計算化学的手法を用いた新薬の創製 関西分子設計研究会 合田 圭吾

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計算化学的手法を用いた新薬の創製 関西分子設計研究会 合田 圭吾 Computer-Aided Molecular Modeling (CAMM) Research Center Kansai 合田 圭吾 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

新規リガンド分子の複合体構造予測 for SBDD Virtual Screening その他の計算化学的手法 in silico ADME Agenda  新薬の研究開発  計算化学的手法      新規リガンド分子の複合体構造予測 for SBDD      Virtual Screening  その他の計算化学的手法      in silico ADME  CAMM関西の活動 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

新薬の研究開発の流れ 5 ~ 8 年 3~7 年 2~3 年 非臨床試験 (動物試験) 創薬研究 臨床試験 承認申請 標的受容体の同定  標的受容体の同定  スクリーニング試験  候補化学物質の   最適化  薬効薬理試験  毒性試験  安全性試験  第1相試験  第2相試験  第3相試験 審査 発売 5  ~  8  年 3~7 年 2~3 年 期間 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

新薬の研究開発: 製薬企業比較 02 01 製薬会社 百万ドル 1 2 グラクソ・スミスクライン (英国) 28,871 新薬の研究開発: 製薬企業比較 02 01 製薬会社 百万ドル 1 2 グラクソ・スミスクライン (英国) 28,871 ファイザー (米国) 28,288 3 メルク (米国) 21,446 4 7 アベンティス (仏) 18,441 5 アストラゼネカ (英国) 17,343 6 8 ノバルティス (スイス) 17,175 ジョンソン・エンド・ジョンソン (米国) 17,151 ブリストル・マイヤーズスクイブ (米国) 14,705 9 12 ロシュ (スイス) 12,806 10 ファルマシア (米国) 12,037 15 武田薬品工業 7,227 22 三共 3,743 23 エーザイ 3,727 25 24 山之内製薬 3,471 28 30 藤沢薬品工業 2,882 2000年産業別研究費の対売上高比率 ( 総務省「科学技術研究調査報告」) 全産業平均 3.04% 医薬品工業 8.60% ソフトウエア業 5.79% 電気機械工業 5.65% 総合化学・化学繊維工業 3.64% 自動車工業 4.09% 食品工業 1.01% June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

HTS(High Throughput Screening) 新薬の研究開発における計算化学 創薬研究  標的受容体の同定  スクリーニング試験  候補化学物質の   最適化  研究開発費コストの削減  創薬プロセスの効率化 HTS(High Throughput Screening) → 大規模な設備が必要 Combinatorial Chemistry → 化学反応が特殊 計算化学的手法: 実験技術を補完 HTS → Virtual Screening CombiChem → Structure-Based Drug Design June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Structure-Based Drug Design : SBDD 薬物受容体構造に基づいた医薬品設計法 複合体構造予測 新規阻害剤の設計 蛋白-阻害剤 複合体構造解析 新規阻害剤の合成 阻害剤の活性測定 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

⇒ 新規リガンド分子の結合配座・様式の予測 複合体構造予測 ⇒ 新規リガンド分子の結合配座・様式の予測  Molecular Dynamicサンプリング法        AMBER / CHARMm  Monte Carloサンプリング法        MCMM / BatchMin  Genetic Algorithm法        AutoDock June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

AutoDock法 リガンド分子の回転可能な二面角を変数として、grid空間内に配座を発生させ、配向する。 方法 Morris G. M. et al. (Scripps) J.Comput.Chem., 19, 1639, 1998. 方法 リガンド結合部位に格子(grid)を設定し、gridの各点上に、リガンド分子に含まれる原子タイプ(Csp3、Csp2、Osp3、…)を配置し、各々の原子タイプごとに蛋白分子との相互作用エネルギーを計算しておく。 リガンド分子の原子に最も近接しているgrid点上に計算した各々の原子タイプの相互作用エネルギーを足し合せ、分子全体の相互作用エネルギーを算出する。 GA法を用いて、2~3を繰り返し、相互作用エネルギー値が最小になる配座を探索する。 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

