材料系物理工学031117 第6回 磁気付随現象 佐藤勝昭.

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材料系物理工学031117 第6回 磁気付随現象 佐藤勝昭

復習コーナー(第5回の問題) 反磁性体は磁界の変化を妨げるように逆向きの磁化を生じる。それではなぜ強い静磁界のもとで反磁性体を浮かせることができるのか 単位質量あたりの反磁性磁化率を=-dとする。 磁化Mが磁界Bの中にある時のポテンシャルエネルギーはE=-MBであるから、力はEの距離微分F=-MdB/dzで与えられる。M =-dBであるから単位質量あたりの力はF=d(B/0)dB/dz 従ってg=d (B/ 0)dB/dzのとき釣り合う。 すなわち磁界の勾配があると上向きの力が働いて重力とつり合い、浮上する。

反磁性物質の磁場浮上 磁気浮上とは 磁気浮上状態の基礎物性も重要 横浜国大山口

磁気に付随する現象 磁気抵抗(MR)効果 磁気光学(MO)効果

磁気抵抗効果MR(magnetoresistance) 強磁性体の異方性磁気抵抗AMR 磁性体/非磁性体/磁性体構造の巨大磁気抵抗GMR 磁性体/絶縁層/磁性体構造のトンネル磁気抵抗TMR 強相関系酸化物の巨大磁気抵抗CMR

半導体・半金属のMR =(B)-(0) 磁気抵抗効果MR= /(0)=MtB2 ここにMtは横磁気抵抗係数 磁界の2乗に比例する正の磁気抵抗 ホール効果と同じようにLorentz力によって電子の軌道が曲げられることの2次の効果である。 電子の散乱までの平均自由時間は、キャリアの縮退のない系では22になり、磁気抵抗効果が生じる。

Very Large Magnetoresistance and Field Sensing Characteristics of ビスマスの巨大な正の磁気抵抗効果http://medusa.pha.jhu.edu/Research/Bi_SC.html Very Large Magnetoresistance and Field Sensing Characteristics of Electrodeposited Single-Crystal Bismuth Thin Films F. Y. Yang, Kai Liu, Kimin Hong, D. H. Reich, P. C. Searson. and C. L. Chien (John Hopkins Univ.)

磁性半導体の負の巨大磁気抵抗効果 CdCr2Se4などの第1世代の磁性半導体では、キュリー温度付近で、スピン無秩序散乱による巨大磁気抵抗効果が報告されている。

強磁性体の異方性磁気抵抗効果(AMR) 上向き及び下向きスピンバンドとスピン依存散乱の見地から解釈される 抵抗率テンソルは次の形に書ける。 この形は、次式に対応する 。ここにJは電流ベクトル、aは磁化Mの向きを表す単位ベクトルである。

異常ホール効果と異方性磁気抵抗効果 第1項:磁化Mにのみよる項;異常項 第2項:実効磁束密度Bに依存する項;正常項 //は、電流が磁化に平行である場合の抵抗率のB→0外挿値。は、電流が磁化に垂直である場合の抵抗率のB→0外挿値。Hは異常ホール抵抗率である。 一般に// である。これは、抵抗が磁化Mと電流Jの相対的な向きに依存していることを示している。

AMRの説明 図1に示すような配置を考え、MとJのなす角度をとすると、MR比を求めると q 図1 図1に示すような配置を考え、MとJのなす角度をとすると、MR比を求めると r r// H 図2 磁気抵抗比の符号は正負どちらも取りうる。大きさは2-3%程度である。

2流体電流モデル(two current model) スピン依存の散乱ポテンシャルを考え、電流は↑スピンと↓スピンの伝導電子[1]によってそれぞれ独立に運ばれると考える。散乱によってs電子がd電子帯に遷移するが、↑スピンd電子帯と↓スピンd電子帯では空の状態密度が異なるため、s電子はスピンの向きに応じて異なった散乱確率を感じることになる。 [1] 全磁化と平行な磁気モーメントを持つ電子(多数スピンバンドの電子)を↑で表し、反平行なもの(少数スピンバンドの電子)を↓で表す。

Feのスピン偏極バンド構造

バンドと磁性 Ef Ef Ef 交換分裂 通常金属 強磁性金属 ハーフメタル

スピン軌道相互作用とAMR ↑スピンに対する抵抗率を、↓スピンに対する抵抗率をとすると、全体の抵抗率は/=/(+)で表される。 いま、単純な2流体モデルを考え、スピン軌道相互作用を用いて、異方性磁気抵抗効果を説明することが行われている。 これによれば、異方性磁気抵抗比は、 /=(//- )/ =(/-1) と表される。ここに はスピン軌道相互作用係数である。単純遷移金属、遷移金属合金における実験結果の多くはこの式で説明できる。

