巨大ブラックホールと銀河 の共進化 上田佳宏 (京都大学理学研究科)
内容 硬X線によるブラックホール探査の意義 AGN宇宙論的進化の理解の現状 残された最大の謎: 埋もれたAGN Astro-Hへの期待
1. 埋もれたAGNの探査の意義 銀河中心巨大ブラックホールは宇宙進化の主役の一つ! 近傍宇宙のほとんど全部の銀河は中心に巨大ブラックホールをもつ(マゴリアン関係; M-σ関係) → ブラックホールと星生成の強いリンク(共進化)を示唆 活動銀河核(AGN) = 質量降着による巨大ブラックホール成長の現場 激しい星生成銀河は、塵に埋もれた急速に成長中のBHを含む → 「共進化」シナリオと合致 超高光度赤外銀河 at z~0 (Imanishi et al. 2006) サブミリ銀河 at z~2 (Alexander et al. 2005)
巨大ブラックホールと銀河の共進化 ブラックホール質量 vs 星質量 @z=0 ブラックホール降着史 vs 星生成史 Marconi+ 04 e.g., Marconi & Hunt 03 Marconi+ 04
AGN統一モデル (Antonutcci and Miller 1985, Awaki et al 1991) 可視:幅の広い輝線 +狭い輝線 X線:吸収なし 2型AGN = トーラスに隠されている 可視:幅の狭い輝線のみ(あれば) X線:吸収あり
なぜX線か? 硬X線サーベイは最も強力なAGN探査法 X線背景放射(XRB)の形→大多数のAGNは塵やガスに隠されている。他の波長では見逃されることがしばしば 中間赤外: 星生成成分との分離が困難 可視:幅の広い輝線 or 強い狭輝線が必要 可視光は星が邪魔をする high-zではますます隠されている?
An X-ray Bright Optical Normal Galaxy XMM J021822. 3-050615 An X-ray Bright Optical Normal Galaxy XMM J021822.3-050615.7 Severgnini et al. (2003) A&A 406, 483 SXDSで見つかった「硬い」X線天体:可視で一見ふつうの銀河 「すばる」により中心核成分を高S/N比で取り出すことでAGN成分を初めて検出 XMM spectrum Subaru/FOCAS spectrum 2 10 (keV) nuclueus total
吸収を受けたAGNのスペクトル Compton thick AGN: NH>1024 cm-2 (コンプトン散乱に対する光学的厚み>1: 出てくるまでの散乱回数~τ2 ) 10 keV以下では、(トーラスの内壁からの)反射成分と、(トーラス周囲のガスからの)散乱成分しか見えない。 Heavily Compton thick AGN に対してはE>10 keVでもバイアスあり Wilman & Fabian (1999) Done+ (2003) NGC 4945 Log NH=24.25 Log NH=24.75 Log NH=25.25
X線背景放射のスペクトル XRB ~ 30 keVに強度ピーク:大多数のAGNは「隠れて」いる! 既存の高感度サーベイ(E<8 keV)により、 “Compton thin” AGN (log NH<24) の描像はほぼ確立 X線背景放射のダークサイド: “Compton thick” AGNの進化は10 keV以上のサーベイで始めて切り開かれる! Comastri+ 95
X線背景放射(XRB)=宇宙のAGNの総和 ~10 keV以下の世界~ Subaru-XMM Deep Survey fields 0.5-10 keV Log N log S relations (2-10 keV) 1 deg Kushino+ 02 U+ 2008
2. AGN宇宙論的進化の理解の現状 (E<10 keV) 1. X線光度関数 (Luminosity Function) ある(赤方偏移、光度)におけるAGNの数密度 AGNの宇宙論的進化を記述する、最も基本的な観測量 光っているブラックホールのみ見えることに注意 2. 吸収量関数 (NH function) ある(赤方偏移、光度)におけるAGNの吸収量分布 AGN現象の理解の基礎 統一モデルは正しいか? AGNの環境に宇宙論的進化はあるか? 1+2 → 種族合成モデル 広域スペクトルを仮定してCompton thin AGNのXRBへの寄与を計算 足りない30 keVの強度をCompton thick AGNで説明
最新のX線AGN光度関数 X線天文学の全サーベイデータを最大限利用した静止系2-10 keVバンドでの全Compton thin AGN光度関数(1型+2型)の構築 2型AGNを検出するには、 低赤方偏移: 硬X線バンド(E>2 keV)サーベイが必要 高赤方偏移 (z>2): 軟X線バンド(0.5-2 keV)サーベイでもOK !(negative K correction) 同定完全性の高い(>90%)サンプルに限定 観測バイアス補正(Maximum likelihood method) 各サーベイについて、count rate vs zの2次元分布を最もよく再現する光度関数(+吸収量関数)を求める。
