企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 役員等の損害賠償責任 会社に対する責任 第三者に対する責任 株主による監督是正

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企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 役員等の損害賠償責任 会社に対する責任 第三者に対する責任 株主による監督是正 テキスト参照ページ:198~248p

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 1 役員等の会社に対する責任 (1)総説 取締役・会計参与・監査役・執行役および会計監査人(以下「役員等」とよぶ)は、会社に対し善管注意義務を負い(330、民644)、これに違反したときは任務懈怠として損害賠償責任を負う(423Ⅰ) 会社法は、役員等の任務懈怠責任とその免除に関する規定を423条から428条に設けている。このほか、株主の権利行使に関する利益供与(120Ⅳ)や剰余金の配当等(462・464・465)に関する取締役・執行役の責任、さらに設立時や募集株式の発行等が行われた場合の取締役・監査役・執行役の責任等が個別的に規定されている(52~56、103Ⅰ・213・286)

参考:会社法での変更点 規定の仕方の変更 役員:取締役、会計参与および監査役(329) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 規定の仕方の変更 役員:取締役、会計参与および監査役(329) 役員等:役員+委員会設置会社の執行役および会計監査人(423Ⅰ) 善管注意義務:役員および会計監査人(330、民644)、執行役(402Ⅲ、民644) 忠実義務:取締役(355)、執行役(419Ⅱ→355) 株主代表訴訟:役員等は全て対象(847Ⅰ)

会社に対する責任(旧商266Ⅰと比較) 第三者に対する責任:429 違法配当→違法な剰余金配当(462Ⅰ柱書き・⑥) 利益供与→120Ⅳ 競業取引→356Ⅰ①、419Ⅱ、423Ⅰ・Ⅱ 利益相反取引→356Ⅰ②③、419Ⅱ、423Ⅰ・Ⅲ 法令・定款違反→任務懈怠責任:423Ⅰ ※①、②、④は、無過失責任と解するのが通説だった。(委員会等設置会社では過失責任が原則) 第三者に対する責任:429 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06

(2)違法な剰余金配当 責任原因:分配可能額(461Ⅱ)を超える剰余金の分配(461Ⅰ⑧) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 責任原因:分配可能額(461Ⅱ)を超える剰余金の分配(461Ⅰ⑧) 連帯して損害賠償責任を負う者(462Ⅰ柱書き・⑥):業務執行者(業務執行取締役:代表取締役および業務担当取締役、委員会設置会社の執行役、その他法務省令で定める者)、違法配当の株主総会決議に議案を提案した取締役(取締役会決議による場合は取締役会議案提案取締役)及び配当を受けた株主

(2)違法な剰余金配当 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 過失責任化:「職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは」(462Ⅱ)⇒過失の証明責任を転換し、無過失の抗弁を認めた 総株主の同意によっても免除することができない(462Ⅲ本文)→特殊な資本充実責任であり、任務懈怠責任ではない:全額免除は不可 ただし、行為時における分配可能額を限度として賠償責任を免除することについて、総株主の同意がある場合は、その限度で一部免除は可能(同但書)

株主に対する求償権の制限 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 分配可能額を超えることにつき善意の株主は、会社に対する責任を果たした業務執行者等からの求償請求に応じる義務を負わない(463Ⅰ) 悪意の株主には求償請求できる 会社債権者は、株主に対して、株主が交付を受けた金銭等の帳簿価額(会社に対する債権額を上回る場合は債権額を限度とする)に相当する金銭の支払を請求できる(同Ⅱ):債権者自身への支払請求を認める 善意の株主にも請求できる:違法な剰余金の配当は無効

(3)利益供与の責任 過失責任化した上で、過失の証明責任を転換し、「無過失の抗弁」を認めた(120Ⅳ)。 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 過失責任化した上で、過失の証明責任を転換し、「無過失の抗弁」を認めた(120Ⅳ)。 ただし、自ら利益供与を行った者は、無過失責任(衆議院における修正) 株主権の行使に関する利益供与の事実:「特定の株主に無償または著しく少ない対価での財産上の利益を供与した事実」により推定される(法律上の事実推定)(120Ⅱ) 総株主の同意がなければ免除できない