巨大磁気抵抗効果(GMR) 1988年にFertらのグループは、Fe/Crなど磁性金属/非磁性金属の人工格子において、大きな磁気抵抗比をもつ磁気抵抗効果を発見した。Baibichらが報告する磁化と磁気抵抗効果の対応 [i]によれば、Crの層厚を変化することによって磁気飽和の様子が変化するが、磁気飽和のしにくい試料において低温で50%におよぶ大きな磁気抵抗比R(H)/R(H=0)が見られている。室温でもこの比は16%におよび、巨大磁気抵抗効果(GMR=giant magnetoresistance)と名付けた。この後、同様のGMRは、Co/Cuのほか多くの磁性/非磁性金属人工格子、グラニュラー薄膜などで発見された。 [i] M.N. Baibich, J.M. Broto, F. Nguyen Van Dau, F. Petroff, P. Etienne, G. Creuset, A. Friederich and J. Chazelas: Phys. Rev. 62 (1988) 2472.

層間 結合系の巨大磁気抵抗効果( GMR ) スピン依存散乱 MR ratio R(H)/R(0) Fe Cr H (kOe) Baibich et al.: PRL 62 (88) 2472 H (kOe)

GMRとAMRの違い GMRが異方性磁気抵抗効果(AMR)と異なる点は、 (1)磁気抵抗比が桁違いに大きい、 (2)抵抗測定の際の電流と磁界の相対角度に依存しない、 (3)抵抗は常に磁界とともに減少する、 という3点である。このような点は、スピン軌道相互作用のみでは説明できない。

GMR 振動と層間結合 Co/Cu superlattice MR ratio (%) Cu thickness (Å) Mosca et al.: JMMM94 (91) L1

非結合系のGMR ソフト磁性体とハード磁性体との3層構造 M 自由 NiFe Cu MR 固定 Co H (Oe) Shinjo et al.: JPSJ 59 (90) 3061 H (Oe)

スピンバルブ NiFe(free)/Cu/NiFe(pinned)/AF(FeMn)の非結合型サンドイッチ構造 NiFe free Cu 交換バイアス NiFe pinned AF layer (e.g. FeMn) 最近はSAFに置き換え

スピン依存トンネル効果とトンネル磁気抵抗効果(TMR) current FM2 FM1 I FM2 insulator voltage current FM1 強磁性体(FM)/絶縁体(I)/強磁性体(FM)構造 M. Julliere: Phys. Lett. 54A, 225 (1975) S. Maekawa and V.Gafvert: IEEE Trans Magn. MAG-18, 707 (1982) Y.Suezawa and Y.Gondo: Proc. ISPMM., Sendai, 1987 (World Scientific, 1987) p.303 J.C.Slonchevsky: Phys. Rev. B39, 6995 (1989) T. Miyazaki, N. Tezuka: JMMM 109, 79 (1995)

トンネル磁気抵抗効果(TMR)

TMRデバイス 絶縁体の作製技術が鍵を握っている。→ 最近大幅に改善 TMR ratio as large as 45% was reported. (Parkin: Intermag 99) Bias dependence of TMR has been much improved by double tunnel junction. (Inomata: JJAP 36, L1380 (1997))

TMRを用いたMRAM ビット線とワード線でアクセス 固定層に電流の作る磁界で記録 トンネル磁気抵抗効果で読出し 構造がシンプル

磁気光学効果 磁気光学効果の現象論 磁気光学効果の電子論

磁気光学効果とは 磁気光学材料は、光通信用デバイス、光磁気記録デバイスとして実用化されている。 磁気光学効果は、磁化した物質の光学定数が、右回り円偏光と左回り円偏光とで異なることに由来し、マクロには誘電率rテンソルの非対角成分から生じるが、ミクロには、磁化とスピン軌道相互作用の相乗的な効果として説明される。 新しい磁気光学研究の流れが起きている。

磁気光学効果の基礎 光と磁気の結びつき ファラデー効果とは 磁気カー効果 ファラデー効果の現象論

光と磁気の結びつき 光→磁気:光磁気効果 磁気→光:磁気光学効果 熱磁気効果:キュリー温度記録→MOディスク 光誘起磁化:ルビー、磁性半導体 光誘起スピン再配列→光モータ 磁気→光:磁気光学効果 スペクトル線の分裂、移動(ゼーマン効果) 磁気共鳴:強磁場ESR、マグネトプラズマ共鳴 狭義の磁気光学効果(ファラデー効果→アイソレータ)

ファラデー効果とは 直線偏光が入射したとき 出射光が楕円偏光になり (磁気円二色性) その主軸が回転する効果  出射光が楕円偏光になり (磁気円二色性)  その主軸が回転する効果   (磁気旋光:Faraday回転)

自然旋光性とファラデー効果

磁気カー効果 3つのMO-Kerr 効果 極カー効果(磁化が反射面の法線方向、直線偏光は傾いた楕円偏光となる) 縦カー効果(磁化が試料面内&入射面内、直線偏光は傾いた楕円偏光となる) 横カー効果(磁化が試料面内、入射面に垂直偏光の回転はないが磁界による強度変化)

