総合地球環境学研究所 東京大学生産技術研究所 地球フロンティア研究システム 沖 大幹

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総合地球環境学研究所 東京大学生産技術研究所 地球フロンティア研究システム 沖 大幹 第1回沼口さん記念シンポジウム『水循環力学から水循環環境科学へ』 2002年7月30日、東京大学駒場リサーチキャンパス 変わりゆく水文学は 水循環環境科学を目指すのか? 総合地球環境学研究所 東京大学生産技術研究所 地球フロンティア研究システム 沖 大幹 (第1回タレス 同人より)

水文学の定義 (UNESCO, 1964) 水文学が対象とするのは… “水文学は地球上の水の循環のすべてを対象とする学問分野である” 地球上の水の発生、水の循環、水の分布 水の物理的、化学的性質 物理的、生物的環境と水との相互作用 人間活動に対する水の応答 “水文学は地球上の水の循環のすべてを対象とする学問分野である” 水循環環境科学そのもの?

しかし現実の水文学(の主流)は… 興味の対象が狭かった 自然地理学/気候学は広く長かった? 工学:河川流量  治水計画、洪水対策 林学:斜面流出  砂防、森林管理 農学:蒸発散  灌漑計画、作物管理 理学:地下水  地下水低下、地下水汚染 湖沼学、陸水学、雪氷学、…:  特定の閉じた場を対象 現代の水循環のスナップショットを対象 自然地理学/気候学は広く長かった?

近年の水文学は… 気象学、気候学(+地球環境問題)からの影響 新たな技術、理論の応用 水文現象のスケールの認識 気候の年々変動とテレコネクションの認識 “変化し続ける気候”という認識 大気圏、生物圏、地圏との相互作用 地球科学の中の水文学としての自覚 広域、長期的な水循環過程への興味 新たな技術、理論の応用 フラクタル、ファジー理論、ANN、大規模数値モデリング、デジタル観測機器、GIS、RS、…

Hydrology 2020 Working Group IAHS, UNESCO, WMO, JSHWR

これからの水文モデル研究 ホリスティックな統合モデル+Hydro-ecology 気候変動と水文変動、変化の理解 確固たる物理的根拠、モデルの地域互換性 スケール問題、不均一性の考慮 精度と不確実性の推定、社会提言 パラメータ較正手法と検証、トレーサー 仮説検証的アプローチ (From the 1st meeting of the Hydrology 2020 WG of IAHS)

第1回 夏の学校 ーモデルとは何かー

沼口さんに教わったこと グローバルな図表をどの様に眺めるべきか 他人の研究をどう聞き、どう受け止めるべきか どういう風に計算機を研究に生かすべきか いつも手を抜かずちゃんとした発表をせよ 何に注意しどれだけ丁寧にデータ解析すべきか モデルを使った研究とはどうあるべきか 良い研究にはいい作業仮説を立てるべし 環境問題を研究するのなら、どう生きるべきか 研究への敬意、自然への憧憬

以前から考えていること 洪水も渇水も雨の変動から生じる グローバルな水循環が知りたい 河川水文学をグローバルに展開したい 雨の理解には気象・気候の理解が必要 …でも、短期予報では気象庁にかなわない グローバルな水循環が知りたい 教科書の最初か最後に載る図を作りたい 河川水文学をグローバルに展開したい 地球上のグローバルな河川流量分布は? 気候変動が河川流量に及ぼす影響は? 河川が気候システムに及ぼしている役割は?

数値モデルによる月流量シミュレーション結果

(異分野交流に関して) 古い学問分野で教育を受けると、他分野に興味を持っても、最終的には元の学問分野での評価軸、価値観に従って研究をしてしまう。 →沼口さんもなかなか抜け出せなかった? 学際的研究があたりまえ、という環境で教育を受けた若者は、当然のことながらそういう学際的価値観に沿った研究を疑問もなく行う。 →次世代に夢を託し、戦略的に教育研究環境を整えるのが非若手の楽しみ&義務

発生地域別に水蒸気を区別、 各水蒸気について出入りを計算 上空の水蒸気(可降水量)の起源を知ることが出来る 水蒸気フラックス(南北・東西) の出入り インド洋 降水量・蒸発量の出入り 太平洋 陸起源 発生地域別に水蒸気を区別、 各水蒸気について出入りを計算 インド シナ海 (例) 任意の時間・空間において、 上空の水蒸気(可降水量)の起源を知ることが出来る 起源を特定するためのツール 芳村 圭 (2002)

CMA 1 全球解析用マップ 芳村 圭 (2002)

CMA 2 全球解析用マップ(解析結果) 芳村 圭 (2002)

水循環---何がおもしろい? 水がいつどこから、どういう経路で、何とどういう風に相互作用しながら循環してきているのか? いつどう降ってどう流れてきた水が湧水に? 蒸散に? どうしてこれだけの豪雨や洪水が生じ得るのか? 大気に流される水と水で駆動される大気循環 水が流れる地形と水によって形作られる地形 人間活動は水循環にどういう変化をもたらしている? どうすれば、直接目に見えない水の流れを限られた観測情報から推定することができるのか?

