馬伝染性貧血(equine infectious anemia)法定伝染病 対象家畜: 馬 原因: 一本鎖RNA、エンベロープを有する馬伝染性貧血ウイルス。白血病ウイルスやヒト、ネコ、ウシの免疫不全ウイルスと近縁。 発生原因: 吸血昆虫の機械的媒介が主な伝播様式だが、胎盤感染や初乳や乳汁を介した垂直感染もある。非滅菌手術用具等からの医原性感染もあり、競走馬の集団発生は汚染注射器の使用による人為的なものと考えられている。 病状: 急性型では、2~4日の潜伏期の後、40℃以上の発熱が1週間以上持続し、貧血、口腔粘膜の出血斑、黄疸、下肢および下腹部の冷性浮腫などが観察され、死亡する。数日で解熱し、再度発熱を示す回帰熱に移行すると、亜急性型となる。発熱を示さず、慢性型に移行する場合もある。慢性型から回帰熱が再燃した場合には、再燃型と呼ばれる。一般に発熱を繰り返すと、貧血が進行し、回帰性発熱により衰弱死する馬属の難治性疾患である。
戦前は毎年数万頭の軍馬が殺処分され、「伝貧」は人々から忌み嫌われる病気だった。国内馬総頭数は、戦前は150万頭前後で維持されていたが、戦後は1946年の105万頭から1952年には111万頭に達したが、その後激減した。 10000 8000 耕耘機の導入 年間摘発頭数 6000 4000 8万台 飼養頭数の減少とともに、 発生頭数も減少してきた。 300万台 2000 1952 1954 1956 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1993年に2頭が摘発されたが、その後の発生はなかった。2011年に宮崎県で野生馬である御崎馬の群で感染が確認された 地方競馬での集団発生 300 新診断法の導入 250 200 150 100 15 5 4 2 50 1970 1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1993 84~92 94~2000 日本における伝貧馬の摘発頭数の推移
馬伝染性貧血は現在も世界各地で発生している。ワクチンという決定的予防法がないためである。 馬インフルエンザ等とともに、競馬や馬術競技開催時の障害となっている。 :情報なし :これまで報告なし :この期間に報告なし :疑い :感染を確認 :臨床例あり :複数個所で発生 20011/7-12 20012/1-6
2007年の10万頭当り陽性頭数 (Percent Positive FY 2007) Hot Zone for EIA (1996) 6 5 5 14 24 2 1 2 9 18 11 30 6 15 32 4 2007年の10万頭当り陽性頭数 (Percent Positive FY 2007) Since 1978, 92 percent of the test-positive samples have originated from horses located in what is referred to as the “hot zone”. USA APHIS
Equine Infectious Anemia: A Status Report on Its Control, 1996 伝播の起こり易さ アブの数が増加(ウマサシバエ、シカアブ) アブがいない/少ない 馬の飼育環境におけるアブの生息場所(広葉樹林の湿地) 乾燥し、樹木が少ない環境 大型の吸血昆虫が吸血を中断し、30分以内に別の馬を吸血する 小型の吸血昆虫が一頭の馬で吸血を完了 昆虫の発生時期 冬季 感染馬を未感染馬と物理的に離す 未感染馬と感染馬の混在 発熱状態の急性または慢性の罹患馬が感染性血液の供給源 不顕性感染馬が感染性血液の供給源となる Equine Infectious Anemia: A Status Report on Its Control, 1996
