物性物理学特論 第9回講義 磁気光学効果の応用 佐藤勝昭.

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物性物理学特論 第9回講義 磁気光学効果の応用 佐藤勝昭

これまでの講義・これからの講義 2002.9.30(月): 第1回 序論 2002.10.7(月): 第2回 磁気光学効果とは何か。 2002.9.30(月): 第1回 序論 2002.10.7(月): 第2回 磁気光学効果とは何か。 2002.10.21(月): 第3回 光と磁気の現象論(1) 2002.10.28(月): 第4回 光と磁気の現象論(2) 2002.11.11(月): 第5回 光と磁気の現象論(2) 2002.11.18(月): 第6回 光と磁気の電子論(1)古典電子論 2002.12.2(月): 第7回 光と磁気の電子論(2)量子論 [2002.12.9: 休講:応用物理学会「スピントロニクスセミナー」のため] 2002.12.16(月):第8回 磁気光学スペクトルと電子構造 2003.1.9(木): 第9回 磁気光学効果の応用 2003.1.20(月):第10回 磁気光学効果研究の最近の展開

磁気光学効果の応用 光磁気記録(Magneto-optical recording) 光通信用磁気光学デバイス(Magneto-optical devices for optical communication) 電流・磁界センサー(Current and magnetic field sensors) 磁区観察(Magnetic domain observation)

光磁気記録

光記録の分類 光ディスク ホログラフィックメモリ、ホールバーニングメモリ 再生専用のもの CD, CD-ROM, DVD-ROM 記録可能なもの 追記型(1回だけ記録できるもの) CD-R, DVD-R 書換型(繰り返し記録できるもの) 光相変化 CD-RW, DVD-RAM, DVD-RW, DVD+RW, DVR, Blue-ray disk 光磁気: MO, GIGAMO, MD, MD-Data, AS-MO, iD-Photo ホログラフィックメモリ、ホールバーニングメモリ

光記録の特徴 リムーバブル 大容量・高密度 ランダムアクセス 高信頼性 現行のもの:ハードディスク(20Gbit/in2)に及ばない 磁気テープに比し圧倒的に有利;カセットテープ→MD, VTR→DVD ハードディスクに比べるとシーク時間がかかる 高信頼性 ハードディスクに比し、ヘッドの浮上量が大きい

光相変化記録 アモルファス/結晶の相変化を利用 書換可能型 成膜初期状態のアモルファスを熱処理により結晶状態に初期化しておきレーザ光照射により融点Tm (600℃)以上に加熱後急冷させアモルファスとして記録。消去は結晶化温度Tcr(400℃)以下の加熱緩冷して結晶化。 Highレベル:Tm以上に加熱→急冷→アモルファス Lowレベル:Tcr以上に加熱→緩冷→結晶化 DVD-RAM: GeSbTe系 DVD±RW: Ag-InSbTe系

相変化と反射率 初期状態:結晶状態 記録状態:アモルファス状態 R:大 R:小 記録 消去 レーザスポット 記録マーク

光磁気記録 記録: 熱磁気(キュリー温度)記録 再生: 磁気光学効果 MO, MDに利用 互換性が高い 書き替え耐性高い:1000万回以上 記録: 熱磁気(キュリー温度)記録 光を用いてアクセスする磁気記録 再生: 磁気光学効果 磁化に応じた偏光の回転を電気信号に変換 MO, MDに利用 互換性が高い 書き替え耐性高い:1000万回以上 ドライブが複雑(偏光光学系と磁気系が必要) MSR, MAMMOSなど新現象の有効利用可能

光磁気ディスク 記録: 熱磁気(キュリー温度)記録 再生: 磁気光学効果 MO: 3.5” 128→230→650→1.3G→2.3G 記録: 熱磁気(キュリー温度)記録 再生: 磁気光学効果 MO: 3.5” 128→230→650→1.3G→2.3G MD(6cm) iD-Photo, Canon-Panasonic(5cm)

光磁気記録の歴史 1962 Conger,Tomlinson 光磁気メモリを提案 1967 Mee Fan ビームアドレス方式の光磁気記録の提案 1971 Argard (Honeywel) MnBi薄膜を媒体としたMOディスクを発表 1972 Suits(IBM) EuO薄膜を利用したMOディスクを試作 1973 Chaudhari(IBM) アモルファスGdCo薄膜に熱磁気記録(補償温度記録) 1976 Sakurai(阪大) アモルファスTbFe薄膜にキュリー温度記録 1980 Imamura(KDD) TbFe系薄膜を利用したMOディスクを発表 1981 Togami(NHK) GdCo系薄膜MOディスクにTV動画像を記録 1988 各社 5”MOディスク(両面650MB)発売開始 1889 各社 3.3 ”MOディスク(片面128MB)発売開始 1991 Aratani(Sony) MSR(磁気誘起超解像)を発表 1992 Sony MD(ミニディスク)を商品化 1997 Sanyo他 ASMO(5”片面6GB:L/G, MFM/MSR)規格発表 1998 Fujitsu他 GIGAMO(3.5”片面1.3GB)発売開始 2001 Sanyo ディジカメ用iD-Photo(2”, 780MB)発売 2002 Canon-松下 ハンディカメラ用2“3GBディスク発表

