電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
今日の予定 ・ ラザフォードの実験 ・ 水素原子のスペクトル ・ ボーアの量子仮説 §1.3 前期量子論 ・ 物質波(ド・ブローイ波) §1.4 物質波 Text pp / 年度 第4週.
Advertisements

1 運動方程式の例2:重力. 2 x 軸、 y 軸、 z 軸方向の単位ベクトル(長さ1)。 x y z O 基本ベクトルの復習 もし軸が動かない場合は、座標で書くと、 参考:動く電車の中で基本ベクトルを考える場合は、 基本ベクトルは時間の関数になるので、 時間で微分して0にならない場合がある。
電子物性第1 第4回 ーシュレーディンガーの波動方程式ー 電子物性第1スライド4-1 目次 2 はじめに 3 Ψがあると電子がある。
電磁気学C Electromagnetics C 7/27講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
・力のモーメント ・角運動量 ・力のモーメントと角運動量の関係
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 6/5講義分 電磁波の反射と透過 山田 博仁.
物理Ⅰの確認 電波(電磁波)は 電流の流れる向きと大きさが絶えず変化するときに発生 ・電場と磁場の方向は直角に交わっている(直交している)
実習B. ガンマ線を測定してみよう 原子核・ハドロン研究室 永江 知文 新山 雅之 足立 智.
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
学年 名列 名前 福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
電磁気学C Electromagnetics C 7/1講義分 光導波路と光共振器 山田 博仁.
5.アンテナの基礎 線状アンテナからの電波の放射 アンテナの諸定数
1.Atwoodの器械による重力加速度測定 2.速度の2乗に比例する抵抗がある場合の終端速度 3.減衰振動、強制振動の電気回路モデル
電磁気学C Electromagnetics C 7/13講義分 電磁波の電気双極子放射 山田 博仁.
重力レンズ効果を想定した回転する ブラックホールの周りの粒子の軌道
臨床診断総論 画像診断(3) 磁気共鳴画像 Magnetic Resonance Imaging: MRI その1
高周波観測 大田 泉 (甲南大学理工学部) 空気シャワー電波観測ワークショップ2014@甲南大
電気回路学Ⅱ エネルギーインテリジェンスコース 5セメ 山田 博仁.
2.伝送線路の基礎 2.1 分布定数線路 2.1.1 伝送線路と分布定数線路 集中定数回路:fが低い場合に適用
前回の内容 結晶工学特論 第5回目 Braggの式とLaue関数 実格子と逆格子 回折(結晶による波の散乱) Ewald球
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 5/15講義分 電磁場のエネルギー 山田 博仁.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 6/23講義分 電磁場の運動量 山田 博仁.
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
2m電波望遠鏡の製作と 中性水素21cm線の検出
5.3 接地アンテナ 素子の1つを接地して使用する線状アンテナ 5.3.1 映像アンテナと電流分布
電気回路学Ⅱ エネルギーインテリジェンスコース 5セメ 山田 博仁.
黒体輻射とプランクの輻射式 1. プランクの輻射式  2. エネルギー量子 プランクの定数(作用量子)h 3. 光量子 4. 固体の比熱.
アインシュタインの光電効果と ド・ブロイの物質波
前期量子論 1.電子の理解 電子の電荷、比電荷の測定 2.原子模型 長岡モデルとラザフォードの実験 3.ボーアの理論 量子化条件と対応原理
分布定数回路(伝送線路)とは 電圧(電界)、電流(磁界)は回路内の位置に依存 立体回路 TE, TM波
横磁化成分と歳差運動 M0 横磁化Mxy 回転座標系 90°RFパルスにより、縦磁化成分Moはxy平面に倒れる(横磁化生成)
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 5/19講義分 電磁場のエネルギー 山田 博仁.
g-2 実験 量子電磁力学の精密テスト と 標準理論のかなた
電磁気学C Electromagnetics C 5/28講義分 電磁波の反射と透過 山田 博仁.
古典論 マクロな世界 Newtonの運動方程式 量子論 ミクロな世界 極低温 Schrodinger方程式 ..
太陽放射と地球放射の エネルギー収支 温室効果.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 6/30講義分 電磁波の反射と透過 山田 博仁.
コンピュータサイエンスコース、ナノサイエンスコース4セメ開講
コンピュータサイエンスコース、ナノサイエンスコース4セメ開講
前回の講義で水素原子からのスペクトルは飛び飛びの「線スペクトル」
メンバー 梶川知宏 加藤直人 ロッケンバッハ怜 指導教員 藤田俊明
電磁気学C Electromagnetics C 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布.
物理学Ⅰ - 第 11 回 - 前回のまとめ 回転軸の方向が変化しない運動 回転運動のエネルギーとその応用 剛体の回転運動の方程式
5.2 半波長アンテナ 5.2.1半波長アンテナ 同一方向に置かれた長さλ/4の2つの導体で構成される。
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
電磁気学C Electromagnetics C 6/5講義分 電磁波の偏波と導波路 山田 博仁.
東邦大学理学部物理学科 宇宙・素粒子教室 上村 洸太
電気回路学 Electric Circuits 情報コース4セメ開講 分布定数回路 山田 博仁.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 8/4講義分 電気双極子による電磁波の放射 山田 博仁.
電磁気学C Electromagnetics C 6/17講義分 電磁波の偏り 山田 博仁.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 7/11講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
2.4 Continuum transitions Inelastic processes
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 6/9講義分 電磁場の波動方程式 山田 博仁.
電磁気学C Electromagnetics C 5/29講義分 電磁波の反射と透過 山田 博仁.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 5/9講義分 電磁場のエネルギー 山田 博仁.
平面波 ・・・ 平面状に一様な電磁界が一群となって伝搬する波
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 8/11講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 5/29講義分 電磁場の運動量 山田 博仁.
静電場、静磁場におけるMaxwellの式
α decay of nucleus and Gamow penetration factor ~原子核のα崩壊とGamowの透過因子~
2・1・2水素のスペクトル線 ボーアの振動数条件の導入 ライマン系列、バルマー系列、パッシェン系列.
電気回路学 Electric Circuits 情報コース4セメ開講 分布定数回路 山田 博仁.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 7/16講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
電気回路学Ⅱ 通信工学コース 5セメ 山田 博仁.
電磁気学C Electromagnetics C 5/20講義分 電磁場の波動方程式 山田 博仁.
電磁気学C Electromagnetics C 4/24講義分 電磁場のエネルギー 山田 博仁.
電磁気学C Electromagnetics C 7/10講義分 電気双極子による電磁波の放射 山田 博仁.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 7/10講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 6/7講義分 電磁波の反射と透過 山田 博仁.
Presentation transcript:

