情報科学概論I 【第5週】単位区間上のカオスとフラクタル ~実数の不思議~ 徳永隆治 (情報学類)
実数の成り立ち 【実数】実数は、有理数と無理数からなる 【有理数1】既約な分数(n/m)で表現できる実数 【無理数1】既約な分数で表現できない実数 【質問】小数表現を前提として、有理数と無理数を再定義せよ 【有理数2】循環する小数 【無理数2】循環しない小数 【質問】命題「デジタル計算機の中に無理数は存在する」は真か偽か? 【有理数3】有限語長(ビット長)で記述できる可能性がある実数 【無理数3】有限語長(ビット長)では記述できない実数 【質問】デジタル計算機は、無理数をいかにして扱うのか? なぜ,有理数で無理数を扱えるのだろうか? 詳しく調べてみる!!
可算集合 【有限集合】元の総数が有限である集合 【無限集合】元の総数が有限ではない集合 【可算集合】元が数えられる無限集合 【数えるとは?】集合の元を一列に並べて左から正の整数を1:1で割り当てる操作 【命題1】単位閉区間[0,1]上の有理数は可算集合 【証明】 閉区間 [0,1] 上の有理数が,左から右へ順に並べられることを例証する. 1 分母1の有理数 2 1 分母2の有理数 分母3の有理数 3 1 2 33 分母nの有理数 n 1 …. × × × 1 2 3 4 5 …….. m …………… 左から順に正の整数を割り当てることができる. ■
非可算集合 【非可算集合】可算集合ではない無限集合 【命題2】単位閉区間 [0,1] 上の実数は非可算集合 【証明】 〔仮定〕単位区間上の実数は,小数として上から下へ順に並べることができる 0. 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 …..… 0. 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 a b c d e f g …..… 0. 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 a’ b’ c’ d’ e’ f’ g’ h’ i’ j’ k’ l’ m’…..… : 0. 5 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 a” b” c” d” e” f” g” …..… 1. 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0…..… 0. 8 1 3 A’…..……..……..… この実数は,上の数表(区間[0,1] 上の実数)に存在しない. ■ A B …..……..……..……..……..
内点,境界と閉包 【内部と外部】集合Xの元だけで囲まれる点を内点といい,補集合CXの元だけで 囲まれる点を外点という.内点の集合iXを内部といい,外点の集合を外部という. 【境界】内点でも外点でもない集合Xの元を境界点といい,境界点の集合∂Xを 境界という. 【質問】単位区間上の有理数の集合Aの内部と境界を答えよ. 【解答】 iA = f,∂A = [0,1] 【閉包】集合Xに境界∂Xを加えた集合を閉包cl{A} という. 【稠密】集合Aの部分集合Bの閉方cl{B}が,Aに一致するならば部分集合Bは, A上で稠密であるという. 【命題3】単位閉区間 [0,1] 上で有理数は稠密である. 【証明】∂A = [0,1]より自明 ■
なぜデジタル計算機で無理数が扱えるのか 【完備;complete 】すべてのコーシー列が収束する距離空間は完備である. コーシー列とは,極限値を目指す近似数列であり,数が多くなれば多いほど近似精度が高まることを意味する. 空間の完備性は,“目標”となる値,そのものを扱うことはできないが,“目標”が確かに存在し,幾らでも良い近似値を扱えることを意味する. デジタル計算機とは,無理数を(有限語長で表現可能な)有理数で近似する システムである. 有理数による近似精度は,有限のレジスタ長で限定されている. 再帰的プログラミングによって,時間方向に有理数列を発展させ,近似精度を 改善できる. 【区間演算;interval operation】真の実数値xを有理値区間[p,q]で表現する計算手法 を区間演算という.
大学受験問題 【非線形漸化式】 【質問】初期条件x0∈[1, ∞)に関して,limn→∞xnを求めよ. 【解答】帰納的に,x0≧1 ならば,任意のn>0に対して,xn ≧ 1である . したがって, |xn+1-1| ≦ 2-1 |xn-1| ≦ ….. ≦ 2-n |x0-1| limn→∞ |xn+1-1| ≦ limn→∞ 2-n |x0-1| = 0 limn→∞ xn+1= 1 ■
種明かし xn+1 1 0 1 xn 大学入試の問題では,漸化式の解は必ず収束しなくてはならない. 0 1 xn 微係数が,1より小さいなら,公比が1より小さい等比級数で押さえられる. 逆に,微係数の大きさが1より大きいとき,とんでもない事が起こる.
