エキゾチックな原子核の魔法数とパイ中間子の 知られざる関係を発見

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エキゾチックな原子核の魔法数とパイ中間子の 知られざる関係を発見 50年間普遍的な定数とされてきた魔法数が 湯川パイ中間子に特徴的なメカニズムで変わることを解明 - 10月12日(木) 14時00分 ~ 15時00分 発表者 大塚孝治  理学系研究科附属原子核科学研究センター長、                同物理学専攻教授               理化学研究所仁科加速器研究センター                 本林重イオン核物理研究室 客員主管研究員               米国ミシガン州立大学Adjunct Professor (協力教授) 阿部大介  理学系研究科物理学専攻博士課程1年 論文共著者 松尾利明 (平成17年3月、学位取得)は欠席 

今回、出版される論文(コピーを配布) 10月13日号に繰り上がる →10月20日号に変更、on-line では16日から見られる    (二転三転しましたが、ページも決まったので確定)

説明を始めるに当たって2つのキーワード 1.不安定核(エキゾチック核) 安定核 : 寿命が無限かそれに近い        地球上の物質の原子核 核図表 不安定核:    陽子の数(Z)と中性子の数(N)が極めてアンバランス    寿命が短く、地球上には自然には存在しない    RIビームによって実験室で、極短時間作れるようになった

核図表 原子核の周期律表 安定核: 約300種 不安定核: 7000~10000種 存在が実験で確認 された不安定核 RIBFの到達領域 陽子数(元素の種類) 安定核 地球上の原子核 安定核以外は不安定核 極めて短寿命 →加速器で作る エキゾチックな性質 理論予想 RIBFの到達領域 存在が実験で確認 された不安定核 中性子数(同位元素の種類) 安定核: 約300種 不安定核: 7000~10000種 研究課題: 1.陽子数と中性子数のアンバランスからくる新しい量子構造     中性子ハロー、魔法数の消滅と出現、...      エキゾチックな「核物性」の探求 2.超新星爆発などによる物質創成の道筋  ビッグバンなどの初期宇宙段階でできるのはごく軽い  元素。天体では不安定核どうしの反応が沢山起こる。      実験室で星の中での核反応を再現 3.新元素や物質存在限界の探求    超重元素の発見、未知の安定領域の探索、...       現代の錬金術

この不安定核のビームには元々は色々な 原子核が混ざっているのを、破砕片分離 装置で欲しいものだけを選びだす。 欲しい原子核を実験装置まで持って来て その性質を調べる。 ターゲットにぶつけて、その後で起こる事 を調べたり、ビームを止めて崩壊して出て 来る放射線を計測する。 原図作成:櫻井博義氏

RIビーム: 不安定核のビーム 最新・最大の重イオン加速器 理研のRIBF RIBF: 世界最新鋭巨大重イオン加速器 RIビーム: 不安定核のビーム 最新・最大の重イオン加速器  理研のRIBF RIBF: 世界最新鋭巨大重イオン加速器 (超伝導サイクロトロン、鉄8300トン)

東大の大型測定装置SHARAQ スペクトロメータ 理化学研究所RIビームファクトリー (RIBF) 世界最新鋭最大の不安定核ビーム施設 (2007年稼動予定) 東大の大型測定装置SHARAQ スペクトロメータ

説明を始めるに当たって2つのキーワード 1.不安定核(エキゾチック核) 安定核 : 寿命が無限かそれに近い        地球上の物質の原子核 核図表 不安定核:    陽子の数(Z)と中性子の数(N)が極めてアンバランス    寿命が短く、地球上には自然には存在しない    RIビームによって実験室で、極短時間作れるようになった    超新星爆発などの天体現象で大量、多種生成される    物質創生の道筋を明らかにするのには、これらを知る必要

