KEK-STFにおける超伝導空洞性能試験(たて測定)設備の構築

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KEK-STFにおける超伝導空洞性能試験(たて測定)設備の構築 Y. Yamamoto, H. Hayano, E. Kako, S. Noguchi, M. Sato, T. Shishido, K. Umemori, K. Watanabe(KEK), H. Sakai, K. Shinoe(ISSP, Univ. of Tokyo), M. Sawamura(JAEA-ERL) 概要  KEKにおける将来計画にはILC(International Linear Collider)やERL(Energy Recovery Linac)といったLバンド(1.3GHz)の超伝導空洞を用いる計画が存在する。これらを実現させるための開発・試験設備として、超伝導空洞試験設備(Superconducting rf Test Facility, 以下STFと略す)が建設中である。この中には、空洞の表面処理(電解研磨)設備、クリーンルーム、クライオモジュール組み立てエリア、ヘリウム冷凍機、空洞性能試験設備、クライオモジュール性能試験設備、ハイパワー高周波源、などが一緒に収められており、非常に利便性の高い開発・試験設備になっている。この報告では、今年の頭に建設が終了し、7月にシステムチェックを目的としたパイロットテストが行われた空洞性能試験(たて測定)設備について報告する。たて測定設備は、ERLグループと共同利用することになっているため、パイロットテストではERLグループからも助勢があった。 はじめに  STFではDESY研究所におけるTESLAタイプの9セル空洞に少し改良を加えたTESLA-like空洞(STFベースライン空洞)を多数製作し(図1)、その性能試験を行う予定でいる。そのための性能試験設備を昨年から建設し、今年の頭に完成した。初めての試験は、主にシステムとして十分機能するかどうかが問題となるため、フェルミ研究所の協力で一台の9セル空洞を借りてきて、それを最初のパイロット試験に用いることが出来た。7月頭に行われた試験は概ね成功し、この試験設備が十分機能するということを確認できた。また、クライオスタットへの侵入熱は約10Wでやや多かったものの、測定自体には影響は無かった。磁気シールドはこのパイロット試験には用いられなかったため、空洞が超伝導状態になった際の残留磁場の影響があったが、性能試験ではなくパイロット試験のためこれによる影響は今回は無視した。磁気シールドは先週クライオスタット内に収められた。これまでと異なり、天井部分もカバーできるような完全密閉型の磁気シールドとなっており、この時のクライオスタット内部の磁場は50mG以下であった。磁気シールド無しでは600mG以上であった。 図1 : 1.3GHz9セル超伝導空洞 たて測定設備の建設  新しい縦測定設備はSTF棟内のクライストロンギャラリーの南の壁際に建設された。実験に用いる縦型のクライオスタットは全長が4m以上にもなるため、ピットを掘り、地下一階に収めるようにした。ピット内に2台のクライオスタットを設置できるように縦穴を掘り、昨年末に最初のクライオスタットを収めた。4mサイズのクライオスタットは特注になるため、製造メーカーでも慎重に製作が進められ、液体窒素による冷却試験などを経て本機構に納品された。  測定中は状況によって多量の放射線が出てくるため、天井部分に厚さ16cmの鉄板を放射線シールドとして設置してある。鉄板の厚みに関しては、本機構内の放射線管理センターと相談の上決定した。放射線シールドは可動型と固定型の2種類のタイプからなり、お互いが中央で重なり合うように設置されている。モーター駆動の可動型の方はクレーンを使うことなく、スイッチのみで操作できるようになっており、少人数による測定を念頭においた設計となっている。  測定前後に超伝導空洞を吊り下げておくためのスタンドが、ピットのすぐ脇に建設された。ここには計4台の空洞が吊り下げられるようになっている。