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 利益供与の責任 違法な利益供与を受けた株主⇒会社に対する返還義務を負い、会社が請求しない場合、他の株主は代表訴訟と同様の方法により返還を請求することができる(120Ⅲ・847Ⅰ) 違法な利益供与に関与した取締役・執行役⇒供与した利益の額の弁済責任(連帯責任)を負う(120Ⅳ):原則として過失責任化(無過失の立証責任は取締役に) 自ら利益供与をした取締役・執行役は無過失責任

利益供与の罪:「刑事責任」 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 利益供与をする行為、違法であることを知って利益の供与を受ける行為、利益供与を要求する行為は犯罪とされ、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる(970Ⅰ~Ⅲ):供与した者は自首減刑(同Ⅵ) 威迫の行為により取締役らを脅し利益供与をさせた場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金と加重される(同Ⅳ) 利益供与を受ける側(970Ⅱ~Ⅳ)の情状によっては懲役と罰金が併科される(同Ⅴ)

(4)任務懈怠責任 任務懈怠の意義と損害賠償 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (4)任務懈怠責任 任務懈怠の意義と損害賠償 役員等は会社に対して善管注意義務を負い(330、民644)、また取締役は忠実義務を負うので(355)、役員等の任務はこれらの義務に基づいて行われなければならない 善管注意義務・忠実義務に違反するような職務の遂行があったとすれば、役員等は、任務を怠ったものとして、株式会社に対してそれによって生じた損害を賠償する責任を負う:不完全履行(423Ⅰ) 他の役員等も責任を負うときは、これらの者は連帯債務者となる(430)

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 法令・定款の遵守 役員等は当該役員等を名宛人とする法令(その中心は、役員等の義務を定める会社法の諸規定)を遵守する義務を負うとともに、取締役・執行役は会社を名宛人とする全ての法令を遵守する義務を負っていると解されるので(非限定説:最判平成12・7・7民集54・6・1767)、それらの法令を遵守することも役員等の任務と考えることができる 法令違反⇒任務懈怠に含まれる

法令・定款の遵守 したがって、役員等が故意または過失により法令・定款に違反した場合、任務懈怠に基づく損害賠償責任を負うことになる 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 法令・定款の遵守 したがって、役員等が故意または過失により法令・定款に違反した場合、任務懈怠に基づく損害賠償責任を負うことになる すなわち、会社法423条1項の責任は、平成17年改正前商法266条1項5号の法令・定款違反の責任に相当するものということができる

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 責任の判断構造 一元論:取締役が負う義務は、「法令を遵守して行動すべき義務」ではなく、「会社が法令を遵守しないで行動することをさせないようにする注意義務」である⇒法令に違反する行為が直ちに423Ⅰの要件事実を充足するのではなく、当該法令違反行為が上記の意味での取締役の注意義務に違反するかが問題となる 任務懈怠の要件事実:「会社に法令違反をさせないように注意して行動すべき取締役の注意義務に対する違反(本旨不履行)」⇒善管注意義務違反=任務懈怠=過失

責任の判断構造 二元論(従来の判例の立場):具体的な法令違反行為があった場合と、取締役の善管注意義務違反の場合とで異なった判断構造とる 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 責任の判断構造 二元論(従来の判例の立場):具体的な法令違反行為があった場合と、取締役の善管注意義務違反の場合とで異なった判断構造とる 具体的な法令違反行為の場合:「会社が具体的な法令に違反した」との事実さえ主張・立証されれば、「取締役の任務懈怠」という客観的違法性についての主張・立証として十分。 法令違反=任務懈怠≠過失⇒無過失の抗弁が可能(法令違反であることについての認識を欠いたことに過失がなかったといえる場合のような主観的違法状態がないこと)

会社法423条1項の「任務懈怠」 会社法423条1項では、「法令違反」ではなく「任務を怠った」という「任務懈怠」要件になっている。 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 会社法423条1項では、「法令違反」ではなく「任務を怠った」という「任務懈怠」要件になっている。 旧商法特例法上の委員会等設置会社における取締役や執行役に関する規定に合わせた改正で、実質的な改正は意図されていないといわれる。 文言上は、一元説に親和性があるが、会社法のもとで、二元説が成り立たないわけではない

