日本熱物性学会 第3回生活環境懇話会 2007年12月1日,片山津温泉 まるや

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日本熱物性学会 第3回生活環境懇話会 2007年12月1日,片山津温泉 まるや 日本熱物性学会 第3回生活環境懇話会 2007年12月1日,片山津温泉 まるや 熱物性は『木の文化・石の文化』の違いにも関与する? -木材の温かみを測る- 接触面温度 人体の熱浸透率 独立行政法人 産業技術総合研究所  サステナブルマテリアル研究部門                    小畑 良洋

Sustainable Development の観点から 21世紀に再評価されるべき資源 木材とは? 資源の枯渇問題 長期利用 持続・再生可能な資源 木質系廃材 木材 木材研究の戦略 大量利用 樹木 伐採 植林 育林 有限資源の代替として 工業資源用に木質材料を 大量利用・有効利用・長期利用 (More use, Better use and Longer use) 間伐材 光合成 有効利用 CO2 接触温冷感の研究 地球環境問題 木材の長所の評価 二酸化炭素を固定化する資源

本研究の出発点 接触温冷感に支配的な物性値は何か? オーク 銅 長所:より温かい 短所:軟らかい キリ 有限資源の金属の代替として木材の利用拡大 転んでも痛くない    適用例 保育所乳児室 特別養護老人 ホーム 熱伝導率だけでは,木材間の大きな接触温冷感の違いが説明できない! フローリング材料 ステンレス鋼 温かい   冷たい 接触温冷感:  キリ >> オーク >> ステンレス鋼 > 銅 熱伝導率 (W/mK): 0.134 0.330     16   355 温かい   冷たい 接触温冷感: キリ >> オーク >> ステンレス鋼 > 銅 48倍 2.5倍 21倍

木材と他材料に関する、過去の接触温冷感の研究 接触温冷感 と 熱伝導率 木材と他材料に関する、過去の接触温冷感の研究 接触温冷感 と 熱伝導率 ・木材中心の材料に対する原田らの結果 (1983) 金属の代替としての木材利用促進 接触温冷感, S 熱伝導率, l [W/(mK)] 木材(縦断面接触) 木材 (木口面接触) 断熱材 プラスチックス セメントモルタル ・建築材料に対する岡島ら の結果(1976) 接触温冷感, S 熱伝導率, l [W/(mK)] 木材 金属 他材料 精神物理学でのFechnerの法則 S: 感覚量, R: 刺激量

官能試験の限界 一対の組合せの指数関数的増加 ・岡島ら:12 試料 ・原田ら :20 試料 66通り 190通り 一対の組合せ数 試料数 精神物理学でのFechnerの法則 S: 感覚, R: 刺激 熱伝導現象の解析 刺激

理論解析によるアプローチ 温冷感の違いを表す物理量 ⇒ 刺激量 理論解析によるアプローチ 温冷感の違いを表す物理量 ⇒ 刺激量 接触前 接触温冷感の違い 接触面温度 熱流束 キリ オーク 銅 木材・金属に共通の 熱移動現象の理論解析 ステンレス鋼 接触温冷感の指標 キリとの接触 銅との接触 赤外線サーモグラフィ

温冷感の伝熱解析のモデル化 ~接触温冷感に支配的な熱移動現象~ 時間的:接触直後短時間  熱過ぎたり冷た過ぎたりしたものへの接触    ⇒ 反射的に手を離す (判断は接触直後) 位置的:接触面近傍  温度受容器(冷点,温点)は人体の表皮から  0.2mm,0.4mmの位置に存在 近似モデル 手と材料の接触による熱伝導 初期温度と物性値の異なる 二つの半無限体の接触による 一次元非定常熱伝導問題

接触温冷感を支配する熱移動現象の解析モデル 手側 材料側 初期温度,物性値が異なる 半無限体接触モデル 初期温度,物性値,厚さが異なる 平板接触モデル (l;熱伝導率,C;比熱,r;密度)