スタンドの下は組み立てエリアになっており、クリーンな環境を維持するために、周囲をビニルシートで覆い、エアフィルターで絶えず空気の清浄化に努めている。  測定室は2階建てで、2階に測定室が、1階は空洞のプリチューニングを行う作業エリアとなっている。ピットから測定室までの配線は、地下を通るルートで導かれており、地上部のバリアフリーに努めている。ピットから信号線を出すためにピットの横壁に穴を開ける際も、放射線の漏れ出しを考えて、穴のサイズと向きを考慮して行われた。1階の作業エリアもビニルシートとエアフィルターにより環境の清浄化に努めている。  1回の測定は通常2日間に亘って行われ、およそ1,500ℓ以上の液体ヘリウムを消費するが、蒸発したヘリウムガスを回収するための配管と排気系の設置も行われた。配管も地上部を通さず、地下を経由して排気系に繋げられた。また、回収されたヘリウムガスを溜めておくためのガスバッグはSTF棟内には無いため400mほど離れたところにあるガスバッグへ配管を延長して接続した。排気系は、超伝導空洞内で100Wのパワー消費があっても排気できるように4,000ℓ/分のロータリーポンプ2台と、15,000ℓ/分のメカニカルブースターポンプ1台からなっている。当然、4.2Kの超伝導状態から2Kの超流動状態へ移行する際にもこれらの排気系は用いられることになる。 図3 : 放射線シールドの設置 図2 : 放射線シールドの搬入 図6 : STF見取り図 図4 : ビニルハットの設置 図5 : クライオスタットの製作 図9 : 建設完了時の様子 空洞診断システムの構築  新縦測定設備の構築に伴い、従来使用していた空洞診断システムも一新することにした。従来のシステムでは、発熱箇所の特定として空洞の各セルに90度毎に4つのカーボン抵抗体が取り付けられているだけであったが、新システムでは抵抗体の数を500個にまで増設可能なような構造体とした。このシステムはその形状が魚の骨に似ていることから”Fish-Bone”と呼ばれる。一昨年行われた4台の超伝導空洞の一連の性能試験の経験では、従来のシステムでも発熱の有無は観測できたのだが、空洞の内面を観測する新しい装置が出来て、より局所的に発熱箇所を同定する必要が出てきたため、数量を増加することで対応するようにした。完成の際には発熱箇所を25mmx25mmの範囲まで絞り込むことが出来るようになる。これは内面検査システムで発熱箇所を調査する際に十分短い時間で行える範囲である。今回のパイロットテストではシステムチェックの意味合いがあるため、数量は従来のものと同程度にした。  パイロットテストに用いる空洞はフェルミ研究所から送られてきたもので、STF棟の高圧水洗システム(High Pressure Rinsing)で内面を洗浄された状態から真空封じされて測定に臨んだ(電解研磨は行っていない)。この空洞はフェルミ研究所でも数回の性能試験が行われており、その際に3セル目に発熱が在ることが観測されている。したがって、今回の試験でもその周辺に数個の抵抗体を取り付けて発熱を観測することにした。空洞のコンディショニングでフィールドが上がっていく際にHOMカプラでマルチパクタがしばしば発生するので、そこにも従来どおり2個ずつ抵抗体を貼り付けた。  一方、field emissionの有無を観測するためにPIN Diodeも取り付けられた。空洞の両側のビームパイプにそれぞれ8個ずつ取り付けられている。また、各セルのアイリス部近くにも取り付けられた。  クライオスタットの出口からデータロガーまでを繋ぐ信号線はノイズの影響を受けやすいので、シールドをちゃんと巻いてノイズの低減に努めた。また、データロガーとクライオスタットとのグランドレベルを共通にするとレベルが安定することが分かったため、帯状のアース線でしっかりとグランドをとった。  DAQシステムは、National Instruments社製のデバイスを用い、制御プログラムはLabVIEWを用いて書かれた。Sampling timeは0.1秒で、これは発熱の応答速度に比べると十分速く、発熱を見逃すことはない。