今村 和義(M2), 能勢樹葉(4年), 田辺健茲(教授) たて座新星2009(V496 Sct)及び エリダヌス座新星2009の可視分光観測 岡山理科大学(大学院) 田辺研究室 今村 和義(M2), 能勢樹葉(4年), 田辺健茲(教授) OKAYAMA Univ. of Sci. Astronomical Observatory 2009年 連星系・変光星・低温度星研究会 (in 広島) 2009/12/12~12/14
1. Introduction これまでの田辺研究室(小口径望遠鏡)における新星の分光観測 新星の分光観測例 V2491 Cyg (Nova Cyg 2008 No.2) ・・・4夜観測 V2670 Oph (Nova Oph 2008) ・・・2夜観測 V2468 Cyg (Nova Cyg 2008 No.1) ・・・4夜観測 V2672 Oph (Nova Oph 2009) ・・・1夜観測 V2491 Cyg V2672 Oph FWHM=7700 km/s 新星の分光観測例
減光の仕方が違う新星の光度曲線 (C. Hellier, 2001) 1-1. 新星(Nova)とは WD(主星)と太陽くらいの主系列星(伴星)から成る近接連星系 伴星からWDに向って質量降着が起こり、WDの周りに降着円盤を形成し、少しずつWD表面に物質が降り積もる。降り積もった物質がある量と温度に達するとWD表面上で熱核暴走反応が起こり劇的に明るさが増大する。増光幅は8~15等、極大後は数10日~数100日かけて緩やかに減光していく。 白色矮星 伴星 降着円盤 by N, Kunitomi 近接連星系の想像図 減光の仕方が違う新星の光度曲線 (C. Hellier, 2001) Table: t2による分類 光度曲線から見た新星の分類方法 極大から2等減光するのにかかる時間(t2)による分類(Payne-Gaposchkin, 1957)。 他にも極大から3等減光するのにかかる時間(t3)がある(Duerbeck, 1981)。
FeⅡ novaのスペクトル(Williams, 1992) He/N nova のスペクトル(Williams, 1992) 1-2. 輝線による分類 Williams (1992)による増光直後の輝線を用いた分類 FeⅡnova He/N nova FeⅡ HeⅡ, NⅢ Hα Hα FeⅡ novaのスペクトル(Williams, 1992) He/N nova のスペクトル(Williams, 1992) Na I, O I, Mg I, Ca IIなどの低励起輝線 輝線幅が小さく、P Cygni plofileを伴う He II, He I, N II, N IIIなどの高励起輝線 輝線幅が大きく、フラットトップな輪郭
1-3. V496 Sct とKT Eriについて V496 Sct = Nova Sct 2009 KT Eri = Nova Eri 2009 2009年11月8日に静岡県の西村栄男氏によって、およそ8等で発見される。 2009年11月25日に山形県の板垣公一氏によって、およそ8等で発見される。 8’ × 6’ N E no filter V filter N N 8’ × 6’ E 16’ × 11’ E 田辺自宅天文台にて撮影(2009.12.04) 田辺研究室天文台にて撮影(2009.11.26) α:18h 43m 45.57s δ:-7d 36’ 42.0’’ α:04h 47m 54.21s δ:-10d 10’ 43.1’’ 該当する位置にUSNO-A2.0 705.14293588 (R=18.3, B=17.6)がある。 該当する位置に GSC5325.1837 (14.80mag)がある。
2. Observation 2-1. 観測場所 田辺自宅天文台 約5 km 岡山理科大学 岡山駅 KT Eriの分光と測光観測 北緯:34° 41′ 38″ 東経:133° 55′ 51″ KT Eriの分光と測光観測 V496 Sctの分光観測 Fig.2-1: 岡山理科大学田辺研究室天文台 Fig.2-2: 田辺自宅天文台
2-2. 観測装置 分光システム 測光システム ☆望遠鏡:セレストロン(C11) D=280 mm, F10 2-2. 観測装置 分光システム 田辺研究室天文台 測光システム 田辺研究室天文台 ☆望遠鏡:セレストロン(C11) D=280 mm, F10 ☆赤道儀:高橋 NJP, Temma2 ☆分光器:SBIG DSS-7 ☆CCD:SBIG ST-402 ☆望遠鏡:セレストロン(C9) D=235 mm, F6.3 ☆赤道儀:高橋 EM-200, Temma2 ☆CCD:SBIG ST-7XE ☆フィルター: C, B, V, y, Rc, (Ic) 田辺自宅天文台の架台はNJP+MRD TC-1A
2-2. 分光器とCCDカメラ 分光器:DSS-7(SBIG) CCDカメラ:ST-402(SBIG) [分散5.4Å/pixcel、波長分解能15Å、R≈400] [観測波長域:およそ4000~8000Å] CCDカメラ:ST-402(SBIG) [pixcel数 765×510、1pixcel 9μ×9μ] 8.5′ 5.6′ 50μ 3.7″ CCD画面上におけるスリット 分光器DSS-7の内部構造
スライディングルーフ型観測室(分光観測用) 2-3. 遠隔操作 (田辺研究室天文台) ドーム型観測室(測光観測用) ファインダー Vixcen C004-3Mカラー +50mm, F2.8 視野角:約10° (約7等星まで写る) スライディングルーフ型観測室(分光観測用) 屋上天文台と制御室の模式図 JM電動モトフォーカス 赤道儀制御ソフト:Telescope Tracer 2000 CCD or 分光器制御ソフト:CCDOPS(SBIG)
さらに5枚以上のコンポジットを行い、S/Nを向上させている。 2-4. 分光データの処理 主な解析ソフト: BeSpec (開発者 : 元美星天文台研究員の川端哲也氏) ◆1次処理 ダークフレーム フラットフレーム ダークフレームで引き算 フラットフレームで割算 天体スペクトル さらに5枚以上のコンポジットを行い、S/Nを向上させている。
