衝突輻射モデルに基づく実践的発光分光計測 プラズマ科学のフロンティア2007研究会 衝突輻射モデルに基づく実践的発光分光計測 東京工業大学 赤塚 洋 August 3, 2007, NIFS
本日の講演概要(1) 衝突輻射モデルに基づく発光分光計測の基礎理論 発光分光計測(OES)の微視的理解〜原子分子過程 衝突輻射モデル 分光計測法、励起状態の生成消滅、素過程、断面積と衝突論、エネルギー分布関数、レート係数 衝突輻射モデル 励起状態数密度分布の特徴
本日の講演概要(2) 2. 衝突輻射モデルに基づく発光分光計測〜実際の計測に応用した例 非平衡プラズマの衝突輻射モデルに基づく分光計測〜原子過程のモデリング 直流ホローカソード放電プラズマ 再結合プラズマジェット 再結合プラズマジェットの反転分布 大気圧非平衡プラズマ
I. 発光分光計測(OES)の微視的理解〜原子分子過程 1. 原子過程に基づく発光分光計測の基礎理論 I. 発光分光計測(OES)の微視的理解〜原子分子過程
1. はじめに 各種プラズマの発光分光診断 プラズマの発光 励起状態の占有密度 原子分子過程に基づく正しい解釈 分光器 原子分子データ プラズマの巨視的な特性(電子温度・密度、ガス温度等)
各種のプラズマ計測法の比較 プローブ法 レーザー法 発光分光法 費用 安価 高価 比較的安価 測定技術 簡便 複雑 やや複雑 データ解釈理論 高度に複雑 電気工学的 比較的単純 物理学的 物理化学的 プラズマへの擾乱 大 小 皆無 反応性プラズマ 特殊なプローブ要 可 幾何学的条件 強い制約 若干制約有 ファイバを使えば弱
プラズマ内における原子過程 どのようにして励起状態数密度が決定されるのか? −素過程に関する知識 素過程 衝突輻射モデル 主要な過程の解釈 どのようにして励起状態数密度が決定されるのか? −素過程に関する知識 素過程 衝突輻射モデル 電子衝突励起・脱励起 輻射遷移 光励起・誘導放出 電子衝突電離・ 電子3体再結合 光電離・輻射再結合 …… 各準位・各状態の数密度の時間変化を定式化 主要な過程の解釈 特殊な場合にのみ、コロナ平衡や局所熱平衡が成立
従来のプラズマ発光分光計測 コロナ平衡や局所熱平衡(Local Thermodynamic Equilibrium; LTE)を仮定 しかし… LTEを用いた電子温度決定の例 LTEなどの仮定は、実際のプロセスプラズマに当てはまらないことが多い 見かけの「温度」は、実際の電子温度を反映しないことも多い
衝突輻射モデル プラズマの巨視的な特性(電子温度・電子密度)と励起状態数密度を関係づけるモデル 電子衝突・輻射過程により、励起状態の数密度変化が記述できると仮定 入力データ 電子温度、電子密度、 中性粒子密度(~ガス圧) 出力データ 励起状態の数密度
発光分光計測から電子温度・密度は求められないか 着想〜衝突輻射モデルを逆に使えないか? 通常の使用方法 電子温度・ 衝突輻射モデル 励起状態の数密度 電子密度 (計算コード) 我々の提案 電子温度・ 衝突輻射モデル 励起状態の数密度 電子密度 (計算コード)
2. 発光分光法による種々のプラズマ診断 Stark広がり→電子密度Ne 連続スペクトル→電子温度Te, Ne ただし、Ne > 1014 cm–3に限られる 連続スペクトル→電子温度Te, Ne ただし低密度では困難 線強度比とLTEを仮定→ Te, Ne ただし仮定が成立しないことが多い 線強度の絶対測定と、衝突輻射モデルに基づく解釈〜最も汎用的→ Te, Ne モデル化が難解、原子分子データ要
2-1 分光計測法 線強度 p: 遷移の上準位 q: 遷移の下準位 geo: 幾何学的検出効率 det: 検出系の絶対検出効率 : 光学的厚さ(半実験公式等を用いる;通常の可視域遷移では~1:光学的に薄い) A: 遷移確率(アインシュタインのA係数) N(p): 準位pの数密度
一般的な可視域分光計の構成
分光器の感度較正