複合体構造予測: Lipocalin蛋白 Lipocalinファミリ-:bバレル構造、carrier蛋白質 retinol-binding protein b-lactoglobulin 1KT7: Calderone, et al. J. Mol. Biol. 329, 841, 2003 1GX9: Kontopidis, et al. J. Mol. Biol., 318, 1043, 2002 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Lipocalin: 目的、方法 目的 Lipocalin蛋白(retinol-BPおよびlactoglobulin)と3種のリガンド分子の複合体構造を予測し、carrier蛋白としての性質を理解する 方法 AutoDock3.0    ↓ Energy-Minimization 蛍光消光法による結合定数(Kd) retinoic acid bilirubin biliverdin retinol-BP 108 nM ND lactoglobulin 122 nM retinoic acid bilirubin biliverdin June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Lipocalin: 方法の検証(X線結晶構造の再現性) retinol-binding protein X線複合体構造: 青色(retinol) 予測構造: 灰色(retinoic acid) retinoic acid X線複合体構造: 赤色 予測構造: 灰色 b-lactoglobulin June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Lipocalin: retinol-BP 複合体構造予測 retinoic acid bilirubin biliverdin retinoic acid bilirubin biliverdin 相互作用E -152.1 kJ (2) -161.3 kJ (1) -94.7 kJ (3) 歪みE 23.8 kJ (1) 99.5 kJ (3) 53.4 kJ (2) 疎水コンタクト 17個(1) 15個(2) 4個(3) 予測 1 2 3 結合定数 108 nM ND June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Lipocalin: b-lactoglobulin 複合体構造予測 retinoic acid bilirubin biliverdin retinoic acid bilirubin biliverdin 相互作用E -101.2 kJ (2) -163.9 kJ (1) -90.5 kJ (3) 歪みE 52.1 kJ (2) 70.0 kJ (3) 34.0 kJ (1) 疎水コンタクト 18個 (1) 11個 (2) 1個 (3) 予測 1 2 結合定数 122 nM ND June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Lipocalin: b-lactoglobulin 複合体構造予測 retinol BP retinoic acid distance 10.7 Å Kd = 122 nM bilirubin distance 12.0 Å Kd = ND retinoic acid distance 8.6 Å Kd = 108 nM June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

抗インフルエンザ薬の開発 インフルエンザウイルスの複製模式図 ノイラミニダーゼ(NA) 1993年、理論的にNA阻 害剤をデザイン    吸 着       侵 入    膜 融 合  出 芽   ノイラミニダーゼ(NA)   1993年、理論的にNA阻 害剤をデザイン von Itzstein et al. Nature 363, 418, 1993 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

抗インフルエンザ薬の開発 ノイラミニダーゼ酵素の立体構造 ザナミビル複合体 シアル酸(基質) ザナミビル 1A4G: Taylor, et al. J.Med.Chem. 41, 798, 1998 ノイラミニダーゼ酵素の立体構造 ザナミビル複合体 シアル酸(基質) ザナミビル June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

COX2阻害剤の開発 解熱鎮痛消炎剤: 「アスピリンから、スーパーアスピリンへ」 アスピリン、非ステロイド抗炎症剤 解熱鎮痛消炎剤: 「アスピリンから、スーパーアスピリンへ」 アスピリン アスピリン、非ステロイド抗炎症剤  → 胃腸出血、血小板凝集阻害、腎毒性、肝毒性 炎症などに関連するプロスタグランジンH2を産生する酵素: COX(シクロオキシゲナーゼ) COX1: 胃腸粘膜の保護、正常な腎機能、血小板の凝集 COX2: 1990年に発見。炎症状況下で発現。発熱、痛み、腫れ June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