「因果関係」と「損害額」の立証 役員等は、自己の任務懈怠と相当因果関係のある会社の損害について賠償しなければならない(民416) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 役員等は、自己の任務懈怠と相当因果関係のある会社の損害について賠償しなければならない(民416) 因果関係・損害額の立証責任は、責任を追及する側(会社側・代表訴訟における株主側)にある(原則) 取締役・執行役が株主総会または取締役会の承認を得ずに競業取引を行った場合には、当該取引によって取締役・執行役または第三者が得た利益の額は、会社の損害額と推定される(423Ⅱ)

経営判断原則 (business judgment rule) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 経営判断原則 (business judgment rule) アメリカの判例において形成された理論で、会社の経営には危険がつきものであり、取締役の経営判断が裏目に出て会社に損失が生じた場合に、常に判断を誤った取締役の責任が追及されることになると、取締役は企業家として期待される冒険的判断を控え、経営を萎縮させることとなり、結果として会社の成長を阻害し、株主の利益を害する。そのため、取締役が誠実に行った経営判断に対して、裁判所は、後知恵的判断を行うべきではないというもの。 日本においても株主代表訴訟の件数が増加するとともに取締役の善管注意義務・忠実義務違反の有無を判断する基準の明確化という観点から、判例の中に見られるようになった。

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 米国における経営判断原則 あくまで判例によって形成された理論であるが、ALIによる「コーポレート・ガバナンスの原理」において定式化が試みられ、各州の判例法において採用されている。 経営判断の対象に利害関係を有しないこと 経営判断の対象に関して、その状況のもとで適切であると合理的に信ずる程度に知っていたこと 経営判断が会社の最善の利益に合致すると相当に信じたこと ※以上の要件をみたすときは、取締役・役員は、注意義務を尽くしたものとされ、判断の内容については司法審査を行わない。

日本における経営判断の原則 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 取締役の善管注意義務違反の有無(経営裁量の逸脱)を判断する際の枠組みとして、経営判断原則の基礎にある考え方を援用していると理解すべきであろう(経営判断原則そのものは要件事実ではない) 経営判断の手続・過程において十分に情報を集め、検討し、事実の認識に不注意な誤りがなかったかを合理性の基準で審査 それに基づく経営判断の内容は同様の地位にある者を基準として、著しく不相当な判断であるといえる場合を除き、裁量の範囲内にとどまる(相当性基準)

ⅱ)利益相反取引による責任 直接取引における会社の相手方である取締役・執行役 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 直接取引における会社の相手方である取締役・執行役 間接取引においてその者の利益と会社の利益が相反する取締役・執行役 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役・執行役 取締役・会社間の利益相反取引(執行役・会社間の取引は含まない)に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役(369Ⅴ参照)は、その任務を怠ったものと推定される(423Ⅲ)

ⅱ)利益相反取引による責任 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 上記①~④の取締役・執行役は、推定を覆すために、取引条件の公正性等を主張して自己に任務懈怠がないことまたは帰責事由がないことを立証すれば責任を免れる なお、①の取締役・執行役が自己のために直接取引を行った場合は、当該取締役・執行役は、任務を怠ったことが自己の責めに帰することができない事由によるものであることをもって責任を免れることはできない→無過失責任(428)

(5)責任の免除 一般的手続:総株主の同意 役員等の任務懈怠責任は、総株主の同意がなければ免除できない(424) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (5)責任の免除 一般的手続:総株主の同意 役員等の任務懈怠責任は、総株主の同意がなければ免除できない(424) 株主の利益保護を厚くする趣旨であって、代表訴訟提起権が単独株主権であることとも対応するものである 任務懈怠責任ではないが、利益供与に関する責任も総株主の同意がなければ免除できない

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 ⅱ)責任の一部免除 (ア)最低責任限度額:任務懈怠責任で役員等に悪意・重過失のないもの(軽過失による責任)については、以下に述べる手続きによって、役員等の賠償責任を一定額(最低責任限度額)までに限定することが認められる(425~427)  ・ただし、取締役等が自己のためにした会社との利益相反取引(直接取引)に基づく責任(無過失責任)は、一部免除の対象とはならない(428Ⅱ)

