データの見方、考え方 血液ガス 佐賀大学病院検査部 池田弘典
基準範囲の考え方 pH 7.35~7.45 pCO2 mmHg 35~45 pO2 85~105 60>呼吸不全 HCO3 mmol/L 21~28 BE -2~+3 sO2(%) 95~99% COHb 0.0~1.5 (喫煙6.0%) 150mmHg 静脈 pCO2=45mmHg pO2=40mmHg 動脈 pCO2=40mmHg pO2=100mmHg
CO2をまず最初に見ろ 基準範囲:約40mmHg 肺胞肝機能の指標⇒肺機能⇒呼吸 つまり患者は呼吸をしていたか? pCO2が大幅増加⇒しばらく呼吸停止 pCO2とBEが異常⇒かなり呼吸が停止 pCO2が低下したら⇒過換気状態 pCO2=0.863+ 𝐶𝑂2産生量 肺胞喚起能 役割:pH調整 pH=6.1+ log[𝐻𝐶𝑂3] 0.03×𝑝𝐶𝑂2 腎機能 肺機能
その次にO2をみろ 肺での酸素摂取状態を反映するが、組織での酸素不足(乳酸増加)の原因を切り分けて推測せよ A-aDO2 肺胞気と動脈血の酸素分圧差 酸素の不均一、シャント、肺気腫、COPDの判定 酸素取り込み状態を反映 pO2 呼吸不全(pO2<60)の有無を判定 酸素の運搬能力 sO2,O2Hb、COHb 酸素運搬に必要な血圧、Hb濃度、酸素親和性 組織での酸素の需要・供給バランス Lac 運動、炎症、発熱、肺血症で組織は酸欠
呼吸不全(pO2<60)をA-aDO2で切り分ける Ⅰ型呼吸不全 (酸素化障害) pCO2<45 AaDO2拡大 シャント 酸素不均一 Ⅱ型呼吸不全 (換気障害) pCO2>45 AaDO2変化なし 胸郭以上 中枢機能低下 AaDO2拡大 肺気腫、COPD AaDO2とは 肺胞気と動脈血の酸度分圧差 =肺胞酸素濃度-動脈血酸素濃度 =肺に酸素が充分にいきわたっているか? =吸入気O2-ガス交換O2-動脈O2 =150- 𝑝𝐶𝑂2 0.8 -pO2=10mmHg未満 大きい場合は、肺気腫、肺繊維、シャント
ついでにBEとCOHbを忘れずにみろ BE(ベースエクセス):-3~+3mmol/l HCO3もBEも代謝性の異常を見る指標であ るが、HCO3は呼吸性でも代謝性でも代償 性でも変化する。しかし、BEの変化は代謝 性変化と判断できるので便利 pCO2とBEが両方異常ならば代償性の変化 COHb(平均1%、喫煙者6%、重度喫煙15%) COHbはCO中毒で発生し、酸素より200倍 の親和性がある。そのため酸素とHbの結 合を妨げる。
最後にpHをみて考えろ 基準値:7.35~7.45 酸とアルカリのバランスの評価 このバランスが崩れると生命が危ない 調節因子 pH=6.1+ log[𝐻𝐶𝑂3] 0.03×𝑝𝐶𝑂2 腎機能 肺機能 pCO2による調節 10mmHg上昇でpH0.08低下
代謝性異常はアニオンギャップで切り分けろ AG=Na+-Cl--HCO3-=12±2 アルコール ケトン体(糖尿病性ケトアシドーシス) リン酸(腎不全、尿毒症) 乳酸(乳酸アシドーシス) サリチル酸(アスピリン中毒) Naを含む抗生剤の大量投与 高Na血症 AG正常,代謝性アシドーシス AG正常,代謝性アルカローシス 下痢(HCO3の喪失)をClが増えて補う 嘔吐によるCl喪失をHCO3が補うためアルカローシス AG低下 低アルブミン、多発性骨髄腫(IgG)
酸塩基平衡の考え方 pHの確認 アシドーシスかアルカローシス? pH変化の理由は? 急性か慢性か代償性なのか? 【呼吸性の場合】 pCO2の異常なら呼吸性、CO2は酸性だから 呼吸性アルカローシス<38~正常~42<呼吸性アシドーシス HCO3、BEの異常なら代謝性 代謝性アシドーシス<-3~正常~+3<代謝性アルカローシス 急性か慢性か代償性なのか? 【呼吸性の場合】 pCO2 10mmHg上昇でpH 0.08下がる(酸性に移行)ただし数日後、腎臓による代償作用でpHが反対に動く 【代謝性の場合】 anion gapの有無を確認 AG>12mEq/l でanion gapアシドーシス 【代償性の場合】 pCO2<35でBE>+3もしくはpCO2>45でBE<-3であれば代償性変化
症例① 75歳、男性、10年前より肺気腫を指摘、5年前から労咳・喀痰・呼吸困難を訴え始め、最近呼吸困難と下肢浮腫により緊急入院 ①pHの確認 ②呼吸性か代謝性? ③急性、慢性、代償性? ③結論 アシドーシス 呼吸性 pCO2の差異は40-89.2=49.2 理論pH=7.4- 49.2 10 ×0.08 =7.4-0.39=7.01と推測 代償作用(慢性的)あり Ⅱ型呼吸不全(AaDO2正常) 慢性呼吸性アシドーシス pH 7.332 pCO2 89.2mmHg pO2 52.0mmHg HCO3 41.0mmol/L sO2 89.2%