3種類の磁気カー効果 極カー効果 縦カー効果 横カー効果

ファラデー効果の現象論 結論から先に述べると、ファラデー回転角φF、ファラデー楕円率ηFは、誘電率テンソルの非対角要素εxyの実数部と虚数部との一次結合で与えられることが導かれる。これを導くために,まず,右円偏光および左円偏光に対する屈折率n+とnー, 消光係数κ+とκ- およびεxyとの関係を導いておく。

誘電率テンソル 等方性の媒質;M//z軸 Z軸のまわりの90° 回転C4に対し不変

磁気光学効果の式 マクスウェル方程式 固有方程式 固有値 固有関数:左右円偏光 非対角成分がないとき:左右円偏光の応答に差がない 磁気光学効果は生じない

左右円偏光に対する光学定数の差と誘電率テンソルの成分の関係 磁化と平行に進む光の複素屈折率の固有値は式(3.26)       , 置き換え ここに その結果                    を得る

円偏光と磁気光学効果 直線偏光は等振幅等速度の左右円偏光に分解できる 媒質を通ることにより左円偏光の位相 と右円偏光の位相が異なると旋光する 媒質を通ることにより左円偏光の振幅 と右円偏光の振幅が異なると楕円になる 一般には、主軸の傾いた楕円になる

複素ファラデー回転角 ΔnとΔκをεxyを使って表す。 ΔNに書き直すと 複素ファラデー回転角

複素ファラデー効果 磁気光学効果には対角・非対角両成分が寄与

古典電子論

電気感受率と誘電率 サイクロトロン角振動数

Feの磁気光学効果は 古典電子論で説明できるか? 比誘電率の非対角成分の大きさ:最大5の程度          ,      , キャリア密度               と仮定    B=3000Tという非現実的な磁界が必要 スピン軌道相互作用によって初めて説明可能 磁気光学効果の量子論

磁気光学効果の 量子論 磁化の存在→スピン状態の分裂 スピン軌道相互作用→軌道状態の分裂 右(左)回り光吸収→右(左)回り電子運動誘起 左右円偏光の選択則には影響しない スピン軌道相互作用→軌道状態の分裂 右(左)回り光吸収→右(左)回り電子運動誘起 大きな磁気光学効果の条件 遷移強度の強い許容遷移が存在すること スピン軌道相互作用の大きな元素を含む 磁化には必ずしも比例しない

電子分極のミクロな扱い 電界の摂動を受けた 波動関数 E 無摂動系の 波動関数 摂動を受けた 波動関数 s-電子的 p-電子的 + + - 無摂動系の 波動関数 |2> = + +・・・・ |1> <0|x|1> <1|x|0> + - = + + + ・・ |0> s-電子的 p-電子的 摂動を受けた 波動関数 無摂動系の固有関数で展開

円偏光の吸収と電子構造 px-orbital py-orbital p+=px+ipy Lz=+1 p-=px-ipy Lz=0 |2> p+=px+ipy Lz=+1 20- |1> Lz=-1 10- p-=px-ipy 20 10 光の電界 10は20より光エネルギーに近いので左回りの状態の方が右回り状態より多く基底状態に取り込まれる |0> Lz=0 s-like

スピン軌道相互作用の重要性 Jz=-3/2 Jz=-1/2 L=1 Jz=+1/2 LZ=+1,0,-1 Jz=+3/2 Jz=-1/2 交換相互作用 +スピン軌道相互作用 磁化なし 交換分裂

反磁性型スペクトル ”xy ’xy 励起状態 基底状態 0 1 2  Lz=0 Lz=+1 Lz=-1 1+2 磁化の無いとき 磁化のあるとき Lz=0 Lz=+1 Lz=-1 1+2 光子エネルギー ’xy ”xy

誘電率の非対角成分のピーク値 大きな磁気光学効果を持つ条件: 鉄の場合:N=1028m-3, f0=1, so=0.05eV, 0=2eV,  /=0.1eVを代入xy”|peak=3.5を得る 大きな磁気光学効果を持つ条件: ・光学遷移の振動子強度 f が大きい ・スピン軌道相互作用が大きい ・遷移のピーク幅が狭い

常磁性型スペクトル 光子エネルギー  f=f+ - f- 磁化なし 磁化あり ’xy ”xy 誘電率の非対角要素 励起状態 0 f+ 基底状態 f+ f-  f=f+ - f- 0 磁化なし 磁化あり ’xy ”xy 光子エネルギー 誘電率の非対角要素

磁気光学効果の応用 光通信用磁気光学デバイス(Magneto-optical devices for optical communication) 光磁気記録(Magneto-optical recording) 電流・磁界センサー(Current and magnetic field sensors) 磁区観察(Magnetic domain observation)