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 ⅱ)責任の一部免除 最低責任限度額:役員等がその在職中に株式会社から職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益の一年間あたりの額として法務省令で定める方法により算出される額を基準額として、 ㋑代表取締役または代表執行役について6を、 ㋺社外取締役、会計参与、監査役または会計監査人では2を、 ㋩それ以外の取締役・執行役については4を、それぞれ乗じた金額と、 当該役員等が当該株式会社の新株予約権を引き受けた場合(238Ⅲ各号の有利発行の場合に限る)における当該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額(425Ⅰ)

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 ⅱ)責任の一部免除 役員等が425条以下の規定により責任免除を受けても、報酬等の2年分から6年分に相当する金額は賠償金として支払わせることとして、任務懈怠の抑止効果と高額の責任追及による恐怖感の緩和という2つの要請のバランスをとっている 規制の趣旨を貫徹するため、責任の一部免除があった後で、免除を受けた役員等に退職慰労金の支給をしようとする場合、あるいは当該役員等が新株予約権の行使もしくは譲渡をしようとする場合には、株主総会の承認(普通決議)が必要である(425Ⅳ・Ⅴ・426Ⅵ・427Ⅴ)

(イ)株主総会特別決議による一部免除 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 会社は、株主総会特別決議をもって、取締役の軽過失による任務懈怠責任を上記最低責任限度額まで免除することができる(425Ⅰ・309Ⅱ⑧) その場合、取締役は、株主総会において、①責任の原因となった事実および賠償責任を負う額、②免除することができる額の限度とその算定方法、ならびに③責任を免除すべき理由および免除額を、開示しなければならない(425Ⅱ)

(イ)株主総会特別決議による一部免除 趣旨:総株主の同意によらない責任一部免除を慎重に行わせるため 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 趣旨:総株主の同意によらない責任一部免除を慎重に行わせるため 取締役が、取締役(監査委員である者を除く)または執行役の責任を一部免除する旨の議案を株主総会に提出するには、 監査役設置会社では監査役全員の同意が、委員会設置会社では監査委員全員の同意が、それぞれ必要(425Ⅲ)

(ウ)定款の定めに基づく取締役等による一部免除 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 監査役設置会社(取締役が2名以上ある場合に限る)または委員会設置会社では、役員等の軽過失による任務懈怠責任について、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務執行の状況等を勘案して特に必要あると認めるときは、取締役(責任免除の対象となる取締役を除く)の過半数の同意(取締役会設置会社では取締役会決議)により、(ア)に述べた最低責任限度額まで役員等の責任を免除できる旨を、定款で定めることができる(426Ⅰ)

(ウ)定款の定めに基づく取締役等による一部免除 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 取締役・執行役の責任一部免除に関する定款変更議案を株主総会に提出する場合 右定款規定に基づき取締役の同意により免除をする場合または責任免除議案を取締役会に提出する場合 ⇒監査役全員または監査委員全員の同意が必要である(同Ⅱ):(イ)の場合と同様

(ウ)定款の定めに基づく取締役等による一部免除 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 定款規定に基づき役員等の責任を免除する取締役の同意または取締役会の決議があったときは、取締役はその旨および異議申立て手続きに関する事項を公告または株主に通知しなければならない(公開会社でない株式会社では株主への通知のみ) 一定期間(一ヶ月を下ることはできない)内に総株主の議決権の3%以上(これを下回る割合を定款で定めてもよい)を有する株主の異議申し立てがあれば、免除はすることができない(同Ⅱ~Ⅴ)⇒株主総会の特別決議による免除の余地はある

(エ)責任限定契約 社外取締役、会計参与、社外監査役または会計監査人の軽過失による任務懈怠責任について 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (エ)責任限定契約 社外取締役、会計参与、社外監査役または会計監査人の軽過失による任務懈怠責任について 賠償責任を負う額を予め定めておき、その額と上記最低責任限度額(原則的に報酬の2年分に相当)のいずれか高い方の額を責任の限度とする契約を締結できる旨を、定款に定めることができる(427Ⅰ) 定款変更議案の提出:監査役全員または監査委員全員の同意が必要である(同Ⅲ)

2 役員等の第三者に対する責任 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 役員等がその職務の遂行に際し悪意または重大な過失があったときは、第三者に対して連帯して損害賠償の責任を負う(429Ⅰ・430) 役員等と第三者は直接の法律関係に立つわけではないから、この責任は第三者保護のために法がとくに認めた特殊な責任であると解するのが通説である(法定責任説):709条との請求権競合を認める