Compton thin AGN (type1+2) の空間数密度 光度に依存した密度進化(LDDE) cf. LADE (Aird+ 2010) 高光度AGNほど高赤方偏移にピーク “down-sizing” (大きなBHほどより初期に形成された) z>3で数が減少? Ueda+ 03
銀河の「ダウンサイジング」 大きな銀河ほど早期に星生成を終了 小さな銀河は最近まで星生成を続けている Cowie et al. 1996 Heavens et al. 2004 大きな銀河ほど早期に星生成を終了 小さな銀河は最近まで星生成を続けている
XRBスペクトルの再現 Compton thick AGNか Compton reflectionか? AGN広域 スペクトルの詳細測定が重要: Suzaku, Astro-H Integrated spectrum of type-1 AGNs Compton-thick AGNs 0.5 1 10 100 (keV) Observed XRB spectrum YU+ 2003
3. AGN進化に残された大問題: Compton thick AGNの存在量 巨大ブラックホールの成長に大きな寄与をしている可能性大 ブラックホールの質量成長には、Compton thick AGNの寄与が重要(たとえX線背景放射への寄与が小さくても) 近傍宇宙では、Compton thick AGN はCompton thin AGNと同じか、それ以上の存在量 (Maiolino et al. 2003) (少しでも)遠方の宇宙では、Compton thick AGNの数密度はほとんど分かっていない! 星生成の激しい初期宇宙では、より多量に存在するか??
Swift/BAT+「すざく」: 新型AGNの発見 可視では「ただの」銀河: [O III] 見えず Compton-thick AGN (NH ~1024 cm-2) 10 keV以下で吸収のない反射成分。おそらくface-onで見ている。 ソフトバンドでの散乱成分なし→ 「深い谷のトーラス」に埋もれたAGN 多量の、さらに大きな吸収をうけたAGNの存在を示唆 E>10 keVでのみ発見可能!可視サーベイ(e.g.,SDSS)は不完全 1 10 Energy (keV) 50 EFE ESO 005-G 004 YU+ 2007
Two types? New Type Old Type C: JAXA C: CXC Scattering Fraction (%) 0.5 1.0 1.5 1 2 Reflection Eguchi+ 2009 C: CXC
近傍宇宙におけるCompton thick AGNsの量 Maiolino+(2003) 可視スペクトルに全くAGNの特徴のない赤外銀河Chandraで追求観測→Compton thick AGNの兆候を発見 2型セイファート銀河と同程度の数密度? Swift/BAT サーベイとの関係は? (バイアスに注意。上の多くはheavily Comton thickか) Tueller+(2009)
4. E>10 keVでのAGNサーベイ Astro-H, NuSTAR : 10-30 keV XRBの~30-40%を分解 cf. Swift/BAT a few % Astro-H ~30-40% XRB Swift/BAT (2 year) Ueda+ 03
Very Compton-thick AGNs C: Terashima & Astro-H team Monte-Carlo prediction (Ikeda+09; Wilman & Fabian99) NH Input: photon index=1.9 power law 5x1023 cm-2 1x1024 2x1024 4x1024 6x1024 8x1024 1x1025
HXI Simulation C: Terashima & Astro-H team 5x1023 cm-2 Ueda+07 1x1024 NEW type AGN: Swift J0601: NH~1x1024 cm-2; F2-10(intrinsic) = 1x10-11 cgs Assumption: log NH = 25 if viewed from edge-on photon index1.9; No reflection component. 5x1023 cm-2 Ueda+07 1x1024 5x1024 1x1025 100 ksec (300 ksec for 1x1025) 3% of NXB Scattered emission and Fe line not included. Buried very Compton thick AGN detectable at >10 keV.
まとめ さまざまな観測結果が、多量のCompton thick AGNの存在を示唆 X線背景放射の起源は完全には解明されていない。6-8 keV以下では確立しているが、8 keV以上の起源はモデル依存 宇宙の降着史(巨大ブラックホール成長史)を理解するには、深く埋もれたAGN(Compton thick AGN)の進化の理解が必須 E<8 keV以下で行われたように、E>10 keVでさまざまな深さ・広さのサーベイを行うことが、この謎を解く唯一の方法である