光磁気媒体 MOディスクの構造 ポリカーボネート基板 窒化珪素保護膜・ (MOエンハンス メント膜を兼ねる) Al反射層 MO記録膜 (アモルファスTbFeCo) groove land 樹脂

光磁気記録 情報の記録(1) レーザ光をレンズで集め磁性体を加熱 キュリー温度以上になると磁化を消失 冷却時にコイルからの磁界を受けて記録 M Tc 温度 Tc 光スポット 光磁気記録媒体 外部磁界 コイル

光磁気記録 情報の記録(2) TcompでHc最大: 補償温度(Tcomp)の利用 アモルファスTbFeCoは 一種のフェリ磁性体なので  一種のフェリ磁性体なので  補償温度Tcompが存在 TcompでHc最大: 記録磁区安定 Hc M Tb FeCo Mtotal 室温 Fe,Co Tb Tcomp Tc T

アモルファスR-TM合金

光磁気記録 情報の読み出し 磁化に応じた偏光の回転を検出し電気に変換 D1 LD - D2 偏光ビーム スプリッタ + N S N S N

MOドライブ

MOドライブの光ヘッド Laser diode Photo-detector Focusing lens Half wave-plate Beam splitter PBS (polarizing beam splitter) Rotation of polarization Recorded marks Track pitch Bias field coil MO film mirror

2種類の記録方式 光強度変調(LIM):現行のMOディスク 磁界変調(MFM):現行MD, iD-Photo 電気信号で光を変調 磁界は一定 ビット形状は長円形 磁界変調(MFM):現行MD, iD-Photo 電気信号で磁界を変調 光強度は一定 ビット形状は矢羽形

記録ビットの形状 (a) (b)

交換結合膜 (a)A-type AF F (a)P-type (b)A-type P-type Hext Domain wall 1st layer 2nd layer (a)A-type AF F (a)P-type Domain wall (b)A-type P-type Wall Hext

LIMDOW (オーバライト) Laser beam PL PL Laser beam PH Bias field (↓) PH Cooling process

超高密度光ディスクへの展開 超解像 短波長化 近接場 MSR/MAMMOS Super-RENS (Sb) SIL Super-RENS (AgOx)

MSR(磁気誘起超解像) 記録層と再生層を分離 解像度は光の回折限界から決まる d=0.6λ/NA (ここにNA=n sinα) 波長以下のビットは分解しない 記録層と再生層を分離 読み出し時のレーザの強度分布を利用 ある温度を超えた部分のみを再生層に転写する α d

MSR方式の図解

MSRの分類 高温部が光スポットのやや後方に偏ることを利用 FAD (front aperture detection) 読み出し層の記録マークの後ろの部分をマスクして、開口を小さくする。 RAD (rear aperture detection) 読み出し層を磁界によって消去しておき、高温部で記録層から転写する。 CAD (center aperture detection) 記録層の上に面内磁気異方性をもつ読み出し膜を重ねておき、レーザ光で加熱すると中心部のみの異方性が変化し、交換結合により記録層から読み出し層に転写

ASMO Technologies

MAMMOS (magnetic amplification MO system)

DWDD(磁壁移動検出) 読み込みの時だけ、磁壁が移動して記録マークを拡大 まるでゴムで引っぱられるように、移動層に転写されている磁区の端(磁壁)が移動。磁壁移動検出方式という名称は、ここから発想されました。読み出しの時だけ、記録メディアの方が、記録層に記録された微小な記録マークを虫眼鏡で拡大するかのようにふるまうので、レーザービームスポット径より高密度に記録されていても読み取ることが可能になるわけです。 キャノンのHPより

DWDD概念図 原理的には再生上の分解能の限界がない。 移動層 スイッチング層 記録層

光磁気記録をもたらしたもの 長期にわたる研究の積み重ね アモルファス希土類遷移金属膜の発見 半導体レーザの進歩・短波長化・低価格化 光エレクトロニクス技術(例えばサーボ技術) 信号処理技術の進歩(例えばMDの圧縮技術) パソコンの大容量化による市場のニーズ 厳しい競争(HDD, ZIP, CD-R, CDRW, DVD-RW)