◆波長較正 比較光源は水素(H)とヘリウム(He)を使用 n: pixel number 水素 ヘリウム 発光中の比較光源(水素) 最小二乗法を用いて2次でフィッティング n: pixel number
3. Results 3-1. V496 Sctの観測結果一例と輝線の同定 Exp. time : 30s×6 FWHM of Hα: 1200 km/s H β Hα Fe II Fe II H γ Na I D Fe II O I 7477 O I 7773 主にバルマー線ほか、FeII, Na I D, O Iの低励起輝線が見られた。 またNa D Iに24Åブルーシフトした吸収線(P Cygni profile)。
3-2. V496 Sctの全観測結果 観測期間:2009/11/23~12/08(計6夜) 12/08 12/04 12/01 11/28 11/26 11/23
P Cygni profileを伴うNa I D 3-3. V496 Sctにおける輝線の時間変化 Na I D 12/08 12/04 12/01 11/28 11/26 11/23 HαとHβの強度比 11月26日から大きく減少し、その後大きな変化は見られない。 P Cygni profileを伴うNa I D 日を追うごとにP Cygni profileが弱くなっている。
幅の広いバルマー線ほか、He I, NII, NIIIの高励起輝線が見られた。 3-4. KT Eriの観測結果一例と輝線の同定 Exp. time : 60s×5 FWHM of Hα: 3400 km/s Hα Hβ N II 5001, He I 5016 Hγ N III 4640 N II 5679 He I 5876 He I 7075 幅の広いバルマー線ほか、He I, NII, NIIIの高励起輝線が見られた。 矮新星の増光ではなく新星爆発と判明。
3-5. KT Eriの全観測結果 観測期間:2009/11/26~12/09(計11夜) 多色測光も同じ観測期間 NIII data from OUS 観測期間:2009/11/26~12/09(計11夜) 多色測光も同じ観測期間 NIII 11/26 11/28 11/29 11/30 12/01 12/02 12/03 12/04 12/06 12/08 12/09
3-7. KT Eriにおける輝線の時間変化 N II He I HαとHβの強度比 日によって変動が見られる。 12/09 12/08 12/06 12/04 12/03 12/02 12/01 11/30 HαとHβの強度比 日によって変動が見られる。 ライトカーブや色指数との対応はあるか?! 11/29 11/28 11/26 N II(5679Å)とHe I(5876Å )の輪郭変化 N IIは日を追うごとにラインがシャープになってくる。他のラインとブレンドしている可能性あり。
3-8. 光度曲線・色指数・Hα/Hβの比較 興味深い変動 ◆1日あたりおよそ0.1等の減光 ◆B-V及びV-Rともにより青く変光 12月3日にいずれのバンドでも約0.2等の増光、 B-Vが約0.1等青く、 Hα/Hβは増加する。 12月4日にV-Rが約0.2等赤く、Hα/Hβは減少する。 これ以後、色指数は徐々に青くなり、Hα/Hβに大きな変動は見られない。
4. Summary 4-1. V496 Sctのまとめ Fe II novaに分類できる。 HαのFWHMはいずれの日も1200~1300 km/sであった。 Na I Dにおよそ30Å(1200 km /s)のブルーシフトした吸収線(P Cygni profile)を伴う。 光度曲線から極大日を決めるのは現段階では難しい。 現在もおよそ8等である。しかし赤経が18h、赤緯が-7°なので、これ以上の観測は田辺自宅天文台でも難しい。
4-2. KT Eriのまとめ 発見時は8等台であったため、DNの可能性が考えられたが分光観測によって古典的な新星であることが判明。 He/N novaに分類できる。 HαのFWHMは11月26日で3400 km/s、12月9日で2600 km/sに減少していた 。 KT Eriに相当する位置にGSC5325.1837 (14.8mag)がある。 極大等級を5.6 Vmag (UT: 11月14.8)とすると、増光幅はおよそ9等。 t2は6~7day、t3は14~15dayとなる。 現在もおよそ9等台である。今後も分光・多色測光ともに観測を続けていく予定(分光はおよそ11~12等台までなら可能)。 V=5.6
◇参考資料◇ Brian Warner, 1995, Cambridge, Cataclysmic Variable Stars, ch.5 Novae in Eruption C. Payne-Gaposchkin, 1957, North-Holland P.C., The Galactic Novae, ch.1 Statistics of Galactic Novae Charlotte E. Moore, 1945, CoPri, No. 20, A Multiplet Table of Astrophysical Interest Hellier, C., 2001, Springer, Cataclysmic Variable Stars, ch.11 Nova Eruption S. Kiyota, T. Kato and H. Yamaoka, 2004, PASJ, 56, S193-S211 L.L. Kiss and J.R. Thomson, 200, Astron. Astrophys, L9-L12 Richard O. Gray and Christopher J. Corbally, 2009, Princeton, Stellar Spectral Classification, ch. 12.3 Novae Williams, R.E., 1992, A. J., 104, 725-733 小暮智一, 2002, ごとう書房, 輝線星概論, 第6.6章 激変星と新星 おわり OKAYAMA Univ. of Sci. Astronomical Observatory