東北大学ヘリアック装置における HeII輝線スペクトルを用いた 多視線ドップラー分光計測手法の開発 2012.08.06 - 08 プラズマ科学のフロンティア2012研究会 @核融合科学研究所 管理棟 4階大会議室 東北大学ヘリアック装置における HeII輝線スペクトルを用いた 多視線ドップラー分光計測手法の開発 石井 啓一、 岡本 敦、 佐藤 優、 立花 丈、 小池 都司、 奥 俊博、 北島 純男 東北大学大学院 工学研究科 量子エネルギー工学専攻
イオン粘性による ポロイダルフロー分岐モデル プラズマのポロイダル粘性がポロイダルフロー速度に極大値を有することが 新古典理論から予測[1] フロー駆動力がイオン粘性の極大値を超えるとフロー速度が急激に増大し 閉じ込め改善モードへ遷移 イオン粘性力のポロイダルフロー速度依存性は磁場のリップル構造により決定 東北大学ヘリアック装置(TU-Heliac) では電極バイアス実験により閉じ込め 改善モード遷移におけるイオン粘性の 影響を検証[1] 電極バイアス実験では駆動力を外部 から能動的に制御可能 TU-Heliacでは広範囲に磁場配位を 選択可能 [1] K. C. Shaing and E. C. Crume, Jr. Phys. Rev. Lett. 63, 2369 (1989). [2] S. Kitajima et al., Nucl. Fusion 46, 200 (2006).
イオン温度、ポロイダルフロー速度の直接的な計測が必要 目的 イオン粘性の理論と電極バイアス実験の結果を比較するためには 以下の情報が必要 イオン温度Ti ポロイダルフロー速度Vq イオン温度、ポロイダルフロー速度の直接的な計測が必要 TU-Heliacにおけるデータベース構築のため、ドップラー分光法を 用いたイオン温度・フロー速度計測システムの開発を目的 分光器較正手法の確立 フロー速度絶対較正手法の確立 解析プログラムの開発
分光計測概要 TU-Heliacにおいて最もデータベースが豊富なHeのイオンスペクトル (HeII, 468.57 nm)を計測 ドップラーシフト ⇒ フロー速度 ドップラー広がり ⇒ イオン温度 5視線のバンドルファイバーを用いて発光スペクトルの空間分布を計測 ⇒ CCDカメラによるイメージ計測 マイクロメータにより視線を変更可能 HeII HeI
計測機器 高分解能モノクロメータ: CT-100TP(日本分光) CCD: DU440-BV(Andor) 多視線バンドルファイバ 光学系 ツェルニターナーマウント 焦点距離 1000 mm グレーティング 1200 /mm 分解能(FWHM) ~0.05 nm (@スリット幅50 mm) 逆線分散 ~0.8 nm/mm CCD: DU440-BV(Andor) イメージエリア 27.6 mm × 6.9 mm ピクセル数 2048 × 512 ピクセルサイズ 13.5 mm 多視線バンドルファイバ ファイバ コア径100 mm, ファイバ径125 mm 芯線数 56芯 (計測用10芯 × 5視線 + 参照用6芯) 視線間距離 1.75 mm (@計測用ファイバー端)
分光器較正 計測対象であるHeII(468.57 nm)のライン近傍における、以下の情報が 計測視線ごとに必要 波長の較正関数(逆線分散) 装置分解能 参照用ファイバーを用いてNeランプのスペクトルを計測 chord 1 chord 2 chord 3 chord 4 chord 5 chord 6
Neスペクトルの同定 700 ~ 1400 pixel (465 ~ 472 nm)における15本のスペクトルを同定 Ne I(465.639 nm), Ne I(466.110 nm), Fe I(467.316 nm), Ne I(468.767nm), Ne I(470.439 nm), Ne I(471.206 nm)の6スペクトルを波長較正に使用 ⇒ 各スペクトルをガウスフィッティング(6スペクトル × 6視線) 装置分解能はFe I(467.316 nm)のスペクトル幅より決定
波長較正関数の決定 chord i, chord i+1 のピーク位置を平均し、波長に対して線形フィッティング 線形フィティングの相関係数は十分に高い 計測用ファイバー5視線分の波長較正関数は良好に一致 chord i (参照用) chord i+1 chord i+2 (計測用) 入射スリットにおける ファイバー配置