予防法: ウイルスの特性上、ワクチンと治療法はまだ開発されていない。吸血昆虫の駆除、治療器具の滅菌などが本症の感染を予防するうえで重要である。清浄状態を摘発・淘汰によって維持するとともに、海外からの侵入を防ぐ。 日本からOIEへの報告 18/3/2011 緊急通知 発生事例1: 宮崎県のJRA育成牧場で42頭中1頭が定期的発生動向調査で陽性。 疫学的注釈: 3月16日に、国立動物衛生研究所(OIE標準研究所)によって当該馬がEIA陽性であることが確認された。3月11日に、当該馬は精密検査のために殺処分された。当該農場のその他の馬は検査されEIA陰性であった。 8/4/2011 経過報告2 発生事例1: 福岡県の観光牧場で4頭中1頭が陽性。 疫学的注釈: 宮崎県で発生した同じ群(緊急通知)から2008年に導入したものである。当該農場で飼育されていた他の3頭は4月7日に検査され陰性であった。 15/4/2011 経過報告3 発生事例1: 宮崎県都井岬の御崎馬で110頭中12頭が陽性。 疫学的注釈: 罹患動物は疫学調査の結果発見された。この地域における全ての野生馬について血清学的検査を行う予定である。 26/1/2012 経過報告6(最終報告) 事態は解決した。これ以上の報告はない。 疫学的注釈: 馬は公園内に区分けされており、公園内外の馬の移動は公的管理下で制限されている。次の秋に向けて、さらなる発生動向調査が計画されている。
肺の奥深くから発する特異な咳をしている罹患馬 馬インフルエンザ 届出伝染病 対象家畜: 馬 原因: 血清亜型は今までに1型と2型の2つの亜型があり、前者は欧州型 H7N7、後者はアメリカ大陸型 H3N8である。 疫学: 年齢や季節に関係なく発生する。咳などで排泄されたウイルスを含む飛沫によって伝播する。1型は1980年まで発生が確認されたが、以降報告されておらず、近年流行しているのは2型だけである。 臨床症状: 感染馬は1~3日の潜伏期間で40~41℃の高熱を発し、激しい乾性の咳とともに多量の水様性の鼻汁を出す。二次感染がなければ2~3週間で回復する。気管支粘膜にウイルスが感染することで、気管支炎を起こす。死亡例では肺水腫と胸膜炎を伴う気管支炎が認められる。 予防: 不活化ワクチン。 肺の奥深くから発する特異な咳をしている罹患馬
ウマ1型インフルエンザウイルスH7N7が最初に分離されたのは、1956年チェコスロバキアのプラハであった。その後、ヨーロッパ、アメリカをはじめ世界中でウマ1型ウイルスによる流行がみられ、1980年まではこのウイルスが分離されていたが、それ以降は確認されていない。一方、1963年にはウマ2型ウイルスH3N8が米国のマイアミで競走馬から分離され、現在までウマ2型ウイルスによる流行が世界各国で引き続き起きている。 1971年の東京競馬場における罹患頭数 わが国では1971年の暮れから翌年明けに大流行した。12月4日から翌年1月11日の僅か39日間で、全国的に6,782頭が発症した。東京競馬場では在厩馬963頭中956頭(99.3%)が発症した。
中央競馬(札幌・新潟・小倉)、地方競馬(大井、金沢、旭川、名古屋、園田、笠松、佐賀)の開催中止 日本における2007年の流行 2007年8月15日、35年ぶりに発生したフロリダ亜系株(H3N8)による馬インフルエンザは8月中に16都道府県に広まり、中央競馬、地方競馬が相次いで中止になった。また、10月5日から開催された秋田国体で参加馬170頭中37頭の感染が確認され、競技中止に追込まれた。 フランスの凱旋門賞(10月)、香港国際競走(12月)、ドバイミーティング(3月)、シンガポールエアラインズインターナショナルカップ(5月)など海外遠征の出走取り消しの影響も出てしまった。 2008年には、33件183頭発生があり、2009年まで散発が続いた。 中央競馬(札幌・新潟・小倉)、地方競馬(大井、金沢、旭川、名古屋、園田、笠松、佐賀)の開催中止
