第6章 ユニフィケーション解析 ユニフィケーション解析とは? ユニフィケーション文法を使ってユニフィケーション操作により文構造を解析する方法。 ユニフィケーション文法とは? 素性を使って文法機能を記述し、文の構成素間の関係をこの素性のユニフィケーションとして表わす文法。
1.1 ユニフィケーション文法 ユニフィケーション文法として最初に提案されたのは、FUG(Functional Unification Grammar)である。 GPSG(Generalized Phrase Structure Grammar)もユニフィケーション文法である。
1.2 ユニフィケーション解析 今回、表層的文法機能により文法を記述し、ユニフィケーション解析により、語彙機能が作る文構造を解析するLFGについて述べる。
2.1 LFG LFG(Lexical-Functional Grammar)では、文法規則として、句構造規則に文法機能を加えたものを使う。 文の構造表現には、構文木を表わすC-構造と文法機能の階層構造を表わすF-構造の二つの階層を使う。
2.2 C-構造 構文木そのものである。これは、LFG文法規則の中の句構造規則の部分を使って通常の構文解析を行った結果として得られる解析木を表わす。
2.3 F-構造 C-構造が表わす構文構造に対応させて、文法規則の中に記述されている文法機能の関係を階層的に表わしたものである。 C-構造は、F-構造を求める過程で使われるものであるので、LFGの解析結果はF-構造で表わされる。
2.4 C-構造の例 He sees tables に対するC-構造 S NP VP NP N V N he sees tables
2.5 F-構造の例 SUBJ NUM SG PERS 3 GEN MASC CASE NOM PRED ‘PRO’ TENSE PRES ‘SEES〈(SUBJ)(OBJ)〉’ OBJ NUM PL PRED ‘TABLE’
3.1 LFGの文法規則 句構造規則にその句構造規則の中に現れる非終端標識の間の文法機能をつけ加えて表わす。 文法機能は、メタ変数を使って機能スキーマと呼ぶ形で表わす。
3.2 機能スキーマの例 LR1) S → NP VP LR2) VP →V (NP) (PP) (↑SUBJ)=↓ ↑=↓ LR2) VP →V (NP) (PP) (↑OBJ)=↓ (↑(↓PCASE))=↓ LR3) VP →V (NP) (NP) (PP*) (↑OBJ)=↓ (↑OBJ2)=↓ (↑ADJUNCT)=↓ LR4) NP→NP (PP*) ↑=↓ (↑ADJUNCT)=↓ LR5) NP→(D) (A) N LR6) PP→P NP (↑OBJ)=↓
3.3 機能スキーマの意味 ER1) S → NP VP LR1) S → NP VP (↑SUBJ)=↓ ↑=↓ この名詞句NPのF-構造は、文Sの主語SUBJのF-構造であることを示す。 文の主語の文法機能は、LR1の句構造規則における主語のNPが持つ文法機能であることが示されている。
機能スキーマ↑=↓は、句構造規則の右辺の娘ノードの中で、それがつけられているノードがヘッドであることを表わす。 3.4 ヘッド LR1) S → NP VP (↑SUBJ)=↓ ↑=↓ 機能スキーマ↑=↓は、句構造規則の右辺の娘ノードの中で、それがつけられているノードがヘッドであることを表わす。
3.5 機能スキーマの記述形式(1) 英語などの配置型言語に対する機能スキーマの与え方 ・最大投射に対しては機能付与式を与える ・その他には↑=↓を与える。 ・ ↑=↓を持った大範疇をヘッドと呼ぶ。
3.6 機能スキーマの記述形式(2) 日本語などの非配置型言語に対する機能スキーマの与え方 ・範疇に素性付与式と機能付与式の両方 を与える。 ・ ↑=↓も範疇に与える。 ・ ↑=↓とPREDを持つ大範疇がヘッド。 ・機能付与式は、最大投射だけでなくほか のものにも与えられる。
3.7 機能スキーマの記述形式(3) 複数個の機能スキーマが同時に与えられたときは、すべての機能スキーマは同時に満たされなければならない。
3.8 機能スキーマの種類 定義式と制約式の2種類がある。 定義式について ・等号“=”を使って表わす。 ・左辺および右辺が同一のF-構造を参照 することを示す。
3.9 制約式 定義式により構成されるF-構造に対して適格制約条件を与える。 例: (↑ CASE)=c NOM (↑ CASE)=c ACC 名詞句の格役割が主格や対格であることを指示する適格制約条件である。 適格制約条件は、C-構造の中のほかの部分により正確にかつ完全に規定されなければならない。
