素粒子実験に用いるガス検出器の原理と動作

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素粒子実験に用いるガス検出器の原理と動作 物理学コロキウム第二 2008.12.15 素粒子実験に用いるガス検出器の原理と動作 内容 1.目的 2.ガス検出器による荷電粒子の飛跡の測定 3.スパークチェンバーの原理 4.設計と製作 5.まとめ  柴田研究室   鈴木研人

1. 目的 素粒子物理実験において荷電粒子の飛跡の測定に用いるガス検出器の原理を学ぶ。 その中でも粒子の飛跡測定の入門である「スパークチェンバー」を実際に製作する。 製作をする際に必要な、荷電粒子とガス原子の相互作用についても学ぶ。

2.ガス検出器による荷電粒子の飛跡の測定 ◎ TPC ( Time Projection Chamber ) 負高圧電極 B E 荷電粒子 荷電粒子の飛跡が直接測定できるガス検出器。 電離電子が生成されてから、陽極ワイヤーに取り込まれるまでの時間を計測する。 B E + 荷電粒子 + + + - - - - 陽極ワイヤー 陽極接地電位 ◎ ドリフトチェンバー ( Drift Chamber )、 MWPC ( Multi Wire Proportional Chamber ) 荷電粒子の位置を測定するためのガス検出器。 荷電粒子 z ターゲット x y 入射粒子(z方向) y座標がわかる x座標がわかる ( x2,y2,z2 ) ( x1,y1,z1 )

これらの検出器では電離増幅は陽極ワイヤーのごく近傍で起こる。下のグラフは各電圧での電離増幅度を示す。 1012 リミテッドストリーマー領域 1010 108 放電 電離増幅度 プロポーショナル領域 106 ガイガー・ミュラー領域 104 102 電圧 [ V ] それに対し、これから説明するスパークチェンバーは荷電粒子の飛跡に沿って電離増幅を起こす検出器である。

3. スパークチェンバーの原理 スパークチェンバー 福井宗時氏・宮本重徳氏らによって1957年に開発された。 3. スパークチェンバーの原理  スパークチェンバー 福井宗時氏・宮本重徳氏らによって1957年に開発された。 スパークチェンバーを用いることによって二次宇宙線(主にμ粒子)を観測できる。かつては粒子加速器を用いた素粒子物理実験でも用いられた。 スパークチェンバーは荷電粒子の飛跡を測定するためのガス検出器の入門なので、今回製作を行っている。 極板対を何層も重ねる 光電子増倍管 同時計測回路 シンチレータ ガス : HeガスもしくはNeに20~30%Arを混合したものを用いる。 コンデンサー内にガスを流す 高電圧印加回路 トリガー : 極板層の上下に付けたシンチレータからの同時計測でトリガーをかける。 シンチレータ 荷電粒子 光電子増倍管

電極対を何層も重ねることにより荷電粒子の飛跡をスパークによる発光として目視することが可能。 動作原理 V 電離電子 電極 電子なだれを起こし最終的にスパークを起こす 高電圧(3~5kV/cm)をかける ガス原子 正イオン 荷電粒子 電極対を何層も重ねることにより荷電粒子の飛跡をスパークによる発光として目視することが可能。 シンチレータからの同時計測でトリガーがかかると、電気信号は右図の高電圧印加回路に伝わる。SCRはその電気信号が伝わってから瞬時にスイッチONに切り替えるためのものである。 この時コンデンサー(a)に蓄えられていた電荷Qはスパークチェンバーへと流れ、トリガーがかかってから500ns以内でスパークチェンバーに高電圧を与える。 -8 kV 1000 pF 20 MΩ R (a) -Q +Q Trigger C SCR R 220 Ω R 20Ω スパークチェンバー

4. 設計と製作 7つの方程式と7つの変数 回路の計算 -Φ V2 V1 I1 r2 C1、Q1 ・・・ I3 r3 I2 r1 C2、Q2 において とする。 スパークチェンバーを一つのコンデンサーとみなし、合成容量をC1とした。極板の大きさは20 cm四方、極板間隔は1 cmとし層の数は10層とした。 この連立方程式を解いて V2( t )を求める。 電圧V2(スパークチェンバーの電圧)と時刻tの関係 ( Φ= 8 kV ) スイッチが入れてからおよそt=10 nsのところにピークがある 7000 6000 5000 実際にはスイッチは瞬時に入らない。スイッチの内部抵抗を考慮するとV2のピーク値は下がり、ピークにおける時刻も増え、時定数の値も増える。 4000 3000 2000 1000 -200 200 400 600 800 1000 1200

製作中のスパークチェンバー 使用するガス:Heガス 20 cm これを1層分として次々と重ねていく(10層重ねる予定) 20 cm アクリル角板 14 cm 20 cm 14 cm Heガスを流す部分 1 cm 厚さ2 mmのアルミ板 [ 斜め上から見た図 ] 2 cm Heガス 1 cm [ 上から見た図 (上部電極を取り除いたもの )]

14 cm四方のアルミ板(厚さ2 mm)極板対(2層)をつくり研究室にある高圧交流電源(10 kV (p-p)、2 14 cm四方のアルミ板(厚さ2 mm)極板対(2層)をつくり研究室にある高圧交流電源(10 kV (p-p)、2.1 kHz )を用いてリーク電流があるか印加テストを行った。 2.1 kHz 10 kV ( p-p ) 高圧交流電源 その結果、リークは見られなかった。 次に、スパークチェンバーの部品を設計した。高電圧印加の回路の計算をした。続いて、アルミ板、アクリル角板の加工を行った。 今後の予定 (1) スパークチェンバー本体(極板層)の組み立て (2) ガスの循環 (3) 高電圧印加回路の製作 (4) プラスチックシンチレータによるトリガー

5. まとめ ・ 素粒子物理実験では荷電粒子の飛跡測定のために様々なガス検出器が使用されている。 ・ TPCでは荷電粒子の飛跡が直接測定できる。          ドリフトチェンバー、MWPCは荷電粒子の位置を測るものであり、いくつか組み合わせることにより飛跡が測定できる。 ・ スパークチェンバーは2枚のシンチレータによる同時計測でトリガーを起こし、高電圧を瞬時に印加させて荷電粒子の飛跡(放電)を測定することができる。 ・ スパークチェンバーの製作にあたり、設計、印加テスト、回路の計算を行った。 ・今後はさらに(1) 本体の組み立て、(2) ガスの循環、(3) 高電圧印加回路の製作、(4) プラスチックシンチレータによるとトリガー、を行い、スパークチェンバーを完成させる。