装置分解能の決定 chord i, chord i+1 の装置分解能を平均 装置分解能はFe I(467.316 nm)のスペクトル幅より決定 近傍に他のスペクトルが無い HeIIのラインに近い 発光強度が強い 装置関数による広がりはイオン温度換算で6 eV相当 ⇒イオン温度換算定数(@468.57 nm, 0.0103 nm/pix): 0.9 [eV/pix2] l = 467.316 nm
較正ランプ解析プログラムの開発 計測用視線ごとの波長較正関数・装置分解能を容易に取得可能 較正ランプ解析用プログラムを開発 グラフ表示機能 ⇒ フィッティングの成否を確認 ガウスフィッティングの初期値自動探査 ⇒ 解析の簡略化 入力 参照用ファイバー領域 (6視線) フィッティング波長領域 (6スペクトル) 波長 (6スペクトル) 出力 波長較正関数 (5視線) 装置分解能 (5視線) グラフ (ガウス36 + 線形5) 計測用視線ごとの波長較正関数・装置分解能を容易に取得可能
HeIIスペクトルのフィッティング HeIIは微細構造により13本のスペクトルが存在 ガウスフィッティングでは以下の問題が発生 擬似的な波長シフトが発生 ドップラー広りの過大評価 ⇒ 微細構造を考慮したフィッティングが必要[3] I0 : 発光強度 Dldop : ドップラーシフト l1/e : スペクトルの1/e幅 IBG : 背景強度 Ji : iスペクトルの全角運動量量子数 AEin, i : iスペクトルのアインシュタインのA係数 li : iスペクトルの静止波長 フィッティング パラメータ [3] S. Kado and T. Shikama, Plasma Fusion Res. 79, 841 (2003).
イオン温度・フロー速度算出 Ti : 3.1 [eV] Vdop : -3.9 [km/s] 次頁に示す理由より、 イオン温度Ti、フロー速度Vdopは次式より計算 Dl : ドップラーシフト l1/e : スペクトルの1/e幅 A : 質量数 mp : 陽子質量 c : 光速 e : 電荷素量 l0 : 静止波長 フィッティング結果 #83558 chord3におけるフィッティング結果 Dl = -0.00633 nm l1/e = 0.0335 nm 1/e幅l1/eは装置分解能を用いてデコンボリュート ⇒ 真のドップラー広がりを算出 微細構造を考慮しない場合のイオン温度は、Ti = 5.7 eV Ti : 3.1 [eV] Vdop : -3.9 [km/s] 次頁に示す理由より、 HeIIスペクトルのみからのフロー計測は困難
波長較正関数と擬似シフト l [nm] f(x) = ax + b x [pixel] 波長較正関数の誤差により、擬似的な波長シフトが発生 ドップラーシフトを波長較正関数から直接見積もることはほぼ不可能 l [nm] f(x) = ax + b x [pixel] xHeI xHeII lHeI f(xHeI) lHeII f(xHeII) 0.009 nm (5 km/s 相当)
ピークドリフト補正 l [nm] x [pixel] ドップラーシフトが生じない参照用スペクトル(HeI, 471.3 nm)を用いて、ピーク ドリフト由来の擬似シフトを補正 lHeIIにおける擬似シフトの不完全補正分 Dlrld = g(xHeII) - lHeII = a(xHeII-xHeI) - (lHeII – lHeI) ⇒ 残った擬似シフトは逆線分散にのみ起因 逆線分散の誤差評価 フロー速度0のHeプラズマを計測した際、 Dlrld = -0.005 nm (-3km/s相当) Dlrld = 0とならないのは逆線分散aにの み起因すると仮定 シフトの相対値に関しては十分な精度 逆線分散のさらなる精度向上は困難 l [nm] g(x) = f(x) - {f(xHeI) - lHeI} x [pixel] xHeI xHeII lHeI f(xHeI) lHeII f(xHeII) g(xHeII)
ドップラーシフトの絶対較正 x [pix] xbase, HeI xbase, HeII xHeI xHeII フロー速度0におけるスペクトルを計測 本較正手法が破綻する条件(実際に生じるとは限らない) 逆線分散が著しく非線形である場合 ⇒ pixel空間のドリフトをキャンセルできない pixel空間でのドリフト量に波長依存性が存在する場合 lbase計測対象のフローが0でない場合 HeIスペクトルがドップラーシフトしている場合 x [pix] xbase, HeI xbase, HeII xHeI xHeII f(xbase, HeII) - f(xbase, HeI) Dldop f(xHeII) – f(xHeI)