症例② ①pHの確認 ②呼吸性か代謝性? ③急性、慢性、代償性? ③結論 アシドーシス 呼吸性 pCO2の差異は40-56.6=16.6 術前検査では呼吸器系に異常がなかった。オペ中に血液ガスを測定したところ以下の結果が得られた。患者の状態は? 症例② pH 7.256 pCO2 56.6 mmHg pO2 270 mmHg HCO3 24.3 mmol/L ABE -2.9 SBE -1.9 Na 136 mmol/L K 4.0 mmol/L Cl 100 mmol/L AG 15.7 mmol/L ①pHの確認 ②呼吸性か代謝性? ③急性、慢性、代償性? ③結論 アシドーシス 呼吸性 pCO2の差異は40-56.6=16.6 理論pH=7.4- 16.6 10 ×0.08 =7.4-0.13=7.27と推測 代償作用(慢性的)少ない 不十分な人工換気による急性呼吸性アシドーシス
症例③ アシドーシス ①pHの確認 代謝性 ②呼吸性か代謝性? ③急性、慢性、代償性? pCO2の差異は40-43=3.0 術前検査では呼吸器系に異常がなかった。オペ中に血液ガスを測定したところ以下の結果が得られた。患者の状態は? 症例③ pH 7.262 pCO2 43.0 mmHg pO2 302.6 mmHg HCO3 18.7 mmol/L ABE -7.3 SBE -7.1 Na 133 mmol/L K 2.7 mmol/L Cl 100 mmol/L AG 14.3 mmol/L アシドーシス 代謝性 pCO2の差異は40-43=3.0 理論pH=7.4- 3.0 10 ×0.08 =7.4-0.02=7.38と推測 代償作用(慢性的)あり AG=133-100-18.7=14.3>12 慢性代謝性アシドーシス (原因は腎不全) ①pHの確認 ②呼吸性か代謝性? ③急性、慢性、代償性? ③結論
症例④ ①pH確認 正常 ②呼吸性か代謝性 呼吸性 ③問題点 AaDO2=150-48-73=29(増加) ただし、年齢とpCO2の関係 80歳、男性、肺気腫を患って治療中。急性増悪にて緊急入院。肺活量は正常、フローボリュームは軽度閉塞パターン。患者の状態は? 症例④ pH 7.39 pCO2 38.6 mmHg pO2 73.0 mmHg HCO3 22.6 mmol/L SBE -1.4 sO2 94.6% ctO2 15.6 ml/dL ctHb 12.1 g/dl ①pH確認 ②呼吸性か代謝性 ③問題点 結論 正常 呼吸性 AaDO2=150-48-73=29(増加) ただし、年齢とpCO2の関係 pCO2(基準範囲)は加齢で低下 =100-(0.3×年齢)=100-24=76 pO2は、年齢からくる低下 軽度閉塞性肺疾患(COPD)
症例⑤ アルカローシス ①pHの確認 代謝性(混合性) ②呼吸性か代謝性? ③急性、慢性、代償性? pCO2の差異は40-31.3=8.7 術前検査では呼吸器系に異常がなかった。十二指腸狭窄により長期頻回の嘔吐が続いていた。オペ中に以下の結果が得られた。患者の状態は? 症例⑤ pH 7.617 pCO2 31.3 mmHg pO2 309 mmHg HCO3 32.2 mmol/L ABE 10.2 SBE 9.7 Na 139 mmol/L K 3.6 mmol/L Cl 95 mmol/L AG 11.8 mmol/L アルカローシス 代謝性(混合性) pCO2の差異は40-31.3=8.7 理論pH=7.4+ 8.7 10 ×0.08 =7.4+0.07=7.47と推測 代償作用(慢性的)あり AG=139-95-32.2=11.8(正常) 嘔吐による胃液喪失による 慢性代謝性アルカローシス ①pHの確認 ②呼吸性か代謝性? ③急性、慢性、代償性? ③結論
症例⑥ 23歳、女性、両肩関節痛、皮膚の硬化、呼吸困難。X線で肺の透過度低下、斑状陰影あり。患者の状態は? 正常 ①pH確認 7.422 pCO2 32.1 mmHg pO2 57 mmHg HCO3 20.2 mmol/L ABE -2.5 sO2 90.7% ctO2 16.47 ml/dL ①pH確認 ②呼吸性か代謝性 ③問題点 ④結論 正常 どちらかといえば呼吸性 pO2が低く呼吸不全 AaDO2=150- 32.1 0.8 −57 =52.9>10 Ⅰ型呼吸不全(酸素化障害) 肺の線維化でガス交換機能低下(Ⅱ型からⅠ型への進行?)