接触温冷感に関する熱移動現象の解析 接触面温度: TCS 基礎式 熱流束: q(t) 初期条件 (at t=0) 境界条件 (at x=0) ここで 初期条件 (at t=0) 境界条件 (at x=0)

木材の心理尺度による接触温冷感と 接触面温度の対応 ・原田らの結果 (1983) ・我々の結果 接触面温度, Tcs-TiniM [K] 木材(縦断面接触) 木材(木口面接触) 断熱材 プラスチック セメントモルタル 接触温冷感, S 接触温冷感, S 熱伝導率, l [W/(mK)] 木材(縦断面接触) 木材(木口面接触) 断熱材 プラスチック セメントモルタル Fechnerの法則 or

木材の熱物性の考慮 木材の熱物性 Fechnerの法則 比熱 C ; 樹種に関わらずほぼ一定 熱伝導率 l ; 密度 r に比例 r=al (a: 一定) 我々の結果

木材の熱物性の考慮 Fechnerの法則 木材(縦断面接触) 木材(木口面接触) 接触温冷感, S 断熱材 プラスチック 我々の結果 熱伝導率, l [W/(mK)] 木材(縦断面接触) 木材(木口面接触) 断熱材 プラスチック セメントモルタル 我々の結果 木材の接触温冷感は 熱伝導率の(一次式の)対数に比例 従来の定説

軽い木材ほど温かい 室温下(       )では

木材の異方性も正しく評価 (木口面接触と縦断面接触の混在) 縦断面(柾目面,板目面)接触 繊維方向熱伝導率 > 繊維に直角方向熱伝導率 冷たい 温かい 冷たい 温かい 木材 接触面 心理尺度の温冷感* S 熱伝導率 l [W/(mK)] 熱浸透率 h [kJ/(m2s1/2K)] セラヤ 縦断面 4.36 0.190 0.416 木口面 3.25 0.350 0.571 シラカシ 3.09 0.330 0.742 1.88 0.486 0.874 温かい 順序 逆転 順序 一致 冷たい * 原田らによる評価.:日本木材学会誌, 29, 205-212 (1983).

木材は金属よりも温かい 木材は樹種によって大きく温冷感が異なる (縦断面接触) 断熱材 接触温冷感の評価式 ガラス 木材 (木口面接触) 岩石 キリ 金属,合金 ここで 接触面温度, Tcs-TiniM [oC] オーク hH=hcopper TiniH=32oC TiniM=20oC hH=hpalm Bi Mn 鋼 アルミニウム合金 Ti Mg Au Ag Cu hH=hsole Sn 熱浸透率, hM [kJ/(m2s1/2K)]

木材、ガラス、岩石は人にやさしい材料 木材 (縦断面接触) 電流計 木材 (木口面」接触) 測定レンジ 木材 ~5 DCmA 切替 hpalm q* ~50 DCmA 断熱材 ガラス 熱流束 at t=1/p, q* [kW/m2] ~500 DCmA ガラス 接触面温度, Tcs-TiniM [oC] 岩石 金属,合金 人体(接触温冷感測定器) 岩石 Tcs-TiniM 測定レンジ ガラス 木材 岩石 金属 断熱材 熱浸透率, hM [kJ/(m2s1/2K)]

季節による温冷感の違い 低温/高温の材料への接触 接触面温度, Tcs [oC] 材料初期温度, TiniM [oC] キリ スギ シラカシ 鋼 アルミ合金 TiniH=32oC hH=hpalm パイレックス 金属 (熱浸透率hM:大) 熱い 夏 接触面温度は材料の初期温度にほぼ等しい 夏熱く,冬冷たい サウナで木材が使われる理由 冬 冷たい 木材(0<hM/hH<1) 金属に比べ,夏冷たく,冬温かい 季節に関わらず適度な温冷感

サウナ用木材の熱浸透率 熱浸透率,h [kJ/(m2s1/2K)] スプルース オベチエ 針葉樹 広葉樹 密度, r [kg/m3] サウナ用木材は,木材の中でも低熱浸透率 熱浸透率,h [kJ/(m2s1/2K)] オベチエ 針葉樹 広葉樹 密度, r [kg/m3]