フロー速度絶対値計測 同条件のHeプラズマを9ショット計測 HeIを基準にHeIIのシフト量を計測し、速度0のプラズマを用いて絶対較正 補正無しの場合には、擬似シフトによってショット間のばらつき大 補正無しの場合でも、相対値は逆線分散(およびフィッティング)の精度で計測可能 HeIを基準にHeIIのシフト量を計測し、速度0のプラズマを用いて絶対較正 同条件のプラズマにおいて、ショット間の分布が良好に一致 磁気軸を見込むchord 3におけるフロー速度がほぼ0 Magnetic Axis
解析プログラムの開発 データベース構築のための計測システム開発に成功 入力 較正結果ファイル 放電番号(or ファイル名) 出力 グラフ(ウィンドウ and/or pdfファイル) フィッティングパラメータ イオン温度・フロー速度分布 較正結果ファイルと放電番号のみの入力でイオン温度分布・フロー速度分布が取得可能 データベース構築のための計測システム開発に成功
実験装置概要 MHD不安定性に対して比較的安定 磁場配位を広範囲に選択可能 東北大学ヘリアック装置(TU-Heliac) 立体磁気軸系ヘリアック装置 大半径 : 48 cm 平均小半径 : ~6 cm トロイダル周期 : 4 磁気軸磁場強度 : 0.3 T 放電時間 : 10 ms プラズマ生成 : 交流オーム加熱 MHD不安定性に対して比較的安定 磁場配位を広範囲に選択可能
TU-Heliacにおける電極バイス実験 #83705 Transition LaB6(六ホウ化ランタン)製熱陰極を プラズマ中に挿入 熱陰極を負にバイアスし、径方向電流jr と閉じ込め磁場Bによるポロイダル回転 を駆動 閉じ込め改善モードへは、電極電流 IE = -2 Aにおいて遷移 jr B jr × B
イオン温度・フロー速度プロファイル計測 IE = -3 A(定常)においてイオン温度・フロー速度のプロファイルを計測 イオン温度 フロー速度 ばらつき大 ⇒ 光量不足によるフィッティング誤差の可能性 フロー速度 磁気軸を挟んでフローの極性が反転 レッドシフトを正に定義 ⇒ E × B 回転の向きと一致
フロー速度分布の検証 r = -0.1, 0.3で極値をとなり非対称 E × B 回転と分光計測の結果を比較 VE×B は次式により評価 視線積分の影響 集光系の幾何学的誤差 極小値・極大値の絶対値を比較すると、極 小値の方が2 km/s大きい E × B 回転と分光計測の結果を比較 VE×B は次式により評価 r > 0 における極値をとる位置は 概ね一致 Vdopの極小値はVE×B の極小値と比 較して、絶対値で ~3 km/s小さい
まとめ 閉じ込め改善モード遷移現象の物理機構解明のため、ドップラー分光法を 用いたイオン温度・フロー速度計測システムの開発を行った。 閉じ込め改善モード遷移現象の物理機構解明のため、ドップラー分光法を 用いたイオン温度・フロー速度計測システムの開発を行った。 分光器較正を行うためにNeランプのスペクトル同定を行い、HeII輝線近傍に おける波長較正関数・装置関数が全計測視線で取得可能となった。 分光器の温度変化によってピクセル空間におけるスペクトルがドリフトするため 波長較正関数からドップラーシフトを直接見積もれない問題が発生した。 そのため参照スペクトルとしてHeIのラインを用いることで、ピクセル空間での ドリフトを補正した。また、フロー速度0のプラズマを計測することにより逆線分散 の精度上困難であるフローの絶対較正が可能となった。 分光器較正には多数のフィッティングが必要になることから、専用のNeスペクトル 解析プログラムの開発を行った。またHeIIのラインは微細構造を有することから 微細構造を考慮した解析プログラムを開発した。これらのプログラム開発により イオン温度・フロー速度分布が容易に解析可能となった。 分光計測で得られたフロー速度分布とE ×B 回転の分布を比較したところ、回転 方向が定性的に一致した。両分布の極値をとる位置は概ね一致したが、値に 関しては4割程度異なった。