症例⑦ 18歳、女性。自殺目的で都市ガス吸入。患者の状態は? ①pH確認 ②呼吸性か代謝性 ③問題点 ④結論 アルカローシス 急性呼吸性 COHbが多く、CO中毒だが 見かけの酸素飽和度97%? 適正なHb飽和度= 12.1−7.1 12.1 =41% Hbの59%はCOと結合、そのための過換気症による呼吸性アルカローシス(袋をつけると逆効果) pH 7.52 pCO2 24.2 mmHg pO2 83.6 mmHg HCO3 19.1 mmol/L ABE -1.2 sO2 97.5 ctHb 12.1 g/dl COHb 7.1 g/dl
症例⑧ 9歳、女児。抗GAD抗体陽性。患者の状態は? アシドーシス ①pHの確認 代謝性(混合性) ②呼吸性か代謝性? ③急性、慢性、代償性? ③結論 アシドーシス 代謝性(混合性) pCO2の差異は40-10.6=29.4 理論pH=7.4+ 29.4 10 ×0.08 =7.4+0.24=7.64と推測 代償作用(慢性的)が大きい AG=117-78-4.5=34.5(増加) 体内に陽イオンが増加 糖尿病による代謝性ケトアシドーシス pH 7.252 pCO2 10.6 mmHg pO2 121 mmHg HCO3 4.5 mmol/L BE -21.8 Na 117 K 5.1 mmol/L Cl 78 mmol/L GLU 1146 mg/dl AG 34.5 mmol/L
呼吸系アシドーシス 代謝系アシドーシス 呼吸系アルカローシス 代謝系アルカローシス 酸喪失やHCO3の蓄積 呼吸不全によるCO2蓄積 原因 呼吸不全によるCO2蓄積 不揮発性酸の産生やHCO3の喪失 切り分け Ⅰ型呼吸不全(酸素化障害) pCO2<45,O2<60,AaDO2↑ シャント、酸素不均一 Ⅱ型呼吸不全(換気障害) pCO2>45,O2<60 AaDO2変化なし・・・呼吸中枢機能低下 AaDO2拡大・・・肺気腫,COPD 腎による代償作用でHCO3上昇でpH↑ 腎機能低下を伴うと重症化 AG正常、高Cl型:下痢(HCO3の喪失) AG上昇:アルコール ケトン体(糖尿病性ケトアシドーシス) リン酸(腎不全、尿毒症) 乳酸(乳酸アシドーシス) サリチル酸(アスピリン中毒) AG低下:低ALBやIgG骨髄腫や高Ca血症 その他:細胞障害や腎機能低下で高K血症に、CO中毒でも代謝性アシドーシス 呼吸系アルカローシス 代謝系アルカローシス 激しい呼吸のためにおこる 酸喪失やHCO3の蓄積 過換気や代謝系アシドーシスの代償、発熱亢進、CO中毒による過換気で呼吸性アルカローシス AG正常:嘔吐によるCl喪失をHCO3が補うためアルカローシス AG上昇:Naを含む抗生剤の大量投与、高Na血症 その他:アルドステロン症、利尿薬、脱水