2-2 励起状態の生成消滅 (1)考慮すべき素過程 赤矢印〜電子 衝突過程 青矢印〜輻射 過程 C 電子衝突励起 F 電子衝突脱励起 衝突過程 青矢印〜輻射 過程 C 電子衝突励起 F 電子衝突脱励起 A 輻射遷移 S 電子衝突電離 電子3体再結合 輻射再結合 図中の記号は速度係数を表す。 大気圧等では原子衝突過程も必要だが基本は上記
素過程 (1) 電子衝突励起(水素原子の例) H(p) + e– H(q) + e– 速度係数C(p,q) 上の反応による第q準位(q>p)の数密度N(q)の時間変化〜素過程であるから C(p,q)は電子温度の関数 (電子エネルギー分布関数(EEDF)がMaxwell型でなければ、断面積と分布関数を用いて求められる) 他の素過程についても同様
素過程 (2) 電子衝突脱励起(励起の逆反応) H(q) + e– H(p) + e– 速度係数F(q,p) (q>p) 輻射遷移 H(q) H(p) + h 速度係数A(q,p) (q>p) 電子衝突電離 H(q) + e– H+ + e– + e– 速度係数S(q) (電子)3体再結合(上の逆反応) H+ + e– + e– H(q) + e– 速度係数 (q) 輻射再結合 H+ + e– H(q) + h 速度係数 (q)
2.3 各種のレート係数(1)遷移確率 遷移確率A(p,q) (p > q)は振動子強度fq,pを用いて計算される e 素電荷、遷移波長、g 多重度、c 光速度、me 電子質量、真空誘電率 h プランク定数 Aは振動数の3乗に比例−短波長ほど遷移しやすい 電気双極子行列要素
(2) 光励起・光電離速度係数 光励起速度係数 光電離断面積 水素様イオンでは 輻射再結合=光電離の逆過程 Milneの公式 gfb ~ 1 自由束縛遷移の Gaunt factor 光電離断面積 水素様イオンでは z 原子核の電荷数 輻射再結合=光電離の逆過程 輻射再結合断面積 Milneの公式 gi イオンの基底状態の多重度 輻射再結合速度係数 Maxwellian EEDFなら 指数積分関数 (q) 第q準位の電離ポテンシャル
(3) 電子衝突励起・脱励起 励起断面積 始状態 入射電子 exp(i0•r) 標的電子 q 終状態 散乱電子 [f(q p;)/r] exp(i•r) 標的電子 p この時 光学的許容遷移について、ボルン近似(ベーテ極限)にて以下を得る ただし 閾値単位のエネルギー 禁制遷移では、減衰はより急激
電子衝突励起速度係数 断面積から以下のように速度係数が計算される EEDFがMaxwell型なら ここに R リュードベリ定数
電子衝突電離と電子3体再結合 電離断面積 電離速度係数 電子3体再結合 励起断面積と同様に求められる 電子衝突電離の逆過程として求められる ただし, fq,c 束縛-自由振動子強度, u = /(q) 電離速度係数 電子3体再結合 電子衝突電離の逆過程として求められる Maxwellian EEDFでは
1. 原子過程に基づく発光分光計測の基礎理論 II. 衝突輻射モデル
衝突輻射モデルの定式化 第p準位の時間変化として、電子衝突・輻射過程のみ考慮。準安定以外の励起状態に対しては、移流・拡散項は十分小さい。 準安定状態や基底状態では、原子衝突過程や移流・拡散項も考慮の必要性有り
準定常解 励起状態(≠準安定)に対して 十分によい近似 この時、先の常微分方程式は、未知量N(p)について連立1次方程式となる N(p) (p ≥ 2)は、N(1), Ni, Ne, Teの関数となる (光学的厚さも、下準位が基底・準安定のみ考えれば十分、 N(1)の関数) 以下の解を得る
解の特徴 解の第1項〜電子密度とイオン密度の積に比例〜再結合プラズマ項 解の第2項〜基底状態数密度に比例〜電離プラズマ項 Z(p) サハ・ボルツマン係数 me 電子の質量, k ボルツマン定数, h プランク定数, gi イオンの統計的重み, g(p) 準位pの統計的重み, (p) 準位pの電離ポテンシャル