電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁

指向性アンテナ ある特定の方向にのみ強く電波を放射(特定の方向のみから電波を受信)することができるアンテナを指向性アンテナ(Beam Antenna)と言う 指向性アンテナの種類 八木・宇田アンテナ パラボラアンテナ キュービカルクワッドアンテナ

アマチュア無線用キュービカルクワッドアンテナ 私がかってアマチュア無線に夢中だった頃に自作し、世界中の局と交信した 14, 21, 28MHz帯用トライバンド キュービカルクワッドアンテナの威容 1980年頃、私(JR2NKG局)の自宅屋上にて撮影

電離層と短波帯通信 短波帯(3~30MHz)の電波は、電離層によって反射され、遠く海外にまで届く。 電離層とは、上空60~500kmに存在する大気が、太陽からの紫外線などによって電離した層。昼と夜や、太陽の活動(黒点の数)によっても約11年周期で変化する。 出典: www.interq.or.jp/drums/kensuke/denpa01.html

八木・宇田アンテナの構造 導波器 放射器 反射器 λ/2 この方向に強く電波が放射される 約λ/4 約λ/4 約λ/4 素子 (エレメント) 放射器は、ダイポールアンテナと同じもので、半波長(λ/2) の長さ 導波器は、放射器よりもやや短い 反射器は、放射器よりもやや長い

八木・宇田アンテナの原理 放射器 放射器のみのときは、素子に垂直方向に均等に電波が放射される

八木・宇田アンテナの原理 放射器からの電波と導波器からの電波の位相が等しく強め合う 放射器からの電波と導波器からの電波の位相が逆で弱め合う λ/4 放射器からの電波 導波器からの電波 導波器には、放射器に対して π /2 だけ位相が遅れて給電されている 放射器から λ/4 離れた位置に導波器がある場合は、導波器のある方向に強く電波が放射され、その反対方向への電波の放射が弱められる

八木・宇田アンテナの原理 放射器からの電波と反射器からの電波の位相が逆で弱め合う 放射器からの電波と反射器からの電波の位相が等しく強め合う λ/4 放射器からの電波 反射器からの電波 反射器には、放射器に対して π /2 だけ位相が進んで給電されている 放射器から λ/4 離れた位置に反射器がある場合は、反射器のある方向への電波の放射が弱められ、それと反対方向への電波の放射が強められる

八木・宇田アンテナの原理 実際の八木・宇田アンテナでは、導波器には給電せず、放射器からの電波を受けて、導波器自らも電波の放射を始める。このとき、放射器よりも僅かに短くしておくと、放射器よりも位相が約 π /2 遅れた電波を放射するようになる。 実際の八木・宇田アンテナでは、反射器には給電せず、放射器からの電波を受けて、反射器自らも電波の放射を始める。このとき、放射器よりも僅かに長くしておくと、放射器よりも位相が約 π /2 進んだ電波を放射するようになる。 導波器 放射器 放射器 反射器 約λ/4 約λ/4