3.10 適格制約条件 C-構造を必要以上に抽象化することに対する歯止めであり、次の3つの種類がある。 整合性条件:1つのF-構造の中で1つの素性が取り得る素性値は1つであることを示す。 完全性条件:F-構造の中のPREDで下位範疇化が示されている支配可能なすべての文法機能はそのF-構造の中に現れなければならないことを示す。 結束性条件:F-構造の中に現れているすべての支配可能な文法機能はそのF-構造の中のPREDの中で下位範疇化が示されなければならないことを示す。
4.1 下位範疇化(1) LR2) VP →V (NP) (PP) ER2) VP → VP PP ER4) VP → V (↑OBJ)=↓ (↑(↓PCASE))=↓ ER2) VP → VP PP ER4) VP → V NPが省略されないとき、このNPは親ノードVPの目的語であることが示されている。 LR1) S → NP VP (↑SUBJ)=↓ ↑=↓
4.2 下位範疇化(2) PPのF-構造の中のPCASEの値がVPにおけるPPの機能役割を決めることを示す。 例:英語の動詞goに対して前置詞toを持つ前置詞句 目的格を表わすことがあるが、これはPPに対する2つの機能スキーマで表わすことができる。 ・(↑OBLGOAL)=↓ (素性付与式) ・(↓PCASE)=OBLGOAL (機能付与式) これら2つの式は同時に満たされるべきものであるので、2つを一緒にして、(↑(↓PCASE))=↓と表わす。
4.3 下位範疇化(3) LS1) He swims. LS2) He saw a table. LS3) He goes to school. LS4) He gave a book to her.
4.4 動詞句に対する付加詞句 LR3) VP →V (NP) (NP) (PP*) ・LR3からできる動詞句を持つ文 (↑OBJ)=↓ (↑OBJ2)=↓ (↑ADJUNCT)=↓ ・LR3からできる動詞句を持つ文 LS5) He gave her a book. LS6) He saw a table in the room. ・LR3、LR5とLR6を使って表わしたLS6の解析木 (S(VP(V saw) (NP(D a)(N table)) (PP(P in)(NP(D the)(N room))) )))
4.5 名詞句に対する付加詞句 LR4) NP→NP (PP*) ER5) NP → NP PP ↑=↓ (↑ADJUNCT)=↓ ER5) NP → NP PP ・LR1とLR4を使ったときのLS6の解析木 (S(VP(V saw) (NP(NP(D a)(N table)) (PP(P in)(NP(D the)(N room))) ))) ・LR3、LR5とLR6を使って表わしたLS6の解析木 (S(VP(V saw) (NP(D a)(N table)) (PP(P in)(NP(D the)(N room))) )))
・右辺はすべて前終端標識であるので、機能スキーマは省略してある。 4.6 単純名詞句 LR5) NP→(D) (A) N ER6) NP → D NP ER7) NP → A NP ER9) NP → N ・右辺はすべて前終端標識であるので、機能スキーマは省略してある。
4.7 前置詞句 LR6) PP→P NP ER10) PP → P NP ・この場合、NPにつけられた機能スキーマの中のOBJは (↑OBJ)=↓ ER10) PP → P NP ・この場合、NPにつけられた機能スキーマの中のOBJは 前置詞Pの目的語であり、LR2やLR3のOBJとは異なる。
4.8 補文(1) 補文を持つ動詞句の文法規則 LR 7) VP → V S’ LR 8) S’ → COMP S LR 7) VP → V S’ (↑COMP)=↓ LR 8) S’ → COMP S (↑COMP THAT)=c+ ↑=↓ ・LR7においてS’が補文である。また、補語機能を持つ要素が文の形をしているときは、文法機能COMPをSCOMPと書く場合もある。 ・LR8では、そのような補文が範疇としての補文標識 COMPと文Sからなることを示す。
4.9 補文(2) LR7のCOMPとLR8のCOMPは、同じ記号を使っていても異なる。 前者は文法機能、後者は非終端標識である。 ・LR7とLR8から作れる文 LS7) I learned that LFG is useful.
LS8) You seem to like LFG. 4.10 不定詞補語 不定詞補語を持つ動詞句の文法規則 LR9) VP→V VP’ (↑COMP)=↓ (↑INF)=c+ LR10) VP’→ COMP VP (↑COMP TO)=c+ ↑=↓ (↑INF)=c+ ・これらの規則から作れる文 LS8) You seem to like LFG.