解の特徴(続き) N(1) = 0, r0(p) = 1の時 サハ・ボルツマン分布 Ni = 0, r1(p) = 1の時 解の第1項が支配的〜再結合プラズマ Ni = 0, r1(p) = 1の時 基底状態からのボルツマン分布 解の第2項が支配的〜電離優勢プラズマ 第1項と第2項が同程度のプラズマ 平衡プラズマ
実際のプラズマの分類 電離プラズマ、平衡プラズマ、再結合プラズマに分類できる 低密度 高密度 電離プラズマ 平衡プラズマ 再結合プラズマ 蛍光灯放電 グロー放電陽光柱 アルゴンイオンレーザー励振プラズマ 平衡プラズマ 太陽コロナ 大気圧アーク 再結合プラズマ トカマク周辺部の不純物 レーザー照射プラズマ、アフターグロー
各準位の生成消滅の直観的理解 電離成分 再結合成分
1. 原子過程に基づく発光分光計測の基礎理論 III. 励起状態数密度分布の特徴
励起準位数密度分布の特徴 できるだけ直観的にわかりやすい表現はないか? それぞれのプラズマのパラメータに応じて、生成消滅を、素過程レベルにまで立ち返り、精査する必要性 各パラメータ(電子温度・密度)に応じて、分布の特徴を探り、診断に生かしたいと考える
励起準位数密度の生成消滅 その基本概念の直観的理解 励起されやすいか、脱励起されやすいかは、電子温度とエネルギーギャップの関係で定められる 電子衝突では、直近の準位へ移動しやすい 励起されやすいか、脱励起されやすいかは、電子温度とエネルギーギャップの関係で定められる 輻射過程では、より下位の準位へと遷移しようとする 輻射と電子衝突の何れが支配的か、は、電子密度による
電離プラズマ1.低電子密度の極限 コロナ平衡的振る舞い 低電子密度の低い励起準位で成立 In: 基底状態からの電子衝突励起 p準位の主たる電子の流入出 In: 基底状態からの電子衝突励起 Out: 輻射遷移 これらが釣り合う p 1 C(1,p) h A(p,1)
電離プラズマ2. 若干Ne大の時 準飽和状態(準平衡) 低励起準位での流入出 In: 直下状態からの電子衝突励起 p準位の主たる電子の流入出 Out: 直下状態への電子衝突脱励起 これらが釣り合う p p – 1 C(p–1,p) F(p,p–1) 1.との境界電子密度 Griemの境界
電離プラズマ3. さらに電子温度大 電子温度大、あるいは高励起準位 梯子用励起 In: 直下状態からの電子衝突励起 p準位の主たる電子の流入出 In: 直下状態からの電子衝突励起 Out: 直上状態への電子衝突脱励起 これらが釣り合う p – 1 C(p–1,p) p C(p,p+1) p+1 2との境界準位 Byronの境界
水素原子 プラズマ について の計算例~電離プラズマ
横軸を主量子数に変えると…
Remark 梯子用励起状態では、電子温度・密度の決定は困難 その理由 kTe >> Ep,p+1の時は、 C(p,p+1)N(p)Ne=C(p+1,p+2)N(p+1)Ne これでは辺辺除されてTeもNeも消える –6乗分布単独では、何らも得られない ただし、角運動量ごとに顕著な差がある準位間ならば、求められる可能性有り
高温再結合プラズマ1.低電子密度極限 捕獲放射カスケード(CRC) p準位の主たる電子の流入出 低電子密度極限、極低エネルギー準位間 p準位の主たる電子の流入出 In: 上準位からの輻射遷移及びイオンの輻射再結合 Out: 下準位への輻射遷移 1 q<p p q>p ion 高温では (p)~2Z(p)K ln p/p5から、 N(p)~Z(p)NiNe サハ・ボルツマン
高温再結合プラズマ2. Ne大の時 飽和相=局所熱平衡(LTE;Saha-Boltzmann) In: 直上準位からの電子衝突脱励起 高励起準位で顕著 p準位の主たる電子の流入出 In: 直上準位からの電子衝突脱励起 Out: 直上準位への電子衝突励起 再結合プラズマでは、全体の電子の流れは下準位向き ion q p+1 p 左図の何れも結局はLTE p–1
低温再結合プラズマ1.低電子密度極限 捕獲放射カスケード(CRC) 低エネルギー準位で顕著 p準位の主たる電子の流入出 In: 上準位からの輻射遷移及びイオンの輻射再結合 Out: 下準位への輻射遷移 q<p p q>p ion 低温(kTe<<(2))では (p)1/pから、 N(p)/g(p)p1.5 反転分布