日本からOIEへの報告 28/8/2007 緊急通知 発生事例 2件: 滋賀県栗東で227頭、茨城県美浦で247頭が陽性。 28/8/2007 緊急通知 発生事例 2件: 滋賀県栗東で227頭、茨城県美浦で247頭が陽性。 18/9/2007 経過報告1 発生事例 49件: 1297頭が陽性。 23/10/2007 経過報告2 発生事例 29件: 467頭が陽性。 16/11/2007 経過報告3 発生事例 8件: 34頭が陽性。 27/12/2007 経過報告4 発生事例 3件: 16頭が陽性。 24/1/2008 経過報告5 発生事例 2件: 18頭が陽性。 28/2/2008 経過報告6 発生事例 1件: 29頭が陽性。 25/6/2008 経過報告7 発生事例 23件: 175頭が陽性。 8/8/2008 経過報告8 発生事例 2件: 2頭が陽性。 1/4/2009 経過報告9 こ報告背は新規発生なし。 2/7/2009 経過報告10(最終報告) 事態は解決した。これ以上の報告はない。 疫学的注釈 経過報告9: 2009年3月31日現在、2008年7月1日に特定された最後の症例以降、新たな発生は報告されていない。 経過報告10: 2997年8月に、馬インフルエンザが36年振りで報告された(前回72~73年)。感染と疑い症例は合計2,512頭で、33都道府県に及んだ。最後の症例は北海道で7月1日に特定された。制御措置によってその後の発生はない。 OIE陸生動物衛生規約に従って発生動向調査が1年間実施された。規約に従って、 日本は2009年7月1日以降馬インフルエンザ清浄であると宣言する。
Disease distribution maps Disease outbreak maps Disease distribution maps モンゴル 2011年 2011/7-12 :情報なし :これまで報告なし :この期間に報告なし :疑い :感染を確認 :臨床例あり :複数個所で発生 チリ 2012年 2012/1-6 発生通知(outbreak)があった国と疾病分布(distribution)は一致しておらず、ヨーロッパ諸国と米国では本病が地方病として常在化している(橙の臨床例あり)。2004年にフロリダ州にあるドッグレース場で22頭の犬が呼吸器病を起こし、8頭の犬が死亡した。分離ウイルスが馬インフルエンザH3N8型と塩基配列の相同性が96%であり、種の壁を超えたと考えられている。 2009年以降にカナダ産肥育用素馬の日本の輸入検疫でウイルス分離や遺伝子検査で3群が陽性となった。
馬の用途別輸入頭数 輸入馬の監視伝染病の摘発状況 年度 繁殖用 乗用 競走用 肥育用 その他 合 計 1999 248 234 352 合 計 1999 248 234 352 3,535 4,369 2000 179 201 338 4,130 24 4,872 2001 166 205 353 4,224 13 4,961 2002 117 187 327 4,036 9 4,676 2003 136 129 269 3,658 8 4,200 輸入馬の監視伝染病の摘発状況 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 馬伝染性貧血 1 馬パラチフス 2 4 馬ウイルス性動脈炎 馬鼻肺炎 日本生物科学研究所 「わが国における重要な馬のウイルス感染症と防疫」 競走馬の殺処分のエピソード: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
輸入馬の監視伝染病の摘発状況(2012年) 馬の用途別輸入検疫頭数(2012年) ピロプラズマ病 馬インフルエンザ 馬鼻肺炎 馬伝染性子宮炎 馬パラチフス 肥育用 乗用 競走用 繁殖用 カナダ(1) ドイツ(1)、ベルギー(3) カナダ(2) 米国( 2 ) 米国( 1 ) 英国( 1 )、ドイツ( 2 )、ベルギー( 1 )、米国( 1 )、オーストラリア( 2 ) カナダ(3) 疾病発生状況および輸入相手国は年によって異なる。インフルエンザ、パラチフス、伝染性子宮炎は近年多く、伝染性貧血が摘発されるのは希である。カナダが最も多いが、全て肥育用であった。 馬の用途別輸入検疫頭数(2012年) 繁殖用 1 37 6 乗用 5 41 140 25 23 競走用 10 7 2 21 4 100 肥育用 2,480 計 3 63 11 162 34 国 香港 アラブ首長国連邦 アイルランド 英国 ドイツ フランス ベルギー 米国 カナダ オーストラリア ニュージーランド