これから考えたいこと 人と水循環 世界へ向けたオリジナル情報の発信 自然と現実の水循環はどの様に乖離しているのか? 文明はなぜ大河川の畔で勃興したと言われるのか? 水資源確保で、発展途上国の貧困は救えるのか? 水資源の制約下で地球上には何人住めるのか? 世界へ向けたオリジナル情報の発信 衛星によるグローバルな灌漑面積分布推定 「最近の地球」 Webサイト構築  社会への発信 日本と世界の実時間河川流量同化システム構築 河川によるグローバルなエネルギー・物質輸送推定

もっともっと考えて欲しいこと “How”だけではなく“Why”への興味を!? 外部から「すげえ」と思ってもらえる研究を! グローバルな水循環に長期変動があったなぜ? モデルを改良したら再現性が良くなったなぜ? 違う場所のエネルギー・水収支は違ったなぜ? 何は当たり前で何は不思議か良い“科学的疑問” 外部から「すげえ」と思ってもらえる研究を! (生命/ナノ/情報)×(科学/工学)、宇宙論? 他の学問分野、マスコミ、社会、家族からの評価 誰も考えたことのない自然観、人間観、宇宙観… 生活を変える、社会が変わる科学と技術

まとめ 水文学は元来「水循環環境科学」的。 今後は問題解決型の学問として、人や社会などの要素を取り込み、「水循環環境学」へ向かう? 地域性と歴史性の考慮とグローバルな視点 社会への情報発信と説明責任の自覚 しかし、水圏を対象とする地球科学として、他分野から“使える”学問に育てることも必要。 広域データ収集処理技術、観測技術の開発 多様な統合モデルへの応用を意識した柔軟で移植性の高い高精度数値モデルとインターフェース

沼口さんありがとう みなさんありがとう

細かな議論 シンポジウムやりっぱなし? 共同研究の提案? 発表資料をWeb上に集約? 「天気」への会合報告記事 (投稿依頼あり) 発散した議論を集約した文章をとりまとめ? 文章化する合宿? 共同研究の提案? 科研費申請? モデルを通じた研究交流? データや情報の交換? 人的交流?

What is Hydrology? Hydrology is the science which deals with the waters of the earth, their occurrence, circulation and distribution on the planet, their physical and chemical properties and their interactions with the physical and biological environment, including their responses to human activity. Hydrology is a field which covers the entire history of the cycle of water on the earth. (UNESCO, 1964)

何が水文学に求められているのか? 信頼のおける水循環情報の提供 現在と過去のグローバルな水循環モニタリング情報 集中豪雨の様な激しい大気に関する準実時間予測情報 エルニーニョやラニーニャ等に伴う季節~数年スケールの気候の自然変動予測情報 地球温暖化といった気候変化時における水循環予測情報 どれだけの水が人間にとって現在利用可能であり将来それがどうなるのか、という点に関する定量的な推定 将来の水需要を満たす水供給を確保するためにはどの様な施策を取れば良いのかという選択肢の提示 仮想的な水の輸出入や間接消費の実態把握と「水資源安全保障」の枠組みの提示

CMA 3 詳細解析用マップ(80地域) 芳村 圭 (2002)

詳細解析結果(モンスーンアジア) 芳村 圭 (2002) CMA 4 詳細解析結果(モンスーンアジア) 芳村 圭 (2002)

任意地点での時系列変化 (チェンマイ) 芳村 圭 (2002) バンコク スコータイ チェンマイ 約600km 任意地点での時系列変化 (チェンマイ) 芳村 圭 (2002)

これからの水文学は… 現業観測網の維持、RSの利用 野外観測と数値モデルとのバランス トレーサ利用による滞留時間の推定 気候変動と水文変動、変化の理解 水の生産性:mitigation and adaptation 土壌特性とその不均一分布 Hydro-ecology: 特に水中生物 途上国における水文学研究の確立

道具立て 衛星リモートセンシング:  気象学とは違い、場の境界条件が現象を支配している。 数値モデル: 土地被覆や植生など衛星RSから得られる情報や地形標高など、グローバルに利用可能なデータセットに基づくパラメータ化。気圏生物圏地圏人間圏との相互作用と長期積分。 野外観測:問題発見用も仮説検証型へ移行を。 現業観測網:持続的な計測システムの開発を。  安価、高信頼性。