八木・宇田アンテナの原理 導波器 放射器 反射器 この方向に電波が強く放射される この方向への電波の放射が弱められる 約λ/4 約λ/4 3素子八木・宇田アンテナ

点電荷の運動方程式 ここでは、電子のような点電荷の運動によって放射される電磁波のエネルギーを求める。 点電荷 e の電荷密度は、 z(t) 軌道 で表される。 ここで、z(t)は、点電荷の軌道関数である。 このとき、電気双極子モーメントは、 で与えられ、従ってその時間微分は一階、二階各々、 これを、先週導出した以下の式(37) に代入する。

ラーモアの公式 点電荷から放射される電磁波の電力 P(t) は、 で与えられる。 ここで t0 は、 の解として決められる点電荷からの発信時刻 式(4) より、電磁波は、点電荷が加速された時に放射されることが分かる。 ただし、式(4), (5) が成立するのは、点電荷の速度が光速度に比べて十分小さい時である。 このときまた、観測点での時間と点電荷のある場所での時間はほぼ同一に扱えるので、 この式は、非相対論的速度で運動している点電荷の単位加速時間当たりの放射エネルギーを与えると解釈することができる。この式をラーモア(Larmor)の公式という。 核磁気共鳴(NMR)を起こすラーモア歳差運動で有名なJoseph Larmorも同じ人物

点電荷からの放射エネルギー いま、質量 m, 電荷 +e の点電荷が、 の運動方程式に従って、角振動数 ω0 で単振動をしているとする。 式(7) の解は、 (z0 は単振動の振幅) と書くことができる。 φ は初期位相であり、本質的ではないので無視すると式(6) は、 となる。そこで、この単振動の1周期 T = 2π /ω0 当たりの平均値を求めると、 を得る。これは、点電荷の単位加速時間当たりの平均放射エネルギー(点電荷が放射する平均電力)

ラザフォード原子模型の寿命 ラザフォードが1911年に提唱した原子模型は、中心に正電荷をもつ重い原子核があり、その周りを負の電荷を有する軽い電子が回っているというもの。 −e 電子 原子核 ところが、原子核の周りを回転している電子は、加速度運動をしているから、それに伴い電磁波が放射される。 +e すると、回転している電子の運動エネルギーは次第に減少し、電子は原子核に向かって落ち込んでいくはず。 ラザフォードの水素原子の模型 即ち、古典物理学の法則に従えば、ラザフォードの原子は不安定で、ある一定の寿命で消滅するはずである。 以下では、古典物理学の法則に基づき、水素原子の寿命を計算してみる。 今簡単のために、電子は陽子とのクーロン力によってのみ引かれて、原子核の周りを回っているものとする。

ラザフォード原子模型の寿命 このとき、質量 m, 電荷 –e の電子の回転半径を r, その速さを v, 回転の角速度を ω とする。 v 陽子 ラザフォードの水素原子の模型 m r v ω すると、この電子の動径方向の運動方程式は、 また、電子の持つエネルギー W は、運動エネルギー + ポテンシャルエネルギー(陽子から無限遠をゼロとする) より、 で表される。ここで v = rω の関係に注意して、式(11) を式(12) に代入すると、 を得る。

ラザフォード原子模型の寿命 一方、単位時間に電子が放射する電磁波のエネルギーは、式(6) と式(11) より、 で与えられる。 従って、電磁波の放射により単位時間当りに電子が失うエネルギーは、 によって与えられる。 式(15) の左辺に式(13) を代入すると、 となる。 そこで、はじめの時刻 t = 0 における電子の回転半径が a であったとし、それが原子核に落ち込んでしまうまでの時間を  とすると、式(16) を積分することにより、

ラザフォード原子模型の寿命 を得る。 これから、 が得られる。 これに電子の電荷の大きさ e = 1.602×10−19 C, その質量 m = 9.11×10−31 kg および原子半径 a = 5.29×10−11 m の数値を代入すると、およそ となる。 従って、原子は約10 psという非常に短い時間で潰れてしまうことになり、この矛盾から、ボーアの原子模型、さらには量子力学が誕生することとなる。

ラザフォード原子模型の寿命 式(11)から電子の回転角速度ωを見積もってみると、 従って、電子の回転運動によって放射される電磁波の周波数 f は、 これは電磁波の波長で言うと紫外線の領域となり、 電子の回転速度 vは、 量子力学によると、電磁波のエネルギー量子(光子)の大きさは hf (hはプランク定数)であり、 電子は光子エネルギーの単位でしか電磁波を放出することができない。 これは電子の運動エネルギー よりも大きな値である。

ご聴講ありがとうございました