Super-RENS super-resolution near-field system Sb膜:光吸収飽和 波長より小さな窓を開ける AgOx膜:分解・Ag析出 散乱体→近接場 Agプラズモン→光増強 可逆性あり。 相変化媒体だけでなく光磁気にも適用可能 高温スポット 近接場散乱

短波長化 DVD-ROM:405nmのレーザを用い、track pitch =0.26m、mark length=0.213mのdisk(容量25GB)を NA=0.85のレンズを用いて再生することに成功 [i]。 [i] M. Katsumura, et al.: Digest ISOM2000, Sept. 5-9, 2000, Chitose, p. 18. DVD-RW:405nmのレーザを用い、 track pitch=0.34m、mark length=0.29m、層間間隔35mの2層ディスク(容量27GB)のNA=0.65のレンズで記録再生を行い、33Mbpsの転送レートを達成[ii] 。 [ii] T. Akiyama, M. Uno, H. Kitaura, K. Narumi, K. Nishiuchi and N. Yamada: Digest ISOM2000, Sept. 5-9, 2000, Chitose, p. 116.

青紫レーザとSILによる記録再生 NA=1.5 405nm 80nm mark 40GB 青紫色レーザ SILヘッド I. Ichimura et. al. (Sony), ISOM2000 FrM01

SIL (solid immersion lens)

SILを用いた光記録

熱磁気記録/磁束検出法 Magnetic coil for recording GMR element for reading Slider LD, PD Slider MO recording film Arm 助田による

光アシストハードディスク 青紫色 レーザ 記録用 光ヘッド (SIL) 再生用 磁気ヘッド 60Gbit/in2を達成 H. Saga et al. Digest MORIS/APDSC2000, TuE-05, p.92. TbFeCo disk

ハイブリッドヘッド (記録・再生の最適な組合せ) ハイブリッドヘッド (記録・再生の最適な組合せ) アクチュエータ LD 高効率記録 / 高S/N再生の各ブレークスルー技術の両立により、テラビット記録を実用化 媒体 サスペンション ヘッド 近接場光記録ヘッド  +  近接場光再生ヘッド プレーナ・プラズモンヘッド(記録) 偏光制御ヘッドシステム(再生) 導波路 + - 微小開口 (~20nm径) 近接場光 スポット径 <20nm 効率 >10% 高C/N比 小型薄型化 高効率 高分解能 高生産性

革新的技術をめざして(1) 体積ホログラフィ 干渉を利用して光の位相情報を記録 位置のシフトにより、異なる情報を体積的に記録 フォトリフラクティブ結晶、フォトポリマーの開発 空間光変調器(SLM)の進歩: ディジタルマイクロミラー(DMD)など 高感度光検出器アレーの出現: CMOS型アクティブピクセルデテクタ(APD)

革新的技術をめざして(2) ホールバーニングメモリ 波長多重記録 不均一吸収帯内の特定波長の吸収を消滅して記録 無機物: 有機物: アルカリハライドの色中心の電子励起とトラッピング 絶縁物中の希土類イオンや遷移金属イオンの電子励起吸収帯 Eu+3: Y2SiO5 を用いてホールバーニングによるホログラフィック動画記録に成功している[i]。 [i]光永正治,上杉 直,佐々木 浩子,唐木 幸一 :応用物理, 64 (1995) 250. 有機物: 光互変異性、水素結合の光最配位、光イオン化などの光吸収帯 低温が必要 常温で動作する材料開発が課題

光通信と磁気光学

光通信における 磁気光学デバイスの位置づけ 戻り光は、LDの発振を不安定にしノイズ発生の原因になる→アイソレータで戻り光を阻止。 WDMの光アドドロップ多重(OADM)においてファイバグレーティングと光サーキュレータを用いて特定波長を選択 EDFAの前後にアイソレータを配置して動作を安定化。ポンプ用レーザについても戻り光を阻止 光アッテネータ、光スイッチ

半導体レーザモジュール用アイソレータ Optical isolator for LD module Optical fiber Signal source Laser diode module

光アドドロップとサーキュレータ

光ファイバ増幅器と アイソレータ

偏光依存アイソレータ

偏光無依存アイソレータ Faraday rotator F ½ waveplate C Birefringent plate B1 Fiber 2 Fiber 1 Forward direction Reverse direction ½ waveplate C Birefringent plate B2 B2 B1 F C Birefringent plate B1 Faraday rotator F

磁気光学サーキュレータ Faraday rotator Prism polarizer A Reflection prism Half wave plate Port 1 Port 2 Port 4 Port 3 Prism polarizer B