低温再結合プラズマ2. Neやや大 準飽和状態(梯子様脱励起カスケード) In: 直上準位からの電子衝突脱励起 低励起準位で顕著 p準位の主たる電子の流入出 In: 直上準位からの電子衝突脱励起 Out: 直下準位への電子衝突脱励起 pB 次頁 p>pB C(p,p+1)>F(p,p–1) 本頁 p<pB C(p,p+1)<F(p,p–1) p+1 F(p+1,p)N(p+1)Ne~F(p,p–1)N(p)Ne p Byronの境界 p–1
低温再結合プラズマ3. Ne大の極限 飽和相=局所熱平衡(LTE) 高励起準位で顕著 In: 直上準位からの電子衝突脱励起 p準位の主たる電子の流入出 In: 直上準位からの電子衝突脱励起 Out: 直上準位への電子衝突励起 ion 十分な高励起準位〜電離平衡 p 高励起準位では流出過程は脱励起よりも励起 pB F(p+1,p)N(p+1)Ne=C(p,p+1)N(p)Ne 結局はLTE
水素原子プラズマについての計算例〜再結合プラズマ
まとめ(1)電離プラズマの場合
まとめ(2)再結合プラズマの場合
衝突輻射モデルのまとめ 衝突輻射モデルを用いれば、電子温度・密度の関数として、励起状態数密度を計算可能 励起状態の生成消滅のメカニズムの差により、いくつか特徴的な分布が存在 密度分布の量子数(またはエネルギー)依存性の差は、原子過程の特徴を反映 従って、原子過程を十分理解すれば、OESで求まる数密度分布から、プラズマを特徴づけるパラメータ(Te,Ne等)を原理的には抽出可能
2. 原子過程に基づく発光分光計測の応用研究例 I. 非平衡プラズマの衝突輻射モデルに基づく分光計測〜原子過程のモデリング
CRモデルを用いた電子温度・密度の分光計測 LTEも、コロナ平衡も適用できないようなプラズマの分光計測は可能か? –6乗分布では一般に困難だが、水素プラズマ以外では、許容・禁制の遷移断面積のエネルギー依存性の差を用い、計測の可能性は残されている。 基本戦略〜各準位への電子の流入出の釣合を素過程で表す
非平衡分光データの解釈法 Te, Neの概略値により、主要な原子過程を計算により抽出 右の例ならば p q1 q2 q3 q4 Te, Neの概略値により、主要な原子過程を計算により抽出 右の例ならば 流入 流出 上式で、C,FはTeの関数、N(p),N(q)を分光計測すれば、Te,Neについての方程式が1本得られる
基本的ストラテジー 前ページの様な釣合の式を、未知量の数だけ立てる 測定不可能準位を含んでいてもかまわない。未知量と考え、方程式本数を増やす モデルの単純なほど、測定も容易で信頼度も高いが、なるべく多くの準位を取り入れた方が、より広範囲のTe,Neに対応できる(柔軟) Neを求める際には、キャンセルアウトしないよう、流入出に関して電子衝突過程と輻射過程がコンパラブルな準位を選ぶ必要性有り
具体例(1)同位体分離研究用直流ホローカソード放電Arプラズマ 動機〜高密度直流放電プラズマ中移動現象〜重同位体→陰極側、軽同位体→陽極側に濃縮〜の研究 プラズマパラメータの正確な測定の要求、但し非侵入法にて(プローブ以外) プローブ計測から Te 0.8 – 2.0 eV Ne 1014 – 1015 cm–3 分離実験の際プローブは使用したくない K. Kano, M. Suzuki and H. Akatsuka, Plasma Sources Sci. Technol. 9, 314 (2000)
Te測定のための原子過程モデル 5p, 4d+6s, 6p, 5d+7sの数密度〜OESで測定 準位4d + 6s(CRモデルでは1つにまとめる)に着目 5p, 4d+6s, 6p, 5d+7sの数密度〜OESで測定 結果を(4)–(5)式に代入し、計算機で解きTeを得る