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (1)第三者の損害の範囲 この場合の第三者の損害には、取締役・執行役の放漫経営により会社の資産状態が悪化したため会社債権者が債権を回収できなかった場合のように、役員等の行為により会社が損害を蒙りその結果第三者に損害が生じたとき(間接損害)と、 取締役・執行役が、すでに会社の資産状態が悪化しており支払い見込みがないのに会社の状態が良好であるとみせかけて第三者を会社との取引に誘引する場合のように、役員等の行為により直接第三者に損害が発生したとき(直接損害)の双方が考えられる

 (2)対第三者責任の法的性質 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 法定責任説:第三者保護のため取締役の責任を加重したもの→悪意・重過失は任務懈怠についてあれば足り、損害賠償の範囲は直接・間接の両損害を含み、一般不法行為の要件が別に満たされれば、第三者は429条1項の責任と不法行為の責任のいずれも追及できる(判例) 不法行為特則説:取締役の職務内容の複雑性から取締役が第三者に対して負うことのある不法行為責任(民709)の主観的要件を「悪意または重過失」に限定したもの:同項は取締役の責任を軽減するものである→悪意・重過失は第三者に対する加害行為について必要であり、損害賠償の範囲は直接損害に限定され、当然のことながら一般不法行為の責任は適用排除される

(3)第三者の範囲 429条1項の「第三者」に株主が含まれるか否かについては争いがある 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (3)第三者の範囲 429条1項の「第三者」に株主が含まれるか否かについては争いがある 両損害包含説においても、間接損害の場合、株主は代表訴訟により損害の回復が可能であるから、第三者には含まれず、直接損害の場合には株主も含まれるとする見解、代表訴訟と429条の場合とでは、要件・効果が異なるので、いずれの場合にも株主も第三者に含まれるとする見解がある

(4)監視義務違反と対第三者責任 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 第三者の損害を発生させる経営行為を行った取締役・執行役のほか、取締役・執行役の不当な経営行為を防止しなかったことにつき悪意重過失のある取締役にも、監視義務違反により、第三者に対して損害賠償責任を負うことがある。 選任決議を欠く登記簿上の取締役や辞任登記未了の取締役について、908条2項の類推適用を介して、第三者に対する責任が認められる場合もある(最判昭和47・6・15民集26・5・984、最判昭和62・4・16判時1248・127)

(5)書類の虚偽記載等に基づく責任 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 取締役・執行役が株式・新株予約権・社債・新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項等についての虚偽の通知や募集のために用いた資料の虚偽記載等および計算書類・事業報告・臨時計算書類に記載・記録すべき重要な事項についての虚偽の記載・記録または虚偽の登記・公告を行った場合:そのことによって第三者に生じた損害を賠償しなければならない(429Ⅱ①) 不実の情報開示を信頼した第三者を保護するため立証責任の転換された過失責任(同Ⅱ柱書但書)とした

(5)書類の虚偽記載等に基づく責任 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 会計参与が計算書類および附属明細書、臨時計算書類ならびに会計参与報告に記載すべき重要な事項について虚偽記載を行った場合 監査役・監査委員が監査報告に記載すべき重要な事項について虚偽記載を行った場合 会計監査人が会計監査報告に記載すべき重要な事項について虚偽記載を行った場合 ⇒同様の責任が課される(429Ⅱ②~④)

3 株主による監督是正 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 総説  会社の業務執行に対する株主の監督は、原則として株主総会における取締役等の選任・解任等を通じて間接的に行われるにすぎない。しかし、会社法は、次の二つの場合には、株主に直接会社の機関的地位を認め、業務執行に対する監督是正の権利を認めている  いずれも単独株主権であり、公開会社では6ヶ月前(これを下回る期間を定款で定めることができる)から引き続き株式を有することが要件とされている

2 違法行為の差止請求権 取締役(執行役)が会社の目的の範囲外の行為その他法令または定款に違反する行為をし、またはするおそれがあるとき 2 違法行為の差止請求権 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 取締役(執行役)が会社の目的の範囲外の行為その他法令または定款に違反する行為をし、またはするおそれがあるとき 取締役(執行役)のそのような行為により会社に回復できない損害が生じるおそれがある場合 株主は、会社のために取締役に対してその行為を差し止めることを請求することができる(360Ⅰ・Ⅲ、422) 監査役設置会社でない株式会社および委員会設置会社でない株式会社では、著しい損害が生じるおそれがあれば差止請求できる(360Ⅰ)