アイソレータの今後の展開 導波路形アイソレータ 小型・軽量・低コスト化 半導体レーザとの一体化 サイズ:波長と同程度→薄膜/空気界面、あるいは、薄膜/基板界面の境界条件重要 タイプ: 磁気光学材料導波路形:材料の高品質化重要 リブ形 分岐導波路形

導波路形アイソレータ 腰塚による

マッハツェンダー形アイソレーター

リブ形アイソレータ

磁性ガーネット 磁性ガーネット: 3つのカチオンサイト: YIG(Y3Fe5O12)をベースとする鉄酸化物;Y→希土類、Biに置換して物性制御 3つのカチオンサイト: 希土類:12面体位置を占有 鉄Fe3+:4面体位置と8面体位置、反強磁性結合 フェリ磁性体 ガーネットの結晶構造

YIGの光吸収スペクトル 電荷移動型(CT)遷移(強い光吸収)2.5eV 配位子場遷移 (弱い光吸収) 4面体配位:2.03eV 8面体配位:1.77eV,1.37eV,1.26eV

磁性ガーネットの3d52p6電子状態 品川による Jz= J=7/2 3/2 6P (6T2, 6T1g) 5/2 7/2 -7/2 - 6S (6A1, 6A1g) 6P (6T2, 6T1g) without perturbation spin-orbit interaction tetrahedral crystal field (Td) octahedral (Oh) J=7/2 J=5/2 J=3/2 5/2 -3/2 - Jz= 3/2 7/2 5/2 -5/2 -3/2 -7/2 P+ P- 品川による

Faraday rotation (arb. unit) Faraday rotation (deg/cm) YIGの磁気光学スペクトル experiment calculation 300 400 500 600 wavelength (nm) Faraday rotation (arb. unit) -2 +2 Faraday rotation (deg/cm) 0.4 x104 0.8 -0.4 (a) (b) 電荷移動型遷移を多電子系として扱い計算。

Bi置換磁性ガーネット Bi:12面体位置を置換 ファラデー回転係数:Bi置換量に比例して増加。 Biのもつ大きなスピン軌道相互作用が原因。

Bi置換YIGの磁気光学スペクトル 実験結果と計算結果 スペクトルの計算 3d=300cm-1, 2p=50cm-1 for YIG 2p=2000cm-1 for Bi0.3Y2.7IG K.Shinagawa:Magneto-Optics, eds. Sugano, Kojima, Springer, 1999, Chap.5, 137

II-VI系希薄磁性半導体の結晶構造と組成存在領域   II-VI系希薄磁性半導体の結晶構造と組成存在領域 Material Crystal structure Range of Composition Zn1-xMnxS ZB WZ 0<x<0.10 0.10<x0.45 Zn1-xMnxSe 0<x0.30 0.30<x0.57 Zn1-xMnxTe 0<x0.86 Cd1-xMnxS 0<x0.45 Material Crystal structure Range of Composition Cd1-xMnxSe WZ 0<x0.50 Cd1-xMnxTe ZB 0<x0.77 Hg1-xMnxS 0<x0.37 Hg1-xMnxSe 0<x0.38 Hg1-xMnxTe 0<x0.75

II-VI DMS の格子パラメータ EXAFS XRD J. K. Furdyna et al., J. Solid State Chem. 46, (1983) 349 B. A. Bunker et al., Diluted Magnetic (Semimagnetic) Semiconductors, (MRS., Pittsburg, 1987) vol.89, p. 231

Cd1-xMnxTeにおける バンドギャップ のMn濃度依存性

Cd1-xMnxTeのバルク成長 ブリッジマン法 過剰融液組成→相晶を防ぐ効果 出発原料: Cd, Mn, Te元素 石英管に真空封入 4 mm/hの速度でるつぼを降下させる。 融点: 1100°C WZ (高温相) → ZB (低温相) 相転位(温度低下) 過剰融液組成→相晶を防ぐ効果

CdMnTeの磁気光学スペクトル II-VI族希薄磁性半導体:Eg(バンドギャップ)がMn濃度とともに高エネルギー側にシフト 磁気ポーラロン効果(伝導電子スピンと局在磁気モーメントがsd相互作用→巨大g値:バンドギャップにおける磁気光学効果 小柳らによる Furdynaによる

半導体とアイソレータの一体化 貼り合わせ法 希薄磁性半導体の利用 半導体上に直接磁性ガーネット膜作製→格子不整合のため困難 ガーネット膜を作っておき、半導体基板に貼り合わせる方法が提案されている 希薄磁性半導体の利用 DMSの結晶構造:GaAsと同じ閃亜鉛鉱型→ 半導体レーザとの一体化の可能性。 導波路用途の面内光透過の良質の薄膜作製困難。 安藤ら:GaAs基板上にMBE法でCdMnTeの薄膜を作製。バッファ層:ZnTe, CdTe層