岩崎電気株式会社 製造本部 EB推進室 武井 太郎 September 6, 2007 Kyushu Institute of Technology (2008年5月20日一部更新) 電子線の工業利用 岩崎電気株式会社 製造本部 EB推進室 武井 太郎
本日お話しする内容 電子線とは 工業的利用の例 電子線の特徴
電子線(EB)とは? 電子線 = Electron Beam → EB 「EB装置」 = 電子線照射装置 電子: 原子を構成する粒子 電子線: 電子を人工的に取り出して、ビーム状に 電子線の工業的な利用: 電子線の持つエネルギーを利用して、物質に化学的、物理的変化を加え、それを利用する。 電子線の発生方法: 加速器を利用します。電子を電気的に加速し、大気中に取り出します。 電子線 = Electron Beam → EB 「EB装置」 = 電子線照射装置
電子を加速するには 電位差 - +
電子を加速する装置といっても‥ 作り出す電子線のエネルギー、加速の方法、利用方法によって、さまざまな電子線加速器があります。 基本的には 電子を発生する (フィラメント、電子源) 電子に電圧をかけて、加速して、電子線(ビーム)にする ビームを利用する ☆ ブラウン管は、電子銃で電子を発生、加速し、蛍光体を光らせて画像にします。 ☆ 約3万ボルト(30kV)で加速します。
電子顕微鏡も加速器? ☆ 電子顕微鏡は、発生した電子をレンズで細く絞り、試料に照射します。 ☆ 数kV~数百kVで加速します。 ☆ 真空中で試料を観察します。
研究用 - KEK(つくば) 直径約1kmのリング状の加速器 8GeVの加速エネルギー <www.kek.jp>
コンバーティング、印刷、ラミネーションなどの分野では、 低エネルギー型が最も広く使用されています。 工業用のEB装置 電子線を大気中(大気圧下)で照射する装置が一般的です。 加速電圧により、便器的に分類されています。 加速電圧 高エネルギー >1MV * 中エネルギー 300kV~1MV * 低エネルギー ≦300kV コンバーティング、印刷、ラミネーションなどの分野では、 低エネルギー型が最も広く使用されています。
中・高エネルギーEB装置 走査(スキャン)型 厚いコンクリートで遮蔽された照射室内でEBを照射 日本原子力研究所のウェブページより
☆ フィルム・紙へのコーティングなどに応用 一般的な低エネルギーEB装置 EB発生部 連続シート状製品など ☆ フィルム・紙へのコーティングなどに応用 UV硬化、熱乾燥に替わるテクニック ☆ カーテン型EB装置とも呼ばれます
岩崎電気/ESIのEB装置 低エネルギー型、カーテン型 加速電圧が300kV(30万ボルト)以下 モニター画面で簡単な操作 実験機から、生産向け大型装置まで セルフシールドでエックス線を遮蔽 専用の建物(遮蔽)、管理区域の設定、放射線取扱主任者が不要
EB装置の構成
EB装置 (1) ライトビームL (実験機) 加速電圧: 110kVまで トレイ寸法: 15cm×20cm
EB装置 (2) EZCure I 加速電圧: 90~110kV 処理幅: 1650mmまで EZCure III 加速電圧: 70~90kV 米国ESI製 ESI: Energy Sciences, Inc.(マサチューセッツ州ボストン郊外)
EB装置 (3) ダイオキシン分解装置 写真は日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)のウェブページより転用しています。
EB装置 (4) ESI製 カスタム機 (生産用大型機) 加速電圧 70~300kV 処理幅 2.5m(実績) 印刷、ラミネーション コンバーティング 特殊紙・フィルム
EB以外の放射線の工業利用(1) 原子力発電 浜岡原子力発電所(静岡県)-中部電力のウェブページから
