準地衡風2層モデルを用いた 大気大循環の基本構造の理解

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準地衡風2層モデルを用いた 大気大循環の基本構造の理解 河合 佑太 神戸大学 理学部 地球惑星科学科 地球および惑星大気科学研究室 準地衡風2層モデルを用いた 大気大循環の基本構造の理解

目次 Phillips (1956)の数値予報モデル はじめに 〜観測される地球の大気大循環 本研究の目的と概要 支配方程式・境界条件 数値実験の手順 数値実験の結果・考察 まとめ

はじめに 地球の放射収支の緯度分布 放射収支は, 地球全体とし てはバランスしている. 緯度ごとの放射収支の不均 衡は, 大気・海洋の循環に よる熱輸送を示唆する. 正味の放射収支は, 極と赤 道間の温度勾配の維持に寄 与する. 地球の放射収支の平均構成. 1962–66 間の衛星観測から推論されたもの. (Von der Haar and Suomi(1971))

はじめに 地球対流圏の温度分布(帯状平均場) 対流圏では赤道から極方向 へ温度は単調に減少する. 中緯度で南北温度勾配は大 きい. http://www.gfd-dennou.org/library/dcchart (地球流体電脳倶楽部 dcchart プロジェクト)

はじめに 地球対流圏の東西風分布(帯状平均場) 対流圏上層には中緯度にコ アを持つ西風ジェットが存 在する. 鉛直シアの大きい場所は南 北温度勾配の大きい場所と 対応する(温度風平衡). 地上では, 極から赤道にか けて, 東・西・東風パター ンが存在する. http://www.gfd-dennou.org/library/dcchart (地球流体電脳倶楽部 dcchart プロジェクト)

はじめに 地球対流圏の平均子午面循環 中緯度では, 間接循環 (indirect cell) 質量輸送量で見た平均子午 面循環には, 各半球に3つ の循環セルが存在する. 高・低緯度では, 直接循環 (direct cell) 中緯度では, 間接循環 (indirect cell) http://www.gfd-dennou.org/library/dcchart (地球流体電脳倶楽部 dcchart プロジェクト)

本研究の目的・概要 目的 対流圏における大気大循環の基本構造を物理的に理解する. 形成・維持のメカニズム エネルギーサイクル 傾圧不安定波, 波と平均流の相互作用を研究する. 大気大循環モデルの開発に必要な技術を養う. 概要 Phillips(1956)に従い, 準地衡風2層モデル(水路モ デル)を作成し, 理想化された大気大循環を数値モデル の中で再現する. 数値シミュレーションの結果を通して, 大気大循環の形成・ 維持の物理的理解をより深める.

Phillips(1956)の数値実験 南北幅 10000 km の東西方向に開かれたチャネ ル内の流れを数値シミュレーションすることで, 対流圏の大気大循環の基本的特徴を数値的に再現 した. 傾圧不安定波の発達 中緯度における西風ジェット 中緯度における地表の西風 平均子午面循環(3つの循環セル) など N 非断熱加熱 非断熱冷却 E

Phillips(1956)の数値予報モデル 支配方程式系と境界条件

Phillips(1956)の数値予報モデル ベータ面上の準地衡風方程式系 τzx, τzy : u: 東西速度 v: 南北速度 u, vの添字 g : 速度の地衡風成分 u, vの添字 a: 速度の非地衡風成分 θ : 温位 dQ/dt : 非断熱加熱率 Av : 水平渦拡散係数 Cp : 定圧比熱 τzx, τzy :  水平面に働く摩擦による接線応力のx,y成分 数値計算上は, これらの式から導かれるポテンシャル渦度方程式の時間発展問題を解く. 数値計算手法の詳細を個人的には説明したいが, 今回の発表では省略する. 𝑑 𝑔 /𝑑𝑡=∂/∂𝑡+ 𝑢 𝑔 ∂/∂𝑥+ 𝑣 𝑔 ∂/∂𝑦 ω=𝑑𝑝/𝑑𝑡

Phillips(1956)の数値予報モデル 750, 250 hPa (速度場), 500 hPa (鉛直速度場, 温度場 ) 領域 6000 km y 10000 km 領域 水平方向:矩形領域 東西6000 km, 南北10000 km 鉛直方向: 2 level モデル 750, 250 hPa (速度場), 500 hPa (鉛直速度場, 温度場 ) 境界条件 東西境界:周期境界条件 南北境界:すべりなし条件 上端・下端境界: 鉛直速度ゼロ x

Phillips(1956)の数値予報モデル 地表面摩擦, 非断熱加熱(熱源・冷源), 水平渦拡散を 考慮する. レベル4の水平面に働く接線応力は, バルク法で与える. 正味の放射加熱と潜熱のプロセス(非断熱加熱)は, 南北 方向にのみ依存する線形な関数によってパラメータ化す る. 比例定数は観測値を使って経験的に決定する. N 非断熱加熱 非断熱冷却 E

数値実験の手順

数値実験の手順〜数値実験1 初期条件として等温な静止大気を与える. 帯状平均場に対する方程式のみ時間積分する. 高緯度で負, 低緯度で正の非断熱加熱を与えたために, 南北温度勾配(=地衡風の鉛直シア)が徐々に生成される. 傾圧波が発達するのに十分な鉛直シアが生成されるまで , 130日間時間積分を続ける. 南北温度差が約60℃に達する.