今のところ、カーボン抵抗とPIN Diodeの信号のみ繋げているが、将来的にはRF信号や圧力・温度も含む全信号を繋いだ統一的なデータ収集システムにする予定である。 図7 : 回収配管の敷設 図8 : 減圧排気系 図11 : フェルミ研究所にて発熱のあった箇所 図10 : Fish-Bone Structure for T-mapping 図12 : PIN Diodeの取り付け状況 図13 : 新DAQシステム システムチェックのためのパイロット試験  パイロット試験は7月頭に行われた。主な目的は、ヘリウム回収ライン及び排気系が機能し2Kまでの減圧が行えるかどうか、RFの測定系が機能しているかどうか、データ収集系が機能しているかどうか、などである。液体ヘリウムは1,000ℓデュワーを2つ用意して、トラブルで測定が延長された場合でも対応できるようにした。  4.2Kまでの冷却は慎重に行われ、特に大きなトラブルも無く4.2Kに到達した。4.2KでRFによるハイパワーテストを行った後、減圧ポンプを用い2Kまでの減圧を行った。減圧も順調に行われ、2時間程度で超流動状態に到達した。残留抵抗は126nΩであった。通常、2Kのハイパワーテストは3π/9からπモードまでのパスバンドを測定するが、今回はパイロットテストのためπモードのみ測定した。ハイパワーテストでは、途中で放射線量が一気に増加して激しいfield emissionに見舞われたが、10.2MV/mで一度クエンチした後は放射線は全く出てこなくなった。クエンチの際にプロセスされたようである。液体ヘリウムの消費が増えてくると、クライオスタット内の圧力が上昇するのでハイパワーの投入は注意して行われた。また、STF棟の回収ラインの出口にヘリウムガスの流量計が取り付けられており、そこの流量値からも消費が増えているかどうかが判断できるようになった。最初のクエンチの後、ヘリウムの液面が40%を切り、空洞の先端部が液面から出てしまったようなので、2度目のハイパワー投入は11.2MV/mまでで止めて実験を終了した。  測定の合間を縫ってクライオスタットの侵入熱測定も行われた。これはハイパワー投入が無い状態での液面の低下時間を測定することで行われる。簡単のために、クライオスタットをシリンダー構造であるとみなすと、定常状態(液面80%辺り)での侵入熱は10.3Wであると見積もられた。このクライオスタットにはサーマルアンカーはあるが、それを窒素冷却することは行っていない。設計段階ではおおよそ5W以下の侵入熱であると予想されていたのでやや多めの数値になってしまった。見積もりから外れた理由としては、測定の誤差が大きいということと、吊り下げ機構の構造体の効果が含まれていないためと思われる。  カーボン抵抗による発熱の探索では、特に有意な発熱は見つからなかった。フェルミ研究所で観測されていた発熱箇所にも有意な信号は無かった。フェルミ研究所の測定では15MV/m辺りで発熱していたようなので、今回のフィールドでは発熱しなかった可能性がある。一方、PIN Diodeの方はfield emissionによる信号を検出し、特に空洞上方への放射が激しいことが判明した。 図14 : 吊り下げスタンドの状況 図15 : 空洞をクライオスタットへ入れる Helium Pressure or Cavity Temperature 図16 : 測定前のピット内の状況 図20 : ハイパワー試験中のフィールドとヘリウム圧と空洞温度の時間変化 図18 : 4KにおけるQ0 vs. Eaccカーブ 図19 : 2KにおけるQ0 vs. Eaccカーブ 図17 : 冷却時の様子 今後の予定  パイロットテストが成功したので、今月末から本格的に縦測定を行っていく予定である。まずは、この空洞を再洗浄して測定し、その後電解研磨を行ってもう一度測定する。その後は、新たに製作されたベースライン空洞の5号機と6号機を年内にそれぞれ1回ずつ測定することになっている。 図21 : ハイパワー試験中のヘリウム圧と液面の時間変化 図22 : ハイパワー試験中のフィールドと液面及び流量の相関 図23 : ハイパワー試験中のフィールドと放射線量の相関