EB以外の放射線の工業利用(2) ガンマ線: 医療用具などの滅菌処理に多く利用されている。 ガンマ線処理施設の例-ラジエ工業(群馬県)のウェブページから
岩崎電気のEB技術の紹介 ビデオクリップ (約3.5分)
EB装置の応用例 印刷物 各種包装材料 工業用途 建築材料 プラスチックフィルムの改質 ゴムの架橋 グラフト重合による改質 滅菌 オフセット印刷、フレキソ印刷 オーバーコート 各種包装材料 ラミネーション 特殊印刷 工業用途 特殊紙、特殊フィルムの製造 建築材料 木目化粧紙 表面のハードコート プラスチックフィルムの改質 強度アップ、耐熱性アップ シュリンクフィルム、耐熱PVCテープ ゴムの架橋 タイヤ部材、電線被覆 グラフト重合による改質 電池用セパレータフィルム 滅菌 食品包材、薬品容器 熱、薬品、UVに替わる殺菌方法
EBラミネーション 瞬時乾燥(硬化) エージング工程なし 耐水性、光沢性 EBラミネーションは、さまざまな産業応用分野でメリットがあります P&Gの洗剤カートン Northwest Coating Smurfit-Stone Container <http://www.packworld.com/> EBラミネーションは、さまざまな産業応用分野でメリットがあります
EBトップコーティング 表面の制御(光沢/マット)、印刷保護の向上 コーティング面の摩擦係数の調整 Exopack <http://www.packworld.com/>
オフセット印刷 - 軟包装 EB硬化型のオフセット印刷+光沢コート Amgraph Packaging <http://www.packworld.com/>
EB無溶剤フレキソ印刷 Comexi の WetFlexTM デモライン
無溶剤フレキソ印刷 SunChemicalの開発したWetFlexTM技術 CIフレキソ印刷機でWet-on-wetの多色刷り UniCure InkTM CIフレキソ印刷機でWet-on-wetの多色刷り 最後にEB乾燥(硬化) 複数のUVユニットが不要 熱によるフィルムへの影響がない 無溶剤インキ 印刷インキの厚みは数μm
化粧紙、化粧フィルム 木目柄化粧材のハイグレード製品「グランモード」 EBコーティング技術: 電子線を照射することにより、樹脂を硬化させる技術。ウレタンやUV樹脂コーティング製品に比べ、傷や汚れ、日光などに強く、高耐久かつ実用性能、品質安定に優れている。また、製造工程での省エネルギー化やCO2排出量削減、無溶剤塗工が可能な次世代型環境対応技術 (DNPウェブページより) <http://www.dnp.co.jp/jis/news/2005/050620_1.html>
特殊紙 (感熱紙) 医療用計測器用の感熱プリンタ 96%の光沢度 EB常温硬化のメリット 超音波画像診断)ビデオプリント用 クリーンルーム用、スキー場のリフト券 96%の光沢度 EBコーティングによる高光沢面を達成 鮮明なコントラストにより、画像の詳細まで表現できる 高耐久性、長期保存性 EB常温硬化のメリット EB硬化型の特殊な樹脂 加熱プロセスの使えない樹脂に、EB硬化型樹脂を利用する PPベースの合成紙 (撥水性、低発塵性) 低エネルギーEBで、基材劣化を低減する 2003年1月の日経産業新聞の記事参照
液晶パネルなどの部材フィルム EBコーティングの特徴 1.常温処理 2.連続プロセス 3.無溶剤塗工 4.開始剤不使用 AR/AGフィルム 帯電防止(AS)フィルム 拡散フィルム(シート) ハードコートフィルム フィルム同士の貼り合わせ 「EBフィルム」 ‥‥基材フィルム上にEB硬化性樹脂を塗布し、EB硬化した後、硬化した膜を機能性フィルムとして利用する。 EBコーティングの特徴 1.常温処理 2.連続プロセス 3.無溶剤塗工 4.開始剤不使用
シュリンクフィルム シュリンク包装用ポリオレフィン系フィルム EBで架橋した後に、延伸する(ひっぱる)と、熱収縮性のフィルムができる。