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 3 代表訴訟 取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人(以下役員等という)の会社に対する責任は、本来は、会社自身がその代表機関によってこれを追及する訴えを提起すべきであるが(349Ⅰ・Ⅳ・386・408・420Ⅲ参照)、責任を問われる者が役員等である関係から、会社による責任追及が十分に行われず(仲間意識からの責任追及・提訴懈怠)、結果として株主の利益が害されるおそれがある。

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (1)総説 会社に対する役員等の責任追及が会社自身によって行われない場合に、株主自らが原告となって、会社のために役員等の責任を追及する訴え(いわゆる代表訴訟)を提起できる制度(第三者の訴訟担当) 代表訴訟によって追及できる役員等の責任の範囲については、役員等が会社に対して負担する一切の債務に及ぶとする「全債務説」が多数説・判例(百選74事件参照):弥永(限定説)リーガルマインド233p参照

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (2)提訴手続(提訴権者) 代表訴訟提起権は単独株主権であり、6ヶ月(これを下回る期間を定款で定めることもできる)前から引き続き株式を有する株主が行使できる(847Ⅰ) 公開会社でない株式会社では6ヶ月の株式継続保有要件は不要(同Ⅱ) 議決権の有無は問わないが、単元未満株主の権利について定款で代表訴訟に関する権利を制限している場合は、当該会社の単元未満株主は代表訴訟を提起できない(189Ⅱ参照) 公開会社:訴え提起請求(847Ⅰ)の時点で6ヶ月保有要件をみたしていることが必要

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (2)提訴手続 株主は、まず株式会社の代表者に対し、書面又は電磁的方法(会施217)により、役員等の責任を追及する訴えを提起するよう請求(847Ⅰ) 監査役設置会社において、株主が取締役の責任を追及する訴えの提起を請求する場合は、監査役が会社を代表してこれを受ける(386Ⅱ①:その他の会社353、364) 委員会設置会社において、株主が取締役・執行役の責任を追及する訴えの提起を請求する場合は、監査委員が会社を代表する(408Ⅲ①) 株主による提訴請求の日から60日以内に会社が訴訟を提起しない場合には、株主は自ら会社のために訴えを提起できる(847Ⅲ)

(2)提訴手続(不提訴理由書) 提訴請求を受けた会社が60日以内に役員等の責任を追及する訴訟を提起しない場合 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 提訴請求を受けた会社が60日以内に役員等の責任を追及する訴訟を提起しない場合 提訴請求をした株主または提訴請求で責任を追及されるべきとされた役員等は、会社に対し、訴えを提起しない理由を通知すべきことを請求できる:不提訴理由書(同Ⅳ、会施218) なお、60日の期間の経過により請求権が時効にかかるなど会社に回復することができない損害が生じるおそれがあるときは、株主は直ちに代表訴訟を提起できる(同Ⅴ)

(2)提訴手続(実体的訴訟要件) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 株主は、自己もしくは第三者の不正な利益を図りまたは株式会社に損害を加えることを目的として提訴請求をすることはできない(847Ⅰ但書) そのような目的で代表訴訟が提起された場合は、裁判所は訴えを却下できる

(2)提訴手数料(貼付印紙代) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 役員等の責任を追及する代表訴訟では、訴訟の目的の価額の算定については財産権上の請求でない請求にかかる訴え(民訴費4Ⅱ)とみなす(847条6項) 原告株主があらかじめ裁判所に納付すべき手数料は、請求額の如何を問わず ⇒一律1万3000円

組織再編行為と原告適格 原告株主は、代表訴訟係属中株式を保有していなければならず、譲渡によって株主の地位を喪失すれば、代表訴訟は却下される 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 原告株主は、代表訴訟係属中株式を保有していなければならず、譲渡によって株主の地位を喪失すれば、代表訴訟は却下される ただし、訴訟提起後に①株式交換または株式移転により、原告が完全親会社の株式を取得した場合、または②原告が株主である会社が消滅する吸収合併もしくは新設合併により原告が新設会社もしくは存続会社もしくはその完全親会社の株式を取得した場合は、原告適格を喪失しない(851) 東京地判H16.5.13(LEX/DB28092207)参照 東京地判H13.3.29(LEX/DB28060901)参照