COX2阻害剤の開発 COX1とCOX2の活性部位構造の比較 セルブレックス (スーパーアスピリン) COX2 COX1 June 2004   セルブレックス (スーパーアスピリン) June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

COX2阻害剤の開発 COX2 COX1 Gierse, et al. J Biol Chem. 271, 15810, 1996 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

複合体構造予測法の問題点 評価系の改良 -静電相互作用 -水和エントロピー効果 -配座エントロピー効果 蛋白分子の自由度 計算上のartifactと思われる構造  評価系の改良     -静電相互作用     -水和エントロピー効果     -配座エントロピー効果  蛋白分子の自由度 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

VSをHTSの1st screeningとし、 HTSを補完する Virtual Screening法 創薬研究  標的受容体の同定  スクリーニング試験  候補化学物質の   最適化 VSをHTSの1st screeningとし、 HTSを補完する 方法  複合体構造予測の拡張  数万~数十万個の化合物3Dデータベース検索    - DOCK、FlexX、Glide、FRED    - 形状の相補性    - 水素結合の相補性 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

DOCK法 sphereの中心点をdocking空間の代表点として用い、リガンド分子を配向させる 方法 Oshiro, et al. (UCSF, Kuntz) J Comput Aided Mol Des. 9, 113, 1995 方法 標的蛋白質の表面に球状プローブ(sphere)を配置させて、リガンド分子がdockingする空間を定義する AutoDock法と同様に、docking空間に設定したgridの各点を、リガンド分子の原子の代りとして用い、相互作用エネルギーを計算する GA法を用いて、2~3を繰り返し、相互作用エネルギー値が最小になる配座を探索する。 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Systematic conformation search Gaussian function screening FRED法 OpenEye Scientific Software McGann, et al. Biopolymers 68, 76, 2003 Systematic conformation search Gaussian function screening ChemScore screening 他のVS法(FlexX、Glide)との比較 Schulz-Gasch, et al. J. Mol. Model. 9, 47, 2003 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

FRED法: 他のVS法との比較 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

VScreening: Estrogen receptor Estrogen receptorと、そのアンタゴニスト(OHT)のX線結晶解析構造を題材にして、virtual screening法を検証する。 - Estrogen receptor   核内受容体、転写因子   抗癌剤(乳癌)、骨粗鬆症治療薬の標的 - Tamoxifen(Aventis)   特異的アンタゴニスト、Kd 2~5nM 4-hydroxy-tamoxifen (OHT) Estrogen receptor a ligand binding domain - OHT複合体1.9 Å分解能 3ERT: Shiau, et al. Cell 95, 927, 1998 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Estrogen receptor: 方法 Tool: DOCK4.0 OHT + 1000化合物 3D DB: ・購入可能な低分子化合物  ライブラリ  (Maybridge、SALOR等)       ・CORINA2.6で3D構造生成       ・約36万3D化合物データセット  のうち、ランダムに選んだ  1000化合物 DOCK 1st screening DOCK 2nd screening rigid search flexible search OHTのランク? OHT + 1000化合物 HW SGI O2 R5000 (180MHz) June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Estrogen receptor: DOCK法 1st screening (rigid search) OHT 354位 / 1000化合物 1. BLT00023 -27.0 kcal/mol 2. BR00129 -26.6 3. BTB00333 -26.6 354. OHT -12.9 CPU 6秒 / 分子 2nd screening (flexible search) OHT 58位 / 500化合物 1. BLT00019 -31.1 kcal/mol 2. BTB00244 -30.6 3. BLT00039 -29.8 58. OHT -24.7 CPU 58秒 / 分子 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Estrogen receptor: AutoDockによるRefinement AutoDock: Top10 from 2nd DOCK with OHT、 LGA (10 runs) DOCK AutoDock kcal/mol kcal/mol BLT00019 -31.1 -7.83 BTB00244 -30.6 -7.76 BLT00039 -29.8 -7.37 OHT -24.7 -9.07 計算構造(緑) vs X線構造(青) June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Estrogen receptor: FRED法 OHT+100cmpds Compounds Total Score 1 OHT -57.2309 2 AW 00945 -52.8231 3 AW 01109 -49.8399 4 AW 01131 -49.6724 5 AW 00944 -49.6356 30 CPU秒 / 化合物 ピンク:初期配座 黄色:予測結合構造 緑:X線構造 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