Ne測定のための原子過程モデル Teの決定された後、 4p[3/2]1,2, [5/2]2,3 準位(準位7)に着目 準位7と18の数密度〜OESで測定 準位2,3,5〜数密度の釣合の式から求める(釣合の式を増やして対応)
N2, N3, N5の準位の決定法 (7)-(8)式からN2とN3が求められる。N1は放電気圧から計算可能で、(9)式からN5が求められる。
結果と考察(1)電子温度 本方法によるTeはプローブ計測結果と大略一致、変化の傾向も捉えられる Abelインバージョンは施さず 本方法によるTeはプローブ計測結果と大略一致、変化の傾向も捉えられる モデルの単純化の結果, |∆Te|/Te ≤ 39 %程度、実用上十分
結果と考察(2)電子密度 |∆Ne|/Ne ≤ 90 %、余り精度でない 電子密度が高く、輻射過程が相対的に弱くなることが主因。 Ne ~ 2´ 1014 cm–3程度が上限
具体例(2) Ar膨張アークジェット アルゴンアークジェット〜LTE計測が原理的には可能 原子過程を利用して分光計測を行う方法が、電離プラズマだけでなく、再結合プラズマでも適用できることを示すことは重要 K. Kano, M. Suzuki and H. Akatsuka, Contrib. Plasma Phys., 41, 91 (2001)
原子過程モデル Teを求めるモデル Neを求めるモデル
2,3,13,15準位の決定方法 未知量 Ne, N2, N3, N7, N16, N23, N29, とくべき連立方程式 (11)–(17) 分光計測で測定すべき準位 N7, N18, N20, N25
結果と考察(1)電子温度 本方法はプローブ計測と良く一致 変化の傾向もとらえられる アーベルインバージョン済み 誤差~13%
結果と考察(2)電子密度 r小、またはz大では良く一致 誤差は43%程度 アーベルインバージョン済み 変化の傾向もとらえられる
ここまでのまとめ 非平衡のプラズマに関し、原子過程に基づく「衝突輻射モデル」を利用すれば、発光分光計測(OES)により、基本的には電子温度・密度を求めることができる。電離プラズマ、再結合プラズマの何れに対してもいえる。 今後は、EEDFが非Maxwell的なプラズマや、大気圧などで原子衝突の無視できない場合にも、同様の手法が適用できるか否かを検討するのが課題。
2. 原子過程に基づく発光分光計測の応用研究例 II. 膨張プラズマジェットによる再結合プラズマ〜プラズマジェットの反転分布
低温再結合プラズマ 膨張アークジェット水素・ヘリウムプラズマの分光計測 定常流れアフターグロープラズマ 下流部で強い発光 高励起準位はLTE → Te, Neを計測可能 それ以下の準位についても、CRモデルの理論計算と比較して、結果の妥当性を確認できる。反転分布も興味深い。
プラズマジェット膨張チェンバとしての希薄気体風洞
希薄気体風洞の模式図
プラズマ発生電極の配置図 H. Akatsuka and M. Suzuki, Rev. Sci. Instrum, 64, [7] 1734 (1993).
Heプラズマジェットの外観 Nozzle Nozzle coils coils coils coils B = 0.160 T 概して、ノズル出口部よりも、少し下流で強烈に発光
水素プラズマジェットのスペクトル生データ例 多数のバルマー系列線 上準位p ≥ 16では分解能が不足して分離しきれない。しかし強度十分あり!! 上準位が∞よりも短波長の所からも連続スペクトルが発生〜自由電子から主量子数p=2への遷移〜自由・束縛遷移 短波長側にこのように連続スペクトルが見えるのは再結合プラズマ特有 H. Akatsuka and M. Suzuki, Phys. Rev. E, 49 [2] 1534 (1994).
水素プラズマジェットの実験結果 〜ボルツマンプロット p≥9程度の準位がLTE準位、そこにLTE〜サハボルツマン平衡条件を課せばTe,Neが求められる。 求めたTe,Neを入力としてCR計算すると、それ以下の非平衡準位(反転分布)も計算でき、しかも実験と完璧に一致!!