説明を始めるに当たって2つのキーワード 1.不安定核(エキゾチック核) 安定核 : 寿命が無限かそれに近い        地球上の物質の原子核 核図表 不安定核:    陽子の数(Z)と中性子の数(N)が極めてアンバランス    寿命が短く、地球上には自然には存在しない    RIビームによって実験室で、極短時間作れるようになった    超新星爆発などの天体現象で大量、多種生成される    物質創生の道筋を明らかにするのには、これらを知る必要 2.魔法数

不安定核の重要なテーマの一つが魔法数 魔法数とは? 歴史的には原子の魔法数が先に知られる 歴史的には原子の魔法数が先に知られる     → 特に安定になる、不活性ガス(ヘリウム、ネオンなど) マジックナンバー

この列の原子が魔法数 原子の魔法数 2 10 18 36 54

不安定核の重要なテーマの一つが魔法数 魔法数とは? 歴史的には原子の魔法数が先に知られる 歴史的には原子の魔法数が先に知られる     → 特に安定になる、不活性ガス(ヘリウム、ネオンなど)       マジックナンバー 原子核にも魔法数   メイヤーとイェンゼンによって提唱(1949)、後にノーベル賞 原子核の描像  混沌とした世界 → 軌道運動をする粒子の塊                           (規則性の世界)

陽子 中性子

中性子や陽子は原子核の中に束縛されている 軌道上を動く中性子や陽子を外に引き出すには エネルギーを与えないといけない そのエネルギーは軌道によって変わる エネルギー エネルギー 原子核中心 からの距離 原子核中心 からの距離 軌道

シェル・ギャップより下の軌道は安定性が大きい エネルギー 原子核中心 からの距離 20 8 魔法数 シェル・ギャップ 2 シェル・ギャップより下の軌道は安定性が大きい そこに詰まっている粒子数を 魔法数 (マジックナンバー) 粒子軌道エネルギーのこのような構造を 殻構造 (シェル構造)

原子核の魔法数 (メイヤー・イェンゼン(1949)) その固有状態 スピン軌道力 による分岐

半世紀の間、魔法数はどの原子核にも共通な普遍的なものと 考えられてきた 不安定核も含まれる 原子核に関する旧来の理論もそのような結果を出していた これに関して、考え直してみる試みを始めた(20世紀終わり頃) その頃、酸素24という原子核で不思議な現象が起こるのを谷畑らが 見つけた。しかし、その原因、一般性、意義などは分からず、中性子 ハローとの関係を追求したが成功しなかった。

パイ中間子が1個だけ陽子や中性子の間でやりとりされたら 鍵は湯川博士にさかのぼる 湯川博士が存在を予言した中間子が 原子核内の陽子や中性子を結びつけている (糊の役目) 1935年 2個以上の中間子をやりとりして陽子や 中性子はお互いに力を及ぼす (既知のこと) これが太陽や原子力のエネルギーの元 中間子の中でも最も基本的なものはパイ中間子 パイ中間子が1個だけ陽子や中性子の間でやりとりされたら どうなるだろうか? → テンソル力という特殊な力が働く

1935年に出版された湯川秀樹博士の論文の冒頭部分

湯川中間子論の発展として、1949年に パウリ博士によりパイ中間子によるテンソル力が導入された ベーテ博士らも発展に関わる

テンソル力とは? V ~ Y2,0 ~ 1 – 3 cos2q z q 斥力 引力 直角 平行 パイ中間子の交換によって起こる特異な相互作用 相互作用する2個の核子のスピン  (自転運動)が揃っていると働く スピン  の方向を上向きにとると、ポテンシャルは下のようになる V ~ Y2,0 ~ 1 – 3 cos2q z q 距離は同じ 平行 引力 直角 斥力

ハイセンベルグの不確定性原理で理解できる 2個の核子の相対運動の波動関数 核子のスピン 相対運動の運動量が大きい (ぶつかり合う) 相対運動の運動量が小さい (並んで運動) 衝突の方向に空間的に縮む その方向に空間的に伸びる ハイセンベルグの不確定性原理で理解できる l-1/2 l’+1/2 l+1/2 l’+1/2 引力 斥力