2.自然界では鳥類との間でウイルスが維持されている。 3.ヒトや馬は感染し、発病しても、ウイルス血症を起さない終末宿主である。 ウエストナイル 届出伝染病 1.蚊が吸血する際に運ばれる。 2.自然界では鳥類との間でウイルスが維持されている。 3.ヒトや馬は感染し、発病しても、ウイルス血症を起さない終末宿主である。 ヒト 蚊 鳥類 ウマ その他の動物
ウエストナイルウイルス(赤)と 日本脳炎ウイルス(緑) の分布地域 1999年8月、ニューヨークにウエストナイル熱が突然流行 ★ 日本脳炎ウイルス(緑) の分布地域 密輸された野鳥? 20XX年 ★ ヒトでの主な流行 1950-54年 イスラエル 1950年代 エジプト 1963年 フランス 1974年 南アフリカ 1996-97年 ルーマニア 1999年8月、ニューヨークにウエストナイル熱が突然流行 ウエストナイルウイルスは、1937年にウガンダのウエストナイル州で分離された
2002年における馬の州別発生頭数 馬の発生頭数の年次推移 ウイルスの存在確認(歩哨鶏) 死亡野鳥の検査では、アオカケス、ムクドリ、イエスズメ、メキシコマシコ、コマツグミ、マガモなどからウイルスが分離されている。 日本では、空港周辺のカラスなどの死亡野鳥を調べることで、侵入の有無を確認している。 2002年における馬の州別発生頭数 馬の発生頭数の年次推移 ウイルスの存在確認(歩哨鶏) 野鳥と蚊の間でウイルスが増幅するのに3年を要した。 急速に減少したのは、抗体を保有したためか?
ウマの症状(不顕性感染が大半) 診断 予防と治療 ● 口唇、顔面筋、舌の麻痺 血清学的診断 ● 斜頸、嚥下困難 ● 情緒不安定 ● 音に過敏 ● 口唇、顔面筋、舌の麻痺 ● 斜頸、嚥下困難 ● 情緒不安定 ● 音に過敏 ● 失明 ● 転回困難 ● 嗜眠状態 ● 風邪症状、食欲不振、沈鬱 ● 筋肉と皮膚の痙攣 ● 感覚過敏 ● 努力歩行 ● 衰弱、運動失調、横臥 ● 発作 血清学的診断 ● 抗体陽性+WNVワクチン未接種 ● IgM抗体 剖検 予防と治療 不活化ワクチン ● 3~6週間隔で2回接種 ● 毎年、追加接種 支持療法
米国におけるウエストナイル熱患者発生の推移 神経侵襲性 非神経侵襲性 計 症例数 死亡数(率) 症例数 死亡数(率) 症例数 死亡数(率) 1999 59 7(12) 3 0 (0) 62 7(11) 2000 19 2(11) 2 0 (0) 21 2(10) 2001 64 10 (16) 2 0 (0) 66 10 (15) 2002 2,946 276 (9) 1,210 8 (1) 4,156 284 (7) 2003 2,866 232 (8) 6,996 32 (<1) 9,862 264 (3) 2004 1,148 94 (8) 1,391 6 (<1) 2,539 100 (4) 2005 1,309 104 (8) 1,691 15 (1) 3,000 119 (4) 2006 1,495 162 (11) 2,774 15 (1) 4,269 177 (4) 2007 1,227 117 (10) 2,403 7 (<1) 3,630 124 (3) 2008 689 41 (6) 667 3 (<1) 1,356 44 (3) 2009 386 32 (8) 334 0 (0) 720 32 (4) 2010 629 54 (9) 392 3 (1) 1,021 57 (6) 2011 486 42 (9) 226 1 (<1) 712 43 (6) 2012 2,873 270 (9) 2,801 16 (1) 5,674 286 (5) 2013 1,267 111 (9) 2,801 8 (<1) 2,469 119 (5) 2014 1,347 87 (9) 1,202 10 (1) 2,205 97 (4) Total 18,810 1,641 (9) 22,952 123 (<1) 41,762 1,765 (4) ( 2015 1,181 631 1,812 98 )