カオス 【非線形漸化式】xn+1 = f(xn) = 2xn – q(xn-0.5), q(x) = if x <0 then 0 else 1 1 xn+1 0 xn 1 x1 x2 x0 【軌道】初期条件x0から漸化式で求められる点列 {xn}を軌道という. 【質問1】初期条件x0が有理数の場合,軌道{xn}はどうなる? 【質問2】初期条件x0が無理数の場合,軌道{xn}はどうなる? 【ヒント】実数xを2進数で表現するとき,漸化式は何を意味するのか?
解答1 【2進数表現】x = 0.s0 s1 s1 s2 …. sN ………… 【漸化式】 ビットシフト:xn = 0.s0 s1 s1 s2 …. sN … → xn+1 = 0.s1 s1 s2 …. sN … 【質問1】初期条件x0が有理数の場合,軌道{xn}はどうなる? 【解答】 x0が有理数 ⇔ ビット列は循環する. x0 = 0.s0 s1 ….sM | s0 s1 ….sM |…… | s0 s1 ….sM |…… したがって, x1 = 0. s1 ….sM | s0 s1 ….sM |…… | s0 s1 ….sM |…… ≠ x0 x2 = 0. s2 ….sM | s0 s1 ….sM |…… | s0 s1 ….sM |…… ≠ x0 : xM+1 = 0. s0 s1 ….sM |…… | s0 s1 ….sM |…… = x0 軌道は,周期Mで閉じる ■
解答2 【質問2】初期条件x0が無理数の場合,軌道{xn}はどうなる? 【解答】 x0が無理数 ⇔ ビット列は循環しない. x0 = 0.s0 s1 ….sN……………………………… したがって, x1 = 0. s1 ….sN………………………………… ≠ x0 x2 = 0. s2 ….sN …………………………………≠ x0 , x1 : xN+1 = 0. sN ………………………………… … ≠ x0 , x1 ,.., xN 軌道は,閉じることはない. ■ 閉じない軌道{xn}は,乱数を意味する. 決定論的機構から生成される乱数列を決定論的カオスという.
奇妙な集合 【非線形漸化式】 f:x [0,1] (3/2) (1-|2x-1|) R1 【質問】発散しない初期値の集合 Λ = {x [0,1] : limn→∞ xn [0,1] } はどんな形になるか? 0 1 【ヒント】区間の像の関係 f : [1,∞] [0, - ∞] f : [0, - ∞] [0, - ∞] から,一度でも1よりも大きくなると軌道は発散してしまう.
解答 I00 I01 I11 I10 I0 I1 L 【質問】発散しない初期値の集合 Λ = {x [0,1] : limn→∞ xn [0,1] } はどんな形になるか? I00 I01 I11 I10 I0 I1 【解答】xn [0,1] か否かは,合成関数fnで判別できる. 閉区間を3等分にして,中央の開区間を取り除く操作 を全ての閉区間で無限回再帰的に反復してできる集合 (Cantor集合)となる. 【Cantor集合】 ①コンパクト集合(有界かつ閉集合) どの段階でも閉集合であり,極限も閉集合 ②完全非連結(内点を持たない) どの段階でも区間の左と右は離れている 000 001 011 010 110 111 101 100 L ③完全(非可算集合) 区間を表す記号は,[0,1] 上の2進数と1:1対応する
自己相似集合 【自己相似集合;self affine set】自身の縮小像の和集合で自身を構成できる集合 【例】単位線分は最も単純な自己相似集合である. = 【例】単位正方形は最も単純な自己相似集合である. = 【例】Cantor集合は自己相似集合である. =
複雑な自己相似集合 【自己相似集合】自身の4つの縮小像の和集合で“羊歯” の絵が作られている.
位相次元と非整数次元 【例】単位線分の位相次元は1である. = 1 = 1/2 + 1/2 ○ 【例】単位正方形の位相次元は2である. = 1 = 1/2 + 1/2 ○ 【例】単位正方形の位相次元は2である. = 1 = 1/2 + 1/2 + 1/2 + 1/2 × 1 = (½)2 + (½)2 + (½)2 + (½)2 ○ 【例】 Cantor集合の位相次元は? = 1 = (1/3)D + (1/3) D 1 = 2(1/3) D 0 = log2 - D log3 D = log2/log3
【問題3】以下の過程の極限における自己相似集合の非整数次元を求めよ. レポート問題3 【問題3】以下の過程の極限における自己相似集合の非整数次元を求めよ.
レポート提出方法 ○問題1~問題2をレポート用紙(A4)に回答せよ. ○レポートを, 理科系修士棟B523 (締め切り:24日 金曜日午後5時) へ提出せよ.(期限外は認めず,直ちに零点となる) ○レポートは,締め切り後の1週間の間,カオス研で返却する. (返却されなかったレポートは,廃棄するので注意せよ)