(2j> +1) vm,T + (2j< +1) vm,T = 0 TO et al., Phys. Rev. Lett. 95, 232502 (2005) テンソル力の働き j< 中性子 j> j’< 陽子 j’> テンソル力の働きを規定する方程式 ( j’ j>) ( j’ j<) (2j> +1) vm,T + (2j< +1) vm,T = 0 vm,T : monopole strength for isospin T

図2 魔法数が変わることを示す理論計算結果の一例

図1 核図表(縦軸が陽子数、横軸が中性子数で一つ一つの箱が一つの 原子核に対応)の一部。黒いのが安定核、ピンクのが不安定核である。 魔法数20が不安定核で消滅し、新しい魔法数16が出現することが示されている。 (理化学研究所提供)

超新星爆発の Rプロセスに 関係 N=28 エキゾチックなニッケル原子核の粒子軌道エネルギー 魔法数28がほぼ 消滅(予言) テンソル力なし テンソル力込み 超新星爆発の Rプロセスに 関係 N=28 魔法数28がほぼ 消滅(予言) 理研RIBFで実験 中性子数 中性子数

原子核の魔法数 (メイヤー・イェンゼン(1949)) その固有状態 28 スピン軌道力 による分岐

今回の研究成果 魔法数が、半世紀に渡って信じられてきたような全ての原子核に共通な 普遍的なものではなくて、原子核によって変わるものであることを発見。 不安定核では、安定核で見出される魔法数からはっきり変わる ことがあることを例示。一部は実験で検証。他は予言。 それは湯川博士の予言した中間子、特にパイ中間子から来る 特徴的な効果であることを発見。 パイ中間子が1個だけ交換された時にはテンソル力という、極めて 特徴的で強い力を発生する。(1個だけなので、特徴が強く出ることになる。) テンソル力の存在も半世紀以上前から分かっていたが、考えられて いなかったのは、テンソル力が魔法数などにどういう効果を及ぼすか、 であった。 この問題に取り組み、パイ中間子1個の交換によって発生する テンソル力が魔法数を変えることを示した。

今回の理論計算 GT2 実験 D1S 中性子数 安定核 RIBFの守備範囲 RIBFの先

世界的な関連共同研究 CERN GSI GANIL スイス(ベルギー) ミシガン州立大 (国立超伝導サイクロトロン研究所) 理研 ドイツ 東大原子核 科学研究センター アルゴンヌ国立研究所 (ワルシャワ大学) フランス GANIL イタリア パドヴァ大学 フロリダ州立大

最近の実験関連論文 f 5/2 f 7/2 中性子の 軌道エネルギーの 変化

Nuclear chart 安定核 魔法数 不安定になる 不安定になる 一粒子エネルギー Shell evolution changes 調和振動子+LS 安定核 魔法数 不安定になる 不安定になる Shell evolution changes level pattern モンテカルロ殻模型の結果

湯川博士の予言後70年にして、原子核の粒子運動、 ひいては原子核の安定性や魔法数において中間子の 存在や性質(量子数)を直接反映する性質が初めて見つかり、 それが今後世界的に展開されるRIビームによる実験に 深く関わっていることが分かった。 それは、半世紀に渡って普遍なものと信じられてきた、 メイヤー・イェンゼンの魔法数からの出発も意味している。     → RIビームによる物理に新たな方向性、次元。 魔法数が変わると、原子核の様々な性質(例えば形など)を変え、 存在の限界までも変える。 元素合成や超重元素への影響は少なくない。研究中。

この研究へのサポート 文部科学省 科学研究費補助金特別推進研究          「モンテカルロ殻模型」(平成13-17年度) CNS(東大理学系研究科附属原子核科学研究センター)-理研 大型核構造計算プロジェクト 日本学術振興会 先端研究拠点事業 「エキゾチック・フェムトシステム研究国際ネットワーク」

おわり

昨年12月に出版された第1論文 今回指摘の効果の存在を示した。