ヘリウムプラズマジェットの結果 水素とほぼ同様、 主量子数7以上程度の準位がLTE準位、LTE条件からTe,Neが求められる。 1S 1P 1D 3S 3P 3D 水素とほぼ同様、 主量子数7以上程度の準位がLTE準位、LTE条件からTe,Neが求められる。 求めたTe,Neを入力としてCR計算すると、各運動量毎の密度差の特徴も良く捉えられる!! H. Akatsuka and M. Suzuki, Plasma Sources Sci. Technol., 4, 125 (1995).
各種プラズマジェットの流れ方向の電子温度変化のまとめ 水素とヘリウムは低温で反転分布も アルゴンは0.5eVで下げ止まり、反転分布もない WHY?
電子衝突運動量移行断面積の特徴 ラムザウアー効果による断面積の極小のため、アルゴンプラズマ(中性粒子もほとんどアルゴン)中の電子は、中性粒子と極めて衝突しにくい! 磁場下の低温膨張アークジェット中の電子の冷却は、中性粒子との衝突による緩和現象が支配的
アルゴンプラズマで反転分布をうるためには? ラムザウアー効果のない気体分子との衝突を利用。(他の素過程でイオンを損失しないこと) ヘリウムとの衝突を利用すればよい! K. Kano and H. Akatsuka, Phys. Rev. E, 65 [5-1] 056404 (2002).
2. 原子過程に基づく発光分光計測の応用研究例 III.大気圧非平衡プラズマ
大気圧非平衡プラズマ〜はじめに 大気圧プラズマの各種応用の進展 電子温度は最も測定したいパラメータの一つ 計測法開発の必要性〜特に電子温度 電子温度は最も測定したいパラメータの一つ 電子密度〜シュタルク広がりも可能なことあり ガス温度は不純物分子の回転温度で近似可能 電子温度はトムソン散乱等で計測可能だが… 高度に技術を要し、産業現場では使いにくい プローブ計測や発光分光計測(OES) 通常の方法〜そのままでは適用困難 大気圧プラズマの電子温度は非常に測定が面倒 OESにより求まる励起温度と関係づけられないか?
本研究の目的 大気圧の「電離進行アルゴンプラズマ」のOESによる電子温度計測の基礎を検討 励起温度と電子温度に1対1の関係を見いだし、実際の系に適用 ある程度電子密度が低いと考えられる大気圧マイクロ波放電アルゴンプラズマを対象として計測 ガス温度も重要なパラメータ
数密度分布の放電圧力依存例
大気圧における励起密度準位分布の電子温度依存(低電子密度時)
励起温度(4p-5p)の決定法 Te 4p 5p
励起温度と電子温度の関係 〜Arプラズマを対象として Neにより大きく2つに分かれる 原子衝突が支配的(Ne ~ 1011 – 1012 cm–3)なグループ、電子衝突が原子衝突と同レベルのグループ(Ne ~ 1013 – 1015 cm–3) グループ内部ではTexのNe依存性小 例外:Ne = 1015 cm–3の時の1eV〜再結合項が支配的、傾向は異なる
ガス温度の重要性 今回は比較的低電子密度と推定されるArプラズマを対象 その際、ガス温度は励起温度決定に重要なパラメータ
低電子密度領域での電子密度依存性 低電子密度領域では、励起温度への電子密度の影響は小さい 今回の測定領域(Tex ~ 0.4 eV程度)では1010 – 1012 cm–3の変化に対して電子温度 ± 0.1 eV程度の誤差
ポピュレーションメカニズムのまとめ 流出〜原子衝突脱励起、ついで原子衝突励起が主な過程 流入〜準位によって差がある 直近の準位に流出しやすいが、準位の混雑するところでは更に上下の準位へと流出 流入〜準位によって差がある 基底準位からの許容遷移準位、パリティ禁制遷移準位—基底状態からの電子衝突励起と、隣接準位からの原子衝突励起脱励起が主な過程 スピン禁制遷移準位—隣接準位からの原子衝突励起脱励起、電子衝突は効かない
大気圧時のポピュレーション(5 eV, 1011 cm–3) 流出は特に、原子衝突が主要過程 流入は原子衝突及び電子衝突電離 i<13 13,i A13,i = 1.6E7 i<13 NeF13,i = 1.5E5 i>13 NeC13,i = 3.4E5 i<13 N1L13,i = 1.8E8 i>13 N1K13,i = 3.7E7 13 i>13 NiAi,13 = 5.9E18 i<13 NeNiCi,13 = 2.3E20 i>13 NeNiFi,13 = 2.4E17 i<13 N1NiKi,13 = 2.7E20 i>13 N1NiLi,13 = 8.0E20 流出 Depopulation Frequency [s–1] 流入Population Rate [cm–3s–1]