P2Y1受容体: 7回膜貫通G蛋白質結合型受容体、立体構造は未知 ヌクレオチド受容体ファミリー、機能が未知なものが多い VSreening: P2Y1受容体 平本ら(立命館大理工 藤田研究室) J. Pharmacol. Sci. 95, 81, 2004 P2Y1受容体: 7回膜貫通G蛋白質結合型受容体、立体構造は未知          ヌクレオチド受容体ファミリー、機能が未知なものが多い P2Y1・P2Y12アゴニストが血栓症治療薬  機能と役割を明らかにする  → 特異的なアゴニスト、アンタゴニストが必要  ロドプシンX線構造を基に、フーリエ変換へリックスモデリング法と   配列相同性モデリング法により、P2Y1の立体構造を予測 Virtual Screening(AutoDock3.0 ) P2Y1モデル + 代謝物500化合物                  ⇒ 新規アゴニスト・アンタゴニストの探索 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

P2Y: 結果 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

P2Y: 活性値とAutoDockエネルギー値との相関 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

Virtual Screening法の問題点  評価系の改良     複合体構造予測法の問題点と同じ  蛋白分子の自由度  リガンド分子の配座空間の探索 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

その他の計算化学的手法 薬物の体内動態(ADME) 吸収(Absorption) 分布(Distribution) 非臨床試験(動物試験)  薬効薬理試験  毒性試験  安全性試験 薬物の体内動態(ADME) 吸収(Absorption) 分布(Distribution) 代謝(Metabolism) 排泄(Excretion) 薬物の体内動態シュミレーション(in silico ADME) June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

in silico ADME: 経口薬剤のMW分布 全体の割合(%) MW June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

in silico ADME: "rule of 5" Lipinski, et al. Adv.Drug Deliv. Rev., 23, 3, 1997 計算によって、化学物質の性質(物理化学的性質:脂溶性、溶解性、水素結合能など)を算出し、薬物の体内動態を予測 例) Lipinski の「rule of 5」     ・ 分子量 < 500 (膜透過性)     ・ clogp < 5.0 (溶解性)     ・ 5個以下の Hbond donors  (膜透過性)     ・ 10個以下の Hbond acceptors  (膜透過性)        ↓        経口薬剤となるためには、これらの性質を     満たすこと 分子量 = 133.1937 clogp = 2.185 Hbond acceptors = 1 Hbond donors = 1 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

製薬会社では、基盤技術になっている。特に欧米の会社 この手法を用いて開発された新薬が数多く報告されている 今後の課題  製薬会社では、基盤技術になっている。特に欧米の会社  この手法を用いて開発された新薬が数多く報告されている  人材の育成(アカデミアでの教育・指導)  予測精度・効率の向上を目指して、手法の更なる研究が必要 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

その他のCAMM関西の活動(1) 立体構造予測: カチオンπ相互作用を持つヘテロ3本鎖コイルドコイルの設計 川口ら(名工大院工 田中研究室)日本化学会2004年年会 L-oligodeoxynucleotide analogs fixed in a low anti glycosyl conformation 浦田ら(大阪薬大)Org. Biomole. Chem. 2, 183, 2004 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai

その他のCAMM関西の活動(2) Virtual screening: kinase、carboxylase 新規方法論の開発:  新規方法論の開発:         配座エントロピー効果         溶媒和エントロピー効果 June 2004 Keigo Gohda / CAMM-Kansai