パイレックス製哺乳瓶は 赤ちゃんが触って安心! ・ガラスの熱浸透率は人体の熱浸透率に近い

人体側熱浸透率, hH [kJ/(m2s1/2K)] 人体側の熱浸透率 部位の差・個人差の影響 1. 体の部位により熱浸透率が異なる。 キリ 頭寒足熱 スギ 手のひら 2. 熱浸透率の小さい足裏は,同じものに触れても,手のひらより低い接触面温度となり,逆に熱浸透率の大きい額の接触面温度は高くなる。 オーク 足裏 額 パイレックス 接触面温度, Tcs-TiniM [oC] 3. 体全体で,同じ適温を感じるためには,頭寒足熱にしなければいけない。 大理石 TiniH=32oC TiniM=20oC 花崗岩 人体側熱浸透率, hH [kJ/(m2s1/2K)]

人体側熱浸透率, hH [kJ/(m2s1/2K)] 人体側の熱浸透率 部位の差・個人差の影響 1. 熱浸透率が低い民族は,二種類の木材の接触面温度差が大きく,木材の識別が容易。 キリ 2. 熱浸透率が高い民族は,二種類の石の接触面温度差が大きく,石の識別が容易。 スギ オーク パイレックス 木の文化 接触面温度, Tcs-TiniM [oC] 3. それぞれ,よく分かる材料を使って,特徴ある文化は生まれる。 石の文化 4. 人体の物性値に影響するのは食事。戦後,日本の食事の欧米化で,木を見分ける能力は低下した? 大理石 TiniH=32oC TiniM=20oC 花崗岩 人体側熱浸透率, hH [kJ/(m2s1/2K)]

温冷感の感度について 場所により,1%の物性値のムラがあったら,接触面温度としてどう感じるか?

温度変化,D(Tcs-TiniM)/(TiniH-TiniM) 温冷感の感度 木材(柾目,板目面) 木材(木口面) 熱浸透率比,hM/hH 温度変化,D(Tcs-TiniM)/(TiniH-TiniM) 断熱材 ガラス 岩石 金属・合金 カラマツ ヒノキ キリ 触って温かい木材は,場所により物性値変化があっても,人間には鈍く感じられる。 バルサ

温度変化,D(Tcs-TiniM)/(TiniH-TiniM) 温冷感の感度 木材(柾目,板目面) 木材(木口面) 熱浸透率比,hM/hH 温度変化,D(Tcs-TiniM)/(TiniH-TiniM) 断熱材 ガラス 岩石 金属・合金  熱浸透率比=1付近のものに触れたとき,人は変化があれば一番良く分かる。  母親にとり,物性値が最も近いのは,我が子!  このグラフはスキンシップの重要性を示している?  また,人体を形成するのは食事。 スキンシップで分かり会えるためには,家族で同じ食事をすることの大切さもこのグラフは示唆している?

温度変化,D(Tcs-TiniM)/(TiniH-TiniM) 温冷感の感度 木材(柾目,板目面) 木材(木口面) 熱浸透率比,hM/hH 温度変化,D(Tcs-TiniM)/(TiniH-TiniM) 断熱材 ガラス 岩石 金属・合金 石灰岩 玄武岩 大理石 花崗岩 カラマツ ヒノキ キリ 木の文化 石の文化 バルサ 民族によって,熱浸透率=1の位置が木材側か石側にずれると・・・ hH=1.263kJ/(m2s1/2K) 掌の文献値で計算

木材や他の材料の接触温冷感の工学的評価指標 まとめ 接触面温度と熱浸透率 伝熱解析 木質材料の心地よさ 温冷感に関する知見の検討 木材の心理尺度による温冷感との高い相関 室温での金属と木材の温冷感の違い 木材の樹種による温冷感の違い 季節による金属と木材の温冷感の違い 木材の特性考慮による従来の関係式との関係 木材の異方性考慮の場合の温冷感 合理的, 定量的に 説明 ⇒ 木材や他の材料の接触温冷感の工学的評価指標 木材の利用拡大