数値実験の手順~数値実験2 750hPa, 250hPa面で同じ擾乱場 ランダムで小さな擾乱を数値実験1終了時の帯状平均場 に挿入する. 平均流の運動エネルギーの約20%の擾乱場 750hPa, 250hPa面で同じ擾乱場 帯状平均場・擾乱場に対する両方の方程式をさらに時間 積分し, 数値実験を続行する. 擾乱を入れてから約30日程で非線形不安定により時間 積分を継続できなくなる. その時点で実験終了.

ただし, 時間刻み幅はPhillips(1956)のものとは異なる. 数値実験に使用するパラメータ Phillips(1956)で用いられたパラメータを使っ た. H : 線形な関数(南北方向のみに依存)で与える非断熱加熱の比例定数 : 静的安定度 A : 水平渦拡散係数 k : 地表面摩擦のパラメターリゼーションにより現れる係数 λ 2 ただし, 時間刻み幅はPhillips(1956)のものとは異なる. 本研究では, 数値実験1,2ともにΔt= 30分 とした.

数値実験の結果と考察

数値実験1(渦なし) 130日目の結果 250hPa面における帯状風 500hPa面における帯状風 250 hPa では, 広範囲で西風. 36 m/s の極大を持つ 大気全体としては, 西向きの運動量をもつ

数値実験1(渦なし) 130日目の結果 1000hPa面における帯状風 500 hPa面における温度偏 差 地上では, 広範囲で弱い東風 南北間でほぼ線形に増加する. 南北温度差は約60℃

数値実験1(渦なし) 130日目の結果 250hPa面における平均南北 風 250hPa面における渦度 比較的単調な分布. 西風ジェットを特徴付けるような分布ではない 一つの直接循環セル. 平均南北速度は約3cm/s の極大をもつ.

数値実験2(渦あり)の結果 131-158日目の3日おき の地表における地衡風の流 線関数(コンター) 小規模な渦は1週間で減衰 その後, 波数1の傾圧波が卓越 1500 km/day で東へ移動 地表低気圧の前面で北向きの暖気の移流, 後面で南向きの寒気の移流 温度場と風の場の位相が近づくにつれて, 地表の低・高気圧は発達 地表のトラフとリッジは北半分でNW-SE, 南半分で NE-SW に傾く. 131-158日目の3日おき の地表における地衡風の流 線関数(コンター) 500 hPaにおける温度偏 差の場(等値線)の水平分布

数値実験2(渦あり)の結果 250hPa面における南北速度の帯状平均場の時間的 な変化(平均子午面循環の時間変化に対応). 単位 m/s y方向のインデックス 擾乱を入れてしばらくは一つの弱い直接循環セル. 期間中頃から領域中心で間接循環, その南側北側で直接循環の循環構造が明確になってくる.

数値実験2(渦あり)の結果 500hPa面における温度偏差の帯状平均場の擾乱 挿入後からの変化の積算. 単位 K y方向のインデックス 擾乱を入れてしばらくは, 南北温度差は増加し続ける. 期間中頃からは, 南北境界間の温度差は小さくなる. 一方で, 領域中心付近の南北温度勾配は大きくなる.

大規模な渦による熱フラックスの発散・収束寄与 熱収支(500hPa面) 142日目から152日目の間の熱力学的エネルギー保存式の各項の平均的な大きさをグラフ化 平均子午面循環による寄与 正味の温度変化率 渦拡散による寄与 非断熱加熱による寄与 大規模な渦による熱フラックスの発散・収束寄与 y方向のインデックス [単位 K per day]

数値実験2(渦あり)の結果 250 hPa面(上図), 1000 hPa面(下図) におけ る帯状流の時間的な変化 250hPa:領域中心に約80 m/s の強い西風ジェットが形成される. 1000hPa:最初は領域全体で弱い東風. 期間後半から領域中心付近で西風, 南側北側で東風のパターンに変化する. 250 hPa面(上図), 1000 hPa面(下図) におけ る帯状流の時間的な変化 y方向のインデックス y方向のインデックス

運動量収支 (上図:250hPa面, 下図:1000hPa面) 142日目から152日目の間の平均的な帯状流に対する運動方程式の各項の大きさをグラフ化 渦による運動量フラックスの発散・収束の寄与 渦拡散による寄与 正味の運動量の時間変化率 平均子午面循環による寄与 地表面摩擦による寄与 y方向のインデックス [単位 m/s^2 per day]

まとめ 現実の大気大循環に見られるいくかの特徴が, 準地衡風 2層モデルを用いた数値シミュレーションで再現された. 地表における東西風分布 中緯度に存在する西風ジェット 中緯度に発生する傾圧波動が果たす役割は重要である. 東西風分布・西風ジェットを形成・維持するための運動 量輸送 地球が獲得する正味の放射エネルギーの過不足を埋める ための南北熱輸送

参考文献 Charney, J.G., FJØRTOF, R., von Neumann, J., 1950: Numerical Integration of the Barotropic Vorticity Equation. Tellus, 2, 237-254. Haltiner, G.J., Williams, R.T., 1979 : Numerical prediction And Dynamics meteorology, 2nd ed. John Wiley & Sons, 477pp. Holton, J.R., 2004: An introduction to dynamic meteorology, Fourth Edition, The Geophysics Series, 48, 535pp. Phlillips, N.A.,1956: The general circulation of the atmosphere: a numerical experiment. Quart. J.Roy. Meteor. Soc., 82, 123-164. 小倉義光, 1978: 気象力学通論. 東京大学出版会, 249 pp 田原智志, 2001: 簡単化したモデルを用いた, 大気大循環に関する数値的研 究 新田尚, 二宮洸三, 山岸米次郎, 2009: 数値予報と現代気象学. 東京堂出版, 224 pp

補足:数値実験2における系のエネルギーの変化