流入出の簡単なモデル化〜電子衝突励起・原子衝突緩和モデル 第p準位ポピュレーションバランスにつき 以下、LもKと記す(添え字の大小で区別可能) (p≥2) よって、連立一次方程式を得る
励起状態数密度の特徴(1) 等と書けば 即ち
励起状態数密度の特徴(2) 従って第p準位の数密度は 重要なポイント K–1はガス温度Tgのみの関数、Cは電子温度のみの関数、それらの積の総和にNeを乗じた値に励起状態密度は比例(N1に依らない) 励起状態数密度比は、電子密度に依らない
実験装置 End-onタイプの観測 最も明るい放電部分を計測したことに対応 放電管内部の電離進行プラズマ部 Quartz tube 13mm Quartz tube ・ 同軸ケーブルを使用した同軸型 ・ 小型で高密度なラジカル生成 ・ アルミニウムアンテナを使用 Spectrometer Coaxial cable Fiber Plasma jet electrode Ar gas N2 or O2 Microwave generator 放電条件 マイクロ波 2.45 GHz Ar 流量 : 10 L/min N2 流量 : 0.1 – 0.5 L/min (回転温度測定時のみ) Input power : 100 -150 W End-onタイプの観測 最も明るい放電部分を計測したことに対応 放電管内部の電離進行プラズマ部 Schematic diagram of the experimental setup T. Yuji, K. Fujioka, S. Fujii and H. Akatsuka, IEEJ Trans. 2, 473 (2007)
回転温度の測定結果 外挿により、N2混入のない時の回転温度〜ガス並進温度を0.13 eV ~ 1500 Kと推定
大気圧Arプラズマの分光計測結果 4p, 5p準位は良好な強度で測定可能 分光系の相対感度校正を施し、ボルツマンプロットを作成
Ar I のボルツマンプロット 今回の実験条件では、励起温度 Tex(4p-5p) ~ 0.38 eV 程度の低い値となった。
電子温度の推定 励起温度−電子温度の対応グラフにて、Tg = 1500 K として対応関係を見ると、Te = (0.9 ± 0.1) eV 程度と結論される。 なお、電子密度は未知量として残し、それに対応し誤差を見積もった。
本方法の限界 実用的に利用される酸素や窒素を混入したプラズマの場合 窒素や酸素のバンドスペクトルが卓越し、Ar Iの発光線で励起温度を求めることが困難 この場合はN2やO2分子の電子励起準位(振動励起も含む)に関するCRモデルが必要 現状では困難、しかし可能性として否定されたわけではない。電子分子データと適切なモデリングにより、いずれは解決されるであろう。(モデリングについては、ポルトガルやイタリア、ロシア等に卓越した研究例あり)
大気圧プラズマ計測に関するこれまでのまとめ 大気圧マイクロ波放電酸素プラズマの発光分光計測(OES)を実施した。 放電電力100 WのArプラズマについて、ガス温度の近似値と考えられる回転温度は1500 Kであった。 Ar原子の4p-5p準位で決定される励起温度は0.38eVであった。測定対象プラズマを低電子密度と仮定しCRモデルを適用することにより、電子温度が0.9 ± 0.1 eVと求められた。 なお、窒素を混入しAr-N2プラズマを生成したところ、Ar原子の発光線はN2分子の各種発光バンドに隠れ、Ar原子のCRモデルによる電子温度の推測は困難であった。 N2分子に関するCRモデルの開発が今後必要と考えられる。
まとめにかえて プラズマの発光分光計測 解釈が重要 比較的容易〜何か測れる、何かしら意味ありげなデータ、ところが、通常非平衡 非平衡な場合は、素過程に戻る 平衡でなくとも、全く問題なし 物理学はもちろん、物理化学が必要 化学をバカにしない 自らの測定対象をよく理解し、主要過程をモデル化〜誰でもできるはず もはや、あとは利用するばかりである!