を行った OFESデータより算出された20°C等温線深度の時間経度断面図から 5°Nを位相速度0.3~0.5(m/sec)で西方伝搬する波動が検出された(季節内スケール) 南北第一モード・鉛直第二モードで西方伝搬する赤道ロスビー波 今まで明らかになっていなかった季節内スケールの赤道ロスビー波について 本研究で特定し、明らかとなった。 また、ラニーニャ期間にその伝搬性が顕著にみられ、逆に、エルニーニョ期には みえなくなるという特徴的な傾向を得た。 検出された波動はエルニーニョ現象に深く関与していると考えられるが、 本研究では、そういった現象が生じる要因までは調べることができなかったため、 今後の研究に期待される。
まとめと今後の展望 Cravatte(2003)と柳井(2003)の結果をあわせると 赤道ケルビン波 70-75日 ・・・ 鉛直第一モード 120日 ・・・ 鉛直第二モード 赤道ロスビー波 120日,190日 ・・・ 鉛直第一モード 30-40日 ・・・ 鉛直第二モード 相互関係に注目した解析が重要。 柳井(2003)では120,190日周期帯の赤道ロスビー波についての解析を行い 南北第一モード・鉛直第一モードで伝搬しているとの解釈を行ったが、 観測データのみの解析であり、空間構造は詳細に調べられていない。 よって、120,190日周期帯の波動に関しても、OFESデータを用いた解析が必要である。