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 担保提供命令 被告が、訴えが原告株主の悪意に出たものであることを疎明したときは(悪意の疎明)、裁判所は担保の提供を株主に命ずることができる(847Ⅶ) 担保提供制度は、直接には被告取締役が原告株主に対して有する可能性のある不法行為に基づく損害賠償請求権を担保するものであるが、これには濫訴防止機能も認められる 「悪意」の意義についてLEX/DB28030665 参照

(3)訴訟参加 役員等の責任を追及する訴訟が提起されているとき(代表訴訟に限られない) 株主または株式会社は(参加人) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (3)訴訟参加 役員等の責任を追及する訴訟が提起されているとき(代表訴訟に限られない) 株主または株式会社は(参加人) 共同訴訟人(共同訴訟参加)として、または当事者の一方を補助(補助参加)するため 訴訟に参加できる(849Ⅰ) 訴訟告知制度:株主および株式会社に参加の機会を与えるため(同Ⅲ・Ⅳ)

補助参加の利益 代表訴訟において、会社は、補助参加の利益(民訴42)の有無にかかわらず、被告役員等の側に補助参加することができる 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 補助参加の利益 代表訴訟において、会社は、補助参加の利益(民訴42)の有無にかかわらず、被告役員等の側に補助参加することができる 平成13年商法改正以前は、被告取締役の側への会社の補助参加は認められないという解釈が有力だったが、平成13年の最高裁判決以後、補助参加の利益が認められる場合には、監査役の同意を要件に認める改正がなされた⇒会社法は補助参加の利益の有無を問わず認めた ただし、取締役・執行役(これらの地位にあった者も含む)の責任を追及する訴訟において、会社が被告側に補助参加するには、監査役設置会社では監査役全員の同意が、委員会設置会社では監査委員全員の同意が、それぞれ必要(849Ⅱ)

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (4)和解 役員等の責任を追及する訴訟においては、会社が提起した場合と株主代表訴訟の場合のいずれであっても、当事者は和解をすることができる 代表訴訟の原告株主と被告の間で行われた和解の効果は、株式会社の承認がなければ会社および他の株主に及ばない(850Ⅰ) 和解は、役員等の責任を一部免除する内容を含むのが通常であるが、会社法上の責任の免除には、原則的に総株主の同意が必要であるから その理由は?

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (4)和解 代表訴訟の原告・被告間で和解がなされた場合:裁判所は会社に対しその内容を通知し、会社が右和解内容につき2週間以内に異議を述べないときは、和解を承認したものとみなされる(同Ⅱ・Ⅲ) 会社を代表して通知を受け、異議を述べるかどうかを判断するのは、監査役設置会社では監査役、委員会設置会社では監査委員(386Ⅱ②・408Ⅲ②) 異議を述べなければ和解の効果が会社に及び、責任免除に総株主の同意を要するとする諸規定(55・120Ⅴ・424・462Ⅲ但書・464Ⅱ・465Ⅱ)の適用がなくなる(850Ⅳ)

(5)判決の効果 判決の効力は、勝訴・敗訴いずれの場合にも会社におよぶ(民訴115Ⅰ②) 企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 (5)判決の効果 判決の効力は、勝訴・敗訴いずれの場合にも会社におよぶ(民訴115Ⅰ②) 勝訴(一部勝訴を含む)した株主は、会社に対し、相当額の弁護士報酬とともに調査費用等の相当額の訴訟追行費用(訴訟費用は敗訴被告の負担になるのでこれに含まれない)を請求できる(852Ⅰ) 株主が敗訴した場合で悪意があったとき(会社を害することを知って不適当な訴訟を追行した場合)には、会社に対して損害賠償の責任を負う(同Ⅱ)

企業法Ⅰ講義レジュメNo.06 馴れ合い訴訟 役員等の責任追及の訴えが提起された場合において、原告である会社または株主と被告である役員等が共謀して、訴訟の目的である株式会社の権利を害する目的をもって判決をさせたとき 株式会社または株主は、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる(853Ⅰ)