架橋電線 PVC被覆の替わりに、PEを使う PEを電子線で架橋して、耐熱性を向上する PVCを電子線で架橋し、耐熱性を向上したものもあり ただし、PEは耐熱性がない 脱ハロゲン PEを電子線で架橋して、耐熱性を向上する 脱ハロゲン(塩ビ)で環境にもよい PVCを電子線で架橋し、耐熱性を向上したものもあり → 主に、中高エネルギーEB装置で加工されています。
グラフト重合 フィルム、布の表面に機能性分子を「接木」して、改質 環境浄化研究所 <http://www.kjk-jp.com/>
電子線殺菌のメリット 薬品を使用しない 表面層だけに作用する 電気製品を同じようにON/OFFできる 過酸化水素、エチレンパーオキサイド、臭化メチルなどの殺菌剤、殺虫剤を使用しない。 人体、環境への安全を確保 表面層だけに作用する エネルギーを有効に利用できる 電気製品を同じようにON/OFFできる 作業環境の安全を確保
ガンマ線・EB滅菌 医療用具などの滅菌用処理 香辛料、食肉などの殺菌処理 ガンマ線照射施設 変換エックス線(高エネルギー電子線のエネルギーをエックス線に変換する) 袋詰めのまま滅菌処理して、医療現場で使用する 香辛料、食肉などの殺菌処理 賞味期限の延長 流通時のいたみを低減する
電子線の特徴 EBとUV(紫外線) / EBとガンマ線 比較 ガンマ線との比較 紫外線硬化(UV)、熱硬化との比較 EB独自の応用例
EBは放射線か?
EBは放射線の一種 EB(電子線)の照射は遮蔽された空間で行われる EBのエネルギーは、下記のいずれかに変換される 「放射能」は持っていない 化学変化 熱 エックス線 「放射能」は持っていない 照射した物質は「放射化」されない ※ 上記は「低エネルギーEB」の特徴
EBとガンマ線の比較 e- 電子(粒子)線 電気製品と同様の装置から作られる スイッチを切れば、完全に停止 通常の生産設備と同様の扱い エネルギーが薄い層に集中 インライン化が可能 γ 電磁波の一種 コバルト等の放射性同位元素から放出 半永久的に放射線を放出しつづける 特別な施設、管理が必要 透過力があり、大きなもの全体を照射できる バッチ処理
EB、UV、熱 の比較 (1) EB硬化 UV硬化 熱硬化 溶剤 なし 必要 毒性 臭気 ポットライフ 長い EBより短い 短い 硬化反応 光重合開始剤 臭気 ポットライフ 長い EBより短い 短い 硬化反応 重合・架橋 重合・架橋、 付加反応 縮合、付加反応
EB、UV、熱 の比較 (2) EB硬化 UV硬化 熱硬化 雰囲気温度 常温+α 40~80℃ 80~250℃ 硬化時間 瞬時 数秒 数10秒 On/Off運転 連続可変 制限あり 困難 ライン長 短い 長い エネルギー効率 1 3~30 40~200
EB、UV、熱 の比較 (3) EB UV ドライヤー X線、オゾン 熱、溶剤 公害対策 ほぼ不要 臭気 溶剤 硬化厚み 作業環境対策 X線、オゾン 紫外線、オゾン 熱、溶剤 公害対策 ほぼ不要 臭気 溶剤 硬化厚み 顔料、フィラー系OK インキにより 制限 加速電圧で 調整できる 基材劣化 熱劣化なし 熱 着色 なし 開始剤の黄変
EBの透過イメージ
ドラムキャストコーティング EBの透過性を生かした製造手法 パターンのあるドラムの模様を樹脂層に転写 基材側からEBを照射して、樹脂を硬化 パターンのついた樹脂層のある紙・フィルムができる SD Warren で使用のプロセス http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/08040123_1.html
EB浸透深さの様子 (模式図) EBの強度 (相対値) コーティング層 基材フィルム層 EBの物質中への浸透深さ
EB浸透深さの様子 (模式図) EBの強度 (相対値) コーティング層 基材フィルム層 EBの物質中への浸透深さ
ご聴講ありがとうございました。